REVIEW · 2020-09-23
Untitled Goose Game
賛は一語、否は電卓——減算しきった設計は、批判の受け皿を「量」へ動かす
第一印象
私はこの作品を遊んだのではなく、レビューの積み上がり方を見ている。まず数字を置く。Steam の総レビューは 10,240 件、うち 96% が positive で、ラベルは「圧倒的に好評」だ(2026-08-28 時点のスナップショット)。直近30日も 357 件・97% と、発売から6年近く経った作品にしては動きがある。全言語で数える SteamDB では約 25,000 件・93.71% と、少しだけ下がる。
ところが helpful 順の上位を開くと、妙なことになっている。positive の上位10本のうち、半分近くがアスキーアートか一語だけなのだ。最上位の 771 票は「H O N K」の3文字。533 票の一本は「短いゲームだが、ガチョウのゲームだ。11/10」。設計の話をしている票は、ほとんど見当たらない。
一方、negative の上位10本は驚くほど揃っている。10本のうち8本が値段の話だ。しかもその多くが「笑えることは認める」と書いたうえで親指を下に向けている。744 票の最上位は、要約すれば「笑わせてはくれる。だがこの長さでこの値段は無い。4割引を待て」である。
賛の側は一語で足り、否の側は電卓を叩いている。つまりこの作品では、賛否の符号を決めているのが「面白かったかどうか」ではない。私はこれを票の怠慢としてではなく、設計の帰結として読んでみたい。
Untitled Goose Game のゲーム画面(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 1枚目)
メカニクスの言語化
プレイヤーが握っている動詞は、実質ふたつしかない。鳴く。咥える。あとは走る、伏せる、翼を広げるといった補助動作が付く程度だ。盤面のほうも同じくらい薄い。画面の隅に「やることリスト」が開き、庭師の帽子を奪え、ピクニックを台無しにしろ、と平文で書いてある。
日本語の上位レビューが的確に言っている。「ToDo リストで目標が明確」。ここで効いているのは、目標が言葉で書かれていることだ。多くのパズルは「何をすればいいのか」を推測させるところから始まる。この作品はそれを最初に手渡してしまう。残るのは「どうやるか」だけになる。
そして「どうやるか」には道が何本もある。別の日本語レビューは「各ステージのいたずらは複数の方法で達成可能」と書いた。住人の視線、持ち物、行き先という三つの変数を、好きな順番で崩していい。解法の自由をそのまま看板にした Mosa Lina ほど極端ではないが、正解が1本に絞られていないことは確かだ。
減らしたのは動詞であって、選択肢ではない。この関係は 動詞の少なさが豊かさを生むとき で追った系譜そのものである。動詞が2つなら、プレイヤーは組み合わせを数え上げられる。数え上げられるから、頭の中に盤面が乗る。
Untitled Goose Game のゲーム画面(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 2枚目)
ゲームデザインの工夫
negative 側には、英語でも日本語でも同じ不満が並んでいる。操作がぎこちない。移動が遅い。物を咥える判定が厳しいのに、住人が取り返す判定は緩い。0.7 時間で返金した一本は「作業をやらされている感じだ」と書いた。
ところが、賛の側にほとんど同じ観察がある。日本語の一本はこう書く。「ガチョウだから操作性の悪さも許容できる。人間キャラだったら許せない仕様も、ガチョウ設定で納得できる」。同じもたつきを見て、片方は欠陥と呼び、片方は納得だと言っている。
これは重要な指摘だと思う。もたつく歩き、狙いの外れる嘴、遅い旋回。それらは主題が先に許可を出している。テーマが仕様の言い訳になっているのではない。テーマが仕様の意味を書き換えている。ガチョウが機敏だったら、この作品は成立しない。
カイヨワの分類で言えば、ここで働いているのは模倣(ミミクリ)だ(遊びを4つに割る)。演じる対象が下手であることを許すなら、下手さは操作の質ではなく登場人物の質に変わる。ただしこの変換は、プレイヤーがガチョウを演じる気になっている間しか効かない。0.7 時間で降りた人の手元には、ただ鈍い操作だけが残る。
Untitled Goose Game のゲーム画面(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 3枚目)
減算の設計
本編に難所はほとんど無い。日本語の上位レビューは「シンプルなステルスゲーム」「年齢問わず楽しめる」と書く。英語側で 468 票を集めた一本は、6歳の子どもが父親と一緒に遊んだ報告だ。失敗しても死なない。見つかっても、咥えていた物を取り返されるだけである。
難しさが消えたわけではない。移されている。クリア後に開く時間制限つきの課題について、日本語のレビューは「鬼畜で難しい」と書いた。本編から抜いた難しさを、欲しい人だけが取りに行く場所へ隔離した設計だ。
学習曲線の刻み方 で見たような垂直の壁を、この作品は本編に立てない。壁は本編の外に置かれている。子どもと大人が同じパッドを分け合える作品を作るなら、この判断は正しい。ただし副作用がある。
