REVIEW · 2017-11-24

The House of Da Vinci

レンズで覗く工房、賛否は『近づけない』で割れる

Steam store ↗

作品について

1506年のフィレンツェ。師レオナルドが姿を消し、弟子である主人公は工房に残された仕掛けを一つずつ開けていく。手にしているのは Oculus Temporis と呼ばれる装置で、物の内部を透かして機構を見る機能と、その場で過去に起きた操作を再演して見せる機能を持つ。一人称視点、クリックで視点を移し、箱と機械を開けて進むパズルアドベンチャーだ。2017年11月24日発売、開発・発行はスロバキアの Blue Brain Games。ストアページによれば2016年末に Kickstarter で出資を集め、2,391人の支援を得たと記載されている。

私はこの記事を、Steam に積み上がったユーザーレビュー群を読んで書く。全言語での総レビューは7,265件、うち好評6,258件で約86%、評価ラベルは『非常に好評』。英語のみに絞ると2,740件中81%に下がり、直近30日は90件中71%の『やや好評』まで落ちる(いずれも 2026-08-05 snapshot)。長期の高評価と、足元のわずかな沈みが同居している。

そしてこのレビュー群で最も頻出する固有名詞は、開発元でもレオナルドでもない。The Room だ。賛辞も不満も、ほぼ全部がこの補助線の上に置かれている。

The House of Da Vinci のスクリーンショット: 蔵書棚とステンドグラス窓のある室内装飾床と蔵書棚の並ぶ室内。ステンドグラスの窓から光が入る(Steam スクリーンショット)

第一印象

helpful 上位の positive レビューを並べると、語彙はよく似ている。最も票を集めた一言は『The Room をもっと遊ぶには、これしかない』というものだ。続くのも『The Room 級、いやそれ以上』。長文の推薦文で繰り返されるのは clever(巧い)、detailed(細かい)、そして入れ子を指す比喩——ロシア人形、パンドラの箱、puzzleception。部屋に3つしか物がないのに、解いても解いても新しい仕掛けが出てくる、という驚きの書き方である。

もう一つ目を引くのは、書き手の層だ。自分を75歳と名乗るレビュアーが『複雑な論理と問題解決の連続だから、認知の老化を遅らせるためにシニアにこそ薦めたい』と書き、それが326票を集めている。別のシニアも『灰色の脳細胞にちょうどよい運動になる』と書く。落ち着いて考える時間を評価する声が、この作品の推薦の中核にある。

対して negative 側で繰り返されるのは tedious(冗長)、clunky(ぎこちない)、anti-intuitive(直感に反する)、『とにかく The Room をやれ』だ。物語が薄い、結末が唐突、そして最頻出が『近づき方が分からない』という不満である。興味深いのは、賛否がしばしば同じ要素を指していることだ。入れ子の多さを、ある人は astonishing と書き、別の人は tedious と書く。私の役割は対立を煽ることではなく、評価の分岐点を設計の言葉に翻訳することにある。

The House of Da Vinci のスクリーンショット: ゴシック窓から光が差す石造りの室内石壁の薄暗い室内。ゴシック窓から青白い光が差し、木の手すりが見える(Steam スクリーンショット)

メカニクスの言語化

動詞は少ない。覗く、回す・引く、持ち物を組み合わせる。ほぼこれだけだ。加えて Oculus Temporis の二つのモード——内部機構を透かして見るモードと、その場の過去の操作を再演して見せるモード——が、覗くという動詞に二段の解像度を与えている。positive レビューが繰り返す『解いたと思った瞬間に、その内側にもう一つのパズルがある』という驚きは、動詞が増えたからではなく、観察解像度が入れ子になっているからだ。

レビュー群の中で私がいちばん有益だと思ったのは、進行を三段に分解した記述だ。パズルを見つける、パズルを解く、得た物を取り出して操作する。そしてその書き手は続けてこう言う——解くより見つけるほうが難しい。別の positive レビューも『解ける場所は何も強調されていないので、二段三段とズームして探し回る時間が長い』と正直に書き添えている。つまりこの作品の難しさは、盤面の内部にではなく、盤面の境界の側に置かれている。The Room 3 が箱の輪郭で『ここが盤面だ』と保証していたものを、この作品は部屋全体に散らしたのだ。

その代償を引き受けているのが段階ヒントだ。押すと少しだけ教え、数分待たないと次が押せず、段が上がるほど具体化していく。仕掛けによって二段のものと四段のものがある。positive レビューがこの仕組みを設計として褒め、最近のレビューも『答えを言わずに考える材料だけ渡してくれる』と書く。減算しきれなかった観察コストを、時間の壁つきの安全網で受け止める——ヒント設計としてはかなり丁寧な部類だと私は読む。

The House of Da Vinci のスクリーンショット: ローマ数字が刻まれた木製の塔状の箱と溝のある盤作業台の上に置かれた、ローマ数字の刻まれた木製の塔状の箱と、溝の彫られた木の盤(Steam スクリーンショット)

