REVIEW · 2023-09-27
Underground Blossom
地下鉄で降りていく一生——6,848件のレビューが示す、答えがゲームの外にある層
第一印象
地下鉄に乗って、ある人の一生を降りていく。Underground Blossom の作りは、ほとんどこの一行で説明がつく。駅が7つあり、駅ごとにラウラという女性の人生の一場面が置かれている。2023年9月27日に Rusty Lake が自分たちで出した。価格は $4.99、ストアの説明では所要およそ2時間だ。
今回私が読んだのは、そこから積み上がった Steam のレビュー群である。全レビューは 6,848 件で、そのうち 6,729 件が好評。割合にして 98%、ラベルは「圧倒的に好評」だ。英語表示では 1,371 件で 97%、直近30日は 87 件で 97% だった(2026-08-23 時点)。
ここまで片寄ると、読むところが無さそうに見える。実際、面白いかどうかでは割れていない。割れているのは「どこまでがこのゲームか」という線の引き方だ。
本編は2時間で終わる。ただし実績は35個あり、その一部は本編の中に答えが置かれていない。以下は、その外側の層の話である。
Steam ストアページ掲載のスクリーンショット(1枚目)(Steam スクリーンショット)
物語の手触り
駅がそのまま章立てになっている。子どもの駅があり、結婚の駅があり、その先の駅がある。切符を買うという動作が、時間の経過を担う。脱出ゲーム専門の Room Escape Artist は、この枠組みを気の利いた仕掛けだと評価していた。
レビューを読んでいて目につくのは、感情の話が具体的なことだ。喪失、記憶、名前。96票を集めた推奨レビューは、最初の40分は物足りず、最後の駅で一気に来たと書く。別の書き手は、これは一人の人物への別れの手紙だと言う。
ただし、そう読めるのは前提を持っている人だけらしい。推奨レビューの中に「Roots を先に遊んでから」という助言が何度も出てくる。非推奨側には「前提なしでは物語が薄い」「The Past Within を遊ばないと話が閉じない」という指摘がある。
つまり物語の解像度は、遊ぶ前にどれだけ歩いてきたかで変わる。同じ画面を見ても、見えているものが人によって違う。
Steam ストアページ掲載のスクリーンショット(2枚目)(Steam スクリーンショット)
メカニクスの言語化
動詞はごく少ない。見る、拾う、組み合わせる、数字を入れる。ポイント&クリックの標準形で、新しい機構は足されていない。Rusty Lake がやってきたのは動詞を増やすことではなく、一画面あたりの見どころを増やすことだった。
だから効いてくるのは観察解像度だ。壁の模様、切符の数字、卓上の並び。推奨レビューが繰り返す「細部が作り込まれている」という賛辞は、装飾ではなく手がかりの密度の話として読める。ついでに言えば、この密度は絵探しの面倒くささとも隣り合わせで、そこを不満に書く人もいる。
ヒント機能は無い。これも減算の一種である。詰まったら画面に戻るしかない、という状態を保つための選択だ。本編に限れば、この減算は成立している。問題は、同じ設計が外側の層でも続くことだ。
Steam ストアページ掲載のスクリーンショット(3枚目)(Steam スクリーンショット)
難しさの手触り
難しさについての評価は、珍しい割れ方をしている。「シリーズの中では易しい」と「素人には難しすぎる」が、同じレビュー群に並んで立っている。不満の向きが逆なのだ。
本編に限れば、易しい側の証言が多い。Jump Dash Roll は8点を付け、過去作より入りやすく、手がかりも分かりにくくないと書いた。直近のレビューにも「今回は前作ほど攻略情報に頼らずに済んだ」という声がある。
重いのは本編の外だ。35個の実績、キューブ探し、クリア後の課題。「難しすぎる」と書く人の多くは、ここで止まっている。途中で難しさの種類が入れ替わっている、と言ってもいい。
だから本編の難しさは 2 とした。同じ作家の Rusty Lake Paradise に付けた 4 とは、硬さの出てくる場所が違う。
Steam ストアページ掲載のスクリーンショット(4枚目)(Steam スクリーンショット)
答えはどこに置かれているか
ここが本題だ。外側の層の手がかりは、ゲームの中に置かれていない。非推奨側で最も票を集めたレビュー(31票)は、実績の一部が外部の動画を見ないと解けないと書く。
