REVIEW · 2022-05-10
We Were Here Forever
分け合った情報だけが橋になる
第一印象
私が読んだのは、2026年8月1日時点で Steam に積み上がった『We Were Here Forever』のユーザーレビュー群である。全言語の総数は 18,631 件、うち好評 16,886 件でおよそ 91%、評価ラベルは「非常に好評」。オランダの Total Mayhem Games が開発・発売し、2022年5月10日にリリースされたと記載されている。二人専用、マイク必須、無線機で喋りながら城から脱出する——この前提だけで、レビューの語り口が他のパズルゲームとはっきり違ってくる。
helpful 上位の positive を並べると、驚くほどゲームの話をしていない。「友達が実は相当な間抜けだと分かった」「始めたとき40人いたフレンドが、いまは39人だ」。上位を占めるのは盤面の話ではなく、相方についての報告である。真面目な長文レビューも結局は同じ場所を指す。曰く、片方が単独で押し切って解ける場面が一つもない、と。評価されているのはゲームというより、二人の間に起きた出来事だ。
一方、helpful 上位の negative が繰り返す語は三つに集約できる。padding(水増し)、imbalance(情報の偏り)、そして bugs だ。「同じ物を同じ場所へ三度運ばされた」「片方が9割考え、もう片方はただ待っていた」。ストアの惹句は「時間切れになる前に、落ち着いて説明できるか」と緊張を約束するが、helpful 上位の実感は「歩かされている時間が長い」の方へ寄っている。この落差を、対立ではなく設計の射程として読むのが本稿の目的だ。
We Were Here Forever の公式配布画像(Steam ストア キーアート/ストア ヘッダー画像)
メカニクスの言語化
このゲームの動詞は、押すでも運ぶでもなく「記述する」だ。positive 側が共通して褒めているのは、相手にしか見えない記号や、相手にしか聞こえない音を、言葉に変換する作業そのものである。Puzzlebyrinth の語彙でいえば、盤面の状態遷移を担う動詞がプレイヤーの口の中に置かれている。レバーは状態を変えない。レバーの位置を正しく言い当てた言葉が変える。
だから negative の「情報の偏り」は、単なる不満ではなく設計への正確な指摘になっている。二人に配る情報が偏りすぎると、記述という動詞は片側でしか発火しない。「もう一人は入力係でしかなかった」というレビューは、動詞が一人に集中した状態の報告だ。逆に情報を完全に共有すると、今度は二人でやる理由が消える。ある negative は、本作の多くの盤面が後者に寄ったと書いている。
対称と非対称の間の狭い帯にしか正解がない、というのは協力パズル固有の設計問題で、当サイトの二人で解くという文法 — 協力パズル設計と情報の非対称で扱った通りだ。本作のレビュー群が面白いのは、批判が作品全体ではなく特定の章に名指しで向かうところである。帯から外れた章だけが叩かれている、と読める。
We Were Here Forever の公式配布画像(Steam ストア キーアート/ストア メインカプセル画像)
操作の手触り
レビュー群でもっとも興味深い現象は、無線機をめぐるものだ。ストアページは「無線機で会話し、互いの目と耳になる」を特徴の筆頭に掲げ、動作環境にも「マイク必須」と明記している。ところが positive か negative かを問わず、同じ一文が繰り返し現れる——結局 Discord に切り替えた、と。
理由の説明まで一致している。押している間しか喋れない、同時に喋れない、相手に届いているかどうか分からない。ある positive レビューは「そういう作りなのは分かるが、便利さのほうがリアリティより上だ」と書いて自分を納得させている。作家が最後まで残した摩擦を、プレイヤーの側が一斉に削り落とした。減算の主導権が受け手に渡った珍しい例だと思う。
ただし摩擦が消えたわけではない。上位の funny レビューには、水中の章で二人が擬音だけを送り合った記録を丸ごと転記したものがある。無線機を捨てても、「見えないものを声で伝える」という本体の制約は残る。手触りとして残ったのは装置ではなく、装置が守ろうとしていた制約のほうだった。設計として学べるのは、道具は捨てられても文法は捨てられない、という一点だ。
We Were Here Forever の公式配布画像(Steam ストア キーアート/ストア ヒーローカプセル画像)
ゲームデザインの工夫
