REVIEW · 2016-07-22
Human Fall Flat
賛の上位は要望欄、否の上位は Linux——95%(30,811件)は、このゲームのパズルを採点していない
第一印象
まず数字を置いておく。Steam のストアページは、30,811件のうち95%が好評、評価ラベルは「圧倒的に好評」と表示している。直近30日でも951件が投稿され、その93%が好評だ。2016年の作品が、10年後にこの投稿量を保っている。
ところが helpful 順の positive 上位10本を開くと、拍子抜けする。10本のうち7本が、ほとんど同じことしか書いていないのだ。「レベルエディタが欲しい」「Steam ワークショップに対応してほしい」。投稿日は2017年10月から2018年9月に固まっている。
否定側の上位10本も一色だった。10本のうち6本が、Linux 版のサポート打ち切りについて書いている。パズルの話ではない。ゲームの中身の話ですらない。
つまり上位20本を通して、この作品のパズルを採点している文はごくわずかしかない。では95%という数字は、何に付いた票なのか。今回はそこを軸に、このレビュー群を読む。
Human Fall Flat(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 1枚目)
メカニクスの言語化
できることは少ない。歩く、跳ぶ、そして左右の腕をそれぞれ別に伸ばして掴む。腕は視点の向きに引きずられるので、カメラを回すこと自体が力になる。日本語の高評価レビューにも「カメラ操作で力を生み出す独特な機構」という説明があった。
賛の側がこの手触りに与える語は、hilarious、funny、physics に集中する。否の側は imprecise、floppy、そして「物理が味方ではなく相手になる」という言い方をする。helpful 128票の否定レビュー(2017年11月)は、楽しかったものが途中から苛立ちに変わったと書いている。
面白いのは、両者が同じ設計を指していることだ。掴むという動詞ひとつで、押す・引く・登る・投げる・落とすが全部書ける。動詞は徹底的に減らされている。動詞の少なさが豊かさを生むとき で扱った減算そのものだ。
ただし減らされたのは動詞の数であって、入力の精度ではない。倉庫番なら1マスは1マスだが、ここでは同じ「掴む」が毎回わずかに違う結果になる。この作品の難しさは、盤面ではなく身体の側に置かれている。
Human Fall Flat(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 3枚目)
減らさなかったもの——解の広さ
ストアの説明文は、パズルには複数の解があると明言している。レビュー群はそれを裏づけている。同じ場所を、賛のレビュアーたちはそれぞれ違うやり方で越えているのだ。
ここに、レビューがパズルを語らない理由があると私は考える。想定解が一つの盤面なら「私はこう解いた」が言える。解が広い盤面では、それが言いにくい。自分の通り道が正解だったのか、ただの偶然だったのかを、自分でも判定できないからだ。
だから語れるのは解法ではなく、出来事になる。日本語の高評価レビューには「労災的な事故シーンで笑える」という一文があった。レビュー欄が事故報告で埋まるのは、書き手の怠慢ではない。設計の帰結である。
Poly Bridge のレビュー群でも似た現象を読んだ。物理を扱う作品では、プレイヤーは自分の解を所有しにくい。二人で解くという文法 で書いた協力パズルの構図とも、ここで重なってくる。
Human Fall Flat(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 5枚目)
上位に凍りついた要望
上位の賛が繰り返し求めていたワークショップ対応は、その後実装されている。2019年4月には対応が報じられ、開発元は手本になるレベルを2本公開したと伝えられている。いまストアページには、5,000本を超えるコミュニティ製レベルがあると書かれている。
最大8人のオンライン協力も、発売時にはなかった。追加されたのは2017年10月だ。つまりこの作品は、途中で別の遊びになっている。それでもレビュー欄の一番上には、2017年と2018年の投稿が並び続ける。helpful 票は、古い投稿ほど貯まりやすいからだ。
集計欄は一つしかない。しかしそこに積まれた票は、少なくとも三つの別の作品に投じられている。2016年の一人用、2017年以降の8人用、2019年以降のワークショップ入りだ。
否定側も同じ構造だった。Linux 版の打ち切りは、2018年10月29日にストア掲示板で開発側が認めている。設計の評価ではない話が、8年ちかく上位に居座り続けているわけだ。レビュー欄は作品の現在を映す鏡ではなく、堆積物だと考えたほうがいい。Mini Metro では集計に「賛否混在」の箱がないことを書いたが、ここで見えているのは、その時間版である。
Human Fall Flat(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 9枚目)
参照したレビュー群
本記事は 2026-08-27 時点での Steam ストアページおよび Steam コミュニティのユーザーレビュー群を読んで書いた。
・Steam: Human Fall Flat(評価ラベル「圧倒的に好評」、30,811件中 95% が好評。直近30日は951件中 93%)
・SteamDB(全言語 約226,000件・93.5% が好評)、Metacritic(PC 版 批評家 70 / 22本、ユーザースコア 7.2 / 359件)
・helpful 順 positive 上位10件、negative 上位10件、新着順8件、日本語の高評価10件を読了。あわせて Linux サポートに関するストア掲示板のスレッドを読んだ。
・作品の素性(開発元・追加された機能・販売本数・続編の告知)は Wikipedia の記事 と、ワークショップ対応を報じた 2019年4月の Destructoid の記事 で裏取りした。
・本文中の画像は Steam ストアページに掲載されているスクリーンショットである。当セッションからは画像CDNに直接到達できず、目視での内容確認ができなかったため、キャプションは掲載順のみを示す汎用表記にとどめた。
結論
Metacritic の PC 版は批評家22本で70点、ユーザースコアは359件で7.2 だ。Steam の95%とは、ずいぶん離れている。批評家はこれをパズルとして採点し、Steam の投票者は「誰と遊んだか」を採点した。そう読むと、この差は矛盾ではない。
私は設計の観点から7.0を付ける。動詞をひとつに絞った判断は正しい。ただ、解を広く残したまま入力の精度を詰めなかったことで、この作品は「解けた」という所有感を手放している。それは欠陥ではなく、交換だ。所有感を渡す代わりに、共有できる事故を受け取っている。
向くのは、誰かと同じ画面を見ながら失敗を笑いたい人だ。向かないのは、一人で盤面と向き合う時間を買いたい人である。helpful 上位の表示プレイ時間は7時間から51時間まで散らばるが、一人用として見たときの不満は「単調」と「短い」に集中していた。
読み終えて残ったのは、この作品への評価ではなく、集計そのものへの疑いだった。10年動き続けたゲームにも、票は一度しか投じられない。操作系がパズルの難しさを決めるとき で扱った論点は、ここでは時間の側に折り返してくる。
Human Fall Flat(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 14枚目)
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