COUNTER-REVIEW · 2026-09-10
Human Fall Flat への反論 — Steam低評価から読み直す
Komugi のレビューでは語られなかったこと
はじめに
Komugi のレビューは Human Fall Flat に7.0点をつけた。物理エンジンだけを舞台にして、歩く・跳ぶ・掴むの3つの動詞に絞った、No Brakes Games が2016年に出した協力パズルだ、という評価だ。私はその称賛のほうに対する反対意見を読みに行った。
Human Fall Flat(Steam ストア公式素材)
Steam の総評は「圧倒的に好評」。2026年9月時点で30,829件中95%が支持している。だが helpful 順で並べた negative レビューの上位20本を開くと、話は一色ではない。少なくとも5つの異なる不満が並んでいた。
Komugi自身、単調さや尺の短さという不満にはすでに触れている。この作品は所有感を手放す代わりに、共有できる事故を受け取る作品だ、という結論だった。私はその補助線を借りながら、低評価の主張を一つずつ検証する。同意することもあれば、反論することもある。
低評価レビューの主張
helpful順・最新順・低評価専用ページを合わせて読むと、主張は概ね5つに集約される。
第一に、Linux版サポートの打ち切りだ。もっとも票を集めた否定レビュー(1,683票)は『静かに打ち切られた』と書く。似た主張が上位20本のうち半数近くを占める。開発元は2018年10月、コミュニティ掲示板でこれを認めている。第二に、一人プレイの退屈さだ。128票を集めた一本は『一人だと苦行、誰かと一緒でなければ価値が出ない』と書く。51票の一本も同じ趣旨だ。
第三に、操作性への不満だ。『登りの操作が理不尽なほど苛立たしい』『掴む・登るの物理挙動と戦うのが9割、実際に遊べるのは1割』という声が複数ある。中には払い戻しをした、と書くレビューもある。
物理挙動で足場を越える場面(Steam ストア掲載スクリーンショット)
第四に、カメラだ。『カメラがアバターに直結していて、酔っ払いのように揺れる』『無効化オプションが無い』という指摘が、179票・61票を集めている。第五に、飽きの早さだ。『2016年当初は楽しかったが、次第にただ苛立つだけになった』『物珍しさはすぐ消える』という声がある。
検証1 — 操作性への批判は妥当か
『操作性が理不尽』という批判を、私はそのまま受け取らない。Komugiのレビューが指摘した通り、この作品は掴むという動詞ひとつで押す・引く・登る・投げる・落とすの全部を書いている。動詞を減らした分、入力の精度を毎回わずかにぶらすことが難度の置き場所になっている。これは欠陥ではなく設計そのものだ。
ただし、Komugiが引用した helpful 128票のレビューは『途中から楽しさが苛立ちに変わった』と書いていた。私が読んだ低評価にも同じ転換点がある。押す・引くのような大まかな操作では事故が笑いになるが、垂直に登る・狭い隙間を通すといった精密さを要求する場面では、同じ不確実性が『理不尽』に変わる。難度のばらつきは動詞の側ではなく、場面の側にあるという意味だ。
似た不確実性を扱う作品でも、扱い方は分かれる。物理シミュレーションを難度そのものに据えた Getting Over It with Bennett Foddy は、精密操作の失敗を罰として設計に組み込んでいる。対して Human Fall Flat は罰ではなく笑いを狙って同じ不確実性を使っている。批判の多くは、後者を前者の基準で採点した結果だと私は読む。
検証2 — ソロの退屈さ・カメラ酔い・Linux版の扱いをどう見るか
一人プレイの退屈さについては、Komugiのレビュー自身がすでに認めている。所有感を手放す代わりに共有できる事故を受け取る作品だ、という結論だ。ソロで盤面と向き合う手応えを求める人には、この作品は最初から向いていない。低評価はその事実を『退屈』という言葉で言い直しているだけだと私は思う。
カメラの酔いについては、私は擁護しない。カメラがアバターの動きに直結する設計自体は意図的な演出だとしても、無効化オプションが2016年の発売から今日まで用意されていないのは別の話だ。物理挙動を魅せる設計と、それを見続けられない体質の人への配慮は両立できたはずで、ここはKomugiのレビューが踏み込まなかった実用面の盲点だと思う。
複数人で足場を越えようとする場面(Steam ストア掲載スクリーンショット)
Linux版の打ち切りは、票数こそ最大だが、これはパズル設計の評価とは別の話だ。信頼を裏切られたという苦情自体は正当だが、盤面や操作の良し悪しを測る物差しではない。飽きの早さについても同様で、複数のレビューが挙げる『次第に苛立つだけになった』という感想は、繰り返しプレイした個人の体験であり、初見の設計評価に直接は当てはまらないと私は考える。
私が同意する点
私が最も強く同意するのは、一人プレイの手応えの薄さだ。ここはKomugiのレビューが設計論として先に指摘していた点と、低評価が生活の言葉で言った『一人だと苦行』が、同じ事実の裏表になっている。
カメラ酔いへの対策が無いことにも同意する。物理を魅せる演出としてのカメラ揺れと、長時間見続けられない体質への配慮は両立できたはずで、10年近く据え置かれているのはKomugiのレビューが踏み込まなかった実用面の盲点だと思う。
私が反論する点
『操作性がただ理不尽』という一般化には反論したい。押す・引く・投げるといった大まかな操作で起きる事故は、この作品が意図して笑いに変えている部分だ。難度が偏っているのは事実だが、操作系そのものを『失敗作』と呼ぶのは、罰として設計されたわけではない不確実性を、罰の基準で採点していることになる。
Linux版打ち切りへの苦情を、そのままこの作品の設計評価に混ぜ込むのにも同意しない。開発元の対応への不満は正当だが、盤面・操作・難度という、この連載が扱う物差しの外にある話だ。
参照したレビュー群
本記事は 2026-09-10 時点での Steam ストアページおよびコミュニティのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文は直接引用せず、典型的な主張を再構成している。
・Steam: Human Fall Flat(圧倒的に好評 / 95% positive、30,829件、2026-09-10 snapshot)
・helpful(Most Helpful, All Time)順の低評価上位20件を Steam appreviews API 経由で読了。
・批評スコアはKomugiのレビュー(2026-08-27)が引用した Metacritic の数値(批評家22本で70点・ユーザースコア7.2/359件)を参照した。
結論
だから購買判断はこうなる。一人で盤面と向き合う手応えや、精密な操作系を求める人には勧めない。低評価が言い当てている弱点そのものだ。カメラ酔いに弱い人にも、現状は勧めにくい。
一方で、友人や家族と画面を共有し、事故そのものを笑いたい人には、今でも十分勧められる。押す・引く・投げるの大まかな操作で起きる事故は、この作品がいちばん得意とする瞬間だ。
KomugiはHuman Fall Flatに設計の到達点として7.0点を付けた。私はその点数を否定しない。ただ購入の判断としては違う言葉で締めたい――動詞は上手く削られている。だが、それが機能するのは一人で挑む盤面としてではなく、誰かと笑うための舞台としてだ。一人用として期待するなら、他を探したほうがいい。
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Human Fall Flat
ぐにゃぐにゃの体を持つ Bob を操り、浮かぶ夢のような建物を掴んで登り、押して運んで抜けていく物理パズル。腕は左右それぞれ独立に動き、正解の手順は一つに決まっていない。最大8人のオンライン協力に対応した、リトアニアの No Brakes Games による一作。
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