PAPER-DIGEST · 2026-08-26

Byers ら: プレイヤーの時間は、誰のために設計されているのか — Fukai が読む

HCI / 時間の設計 / 開発者20人へのインタビュー

一段落要約

あなたが今日ゲームに使った時間は、たいてい誰かが設計したものだ。今日読んだのは、その設計をしている当人たち20人に、直接聞いた研究である。HELLDIVERS 2『HELLDIVERS 2』(Arrowhead Game Studios)の Steam ストアページより。論文中で、過去のシーズン内容を後から遊べるようにしている例として名前が挙がる。

デイリークエスト、シーズン、セッションの長さ、D7 リテンション。ゲームの「時間」まわりの仕組みが、スタジオの中でどう決まっているのか。著者はそれを、開発者の口から聞き取って組み立てた。CHI 2026 の査読を通った論文で、Best Paper Honourable Mention を受けている。

一番効いた発見はこの一言だ。「私たちは数字から逆算している」。そして著者は最後に4つの指針を出す。そのうちの一つが「リテンションだけでなく、離脱と再訪のために設計せよ」。毎日パズルを出しているこのサイトには、直球で刺さる話だった。

この論文について

著者は Thomas Byers、Martin Gibbs、Bjorn Nansen の3人。全員メルボルン大学の工学・IT 学部に所属している。筆頭著者の Byers は同大の HCI(Human-Computer Interaction、人とコンピュータのやりとりを研究する分野)部門の博士課程で、時間・ペース配分・エンゲージメントがデジタルな仕組みの中でどう設計され、どう体験されるかを研究テーマにしている。

発表先は CHI '26(2026年4月13〜17日、バルセロナ)。査読を通った本会議論文であり、arXiv に置かれただけの preprint(査読前の原稿)ではない。全文はメルボルン大学の公開リポジトリから読める。

なぜ今日これを選んだか。このサイトは毎日パズルを出している。つまり私たちは「読者の時間を、毎日少しずつ予約している」側にいる。連続記録、日替わり、アーカイブ。どれも時間の設計だ。この論文は、その設計を裏から照らしてくれる。ここ数日は AI の論文が続いていたので、人間の作り手の話を選んだ、という理由もある。

何が分かっていて、何が分かっていなかったか

時間そのものは、これまでも研究されてきた。HCI は時間を「どう最適化するか」「どう予定に収めるか」の対象として扱ってきたし、ゲーム研究の側は、ゲームの中の時間を学術的に分類する枠組みをいくつも提案してきた。ここは既に地図がある。

抜けていたのは作り手の側だ。著者はこう書いている。開発者自身がこうした仕組みにどう向き合っているのかについての知見は、まだ限られている、と。プレイヤー側の体験や、外から見た機能の分類はある。しかし「スタジオの中で誰が何を根拠に、その日替わりや、そのシーズンの長さを決めたのか」は、あまり語られてこなかった。

もう一つ、隣に置かれている研究の流れがダークパターン(利用者を、本人に不利な選択へそっと誘導する設計)だ。Gray ら、Mathur ら、ゲーム分野では Zagal らの仕事がある。ただしこの枠組みは、どうしても「騙すために作られたもの」という見方に寄る。著者は、開発者の意図はもっと込み入っている、と考えた。そこを聞きに行った研究である。

やり方 — 20人に1時間ずつ聞く

方法は20本の半構造化インタビュー(聞く項目の骨組みは先に決めておき、話の流れに応じて深掘りする形式)だ。すべて Zoom で行われ、1本あたり平均で1時間ほど。手書きのメモと自動文字起こしを併用している。

声をかけたのは2025年3月から4月下旬。メール、LinkedIn Premium、ブログ、SNS、それに GDC や Gamescom といった業界イベントを使い、目的的・便宜的・雪だるま式(狙って選ぶ・声が届いた人に頼む・紹介をたどる)の三本立てで集めている。

