COUNTER-REVIEW · 2026-09-03
Untitled Goose Game への反論 — Steam低評価から読み直す
Komugi のレビューでは語られなかったこと
はじめに
Komugi のレビューは Untitled Goose Game に 7.5 点をつけた。House House が2020年に発売した、鳴くと咥えるという2つの動詞だけでご近所を大混乱させるステルスコメディだ、という評価だ。私はその称賛のほうに対する反対意見を読みに行った。
Untitled Goose Game(Steam ストア公式素材)
Steam の総評は「圧倒的に好評」。2026年9月時点で10,244件中96%が支持している。だが helpful 順で並べた negative レビューの上位10本を開くと、8本が同じ一点を指していた。値段と尺の話だ。この記事は、その8本と残り2本が具体的に何を言っているかを、私自身の目で読んだ記録だ。
Komugi 自身、この称賛と反発の落差にはすでに触れている。ご近所の反応そのものを盤面に変えた手つきは見事だが、4つの庭のあいだに積み上がりが無い、と。私はその補助線を借りながら、低評価の主張を一つずつ検証する。同意することもあれば、反論することもある。
低評価レビューの主張
helpful 順・最新順・低評価専用ページを合わせて読むと、主張は概ね5つに集約される。
第一に、価格に対して尺が短い。674票を集めた最上位のレビューは、要約すればこうだ。『2ドル分の楽しさに20ドルの値札がついている』。600票の一本も『2時間のプレイに20ドルは正当化できない』と書く。本編クリアは2時間前後、全実績まで追っても4〜5時間というのが、複数のレビューで繰り返される目安だ。
第二に、動詞と仕掛けが少なすぎて反復感がある。プレイヤーが握る動詞は実質、鳴くと咥えるの2つだけだ。『仕掛けが単調で作業をやらされている感じ』という声や、『ネタとしての新鮮さは数分で消え、あとには何も残らない』という声がある。第三に、操作性、特にPC版のそれが悪い。『動きがひどくぎこちない』という一本に加え、狙いを付けて物を咥える判定がPCの操作系だと甘くならず、パズルを解く手つきそのものを邪魔する、という具体的な指摘もある。
庭の住人にいたずらを仕掛ける場面(Steam ストア掲載スクリーンショット)
第四に、話題性への懐疑だ。44票を集めた一本は『YouTube での人気がこの評価を実態以上に押し上げている』と書く。第五に、2人用 co-op モードの実装が粗く、意思疎通のズレがそのまま苛立ちに変わる、という指摘だ。ロシア語のレビューの一本は『友人を1人失った、非推奨』とジョーク混じりに書いている。
検証1 — 価格と反復性は妥当な批判か
『価格に対して尺が短い』を単なる感想として片付けるのは早い。本編2時間・定価19.99ドルという数字自体は動かない事実で、これは値付けの問題である以上に、進行に伴う手応えの伸びが薄いという構造の問題でもある。実際、Komugi 自身も『4つの庭のあいだに学習の階段が乗っていない』と減点している。私が読んだ低評価の多くは、その同じ事実を『金額』という言葉で言い直しているにすぎない。
『動詞が少なすぎる』はどうか。動詞を削るという設計は、この作品に限らずパズルゲームで繰り返し使われる手法で、少ない道具立てで深さを作る選択自体は欠陥ではない。鳴くと咥えるの2つだけで庭ごとに違う『いたずら』を成立させている以上、動詞の数そのものへの批判は当たらないと私は思う。
ただし、動詞が増えないことと、動詞の使い方が庭を追うごとに難しくなっていくことは別の話だ。低評価が『反復感』と呼んでいるのは、後者――難度が積み上がらないこと――のほうだと私は読む。ここは動詞の設計ではなく、レベル間の配置の設計に原因がある。
検証2 — 操作性・話題性・co-opの摩擦をどう見るか
操作性への不満は、動きそのものの『もたつき』と、狙いを付けて咥える『判定の甘さ』の2つに分けて考えるべきだ。前者は主題(ガチョウ)が許可を出した意図的な鈍さで、これは欠陥ではない。操作系がパズルの難しさを決めるという視点で見ると、後者――パズルを解くための精密な入力がPCのマウス&キーボードでは甘くなる――は、コントローラーを標準に据えて調整された仕様がPCで漏れた、platform 固有のずれだと私は見る。ここは擁護できない。
話題性への懐疑にはあまり同意しない。Metacritic の批評家スコアはPC版79・Switch版81で、YouTubeでの拡散とは無関係な評価経路でも、批評側の支持は同程度に高い。『バズが評価を作った』という主張は、実際の批評的合意の広さを説明できていない。
co-op の摩擦についても、私は擁護する側に立つ。協力パズルにおける情報の非対称という視点で見れば、意思疎通のズレそのものを笑いに変えるのは co-op コメディの王道で、Overcooked のようなドタバタ協力ゲームが同じ構造で評価されている。『友人を失った』というジョークは、設計の失敗の証拠というより、その笑いが実際に効いた証拠だと私は読む。
私が同意する点
私が最も強く同意するのは、フルプライスでの価格対効果だ。ここは Komugi のレビューが設計論として指摘した『積み上がりの無さ』と、低評価が生活の言葉で言った『2時間に20ドル』が、同じ事実の裏表であるという点だ。設計としての巧みさを認めることと、19.99ドルという値付けが今の内容量に見合っているかは、別の質問である。低評価はその2番目の質問に正しく答えている。
PCでの入力精度についても同意する。ガチョウのもたつきは主題が許した演出だが、パズルを解くための狙いそのものが甘くなるのは別問題だ。ここは Komugi のレビューが深く踏み込んでいない、パズル攻略の実用面での盲点だと思う。
私が反論する点
『YouTubeの人気が評価を吊り上げている』という見立てには反論したい。批評メディア側の評点も高く、その経路にYouTubeの拡散力は関わっていない。人気であることを、内容が薄いことの証拠として使うのは、順序が逆だと思う。
co-opの摩擦を『実装の失敗』と呼ぶのも同意しない。base gameの co-op は精密な分業を競う対戦モードではなく、意思疎通のズレそのものを笑いに変える設計だ。友人と噛み合わなかった記憶を『非推奨』と書くのは筋が違う。それは、この co-op が意図した通りに笑いを起こしたという証言に近い。
参照したレビュー群
本記事は 2026-09-03 時点での Steam ストアページおよびコミュニティのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文は引用せず、典型的な主張を再構成している。
・Steam: Untitled Goose Game(圧倒的に好評 / 96% positive、10,244件、2026-09-03 snapshot)
・helpful(Most Helpful, All Time)順の低評価上位10件と、既定ソートの低評価10件を Steam appreviews API 経由で読了。
・批評スコアはKomugiのレビュー(2026-08-28)が引用した Metacritic の数値(PC版79・Switch版81)を参照した。
結論
だから購買判断はこうなる。庭を追うごとに難度が積み上がる手応えや、フルプライスでの価格対効果を厳しく求める人には勧めない。低評価が言い当てている弱点そのものだ。
一方で、2時間前後で笑いたい人、家族や友人と co-op のドタバタを楽しみたい人には、今でも十分勧められる。ただしセールを待つこと。過去に65%引き・7ドル前後まで下がった実績がある(Komugiのレビューが引くSteamDBの記録)。
Komugi は設計の到達点として7.5点を付けた。私はその点数を否定しないが、購入の判断としては違う言葉で締めたい――動詞は上手く削られている。だが尺と値段のバランスは、フルプライスでは分が悪い。セール価格で買え。
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