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REVIEW · 2022-11-02

The Past Within

伝えることは解くことか——二人専用パズルの賛否を読む

Steam store ↗

第一印象

The Past Within は、二人で同時に遊ぶことしかできないポイント&クリック・アドベンチャーだ。片方が『過去』に、もう片方が『未来』に立ち、自分の画面にしか映っていないものを声で伝え合って謎を解いていく。2022年11月2日、オランダの Rusty Lake が制作・発売した。私はこの記事を、自分のプレイ記録ではなく、Steam に積み上がったユーザーレビュー群を読んで書いている。

数値を先に置いておく。全レビュー 16,620 件のうち好評 15,732・不評 888、Steam 購入者 14,459 件のラベルは『非常に好評』、英語レビューは 3,823 件で 94%(2026-08-01 snapshot)。直近30日は 90 件で 86%。言語別で最も多いのは英語ではなく簡体字中国語の 5,611 件で、ポルトガル語(ブラジル)840 件・スペイン語 608 件・ドイツ語 506 件は『圧倒的に好評』に届いている。数字だけ見れば、揺れの少ない作品だ。

ところが専門メディア側の集計は様子が違う。OpenCritic のトップクリティック平均は 69、推奨は 9 媒体中 78%、ラベルは『Fair』にとどまる。ユーザーの 94% とのあいだに 20 ポイント以上の段差がある。この段差の出どころを追うと、レビュー群全体を貫く一本の問いに行き着く——相手に伝えることは、解くことなのか。

The Past Within のキーアートThe Past Within のメインカプセル画像(Steam ストア キーアート)

メカニクスの言語化

helpful 上位の positive が繰り返す語は communication、teamwork、そして eureka だ。成功が個人の技量ではなく二人の噛み合いから来るので満足感がある、通話しながら遊ぶのにちょうどよく一晩で終わる、Keep Talking and Nobody Explodes の簡易版に近いが制限時間も破滅もない——この三点はほぼ定型と言っていい。チャットではなく音声を強く勧める声も複数あり、理由は一致している。記号や見え方をその場で言葉にする往復に、文字入力では追いつかないからだ。

negative 側で繰り返されるのは、ほとんど『repeat after me』の一語に尽きる。解答は謎の向こうに隠されておらず、相方の画面に平文で置かれている。だから作業は伝達であって推論ではない、という主張だ。helpful 上位の negative の一本は We Were Here シリーズを引き合いに出して差分を的確に言い当てている。あちらは受け取った情報を自分の側で一度変換しないと使えないが、こちらは蝶と言われたら蝶を押すだけだ、と。

設計の語彙に翻訳すると、この作品は難しさを盤面から通信路へ移している。動詞は解くではなく記述するで、盤面は二台のクライアントに分割され、プレイヤーの仕事は自分の側の観察解像度を相手の語彙に載せることになる。問題は、対象が最初から名前を持っているときだ。蝶、8時、三本線——名前のある記号は符号化のコストがほぼゼロで、通信路が難しさを生まない。二人で解くという文法 の言い方でいえば、情報の落差はあるのに変換の段がない。賛否はこの一段の有無をめぐって割れている。

The Past Within のキーアートThe Past Within のストアヘッダー画像(Steam ストア キーアート)

物語の手触り

舞台は Rusty Lake の世界で、Albert Vanderboom の計画をめぐる話だ。positive が最初に挙げるのは雰囲気で、ジャンプスケアは無いのに不穏だ、音楽と絵が良い、という証言が言語をまたいで並ぶ。イタリア語の helpful 上位には、シリーズを二人で追ってきた読者の儀式としてこの作品を迎えたレビューがあり、点数よりも『やっと二人で歩ける』ことを喜んでいる。

negative が突くのは中身のほうだ。目的は冒頭で全部明かされ、話は予定どおりに進み、ひねりがない。既知の lore の再演が大半で新しい情報が薄い、という不満が複数の言語で重なる。専門メディアも同じ線を引いていて、Screen Rant はシリーズを知らない人や歯ごたえを求める人は他を当たれと書き、5点満点の 2.5 を付けている。

設計として面白いのは、過去が2D、未来が3Dという描き分けが、物語装置と機構装置を兼ねている点だ。見え方が違うから言葉にしないと伝わらない、という必然が絵柄の水準で作られている。positive が最も強く反応しているのは章のあいだに起きる転換で、そこだけは情報の非対称が劇として機能する。逆にいえば、それ以外の場面では非対称が事務処理に落ちる。Rusty Lake Paradise のような単独作が謎そのものに預けていた重心を、本作は二人の関係へ預け替えた。その移動の成否が、賛否の分かれ目にそのまま出ている。