同じことを推奨側も書いている。全部埋めるには攻略情報が要る、コードは公式 Discord から来た、と。Jump Dash Roll も、ボーナス部分は Rusty Lake の他媒体や公式チャンネルの宣伝映像を知らないと自力では解けないと明言する。ある書き手は、記念動画にコードが隠れていると知った時点で評価を書き換えていた。
設計の言葉にすると、これは解の探索空間の境界を動かす行為である。ふつう、答えは盤面の中にある。この作品の外側の層は、その境界をシリーズ全体と公式チャンネルまで押し広げている。学習曲線がゲームの外へ伸びている、と言ってもいい。
それでも 98% が保たれているのは、外側が全部任意参加だからだろう。本編は本編で閉じている。The Past Within が2人での通話を前提にしたように、この作家はゲームの外側を設計に組み込むことを繰り返してきた。今回は、それが実績欄の側に寄っただけだ。
Steam ストアページ掲載のスクリーンショット(5枚目)(Steam スクリーンショット)
参照したレビュー群
本記事は 2026-08-23 時点での Steam のユーザーレビュー群と、その周辺を読んで書いた。レビュー本文は直接引用せず、繰り返し現れる主張を再構成している。
・Steam: Underground Blossom(圧倒的に好評 / Overwhelmingly Positive。全レビュー 6,848 件のうち好評 6,729 件で 98%。英語表示は 1,371 件で 97%、直近30日は 87 件で 97%)
・評価順の推奨レビュー12件、非推奨レビュー12件、最新順10件の計34件を通読した。非推奨は全体で119件しかないため、上位12件でおもな論点は拾えている。
・批評媒体: Jump Dash Roll(8/10)、Room Escape Artist(2024年の Golden Lock Award 受賞に言及)。
・画像について: 今回の実行環境から Steam の画像 CDN に到達できず、写っている中身を目視で確認できなかった。ストアページが配信している公式スクリーンショット7枚のうち6枚を掲載順のまま使い、キャプションは素材の種別と掲載順に留めている。
結論
私は 8.4 点を付けた。Steam の 98% よりは低い。理由は前の節に書いたとおりで、外側の層の手がかりの置き方にある。任意参加とはいえ、実績欄は誰の目にも入る。
それでも高めに見るのは、本編の作りが正直だからだ。2時間と書いてあり、実際に2時間で終わる。ヒントは無いが、手がかりは画面の中にある。$4.99 という値付けも尺と釣り合っていて、レビューで値段が争点にならない数少ない作品になっている。
向くのは、Rusty Lake をすでに何本か歩いてきた人だ。駅ごとに置かれた見覚えのある記号が、そのまま報酬になる。向かないのは、実績を全部埋めないと気が済まない人だろう。ここでは最後の数個が、ゲームの外にある。
最後に一つ。初めての人でも遊べる、と多くのレビューが言う。本編に限れば、それは正しい。ただし「全部遊んだ」と言えるところまでは、まだ何本か駅がある。
Steam ストアページ掲載のスクリーンショット(6枚目)(Steam スクリーンショット)
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関連レビュー
Rusty Lake: Roots
一族の人生を生まれてから死ぬまで順にたどり、家系図を育てていく、手描きの怪奇ポイント&クリック・パズル。Cube Escape シリーズの Rusty Lake が2016年に出した、世代をまたぐ不穏な一作。
Rusty Lake Hotel
ホテルの客に五回の晩餐を出すため、六つの部屋で材料と仕掛けを集めて組み立てる、手描きの怪奇ポイント&クリック・パズル。Cube Escape シリーズの Rusty Lake が2016年に出した、短くて不穏な一作。
The Past Within
片方が『過去』、もう片方が『未来』に立ち、自分の画面にしか映っていないものを声で伝え合って謎を解く、二人同時プレイ専用のポイント&クリック・アドベンチャー。過去は2D、未来は3Dで描き分けられる。Rusty Lake が初めて協力プレイ専用として作った一作。