参加者の内訳は、男性18人・女性2人。地域はヨーロッパ、アメリカ、カナダ、オーストラリア。業界歴は3年以上から45年以上まで幅がある。役職はクエストデザイナー、ナラティブディレクター、ゲームプレイのプログラマ、UX リード、スタジオの創業者など。AAA・インディー・モバイル・ライブサービスにまたがっており、多くが複数の種類のスタジオを経験している。全員が仮名で登場する。

分析は構成主義的グラウンデッド・セオリー(あらかじめ仮説を立てず、データの中から概念を立ち上げていく質的分析の手法。「データと理論は、研究者と参加者の関係の中で共に作られる」という立場を取る)。まず初期コーディングで発言を細かく切り分け、次に焦点的コーディングで似たものを束ね、15人目を過ぎたあたりからは手薄なスタジオ種別を狙って追加した。20人目で、束は3つのカテゴリに落ち着いた。研究倫理の承認はメルボルン大学から得ている(project ID: 27862)。

先に断っておくと、この論文に効果量や p 値は出てこない。質的研究なので、「どれくらい効くか」ではなく「どういう構造になっているか」を読む論文だ。

見えてきた三つのこと

1. 時間の設計は、ほとんど文書に残らない。参加者たちは、それを明文化されない直感的な仕事として語った。ある開発者は「書いた瞬間に古くなる」(Rasputin)と言う。大企業では別の事情も働く。倫理まわりの方針を文書にすると「法的な責任を生む」(Shin)からだ。

全体の長さ(スコープ)は、企画のかなり早い段階で決まる。物差しは前作だ。「前作が20時間だったと分かっている」(Shaxx)——だから今回はそれを超えたい、という具合に。外側からの圧力も効く。助成金の申請書は、作る前にプレイ時間の見積もりを書かせる(Eris)。

モバイルとライブサービスでは、「数分の行動」と「長期の定着」を両立させる設計が問われる。あるデザイナーはそれをこう呼んでいた。「私たちはこれを、丁寧にスターバックス・テストと呼んでいる……プレイヤーが数分で何をすれば前に進めるのか」(Calus)。AAA の狙いは別方向だ。「できるだけ長くディスクをトレイに入れっぱなしにさせたい」(Taniks)。そして誰もが、同じ有限の資源を取り合っている。「誰かの時間を欲しいなら、それは電話ボックスの中のナイフファイトだ」(Calus)。

倫理の見方は割れた。あるベテランははっきりこう言う。「もし何かあるとすれば、彼らはどうすればもっと時間と金を搾り取れるかという公式をこっそり回している。Free-to-Play の倫理は実質存在しない」(Zavala)。一方で、業界の言葉づかいだけが変わったという指摘もある。「中毒的なループ」という言い回しは居心地の悪さから消えたが、やっていることは変わっていない(Saladin)。

2. 道具が、時間を測れるものに変える。分析基盤はどのスタジオにも当たり前にあった。名前が挙がったのは Amplitude、Mixpanel、Unity Analytics、Datadog、Metabase。大手は Snowflake、Databricks、Amazon Redshift といったデータ倉庫に計測値をためる。Unity や Unreal には最初から機能が入っている(Shin)。A timeline showing metric names from seconds to months(図解)論文に並ぶ指標を、扱う時間の長さ順に並べ直したもの。秒から月まで、同じ「時間」という言葉が6桁ぶんの幅を持っている。企画の生死を分けるのは、多くの場合まん中あたりの日単位の指標だ。

測る先は驚くほど細かい。秒単位では倒すまでの時間(TTK)やリロード、リスポーン。導入部分では最初の入力までの時間やチュートリアルの離脱率。セッション単位では1回の長さ、1日あたりの回数、間隔、D1・D3・D7・D14・D28・D30・D60 のリテンション、DAU/WAU/MAU、離脱率。さらに進行と課金では、ミッションの所要時間、初回課金までの時間、広告を挟む間隔、ARPU といった指標が並ぶ。「想像できるものは、全部計測している」(Shin)。

ただし、道具があることと読めることは別だ。ある人はダッシュボードの落とし穴をこう指摘する。「ダッシュボードは……中央値や平均を使う……面白いことは中央値では起きない、分布の曲線で起きるんだ」(Zavala)。そして企画の最初の段階では、そもそもデータがない。Zavala が「聖なる仮定」と呼ぶものが土台になる。「彼らが何回遊ぶか、そして1回あたり何分遊ぶか。その中心的な仮定が、そこから先のすべての決定を動かす」。

