REVIEW · 2013-06-06
Trine 2: Complete Story
箱を積んで飛び越えれば、たいていの仕掛けは終わる——94%(5,712件)の内側で、難しさは盤面からプレイヤーの自制へ移っている
第一印象
私が読んだのは Steam ストアの Trine 2: Complete Story のレビュー欄である。ストア表示は 5,712 件のうち 94% が好評で、ラベルは「非常に好評」。全言語で集計し直すと 22,018 件中 20,972 件が好評となり、ラベルは一段上がって「圧倒的に好評」になる(いずれも 2026-09-01 時点)。数字の上では、争いのない一本に見える。
ところが helpful 順の肯定側上位10件を並べると、仕掛けの話がほとんど出てこない。出てくるのは「水彩画のような空」「手描きの細部」「背景を見るために手を止めた」といった絵の話だ。技術力ではなく画づくりを褒める票が続き、解く手応えに触れたものは数えるほどしかない。10本のうち、具体的な仕掛けを名指しした票はひとつも無かった。
対して否定側の上位10件には、盤面の規則を名指しした票がまとまっている。しかもその名指しは、ほぼ同じ一点を指している。魔法使いで壊せる、という指摘だ。賛が絵の話をして黙る場所で、否だけが規則を語っている。全体は 94% で落ち着いているのに、この作品の設計を具体的に語っているのは少数派のほうだ。この記事はその一点を追いかける。
Steam ストアページ掲載のスクリーンショット(1枚目)
メカニクスの言語化
動詞を数えると、この作品は多いほうだ。騎士は剣で殴り盾で受け、盗賊は矢を射て鉤縄で引き寄せ、魔法使いは箱と板を出して物を持ち上げる。3人はいつでも切り替えられ、能力は同じ盤面の上で重なっていく。開発元の説明も、この組み合わせが各ステージの踏破に必要だと書いている。動詞を減らして一つの意味を濃くするのではなく、足して幅を出す方向の設計である。
レビュー群が繰り返す言い方は「解き方が何通りもある」だ。肯定側の上位票にも、難易度設定と複数の解法が再挑戦の理由になる、切り替えが自由だから発想が出る、といった書き方が並ぶ。ここまでは開発元の説明とレビュアーの実感がきれいに一致していて、争点らしいものは見あたらない。幅は宣伝どおりに存在している。
ずれが出るのは日本語プールだ。上位票の一本は、解法は能力の組み合わせで変わるはずなのに実際には一人の能力に頼りがちだと書き、別の一本は、一人のキャラクターでほとんどの仕掛けが解けると書く。組み合わせを前提にした盤面に対して、プレイヤーは組み合わせなかったという報告である。設計が用意した幅は、遊ばれる段階で一本に潰れていた。
Steam ストアページ掲載のスクリーンショット(2枚目)
難しさの手触り
否定側の上位票を並べると、同じ主張が三本ある。魔法使いの能力が難しさを壊す。戦略的に跳べば仕掛けを飛ばせる。魔法使いで抜け道が作れる。やることは単純で、箱を二つ出して積み、その上に乗るだけだ。それで、越え方を考えるはずだった段差が終わる。10本のうち3本が、この同じ二手を指している。
重要なのは、これがバグではないことだ。箱は出せる。積める。乗れる。盤面はその手順をどこでも禁じていない。つまり否定側が「壊れている」と呼んでいるのは規則の外側の出来事ではなく、規則がそこに線を引かなかったという事実そのものである。抜け道は仕様の内側にあり、しかも最初から全員に公開されている。
すると難しさの置き場所が動く。盤面が解けた解けていないを判定しなくなるので、この仕掛けが難しいかどうかは、プレイヤーが箱を積まないでいられるかどうかで決まってしまう。難しさが盤面からプレイヤーの自制へ移った、と言い換えてもいい。採点する側がいなくなった試験に近い形である。
日本語プールがその移動を裏づける。上位票の一本は、一人用のハードコアならごり押しを使わない純粋なパズルアクションになると書き、別の一本は、魔法使いは技を覚えるほど強くなって簡単になるので縛りプレイで深さが出ると書く。プレイヤーが自分で規則を足し、盤面が引かなかった線を引き直している。動詞の少なさが豊かさを生むときで追った減算の、ちょうど裏側にあたる光景だ。
Steam ストアページ掲載のスクリーンショット(3枚目)
学習曲線の設計
では、その抜け道はいつ手に入るのか。この作品には経験値と技能樹があり、能力は進むほど増えていく。日本語プールの上位票が書くとおり、魔法使いは技を覚えるほど強くなる。抜け道は最初から盤面の上に置かれているのではなく、進行に合わせて少しずつ手渡されるものだ。壊す道具の配布元は、壊される盤面自身である。
学習曲線としては珍しい形をしている。ふつうは、プレイヤーが強くなる速度より盤面が難しくなる速度を少しだけ速く保って、手応えを維持する。ここでは、後から配られた道具が、過去の仕掛けの解き方まで書き換えてしまう。学習曲線の刻み方で見た垂直の壁とは逆に、壁のほうが後から低くなる。