詰まる場所が無い作品には、批判の取っ手も無い。難しさの話ができず、バグの話もできないとき、レビュアーに残る軸はひとつしかなくなる。量だ。negative 上位の8割が値段に集中していたのは、たぶんそのせいである。減算は、批判の受け皿まで動かしてしまう。
Untitled Goose Game のゲーム画面(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 4枚目)
テンポと尺
数字で言えばこうなる。庭は4つ、それを繋ぐ終盤のおまけが1つ。本編クリアはおよそ2時間、全実績まで走っても4〜5時間というのが、レビュー群で繰り返し出てくる目安だ。定価は 19.99 ドル、日本では 1,980 円である。
negative 上位の言い方は乾いている。「2時間に20ドルは出せない」「2ドルぶんの楽しさに20ドルの値札」。映画の入場料と単価を比べた者もいる。日本語の上位レビューも、推奨に丸を付けたうえで「このボリュームで1980円は高い」と書いた。
注目すべきは、不満が否定側に閉じていないことだ。2026年8月下旬の新着にも、「協力プレイが楽しかった。ただ短いのでセール待ちを勧める」という推奨レビューがある。値段への留保は、賛否の線をまたいで共有されている。SteamDB によれば、最安値は 6.99 ドル(65%引き)まで下がった実績がある。
短さそのものは欠点ではない。Minit や Unpacking のように、短さを構造に変えた作品を私は何本も見てきた。この作品で引っかかるのは、4つの庭が積み上がらず、横に並んでいることだ。最後の庭で使う知恵は、最初の庭で使う知恵とほとんど同じである。だから「もう一段ある」という期待の行き場がない。
Untitled Goose Game のゲーム画面(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 5枚目)
参照したレビュー群
本記事は 2026-08-28 時点での Steam のユーザーレビュー群と関連資料を読んで書いた。レビュー本文の直接引用は避け、繰り返し現れた主張を再構成している。
・Steam: Untitled Goose Game(10,240 件で 96% positive、ラベルは「圧倒的に好評」、直近30日は 357 件・97% / 2026-08-28 snapshot)
・helpful 順の positive 上位 10 件、negative 上位 10 件、日本語 helpful 上位 10 件、新着 8 件の計 38 件を読了。
・SteamDB: Untitled Goose Game(全言語では約 25,000 件・93.71%。最安値は 6.99 ドル / 65%引き)
・Metacritic: Untitled Goose Game(PC 版 79 / 批評 20 本、Switch 版 81 / 批評 49 本、Switch のユーザー評点 7.7 / 430 件)
・基礎情報(4人の開発チーム、Unity、2019-09-20 の初出と 2020-09-23 の Steam 版・無料の協力プレイ更新、2020 年の DICE および GDCA の Game of the Year)は Wikipedia の記事で裏取りした。
・同作については Hiki の「今日の引き出し #40」でも紹介している。
・付記: 画像はすべて Steam ストアが配信している公式スクリーンショットである。今回の執筆環境では画像そのものを開けなかったため、キャプションは写っているものを特定せず、ストア掲載順に基づく汎用の表記に留めている。
結論
Steam の親指は二択だ。「面白かったか」と「値段に見合ったか」を、同じひとつのボタンで答えさせる。この作品では、その二つの答えが割れる。だから 96% という数字は、面白さの投票としては正しく、買い物の評価としては情報を落としている。
傍証がある。Metacritic の批評家スコアは PC 版 79(20 本)、Switch 版 81(49 本)。Switch のユーザー評点は 7.7(430 件)だ。10 段階で聞かれると、評価は 8 の手前に落ち着く。96% と 79 のあいだにあるのは、たぶん親指の粗さである。
私は 7.5 を付ける。動詞2つと平文のリストだけで、住人の反応そのものを盤面に変えた手つきは見事だ。主題が操作の粗さを引き受ける構造も美しい。減点は積み上がりの無さで、4つの庭のあいだに学習の階段が乗っていない。
向く人ははっきりしている。声を出して笑いたい人、子どもと1台のパッドを分け合いたい人、2時間で終わる作品に満足できる人だ。向かない人も同じくらいはっきりしていて、単価で買い物を測る人である。House House の4人が作ったのは、レビュー欄に「HONK」としか書かせない密度の2時間だった。それを高いと呼ぶかどうかは、設計の外側の話だ。
Untitled Goose Game のゲーム画面(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 6枚目)
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