3. 数字から逆算する設計が広がっている。著者はこれを「データ中心の時間設計」と名づけた。あるデザイナーの言葉が一番短い。「私たちは数字から逆算している」(Saint)。ライブサービス、モバイル、Free-to-Play では既に主流で、AAA も同じ論理を取り込みつつある。

企画を通す/止める判断すら、時間の指標に寄る。初期のリテンション、配信での伸び、Steam のウィッシュリスト数。ある Free-to-Play の AAA タイトルが中止になった理由を、参加者はこう説明した。「品質の問題ではなかった——リテンションのデータが足りなかっただけだ」(Crota)。もちろん全員が飲み込んでいるわけではない。「人間の判断をデータに外注してしまうことには、とても慎重でなければならない」(Skolas)。

その一方で、プレイヤー側に立ち直そうとする実践も多く語られた。ペナルティなしで休める構造(Taniks)、過去のシーズン内容を後からでも遊べるようにしている『HELLDIVERS 2』への評価(Cayde)、久しぶりに戻った人が今どこにいるか分かる案内(Mithrax)、そして『Diablo IV』の画面内時計。現実の時間とゲーム内の時間を同時に見られる工夫を、Saint は「最近見た中で最高のものの一つ」と評している。Diablo IV『Diablo IV』(Blizzard Entertainment)の Steam ストアページより。論文では、画面内に現実の時刻を出す UI が、時間感覚を失わせない工夫として挙げられている。

根っこにあるのは、長さと価値を切り離す感覚だ。「200時間かけて尻すぼみになるより、締まった10時間をやり切りたい」(Rasputin)。『Portal』や『A Short Hike』が、短くても完結した体験の例として引かれている。Eris の言葉も添えておく。「誰の時間であれ尊重するという信条を持ち続けること——特にプレイヤーの時間について——は、返ってくるし、気づかれる」。A Short Hike『A Short Hike』(adamgryu、2019年)の Steam ストアページより。論文中、短くまとまった体験の例として名前が挙がる。

作る側の使いどころ

著者は最後に、時間の設計を整理するための4つの指針を出している。要約すると、(1) プレイヤーの時間を、指標ではなく資源として扱う (2) 時間についての約束を明示する (3) リテンションだけでなく、離脱と再訪のために設計する (4) そのゲームが担う役割と、プレイヤー側の余力を認める——の4つだ。ここからは、これをパズルやゲームを作る側の具体的な手に落としてみる。

使いどころ1: 連続記録を「戻ってこない理由」にしない。指針(3)の直訳だ。著者は、指標は連続的な関与を好むが、プレイヤーの生活は連続していない、と書く。もし自分がデイリーパズルを作っているなら、1日抜けたら記録がゼロに戻る設計は考え直したい。過去問アーカイブ、記録の一時凍結、まとめて追いつける入口。どれも「久しぶりに開いても気まずくない」ための装置になる。

使いどころ2: かかる時間を最初に書く。指針(2)。セッションの長さ、ログインの頻度、イベントの期間、報酬がいつまで残るか——こうした前提は、パッチノートや宣伝文の中に埋もれがちだと著者は言う。もし自分がハイパーカジュアルのパズルを出すなら、遊び方の最初の画面に「1日1問、だいたい5分」と書く。それだけで、遊ぶ側は自分の予定に置ける。

使いどころ3: 指標が上がったとき、誰が得したかを問う。指針(1)。D7 が上がったこと自体は事実だが、それが「面白くなったから」なのか「やめにくくなったから」なのかは区別できない。Zavala の指摘どおり、中央値ではなく分布で見ること。もし自分が Sokoban 系のレベルを大量に配っているなら、平均クリア時間ではなく、極端に長い側の尾を見に行く。そこに詰まっている人がいる。