negative 側でもっとも鋭い一本は、本作を「too tame(おとなしすぎる)」「overly-curated(整えられすぎている)」と評した。シリーズ前作にあった、迫る危険のなかで無線のやり取りが悲鳴じみていく緊張が消え、代わりに「はい次のパズルです、この部品で解いてください」という進行に変わった、というのがその主張だ。
面白いのは、まったく同じ性質を positive 側が長所として挙げていることである。ある長文の推薦は「必要な部品を隠さない。解くのに要る情報は全部その場に提示される」を推薦理由の中心に据えている。ノイズの除去——観察解像度を上げるための減算——を、片方は親切と読み、もう片方は退屈と読む。同じ操作の、別の名前だ。
これは優劣ではなく射程の問題だと思う。協力パズルの体感難しさは、二人のうち慣れていない方で律速される。噛み砕いて渡す設計なら、パズルに不慣れな相方や、今日初めて一緒に遊ぶ相手を連れてこられる。緊張を残す設計は、同じ癖を共有した二人にしか届かない。本作は前者を選び、その代償として、シリーズを追ってきた層の一部を落とした。
We Were Here Forever の公式配布画像(Steam ストア キーアート/ライブラリ ヒーロー画像)
系譜と位置づけ
専門メディアとユーザーは、同じ変化を見つけたうえで評価だけを分けている。The Gamer は本作を「抽象よりも実行に寄せた」ことを長所として 80 点を付け、GamingTrend は「同じパズルを三度、四度やらされる」として 65 点を付けた。抽象(何を解くべきかを二人で探す)から実行(分かったことを二人で入力する)への重心移動、という診断そのものは一致している。
シリーズの起点は、片方の部屋に答えがあり、もう片方の部屋に問いがある、という一枚の構図だった。四作目はそこに章立てと物語を足し、部屋を城に広げた。レビューが「前作の方が良かった」と言うとき、惜しまれているのはたいてい分量ではなく、その一枚の構図の純度である。増築は動詞を増やさなかった、という言い方もできる。
協力型の脱出パズルとして、当サイトではEscape Academyや、二人が同じ屋敷の別々の時代を行き来するThe Past Withinも扱ってきた。そのなかで本作はもっとも会話量に依存する。相方を選べるかどうかが、そのまま体験の質になるタイプの設計だ。
We Were Here Forever の公式配布画像(Steam ストア キーアート/ライブラリ ヘッダー画像)
参照したレビュー群
本記事は 2026-08-01 時点の Steam ストアページおよびコミュニティのレビュー欄を読んで書いた。レビュー本文の引用は行わず、繰り返し現れる典型主張を再構成している。
・Steam: We Were Here Forever(全言語 18,631 件中 好評 16,886 件・約91%、「非常に好評」。直近30日は 164 件で 79%、「やや好評」)
・helpful 順 全レビュー上位 11 件、helpful 順 negative 上位 10 件、および 2025〜2026 年投稿の個別レビュー 3 件を通読
・GamingTrend: We Were Here Forever review – Quantity over quality(65点)、および Steam ストアページに掲載された IGN・The Gamer・PC Gamer の抜粋
結論
Steam の overall は約 91%(18,631 件中 16,886 件、2026-08-01 時点)。ただし直近30日は 164 件で 79%、ラベルは「やや好評」まで落ちている。同時期に本体は 60% オフで販売されており、割引時に流入する層と評価の動きが重なっている可能性はあるが、レビュー群だけからそう断定はできない。数字として書き留めておくに留める。
私は設計の観点から 7.5 点を付ける。会話を動詞に据えた発明は本物で、片方だけでは一歩も進めないという条件を六章ぶん維持しきったのは、素直に難しい仕事だ。一方で、同じ構造を三度繰り返す章と、移動およびスキップできないカットシーンに費やされる時間は、レビュー群が繰り返し名指しする通り、動詞が働いていない時間である。Steam の 91% との差はそこにある。
レビューで言及されたクリア時間はおよそ 10〜13 時間に集中している。難しさは相方によって大きく振れるため、数値としては中間に置いた。この作品を薦められるのは、二人で喋りながら詰まっていられる関係を持っている人だ。逆にいえば、それがない人には何も残らない。そしてその判定は、ゲームの側には決してできない。
We Were Here Forever の公式配布画像(Steam ストア キーアート/ストアページ背景画像)
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