PAPER-DIGEST · 2026-08-24

Hu et al.: 人は他人の満足を「選択肢の数」抜きで見積もる — Fukai が読む

行動科学 / 選択肢の数 / プレイテストとデータの読み方

一段落要約

「6つの中から選んだ料理は、2つの中から選んだ料理よりおいしく感じる」。今日読んだのは、それを1万人規模で確かめた心理学の論文だ。そして本題はここから。自分の満足はそうやって動くのに、他人の満足を予想するときは、選択肢が何個あったかをほとんど勘定に入れない。Hades『Hades』(Supergiant Games、2020年)のプレイ画面(Steam ストアページより)。この論文とは無関係だが、「3つの中から1つ選ぶ」設計の代表例として引いた。

実験は6本、すべて事前登録済み。参加者は合計10,092人。掲載誌は Psychological Science で、査読を通っている。心理学の話としては、かなり足腰の強い部類だ。

ゲームを作る側にとって、これは他人事ではない。私たちは一日の大半を「他人の満足を予想する側」で過ごしている。プレイテストの観察、選択率の集計、レビューの読解。そのどれもが、プレイヤーが何個の中から選んだのかを簡単に消してしまう。

この論文について

著者は3人。Beidi Hu(シカゴ大学 Booth School of Business)、Alice Moon(ジョージタウン大学 McDonough School of Business)、Eric VanEpps(ヴァンダービルト大学 Owen Graduate School of Management)。全員がマーケティングの研究者である。

掲載誌は Psychological Science。2026年1月7日にオンライン公開された。査読を通った論文で、オープンアクセス(誰でも無料で全文を読める形)で公開されている。題は「Choice Set Size Neglect in Predicting Others' Preferences」。訳すなら「他人の好みを予想するときに見落とされる、選択肢の数」あたりだ。

今日この論文を選んだ理由は2つある。1つは信頼性だ。心理学の知見は、あとから追試(同じ実験をやり直して結果を確かめること)で崩れることがある。この論文は6本の実験すべてを事前登録(実験の前に仮説と分析方法を公開しておく手続き)しており、材料もデータも分析スクリプトも公開している。批判に最初から備えている作りだ。

もう1つは、構図がゲーム制作の現場とそっくりだからである。論文が扱うのは「他人が選んだものへの満足を、その人の代わりに見積もる」場面だ。私たちが毎日やっているのは、まさにそれだ。

ただし先に断っておく。この論文にゲームの話は一行も出てこない。題材はレストランのサイドメニュー、投票、そして寄付である。ゲームへの持ち込みは私の側の作業であり、著者が保証したことではない。

背景 — 選択肢の数について、すでに分かっていること

素朴だが確かな事実から始めたい。選択肢が多い集合からは、自分の好みに合うものが出てきやすい。8種類から選べば、2種類から選ぶより「当たり」を引く確率は上がる。著者はここを出発点に置いている。

一方で、多ければ多いほど良いわけでもない。有名なのは Iyengar と Lepper が2000年に報告したジャムの実験だ。試食用のジャムをたくさん並べた場合と数種類だけ並べた場合を比べると、種類が多いほうが人は買わなくなった。この「選択過多(choice overload、選択肢が多すぎて満足や決断が下がる現象)」はその後よく調べられ、Chernev らが2015年に行ったメタ分析(複数の研究の結果を統計的にまとめ直す手法)では、条件によって出たり出なかったりする効果として整理されている。

ここまでは「自分が選ぶとき」の話だ。では、他人の選択を眺めるときはどうなるか。著者が持ち出すのは「対応バイアス(correspondence bias、他人の行動を状況ではなく本人の性質のせいだと考えやすい偏り)」である。Jones と Harris が1967年に報告した実験を起点とする古い系譜で、観察者は状況の力を割り引いてしまう、という話だ。

さらに著者は、人が他人の選択から読み取りすぎることを示した Barasz らの一連の研究を引く。誰かが何かを選んだのを見ると、私たちはそこから本人の好みを大きく読み取る。だが「その人の目の前に何個あったのか」という条件は、まだ調べられていなかった。

そこで論文の問いはこうなる。人は他人の満足を予想するとき、その人が何個の中から選んだのかを勘定に入れるのか。著者の予測は「ほとんど入れない」だった。彼らはこれを choice set size neglect(選択肢の数の見落とし)と名づけている。

方法 — 6本の実験で何をしたか

方法は素直だ。ある場面を読ませて、満足度を数字で答えてもらう。違いは「自分が選ぶ」か「他人の満足を予想する」かだけ。これを条件を変えて6回繰り返す。参加者は米国の成人で、オンラインの調査プラットフォーム経由で集められた。

第1研究(1,993人)の題材はレストランのサイドメニューだ。サラダ、フルーツ、スナップエンドウ、マカロニチーズ、フライドポテト、オニオンリングの6種類。「6つから選ぶ」条件と「2つから選ぶ」条件を作り、参加者の半分は自分で選んで満足度を1〜7で答え、残り半分は「Aさん」の満足度を同じ尺度で予想した。

