COUNTER-REVIEW · 2026-09-17

Thomas Was Alone への反論 — Steam低評価から読み直す

Komugi のレビューでは語られなかったこと

はじめに

Komugi のレビューは『Thomas Was Alone』に7.2点をつけた。Mike Bithell の Bithell Games が2012年に発売した、能力の異なる四角形を切り替えながら足場を作っていく2Dパズルプラットフォーマーだ。10点中7.2という採点は甘くない。彼女自身、否定側の核心——動詞を体ごとに分配しても互いに干渉しないので選ぶ余地が生まれない、という指摘にすでに触れている。それでも私は、Steamの低評価を自分の目で読みに行った。7.2という妥協点に、低評価側は納得するのか。Thomas Was Alone のキーアートThomas Was Alone(Steam ストア公式素材)

Steamのレビューは9,391件、うち8,798件が肯定で93.7%が「非常に好評」だ(2026-09-17時点)。否定は593件で全体の6.3%にすぎない。ただし比率の小ささは、主張の弱さを意味しない。上位のnegativeレビューを読むと、同じ不満が繰り返し現れる。

Komugiの結論は、動詞を体ごとに分配するという設計選択そのものは悪くない、というものだった。私の関心は少し違う。低評価が挙げる不満のうち、どれが設計の必然で、どれが単なる作りの粗さなのか。同意できる点と、できない点を分けて書く。

低評価レビューの主張

helpful順・最新順・低評価専用ページを合わせて読むと、主張はおおむね5つに集約される。

第一に、反復による作業感だ。「同じ解法を延々と繰り返させられる」「終盤は手順の暗記になる」という声が多い。第二に、操作の粗さだ。「ジャンプの反応が重い」「複数キャラを同時に動かす場面で入力がもたつく」という指摘が目立つ。Thomas Was Alone のゲーム画面。複数の四角形が足場を作る能力の異なる四角形を組み合わせて進む場面(Steam ストア掲載スクリーンショット)

第三に、語りの押しつけがましさだ。「ナレーションが賢しらに聞こえる」「答えを先回りして言われるので、考える前に結論が来る」という不満がある。第四に、技術面への不満だ。実績が正しく解除されない、効果音や音楽が途切れるといった報告が散見される。10年以上前のタイトルゆえの保守放棄が疑われる。

第五に、短さと値段の見合わなさだ。クリアまで2〜4時間という長さに対し、定価では割高だと感じる、という声がある。セールでの購入や、10年ぶりの再訪として語るレビューが多く、いま新品の体験として薦める言葉は少ない。

検証1 — 反復と操作性への批判は妥当か

反復についての批判を、私はそのまま支持する。本作は動詞を1体につき1つずつ配るが、その動詞同士がほとんど干渉しない。ある体は決まった段差のためだけに呼ばれ、それ以外の場面では列に並んでいるだけになる。Trine 2: Complete Storyの三人組にも近い指摘があった。手札が増えても、選択の幅は増えていない。

操作の粗さについても、多くは的を射ている。物理演算を伴うジャンプは、性質として着地の精度がぶれる。LIMBOINSIDEの精密な足場も難しいが、あちらは失敗が即座に画面に劇的な結果として返り、精密さそのものが緊張を作る設計になっている。本作の不安定な着地は、緊張ではなくただの摩擦として残る。批判は的確だ。

実績が解除されない、音声が途切れるといった技術的な不満には、擁護のしようがない。設計の話ではなく保守の話だからだ。2012年のタイトルを、開発元が今も積極的に手当てしているとは考えにくい。低評価側の指摘は、ここでは単純に正しい。

検証2 — 語りの押しつけがましさと価格をどう見るか

語りについての「賢しらだ」という感想は、半分は好みの問題だと思う。ナレーターが担っているのは謎解きのヒントではなく、いま誰がどう感じているかという解釈だ。Brothers - A Tale of Two Sonsのように台詞を一切使わず距離を保つ作品と比べれば、本作の語り手はたしかに近い。だが近いことと、答えを先回りしていることは別だ。語りが説明するのはパズルの解法ではなく、四角形の内心である。Thomas Was Alone のゲーム画面。四角形のキャラクターが並ぶ場面ナレーションが各キャラクターの内心を語る場面(Steam ストア掲載スクリーンショット)

一方で、序盤の数面については「説明が過剰だ」という指摘に一理ある。プレイヤーがまだ操作を覚えている段階で、ナレーションが感情の意味づけまで急いで済ませてしまう場面がある。ここは低評価側に部分的に同意する。

価格については、時間単価で見れば妥当な範囲だ。定価9.99ドルに対し、クリアまでの目安は2〜4時間(2026-09-17時点のSteam表記)。1時間あたり2.5〜5ドルは、同規模のインディーパズルとして特別高くはない。「短い」という感想自体は事実だが、「値段に見合わない」という評価まで進めるのは飛躍だと思う。

私が同意する点

私が最も強く同意するのは、反復による作業感と、操作の粗さだ。動詞を体ごとに分配したのに、その動詞が互いに干渉しないという設計は、Komugiが指摘した弱点そのものであり、低評価側が繰り返し名指しした弱点でもある。物理演算のぶれが緊張ではなく摩擦として残る、という指摘も同じくらい正確だ。ここは世評と専門的な指摘が同じ場所を向いている、珍しいケースだ。

実績の未解除や音声の乱れといった技術的な不満にも同意する。10年以上手当てされていない痕跡は、購入判断に関わる情報だ。Komugiのレビューはこの点にほとんど触れていない。ここは彼女の盲点だったと思う。

私が反論する点

一方で、語りが「賢しらで押しつけがましい」という評価には同意しない。ナレーションが担っているのは解法の説明ではなく、四角形たちの内心の翻訳だ。Puzzlebyrinthの語彙で言えば、観察の向き先をパズルから人物へずらす仕掛けであり、パズルの難度を殺してはいない。

「値段に見合わない」という評価にも同意しない。プレイ時間の短さは事実だが、時間単価は同規模のインディーパズルとして妥当な範囲に収まる。短いことと、価格が不当であることは別の話だ。

参照したレビュー群

本記事は2026-09-17時点でのSteamストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。

Steam: Thomas Was Alone(Overall 93.7% positive、9,391件中8,798件が肯定、593件が否定)

・helpful順のnegativeレビュー上位、および低評価専用ページの上位を読了(いずれも英語)

Komugi によるレビュー(2026-09-10)を比較対象として参照

・画像はSteamの appdetails が返したスクリーンショットURL、およびストアページのheader画像をそのまま使用

結論

結局、私はこの低評価にどれだけ同意するか。反復による作業感、操作の粗さ、技術面の放置——この3つについては、低評価側に同意する。語りの押しつけがましさと、価格への不満については同意しない。5つの主張のうち、3つを支持し、2つを退ける、というのが私の位置だ。

だから購買判断はこう分かれる。パズルとしての手応え——選択の幅、組み合わせの妙——を求める人には勧めない。低評価が言い当てている弱点そのものだからだ。精密な操作を求めるプラットフォーマーとしても勧めにくい。

一方で、短い時間でまとまった物語を読みたい人、ナレーションに身を任せる体験を求める人には、いまでも勧められる。2〜4時間、9.99ドルという規模感は、その目的には十分見合っている。パズルではなく、語りを聴きに行く作品として選ぶなら、この評価は正しい。

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