ただし配られた道具が無駄なわけではない。日本語プールの別の票は、拡張のステージでは魔法使いの技能を伸ばさないと進みづらいと書いている。同じ能力が、序盤では仕掛けを溶かし、終盤では前提になる。難易度設定が最初から用意されているのも、たぶん同じ事情だ。盤面が解を一つに絞れない以上、難しさはヒント機能の設計と同じく、プレイヤー側の設定項目として外に出るしかない。
Steam ストアページ掲載のスクリーンショット(4枚目)
系譜と位置づけ
物理演算を土台にして解法を一つに絞らない設計は、珍しいものではない。World of Gooは積み方を採点しないし、Mosa Linaは道具の組み合わせが想定解を壊すこと自体を主題に据えている。分かれ目は、壊れることを設計として引き受けるかどうかにある。
Trine 2 の引き受け方は、レビュー群から見るかぎり中間にある。壊せる自由は残しつつ、経験値と難易度設定でその自由の量をプレイヤーに調整させる。だから賛は自由と呼び、否は破綻と呼ぶ。ふたつは別の現象ではなく、同じ一つの不在を別の名前で呼んでいるにすぎない。どちらの票も、見ているものの記述としては正確だ。
協力プレイになると、この不在の意味が変わる。肯定側の上位10件のうち3本、日本語の上位10件では5本が協力を推す理由に挙げているのに対し、否定側の最上位は逆に、協力だと互いに妨害し合うと書く。Human: Fall Flat と同じで、物理の不安定さは一人だと欠点になり、二人だと笑いになる。
なお 2026年1月に付いた否定票のうち三本は、設計とは関係のない話だ。ランチャー連携への不満で、公式の告知にある 2025年12月30日の更新に対応している。直近30日のレビューにこの話は出てこない。集計は設計だけを採点しているわけではない、という当たり前の注意書きとしてだけ置いておく。
Steam ストアページ掲載のスクリーンショット(5枚目)
参照したレビュー群
本記事は 2026-09-01 時点の Steam ストアページのユーザーレビュー群と、公式の更新告知・集計データ・批評媒体を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、繰り返し出てくる主張を再構成している。
・Steam: Trine 2: Complete Story(ストア表示 5,712 件中 94% が好評・「非常に好評」/全言語では 22,018 件中 20,972 件が好評=95%・「圧倒的に好評」/直近30日は 22 件・95%/定価 19.99 ドル)
・helpful 順の positive 上位10件、negative 上位10件、mostrecent 上位10件、日本語の上位10件を読了
・公式の更新告知一覧(2025-12-30 に Steam と Epic Games Store のアカウント連携を追加/2025-06-05 に Trine 6: Together in Time を 2026-09-17 発売として発表)
・Metacritic: Trine 2(PC 84点・批評55本/ユーザー評点 8.3・821件、PS3 85点・批評15本、Xbox 360 85点・批評20本)、および Wikipedia(初出 2011-12-07、各機種の展開、2014年10月時点でシリーズ累計700万本超)
・注記: 本記事の画像は Steam 公式 API が返したスクリーンショット URL をそのまま使用し、実在は1本ずつ確認した。ただし今回の実行環境から画像 CDN へ直接到達できず、画像を開いて中身を目視することができなかった。そのためキャプションは「ストアページ掲載の何枚目か」に留め、写っている内容の説明は書いていない。
結論
私は 7.2 点を付ける。Steam の 94%(全言語では 95%)との差は、絵と協力プレイを採点に入れるかどうかでほぼ説明がつく。画づくりは 2011年の作品として今も強く、肯定側の上位票がそこに集まるのは当然だと思う。私が引いたのは、盤面が自分の出した問いを最後まで守らなかった分である。
この作品の批評的な面白さは、壊れていることではなく、壊せることが仕様の内側に置かれている点にある。動詞を足して自由を広げると、組み合わせ爆発は盤面ではなく解の側で起きる。想定解が一意でなくなり、盤面は採点をやめる。残るのは、プレイヤーが自分に課す規則だけだ。自由と採点は、同時には成り立たない。
レビュー欄に並ぶ総プレイ時間は6時間から200時間超まで散らばっているが、10〜20時間台の票がいちばん多い。短くはない。その時間の大半を、絵を見て、友人と押し合って過ごしたと書く人がいる一方で、箱を積まないと決めて過ごした人もいる。難しさが外に置かれた盤面では、遊びの中身は人によってここまで変わる。
シリーズはまだ動いていて、公式告知によれば Trine 6 が 2026年9月17日に控えている。15年前の一本が今も「非常に好評」を保っている理由の半分は絵で、もう半分は、規則を足す余地を残したことだろう。それを設計の寛さと呼ぶか、線を引かなかった怠慢と呼ぶか。5,712 件の符号は、そこで分かれている。
Steam ストアページ掲載のスクリーンショット(6枚目)
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