第2研究(3,148人)では選択肢の数を2・4・6・8の4段階に増やし、答え方も0〜100点に細かくした。ここまでが基本形の確認である。

残りの4本は「どうすれば見落としが減るか」を探る実験だ。第3研究(587人)は、2つから選んだ人と6つから選んだ人を同時に見せる条件を作った(joint evaluation、並べて評価させる手法)。第4研究(1,578人)は、他人の行動を「1つ選んだ」ではなく「全部に順位をつけた」形で見せた(題材はサイドメニューと投票の2種類)。第5研究(1,201人)は、店員のセリフで「サイドは2種類(6種類)ご用意しています」と言わせ、参加者に何種類だったかを答えさせた。

第6研究(1,585人)だけは仮想ではない。参加者はキーボードの「a」と「b」を交互に200回打つ実際の作業をこなし、50セントの報酬を得る。そのうえで寄付先を6つ(または2つ)の団体から選び、いくら寄付するかを0〜50セントで決める。予想する側は、他の参加者の寄付額と満足度を当てにいく。予想が近ければ追加報酬が出る仕組みだった。

発見 — 自分の満足だけが動く

第1研究の結果が、この論文の骨格だ。自分で選んだ場合、6つから選んだ人の満足は平均6.21、2つから選んだ人は5.91だった(効果量 d = 0.29。効果量 d は差の大きさを標準化した数値で、0.2 前後で小さめ、0.5 前後で中くらいとされる)。他人の満足を予想した場合は5.72 対 5.67 で、統計的な差はない(d = 0.06)。選択肢の数は「自分の満足」だけを動かした。Study 1 の結果を示した図解。自分で選んだ場合は選択肢2個と6個で満足度に差が出るが、他人の満足を予想した場合はほとんど差が出ない。(図解)第1研究の結果。自分で選ぶとき(SELF)は選択肢が2個か6個かで満足が動くが、他人を予想するとき(OTHER)はほとんど動かない。数値は論文の平均値と効果量 d。

第2研究でも同じ形が出た。選択肢が増えるほど点が上がるという傾きは、自分について答えるとき(係数 3.02)が他人を予想するとき(係数 0.85)の3倍以上あった。ただし予想側もゼロではない。見落としは「まったく見ない」ではなく「小さく見る」だと読むのが正確だ。

ここから先は対策の話になる。第3研究では、2つから選んだ人と6つから選んだ人を並べて見せた途端、差が d = 0.95 まで開いた(6つ:6.03、2つ:4.81)。別々に見せた条件では d = 0.26 にとどまる。並べれば、人は選択肢の数を勘定に入れる。

第4研究も似た効果だ。「1つ選んだ」形で見せた場合の差は d = 0.15。ところが「順位をつけた」形で見せると d = 0.52 になった。順位という形式は、選ばれなかった選択肢を視界に入れる。

第5研究の介入はもっと単純だ。店員に選択肢の数を言わせ、参加者に何種類だったかを答えさせる。それだけで差は d = 0.30 から d = 0.59 へ、ほぼ倍になった。予想の相手も場面も変えていない。変えたのは「数に注意を向けさせたか」だけである。なお第5研究では、注意を向けさせない対照条件でも小さな差が出ている。場面も尺度も第1研究とは違うので、数値をそのまま並べて比べることはできない。

第6研究では、実際の作業と実際のお金でも同じ形が出た。自分で選んだ人の満足は5.32(6つ)対4.95(2つ)。予想側は5.11 対 5.19 で、向きすら逆だった。おまけの発見として、予想側は他人の寄付額を平均18.01セントと見積もったが、実際の平均は13.64セントだった。人は他人の気前の良さを高く見積もっていた。

使いどころ — ゲームを作る側の5つの持ち帰り

1つめ、いちばん実務的な話から。プレイテストのアンケートは「いちばん好きだったものを1つ選んでください」ではなく「全部に順位をつけてください」にしたほうがよい。第4研究の差(d = 0.15 対 0.52)は、聞き方を変えるだけで、読む側の目に選択肢の数が入ることを示している。集めた回答を読む私たち自身も、順位表のほうが誤りにくいはずだ。

2つめ、選択率の読み方。「武器Aが70%選ばれた」という数字は、候補が3つのときと12のときで意味が違う。論文の言葉を借りれば、観察者は観測された選択に過剰に賭けてしまう。著者自身、この癖のせいで企業が品揃えを不必要に絞ってしまう危険に触れている。選択率の低い選択肢を削る決断は、実は満足の源を削っているかもしれない。

3つめ、ローグライトの「3つから1つ選ぶ」設計。提示数そのものが満足のつまみになっている可能性が、少なくとも「自分で選ぶ側」のデータからは読める。厄介なのは、そのつまみを回した効果を制作側の直感が感じ取れないことだ。提示数を4から2に減らす変更は、社内の予想では「大した違いはない」に見えやすい。だから直感ではなく計測で決める類の変更である。Vampire Survivors『Vampire Survivors』(poncle、2022年)のプレイ画面(Steam ストアページより)。論文とは無関係。レベルアップごとに数個の候補から1つ選ぶ設計の例として引いた。

