REVIEW · 2012-11-12
Thomas Was Alone
1 体に動詞 1 つ、120 面——592 件の否定が指すのは、賛辞と同じ場所だ
第一印象
Steam のレビューは 9,391 件ある。うち 8,799 件が肯定で、93.7% が「非常に好評」だ(2026-09-10 時点)。2012 年の作品としては、いまも数字がほとんど動いていない。
ところが helpful 順に読むと、妙なことに気づく。肯定側が挙げる長所と、否定側が挙げる短所が、同じ三つを指しているのだ。短い。簡単。語りがいい。
肯定側はそれを「3 時間で気持ちよく終わる」と読む。否定側は「パズルとして 3 時間なにも起きない」と読む。事実の認識は一致していて、値踏みだけが割れている。
だから私の関心は、どちらが正しいかではない。ひとつの設計上の選択が、なぜ正反対の二通りに読めるのか、である。
メカニクスの言語化
両陣営が共通して使う言い方がある。「1 体にできることは 1 つだけ」だ。ストアページ自身も、能力の違う四角形を組み合わせて障害を越える、と説明している。
これは Puzzlebyrinth の語彙でいえば動詞の減算ではなく、動詞の分配である。Donut County は動詞を 1 つまで削ったが、本作は動詞を 1 つずつ別の体に持たせた。プレイヤーの手札は、体の数だけ増えていく。
手札が増えれば、理屈のうえでは組み合わせが爆発する。ところがレビュー群が繰り返すのは、増えた手札の使い道が毎回ほとんど一つに決まる、という感想だ。ある体は決まった段差のためだけに呼ばれ、それ以外の場面では列に並んでいるだけになる。
否定側の「パズルらしくない」という言い方は、動詞が足りないという不満ではない。分配された動詞が互いに干渉しないので、選ぶ余地が生まれないという不満だ。Trine 2: Complete Story の三人組にも、これとよく似た指摘があった。
物語の手触り
肯定側でいちばん多く出てくる語は、パズルの語ではない。語り(ナレーション)だ。「四角形に本気で情が移る」という言い方が、上位に何度も出てくる。
ストアページは、この語りを BAFTA 受賞と記している。声が担っているのは雰囲気づけだけではない。盤面の読解を、人物の読解にすり替える役だ。
Puzzlebyrinth の語彙でいえば、観察解像度の向き先を変えている。プレイヤーが細かく見るのは足場の配置ではなく、いま誰がどんな気分でいるかになる。
否定側の一部は、この語りに「賢いつもりの気配」を感じたと書く。Brothers - A Tale of Two Sons が台詞を捨てて保った距離と比べると、本作の語り手はずいぶん近い。近さを親密と読むか押しつけと読むかで、評価はそのまま裏返る。
難しさの手触り
レビューが挙げるクリア時間は、おおむね 2〜4 時間に集まる。難しさについては、肯定側も否定側もほぼ一致して「簡単」と書く。割れているのは、その簡単さの居心地だけだ。
否定側の詰まり方を集めると、難しさの質は三つに分けられる。手が動かない難しさ、理解が届かない難しさ、同じ手順を繰り返す面倒さ。本作について語られているのは三つめだけである。「面倒」「作業」「ハノイの塔を数十回」といった言い方がそれだ。
操作についての不満も一定数ある。動きが重い、物理が不安定、たまに跳ね方がおかしい。これらは難しさではなく、手触りの粗さとして書かれている。
専門メディアの評価も、じつは同じ場所を指している。Destructoid の Josh Tolentino は 2012 年に 9.0 を付けたうえで、パズルは単純で、増えた人数を毎回連れ回すのが退屈だと書き、面のスキップを提案した。プロと否定側の差は、指摘の中身ではなく重みの置き方にある。
近年のレビューは、この作品を現役の商品ではなく古典として扱う。昔デモで遊んだ、10 年ぶりに買った、セールで買えばいい。薦める理由が、体験そのものから来歴へ移りつつある。
参照したレビュー群
本記事は 2026-09-10 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。
・Steam: Thomas Was Alone(Overall 93.7% positive、9,391 件、「非常に好評」)
・helpful 順 positive 上位 10 件、negative 上位 10 件、recent 8 件を読了(いずれも英語)
・Destructoid: Thomas Was Alone レビュー(Josh Tolentino, 2012)
・画像は Steam の appdetails が返したスクリーンショット URL をそのまま使用
結論
Steam の 93.7% に対して、私は 7.2 を付ける。差は、見ている軸の違いから出ている。レビュー群が採点しているのは 3 時間の後味で、私が見ているのは 120 面ぶんのパズル設計だ。
動詞を体ごとに分けるという選択そのものは悪くない。ただし本作は、その分配から干渉や競合をほとんど取り出さなかった。組み合わせの数は増えるのに、選択の数が増えない。パズルとしての伸びしろは、そこで止まっている。
代わりに残ったものは、はっきりしている。1 体ずつ増える体を、そのまま 1 人ずつ増える登場人物として読ませる仕掛けだ。ここは今でもよくできている。四角形に情が移るという肯定側の報告は、誇張ではないと思う。
向く人と向かない人も、きれいに分かれる。歯ごたえを求めて開けば、否定側の言葉がそのまま自分の言葉になる。語り手が物語を運ぶさまを見に来たなら、3 時間は短く感じるだろう。設計の射程がそこまで、というだけの話である。
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