系譜と位置づけ

この作品のレビューは、ほぼ全部が The Room を物差しにしている。positive 側にとって『The Room が好きなら気に入る』は最大級の推薦であり、レンズ、持ち物の操作、仕掛けの手触りが安心材料として働く。同時に Myst や Riven の名も出て、『あの頃の雰囲気で、無意味なレバーは少なく、空間はもっと小さい』と位置づけられる。Quern - Undying Thoughts を引いて『あれほど長い作品に手を出したくないなら』と比べる書き手もいる。

ところが negative 側は、同じ物差しで正反対の判定を出す。『レンズは丸ごと借り物』『The Room の下位互換』『比べるのは公平でないと分かっていても、比べざるを得ない』。中には『The Room シリーズの1と3をやれ、あれは全部この作品より上手くやっている』と結ぶものもある。両陣営が同じ棚を指し、そこに置くか、そこから外すかだけが違う。

系譜として読むと、この作品が The Room から借りたのはレンズそのものではなく、『どこが盤面かを保証する規約』だと私は思う。The Room は箱の輪郭で触れる範囲を限定し、その内側では必ず何かが起きると約束していた。House of Da Vinci はその約束を部屋全体へ広げた。射程を広げた分、パンドラの箱は増えたが、輪郭の保証は薄まった。賛否は出来の良し悪しよりも、この交換をどう評価するかで分かれている。

The House of Da Vinci のスクリーンショット: 扉枠の奥に見える球状の装置と松明木の扉枠の奥に、金属色の球状の装置と幾何学模様の床。左手前に燃える松明(Steam スクリーンショット)

操作の手触り

negative レビューの最頻出主張は、難しさではなく操作だ。あるレビュアーはそれを『まだ近づけていない症候群』と名付けている。答えは分かっているのに、対象に手が届く距離まで寄れていない。しかも寄れたかどうかを示す合図がない。二段ズームが必要な場所で一段しか寄れておらず、正しい画素を踏むまでクリックを繰り返す——この描写が複数の書き手で驚くほど一致する。レバーを『十分に』動かさないと反応しない、掴んだ部品が途中で外れる、といった記述も並ぶ。

注目すべきは、この不満が positive 側からも出ていることだ。前掲のシニアの推薦文は、天体円盤について『あれは脳の閃きではなくマウスの器用さを要求する。我々のうち何人かは、そんなに器用ではない』と留保を付けている。直近のレビューにも『パズルの解き方は見えているのに、輪を上下にドラッグし続けるので腕が痛くなって降参した』というものがある。指を要求する箇所が、頭で解く楽しみと衝突している。

直近30日が71%まで落ちているのは、この論点が新しく発見され続けているからだと読める。2026年に入って書かれた不評も、論旨は2019年のものとほとんど同じだ。タッチ画面なら良かったのかもしれない、と推測する書き手もいる(検証はできない)。設計の言葉で言えば、これは学習曲線の問題ではなく入力帯域の問題だ。動詞は数えるほどしかないのに、その動詞を発火させる前段——正しい視点、正しい距離、正しいドラッグ量——が隠れた必須手順になっている。減算された動詞の手前に、減算されていない操作の関門が残っている。

The House of Da Vinci のスクリーンショット: 十二宮と月相の記号が並ぶ大型の天体円盤木組みの空間に据えられた紺色の大型円盤。十二宮の記号と月相を並べた同心のリングが重なる(Steam スクリーンショット)

参照したレビュー群

本記事は 2026-08-05 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。

Steam: The House of Da Vinci(非常に好評 / Very Positive、全言語 7,265 件中 6,258 件が好評で約 86%。英語のみでは 2,740 件中 81%、直近 30 日は 90 件中 71% で『やや好評』)

・helpful 順の positive 上位 10 件前後、negative 上位 12 件、recent 上位 8 件を読了(コミュニティのレビュー一覧および Steam の appreviews データ)

・ストアの公式説明文(Oculus Temporis、Kickstarter 出資、対応言語)と、レビュアーの実感とのズレを突き合わせた

結論

Steam の総評は全言語で約86%の好評、私の設計批評としての採点は7.5だ。加点は、観察解像度を入れ子にして仕掛けの中から仕掛けを出す構造と、時間の壁を挟んだ段階ヒントの丁寧さ。減点は、盤面の境界を部屋全体に広げた代わりに『どこが触れる場所か』の保証を薄めたこと、そしてその探索が指の器用さと二段ズームの当たり判定に依存していることだ。数字の差はほぼここに集約される。

レビューで言及されるクリア時間の中央値はおよそ7〜8時間で、80時間かけた書き手から3時間で降りた書き手までばらける。難しさの評価も割れており、『ちょうどよい』と『難しくはない、ただ長い』が同じ数だけ並ぶ。落ち着いて機構を見つめ、ヒントを小出しに使いながら考える時間を楽しめる人には、いまでも十分に薦められる。逆に、解法が見えた瞬間に手が動いてほしい人——The Room の吸い付くような手触りを基準にする人——には、この作品の関門が最後まで気に障るはずだ。誰に向くかがこれほど明確に読み取れるレビュー群も、そう多くない。

The House of Da Vinci のスクリーンショット: レンガの空間に置かれた木製の円盤状の機械レンガのアーチ空間に置かれた、巨大な木製の円盤状の機械(Steam スクリーンショット)

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