使いどころ4: 自分のゲームの役割を先に決める。指針(4)。すべてのゲームが「主食」になろうとすると、電話ボックスのナイフファイトに参加することになる。パズルサイトなら、一日の主役ではなく副菜であることを最初から引き受けたほうが、設計はきれいになる。1問の重さ、通知の頻度、シーズンの長さが、そこから素直に決まる。

使いどころ5: 「聖なる仮定」を書き出しておく。これは指針そのものではなく、私が実務に使えると思った部分だ。企画の最初に置いた「1日◯回、1回◯分」という仮定は、後のすべての決定を静かに支配する。だったら、それを明文化して壁に貼っておく。数字が出てきたときに、仮定のほうを更新できる。

分かっていないこと・限界

著者自身が認めている限界から。サンプルは役職やスタジオの種類では多様だが、地理的にはヨーロッパ、アメリカ、カナダ、オーストラリアに偏っており、アフリカや東南アジアといった地域の知見を取りこぼしている、と書かれている。女性の参加者が20人中2人しかいないことも明記されている。さらに、語られているのは開発者の見立てであって、プレイヤーから直接取ったデータではない。スタジオの種類ごとの掘り下げも今後の課題として挙がっている。

Fukai がここで指摘するのは3点だ。第一に、指針は仮説であって、検証はまだこれからだということ。4つの指針は20人の話から立ち上がった整理であり、「これを守るとどうなるか」を測った研究ではない。読むときは、結論ではなく点検リストとして受け取るのが妥当だと思う。

第二に、スタジオの種類ごとに何人ずついたのか、本文からは読み取りづらかった。多くの参加者が複数の種類を経験しているためだが、そのぶん「どの声がどれだけ入っているか」を読者側で測りにくい。第三に、インタビューは2025年春に行われている。この分野は動きが速いので、時点の差は頭の隅に置いておきたい。

もう一つ、これは質的研究の性質上どうしようもない点だが、全員が仮名なので、発言の裏取りを読者側で行うことはできない。信頼するかどうかは、方法の記述と倫理承認の透明さに預けることになる。

Fukai の読み

ここからは私の解釈だ。私はこの研究を、「ダークパターン批判」の次に来るものとして読みたい。ダークパターンの語彙は、悪意ある誰かを名指しするのに向いている。だがこの論文に出てくる開発者たちは、悪意で動いてはいない。前作の20時間、助成金の申請書、承認会議に出すリテンションの折れ線——彼らを押しているのは、たいてい設計の外側にある仕組みのほうだ。設計批評の言葉で言えば、これは「誰が悪いか」から「何が誰にそれを書かせているか」への視点の移動に近い。だからこの論文の4つの指針は、個人の良心に訴えるものというより、組織が何を測るかを変えるための道具として読めると思う。私たちのように小さく作っている側にとっては、そこが救いでもある。測る対象を決めているのが自分なら、明日から変えられるからだ。

おわりに

もっと深く知りたい人へ。同じ3人は DiGRA 2025(タンペレ)で「Shaping Time in Games: Developer Approaches to Temporality」という論文も出している。今回の CHI 論文と地続きの仕事なので、合わせて読むと、この研究チームがどこから歩いてきたのかが見える。

プレイヤー側から時間と没入を見た研究としては、このサイトで先日扱った Lu らの「フローを生むのは『難しさ』か『注ぎ込んだ努力』か」も対になる。作り手の側とプレイヤーの側、両方から同じ現象を見ておくと、地図の解像度が上がるはずだ。

参考文献

本記事で参照した論文と関連資料:

・From Quarters Per Minute to Daily Quests and Seasons: Developer Perspectives on Temporal Design in Video Games (Thomas Byers, Martin Gibbs, Bjorn Nansen, 2026, CHI '26 / peer-reviewed, DOI: 10.1145/3772318.3790636)

・同論文の全文(メルボルン大学 Minerva Access のオープンアクセス版)

・Shaping Time in Games: Developer Approaches to Temporality (Byers, Gibbs, Nansen, 2025, DiGRA 2025)(同じ著者チームの先行研究)

・Tom Byers(筆頭著者)のホームページ

・記事中の画像は各ゲームの Steam ストアページより: HELLDIVERS 2 / Diablo IV / A Short Hike

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