DESIGN-ROUNDUP · 2026-07-18
同じお題から二つの別ゲームが生まれる——Alan Hazelden が語る「収斂する着想・分岐する設計」
Tsumiki 設計議論まとめ — 2026年7月18日
はじめに
今日の Tsumiki まとめ。今日は1本。題材は派手なメカニクスではなく、「同じ着想から、なぜ別々のゲームが生まれるのか」という地味だが芯のある話だ。パズル専門の編集メディア Thinky Games の月例コラム「Thinky Third Thursday」2026年7月号(著者は Draknek & Friends 主宰の Alan Hazelden)を原文で読んだ。
私はパズルを解くのは相変わらず苦手だ。だが「作る側」の視点で見ると、今日の一節は宝物だった。着想そのものより、その周りで下す小さな設計判断が、体験を丸ごと決めてしまう——その具体例を、第一線のデザイナー本人の言葉で読めたからだ。
Alan Hazelden's Thinky Third Thursday — July 2026(Thinky Games)
まず素性から。媒体はパズル専門の編集メディア Thinky Games(編集方針を公開している)、記事は月例コラム「Thinky Third Thursday」の2026年7月号、著者は Alan Hazelden、公開は2026年7月17日(昨日である)。Alan はスタジオ兼パブリッシャー Draknek & Friends の主宰で、『A Monster's Expedition(当サイトの記事)』『Cosmic Express』『A Good Snowman is Hard to Build』などの作者だ(出典: Thinky Games ↗、英語)。コラム自体は「読む価値のある thinky なパズルゲーム」を毎月まとめる紹介記事で、今月号からは各作品の紹介末尾に「誰が書いたか」の署名が付くようになった、と本人が断っている。
今日私が掘りたいのは、その中の一節だ。Dom Camus が主催する年次イベント Thinky Puzzle Game Jam 6(今年のお題は「Locked Room(密室)」、投稿は80本超)から、Alan は自分たちのチーム作『All the Gold in Fort Locks(著: Alan Hazelden、Lucas Le Slo、Benjamin Davis、Murray Somerwolff)』を紹介する。Alan いわく着想を出したのは自分、パズル設計の大半は Lucas、Godot での実装は Ben、かわいいアートは Murray。「扉を開ける魔法の力を使って、Fort Locks の金を全部盗めるか?」という、かなり手応えのある作品だという。
その直後に彼が並べるのが、ELAiNE の『Every Door a Portal』だ。Alan は「自分の作品との“似ている点と違う点”のために、あえて取り上げたい」と書く。両作の共通の芯はこうだ——「どの鍵で開けたかによって、扉の向こうにあるものが変わり、現実が書き換わる」。ところが二作は、そこから先の設計判断で袂を分かつ。『Every Door a Portal』は鍵を(盤上で押して動かすのではなく)インベントリに持てるようにし、パズルを単一の相互接続した挑戦ではなく11の独立した面に分けている、と Alan は具体的に指摘する。そして彼はこう締める——「よく似たゲームの着想が、いかに素早く、まったく別の体験へと分岐しうるかの好例だ」。
同じ号にはもう一つ、密室ジャムらしい作品がある。tetramouse の『Very Normal Lock Opening Game』を、Alan は「“極端に難しい倉庫番(sokoban)”好きのための一本」と評し、序盤の仕掛け(gameplay twist)に唸らされ、やがて容赦のない面設計そのものが主役になっていく、と書く(倉庫番系の設計勘所は当サイトの倉庫番記事も参照)。密室というひとつのお題が、鍵と扉という素材を各人にどう料理させたか——コラムはその幅広さを淡々と映していて、私にはそれ自体が面白かった。
ここからは私の見立てだと断って書く。この一節の値打ちは「密室パズルの作り方」ではなく、「着想は共有できる。設計判断が体験を分ける」という一点にある。二作が共有していたのは“鍵で扉の向こうの現実が書き換わる”という芯だけで、そこから (1)鍵の扱い(盤上を押して動かす=空間パズル・倉庫番的に鍵が物体として振る舞う vs インベントリに持つ=抽象的で持ち運び自由)、(2)面構成(単一の相互接続した空間=鍵の位置が全体に効く一つの大きな謎 vs 独立した11面=自己完結した論理パズルの連なり)という数点の判断が違うだけで、手触りは正反対になった。着想は安く、判断こそが設計だ——奇抜なメカニクスを思いつくことより、その周りをどう組むかに時間を使うべきだという、実務的な示唆として私はこれを読んだ。ゲームジャムという“同じお題で大量に作る”場は、この分岐を観察するのにこの上ない実験装置でもある。
今日の気になった一文
「A great example of how similar game ideas can diverge and very quickly become totally different experiences.」— Alan Hazelden, Thinky Third Thursday, July 2026
日本語訳:「よく似たゲームの着想が、いかに素早く、まったく別の体験へと分岐しうるか——その好例だ」。着想の独自性を誇るより、その先の判断を丁寧に積む。作る側に立ちたい私には、この短い一文が今日いちばん効いた。
参考リンク
本日扱った記事:
・Alan Hazelden's Thinky Third Thursday — July 2026(Alan Hazelden、Thinky Games、英語、2026年7月17日)
おわりに
奇抜な芯を思いつくのは、たぶん一番易しい工程だ。難しく、そして面白いのは、その芯の周りをどう組むかを一つずつ決めていくところにある——今日の Alan の一節は、それを静かに思い出させてくれた。私もいつか、同じお題を渡されたときに「自分ならこの判断を選ぶ」と言える人になりたい。明日もまた、世界のどこかの設計談義を拾いに行く。
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