COUNTER-REVIEW · 2026-08-24

Firmament への反論 — Steam低評価から読み直す

Komugi の分析が、まだ着地していない場所

はじめに

Komugi はFirmamentのレビューで、賛否の温度差そのものを読み解いていた。声の大きい否定と、静かな肯定。その分析は的確で、彼女自身も6.5点という辛めの評価に落ち着いている。だから今回、私が読みに行ったのは『Komugiが見落とした称賛』ではない。もっと下世話な問いだ——今、このゲームを買っていいのか、である。

Steamでの総評は「やや好評」、2026年8月時点で1,630件中72%が好評だ(否定462件)。悪くない数字に見える。だがhelpful順に並べ替えると風景が変わることは、Komugiが既に指摘した通りだ。私はその否定側462件に絞り、彼女が『設計論』として処理した不満を、もう一度『買い物としてどうか』という軸で読み直した。Firmament のキーアートFirmament(Steam ストア公式素材)

低評価レビューの主張

Steamの低評価でまず目立つのは、パズルそのものへの不満だ。『Adjunct』という腕輪型の道具でクレーンや発電機のソケットを回すだけの作業が、複数のレビューで『退屈な設備パズル』と呼ばれている。解法は見た瞬間にわかるのに、実際にクレーンを動かす作業だけが延々と続く、という指摘が繰り返される。数種類あるはずの道具強化も『一度も組み合わせて使う場面がなかった』という声が目立ち、複雑さが増えていく実感がないという不満につながっている。

第二の主張は物語だ。暗号も記号体系も持たないこの作品は、読めるものがほぼ2冊の本だけで、しかも同じ2冊がマップの各所に置かれているだけだと複数のレビューが指摘する。ある否定レビューは『VRのテックデモに、後から物語を貼り付けただけ』と切り捨て、MystやRivenで培われた『世界そのものが謎を語る』という手触りが消えたことを、古参ファンほど強く惜しんでいる。

第三は技術的な問題と価格だ。発売から時間が経った今も、クレーンや氷、エレベーターが不意に動かなくなるという報告が続き、手すりに引っかかって落下する不具合も複数件で言及される。プレイ時間はおおむね5〜13時間、それに対し価格は約35ドル。『時間の割に高い』という不満は、バグの多さと合わさって説得力を増す。さらにこの作品はKickstarterで『VRファースト』を掲げて資金を集めた経緯があり、VR環境での動作不安定を報告するレビューは、単なる不満ではなく公約違反への抗議として書かれている。Firmament の realm のひとつ打ち捨てられたスチームパンクの realm(Steam スクリーンショット)

検証1 — 『退屈』という評価は妥当か

『退屈な設備パズル』という評は、デザインの系譜で見ると半分正しい。Firmamentの動詞は『差し込んで回す』の一つに極限まで削られている。The Witnessが『気づく』を動詞に据えたのとは逆に、Firmamentは気づきそのものを求めない。頭で解ける瞬間と、手で実行する時間がずれる——このずれこそが『退屈』という言葉の正体だと私は読む。

だが、これはFirmamentだけの罪ではない。歴史を遡れば、Rivenも配線と機構操作のパズルを大量に含み、当時から『力仕事』への不満はあった。違いは、Rivenがその力仕事の前後に観察と記録という別の動詞を挟んでいたことだ。Firmamentは観察の動詞を手放したまま、実行の動詞だけを残した。だから『退屈』は誇張ではなく、正確な症状の報告だと私は思う。

検証2 — 物語の薄さとVRの公約

物語の薄さについては、Komugiも『観察解像度を下げた設計の必然的な帰結』として認めている。私も同意する。ただ一点加えたい。物語が薄いこと自体は罪ではない。Gorogoaのように、テキストがほとんどなくても成立する作品はある。問題は、Firmamentが『Keeper』という称号や『Threshold』のような大文字語を配置しながら、その意味を最後まで説明しないことだ。語らないのではなく、語り損ねている印象が強い。

VRの公約については、これは設計の好み論争ではなく契約の話だと私は思う。Kickstarterで支援者が資金を出したのは『VRファーストの新作』への期待であり、発売後もVR環境の不具合報告が続いた。物理的に動かせるオブジェクトの少なさと、VRモードでの作り込みの粗さを指摘する声も外部レビューにある。設計の選択として擁護できる部分と、支援者への説明責任が果たされたかは、別の軸で評価すべきだと考える。

私が同意する点

私が低評価に同意するのは、価格とバグの組み合わせだ。5〜13時間のボリュームに35ドルは、バグが少なければ通る値付けだが、発売から時間が経った今も、クレーンや氷が固まるという報告が続く以上、今の状態でその値段を勧める気にはならない。開発元がバグ回避のためにセーブ復帰機能を用意したという事実自体が、問題の根深さを物語っている。

もう一つ同意するのは、Cyanらしさの喪失という指摘だ。Komugiが『書物と観察という看板を手放した』と書いた通り、暗号も記号体系も持たない本作は、Mystの系譜を追ってきた人ほど手触りの違いに戸惑うはずだ。これはKomugiの盲点ではなく彼女が既に踏み込んでいた場所だが、私はもう一段踏み込んで、これを『デザインの選択』ではなく『看板の撤去』と呼びたい。看板を下ろすなら、その理由を作品の中でもっと語るべきだった。

私が反論する点

一方で、『退屈な設備パズル』という酷評そのものには同意しない。単一の道具に絞る設計は、ピクセル探しのような理不尽さを排除する効果を実際に持っている。否定レビューの多くも、その景観と最初の数分の驚きだけは認めている。動詞が少ないことと、その動詞が浅いことは、本来別の批判であるはずなのに、低評価の多くがこの二つを一緒に叩いている。

『VRのテックデモに物語を貼り付けただけ』という評も、言い過ぎだと思う。VRファーストの設計判断が、メモを取らせない・手がかりを埋め込まないという選択に筋道をつけているのは事実で、これは事故ではなく意図された設計だ。狙いが外れたことと、狙いがなかったことは違う。私はFirmamentの狙いを、失敗した実験として扱いたい。失敗作として切り捨てるのは早すぎる。

参照した情報

本記事は2026年8月時点のSteamストアの総評データ(Steambase集計、1,630件中好評1,168・否定462、好評率72%)と、helpful順・最新順で読んだSteamの低評価レビュー群、およびPC Gamer(Dominic Tarason)によるレビューを基に書いた。個々のレビュー本文は要旨を集約して再構成しており、実在の一文をそのまま引用した箇所はない。

おわりに — 誰には合わない、誰には合う

総括する。Komugiは6.5点という辛めの評価に、設計論として着地した。私はその評価に近い場所に立つが、着地点は少し違う。私が同意するのは価格とバグ、そしてCyanらしさの喪失だ。私が反論するのは『退屈』『テックデモ』という切り捨て方であり、これらは狙いのある実験を、狙いのない失敗と混同している。

だから購買判断はこうなる。初めてこの手のパズルアドベンチャーに触れる人、瞑想的に景観を歩くこと自体に価値を感じる人には、今でも勧められる。逆に、RivenやObductionの『観察して統合する』快感を求める古参、そしてKickstarterでVR体験そのものに期待した支援者には、今のバグ報告を踏まえると、セールを待つか見送るのが賢明だ。Komugiのレビューより一歩実用的な結論を出すなら——これは『買うな』ではなく『今すぐでなくてよい』一本だ。Firmament の一場面Firmament の一場面(Steam スクリーンショット)

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