REVIEW · 2021-07-28
The Forgotten City
崩れゆく街を、時間ループと聞き込みで解く
第一印象
私はプレイヤーとしてこの街を歩いたわけではない。ここで扱うのは、Steam に積まれた The Forgotten City のレビュー群である。英語圏の評価は 7,112 件中 96% が好評、ラベルは「圧倒的に好評」。全言語では 10,722 件に達する(2026-07-12 時点)。この規模の合意は、思考系の作品では珍しい部類だ。
helpful 上位のレビューを読むと、多くが判で押したように同じ助言から始まる——「何も調べずに始めろ」。ネタバレを避けよという警告が、そのまま賛辞になっている。作品の核が「まだ知らないこと」を燃料にしていることを、レビュアーたちは無意識のうちに告げている。
もう一つ繰り返されるのが出自の話だ。本作は元々 Skyrim の Mod として公開され、後にスタンドアロン化したと多くのレビューが記す。三人規模のチームが作ったという点への驚きが、評価の底に一貫して流れている。私の関心は、その厚い合意の内側で、positive と negative が同じ要素を逆から読んでいる箇所にある。
地下に眠る古代ローマの街。レビュアーが「何も知らずに入れ」と口を揃える入口(Steam スクリーンショット)
メカニクスの言語化
positive レビューが繰り返すのは、「ループが失敗の恐怖を消す」という感覚だ。一日が終わればすべては巻き戻り、前の周回で得た知識だけが手元に残る。彼らはこれを「死のペナルティなしで回せる探偵ゲームの調査」と評する。
これを Puzzlebyrinth の語彙に置き換えると、ループは「動詞」ではなく観察解像度を上げる装置である。プレイヤーが持ち越すのは道具ではなく情報であり、周回のたびに同じ街の解像度が上がっていく。手を動かすパズルではなく、注意を動かすパズルだ。
街を縛る唯一の規則——「一人が罪を犯せば全員が死ぬ」——も、positive が「エレガント」と呼ぶ設計だ。ルールが一行に減算されているからこそ、あらゆる住人の行動がその一行に対する変数になる。Twelve Minutes のループが密室の反復だったのに対し、本作のループは街という広い変数空間を、一行の規則で締め上げる。
時間ループの巻き戻し。持ち越せるのは道具ではなく「知っていること」だけだ(Steam スクリーンショット)
物語の手触り
本作の実体は会話だ、という点では positive も negative も一致している。分かれるのはその評価軸である。positive は「機知に富み、哲学的で、AAA を凌ぐ脚本」と讃え、倫理学入門(Ethics 101)に喩える者もいる。ローマ史の考証の細かさを挙げる声も多い。
一方 negative 側で繰り返されるのは、「歩いて、話して、また戻って報告する」だけだという退屈と、「古代ローマなのに物言いが現代的すぎる」という違和感だ。同じ台詞回しを、片方は「賢い」と読み、片方は「説教臭い」と読む。
これは優劣ではなく、設計の射程の問題だと私は見る。本作は謎を「解く」快感を、推理ではなく傾聴の側に置いた。Return of the Obra Dinn が観察の解像度で殴ってくるのに対し、本作は会話の解像度で進む。手を動かしたい読者ほど、この設計の外側に立つことになる。
住人への聞き込み。この街のパズルは推理ではなく傾聴に置かれている(Steam スクリーンショット)
ゲームデザインの工夫
negative が最も繰り返す具体的な不満は二つある。ひとつは戦闘——終盤の、像を相手にした弓のシークエンスを「冗長でぎこちない」とする声。もうひとつは自由度の乏しさで、「承認された結末は実質4つ」「筋を進めるのに“お約束”の飛躍を強いられる」という指摘だ。
前者は Mod 由来の操作感の名残と重なる。positive ですら戦闘には冷淡で、ここは賛否ではなく「なくてもよかった動詞」としてほぼ全会一致に近い。設計語彙で言えば、傾聴のゲームに接ぎ木された不要な動詞が、体験の解像度をむしろ下げている。
後者はより本質的だ。ループを一行の規則で締めた代償として、解に至る経路は細くなる。positive はこれを「導線の明快さ」と受け取り、negative は「レールの狭さ」と受け取る。同じ減算が、片方には潔さ、片方には窮屈さに見える——これは作家の選択であって、欠陥と言い切れるものではない。
終盤の弓のシークエンス。賛否を問わず「なくてもよかった動詞」とされる部分(Steam スクリーンショット)
参照したレビュー群
本記事は 2026-07-12 時点の Steam ストアページおよびユーザーレビュー群を読んで構成した。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。
・Steam: The Forgotten City(英語レビュー 96% 好評・7,112 件、全言語 10,722 件「圧倒的に好評」、直近30日は 85% 好評・70 件)
・helpful 順の positive 上位 10 件、negative 上位 10 件、および recent 数件を Steam のレビュー機能で読了した
・Metacritic(メタスコア 85)も補助的に参照した
結論
私のスコアは 8.5 だ。Steam の 96% という数字より控えめなのは、傾聴の設計が見事な一方で、接ぎ木された戦闘と経路の細さが体験の解像度を落としているからである。減算の美しさと、減算が生む窮屈さが、同じ一本の作品に同居している。
直近30日のレビューは 85% とやや下がっている(70 件)。セールで間口が広がり、「歩いて話すだけ」を予期していなかった層が触れた結果だろう、と私は読む。作品が変わったのではなく、届く相手が変わっただけだ。
手を動かすパズルを求める読者には、これはパズルに見えないかもしれない。だが「まだ知らないこと」を燃料に、注意の解像度だけで街を解いていく設計として、本作は明確な射程を持っている。Outer Wilds に心を動かされた読者なら、ここでも同じ器官が反応するはずだ。
崩れゆく街の一日。注意の解像度だけで解いていく設計は、明確な相手を選ぶ(Steam スクリーンショット)
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