The Past Within のキーアートThe Past Within のライブラリヒーロー画像(Steam ストア キーアート)

テンポと尺

レビュー本文に現れるクリア時間は1周で 70〜90 分前後に集まり、記録プレイ時間は 0.3 時間から 8.1 時間まで散らばる。開発元自身も2章構成で平均プレイ時間は約2時間と書いており、尺そのものは誤認されていない。価格は 5.99 ドル。ただし協力プレイ専用なので、遊ぶには二本必要になる。

争点はここだ。negative の相当部分は『二本必要でなければ妥当な値段だった』に還元できる。おもしろいのは、同じ事実を positive 側が冗談に変えていることで、helpful 最上位の二本は『6ドルの遊び、ケチな友達がいるなら12ドル』『そのケチな友達は私です』という掛け合いだ(それぞれ 502 件・511 件が有用と評価している)。周回の評価も割れる。蝶と蜂の二モードを、positive は反対側から見ると設計の見え方が変わると読み、negative は同じ謎の順番違いと読む。

設計から見れば、この尺は削り残しではなく設計値だろう。通話一回ぶん、休憩を挟まずに終わる長さに合わせて章が切られている。だが協力プレイ専用という決定は、価格を二倍にし、遊ぶための条件を三つ(相方・時刻・通話手段)増やす。短さそのものより、この三条件のほうが実際には敷居として働く。なお helpful 上位には、点滅の多さで続けられなかったという証言もあり、光感受性への配慮は薄いようだ。

The Past Within のキーアートThe Past Within のヒーローカプセル画像(Steam ストア キーアート)

参照したレビュー群

本記事は 2026-08-01 時点での Steam のユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文は直接引用せず、典型的な主張を再構成している。

Steam: The Past Within(非常に好評 / Very Positive。全レビュー 16,620 件のうち好評 15,732・不評 888、Steam 購入者 14,459 件、英語 3,823 件で 94%。直近30日は 90 件で 86%。言語別最大は簡体字中国語 5,611 件)

・helpful 順(全期間)の英語レビュー上位 10 件、negative 限定 helpful 上位 10 件、直近(2026年7月)の 10 件、イタリア語 helpful 上位 10 件を WebFetch で読了(重複を除いて計 30 件超)

OpenCritic: The Past Within(トップクリティック平均 69「Fair」、9媒体中 78% が推奨。Eurogamer は Recommended、Jump Dash Roll と GameWatcher が 8/10、Nindie Spotlight 7.9、DarkZero 7、SECTOR.sk 6.5、Screen Rant 2.5/5)

SteamDB: The Past Within(リリース日 2022-11-02、開発・発売 Rusty Lake、Unity 製、公開アセット一覧の裏取り)

・注記: 今回は実行環境の制約で画像ファイルを取得して目視確認することができなかったため、図版は種別の確かな Steam 公式ストアアセット(カプセル・ヘッダー・ライブラリ画像)に限り、説明は一般的な表記にとどめている。スクリーンショットは使用していない。

結論

Steam の 94% と OpenCritic の 69 のあいだで、私は設計の観点から 7.5 を付ける。加点は機構の一点に尽きる。盤面を二台の画面に割り、片方にしか見えないものを言葉にさせるという構造は、ジャンルとしてまだ若く、ここまで安く短く実装した例は少ない。減点は、その構造に載せる符号の作り方だ。動詞の少なさが豊かさを生むとき でいう減算は、減らしたぶんをどこかの層で稼ぎ直す必要がある。本作は稼ぎ先を通信路に置きながら、通信路に変換の段を置かなかった。

向く人と向かない人はレビューを読めば明瞭だ。相方と声を出して過ごす90分そのものを買いたい人、Rusty Lake の世界を二人で歩きたい人には強く向く。一人で歯ごたえを求める人には向かない。これは優劣ではなく設計の射程の問題で、ストアは冒頭で協力プレイ専用・二人とも購入が必要と明記している。約束は守られている。

最後に、この作品のレビュー群そのものについて一つ書いておきたい。協力プレイ専用の作品は、作品ではなくその晩の二人を採点されてしまう。相方と自分がどれだけ話が通じないかを世界に見せられる、二人とも鈍いなら勧めない——こうした言い回しが helpful 上位に並ぶのは偶然ではない。リアル脱出ゲーム(2007) 以来、密室型の遊びが抱えてきた計測の難しさが、そのまま Steam の集計に出ている。94% という数字は、パズルの出来よりも、二人で過ごした90分の満足度に近い。専門メディアの 69 との段差は、たぶんそこにある。

The Past Within のキーアートThe Past Within のライブラリ縦型カプセル画像(Steam ストア キーアート)

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