4つめ、ダッシュボードの作り方という地味な提案。第5研究では、選択肢の数を言い直させただけで効果が倍になった。ならば、選択率のグラフには必ず「提示数:N」を添えればよい。プレイテストの録画メモにも「このとき出ていた候補は4つ」と書き添える。第3研究に倣って、提示数の違う2群を並べて見せる形にするのも効くはずだ。

5つめ、私たちのようなデイリーパズルの話も書いておく。「今日の問題を3つから選べる」機能や、ヒントの見せ方を1種類から数種類に増やす変更は、社内の見立てでは差が出にくい類の判断だ。入れるなら、実際に遊んだ人の満足を測ってから決めたい。ここでも結論は同じで、社内の予想を根拠にしないことである。

限界 — 著者が認めている点と、私が気づいた点

まず著者が認めている点から。予想の相手が親しい友人なら、好みを知っているので当たりやすいかもしれない、と書かれている。実験の相手はいずれも見知らぬ他人だった。

また、扱った選択肢の数は2〜8である。著者自身が「比較的小さい集合」と述べており、選択過多が起きるような極端に多い集合では話が変わる可能性を認めている。今後の課題としては、専門家かどうかで結果が変わるか(ソムリエと店長を対比する例を挙げている)も挙げられている。

ここから私が指摘するのは、まず効果の大きさだ。「自分か他人か」と「選択肢の数」の組み合わせが結果を説明する割合は、論文の数値でいえば1%に届かない。「6本の実験と1万人という規模で、小さいが安定して観察された」が正確な言い方であり、劇的な偏りではない。

次に、題材が一回きりで賭け金の低い選択に限られている点。サイドメニュー、投票、数十セントの寄付である。ゲームは同じ種類の選択を何百回も繰り返す環境だ。繰り返すうちに見落としが減るのか、それとも固まるのかは、この論文の外にある。

3つめ、測っているのは「選んだものへの満足」であって、「そのゲームや、その日の体験への満足」ではない。私が上の節で書いた応用は、この隙間を私の判断で跨いだ結果である。読者も同じ跨ぎ方をするかは、別の話だ。

4つめ、参加者は米国の成人に限られる。文化差は検討されていない。そして公開からまだ日が浅く、追試も広い議論も始まっていない段階であることも添えておきたい。

Fukai の読み

ここだけは私の解釈である。私はこの研究を、心理学の発見というより「私たちの測定の癖」を暴いた論文として読みたい。制作チームは構造的に観察者の席に座り続ける。そして私たちの道具——選択率の棒グラフ、プレイテストの一行メモ、ストアレビューの引用——は、どれも「何個の中から選ばれたか」を最初に捨てる形式をしている。第5研究が示したのは、その捨てた情報を1行書き戻すだけで、見え方が変わりうるということだ。設計批評の語彙で言えば、これは選択肢の数を「背景の文脈」から「記録すべきデータ項目」に格上げする提案だと整理できる。

おわりに — 次に読むなら

選択肢の数という切り口をもう少し掘るなら、Iyengar と Lepper(2000)のジャムの実験から入るのが早い。多すぎる選択肢が人の足を止める話である。そのうえで Chernev ら(2015)のメタ分析を読むと、この効果が条件次第で出たり消えたりすることが分かり、地図の解像度が上がる。Baba Is You『Baba Is You』(Hempuli、2019年)のプレイ画面(Steam ストアページより)。論文とは無関係。選択肢が少なくても満足が生まれる設計の例として引いた。

対応バイアスの側から読みたい人は、Jones と Harris(1967)の古典に戻るとよい。他人の行動を状況ではなく人柄のせいにする癖の、出発点になった研究だ。今日の論文は、その癖の一覧に「選択肢の数」という項目を1つ足した仕事だと読める。

最後に一つ。この論文は公開されたばかりで、追試も広い議論もまだ始まっていない。私も「この条件下ではそういう傾向が観察された」までを持ち帰り、断定は保留しておきたい。それでも、明日から選択率のグラフに提示数を書き添えるくらいは、すぐ始められる。

参考文献

本記事で参照した論文と関連資料:

・Choice Set Size Neglect in Predicting Others' Preferences (Beidi Hu, Alice Moon, Eric VanEpps, 2026, Psychological Science, オープンアクセス)

・DOI: 10.1177/09567976251400333(2026年1月7日オンライン公開、査読済み。6本の実験はすべて AsPredicted で事前登録され、材料・データ・分析スクリプトは ResearchBox で公開されている)

・Beidi Hu(筆頭著者)のホームページ

・関連研究: When Choice Is Demotivating: Can One Desire Too Much of a Good Thing? (Iyengar & Lepper, 2000)

・関連研究: Choice overload: A conceptual review and meta-analysis (Chernev, Böckenholt & Goodman, 2015, Journal of Consumer Psychology)

・対応バイアスの古典として本文で触れた研究: The attribution of attitudes (Jones & Harris, 1967, Journal of Experimental Social Psychology)

・記事中のゲーム画像は、いずれも論文とは無関係である。話題に合う実在のゲームとして Steam ストアページから引いた: Hades / Vampire Survivors / Baba Is You

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