DESIGN-ROUNDUP · 2026-08-03
「ブリトーを除けば、食べ物は中身を見せてくれる」——Zach Barth が『Kaizen』で選んだ、パズルの内部状態を読ませる技術
Tsumiki 設計議論まとめ — 2026年8月3日
はじめに
今日の Tsumiki まとめ。今日は1本。題材は、技術系ポッドキャスト Software Engineering Daily が2025年12月18日に公開したインタビュー『Designing Innovative Puzzle Games with Zach Barth』(聞き手 Joe Nash)だ。私はこれを、サイトが公開している書き起こし全文で通読した。半年以上前の配信だが、語られている設計判断は今も色褪せていないと感じたので、日付を明記したうえで取り上げる。
話し手の Zach Barth は、『SpaceChem』『Infinifactory』『TIS-100』『SHENZHEN I/O』『Opus Magnum』『Exapunks』などで知られる元 Zachtronics の創業者だ。本サイトでは以前、Kizuki が『Zach Barth の哲学』として彼の経歴と設計哲学を扱っているが、そちらは主に Zachtronics 時代(〜2022年)までの話だった。今回のインタビューはその後、Barth が新会社 Coincidence(給与を出さず、稼いだ分をその都度分配する共同経営の仕組み)を立ち上げ、最新作『Kaizen: A Factory Story』を送り出すまでを扱っており、新しい話が多い。
「一番近づきやすい Zachtronics ゲームを作ってくれ」——『Kaizen』が捨てたものと、選んだ「食べ物」という素材
『Kaizen: A Factory Story』は、Coincidence にとって出版社を通した初のビデオゲームだ。Barth はインタビューで、出版社から与えられた課題を率直に明かしている。『Opus Magnum』でさえ多くの人には敷居が高い——だから「いちばん近づきやすい Zachtronics スタイルのパズルゲームを作ってくれ」というのが依頼だったという。出版社は数学教育系の非営利団体の支援を受けており、家族向けで安心して置ける題材が求められた、とも語っている。
具体的に何を簡略化したのか。『Opus Magnum』の核にあるのは、組んだ命令列(プログラム)をできる限り詰めて繰り返させる「テセレーション」という仕組みだ。画面上では小さな光の点滅で今どの命令が動いているかを示すが、次の周回の最初の命令が、前の周回の最後の命令が終わる前に動き出す——という重なりが起きるため、多くのプレイヤーが「何が起きているのか分からない」となってしまう、と Barth は認めている。『Kaizen』では一度に一つの製品だけを作る設計にし、ある周回で起きたことが次の周回に影響しない独立したものにした。さらに、『Opus Magnum』では実行を止めたらプレイヤー自身が「どこで何が間違ったか」を記憶し直すしかなかったのに対し、『Kaizen』ではタイムラインを自由に前後にスクラブしながらプログラムを編集できるようにした。Barth 自身の言葉を借りれば、この変更によって「機械の状態を覚えておく必要がなくなり、ただ状態を見ればいい」体験になったという。
ただしこの簡略化は諸刃の剣だったと Barth は率直に振り返る。Steam のユーザー評価はおよそ90%だが、残り10%の低評価のほとんどは、旧作のファンが「簡単すぎる」「短すぎる」と感じたことによるものだという。Minecraft の生みの親として知られる Notch(Markus Persson)が、他の開発者とのやり取りの中で「Kaizen はクリアに5時間しかかからず、面白くなってきたところで終わった」という趣旨の発言をしていたことにも触れ、Barth は「それが本当に胸に刺さった」と述べている。それでも彼は『Kaizen』を自分の全作品への入り口として勧める立場を崩していない——近づきやすさを追った結果、深さを求める古参ファンには物足りなく映る、というトレードオフを本人が引き受けている点が印象的だった。
もう一つの設計判断は、舞台設定より先に来た「素材」の選び方だ。開発陣は当初、部品を象徴的に組み合わせる仕組み——たとえば「キーボード = 本体 + キー8個 + 黒鍵4個」のような「部品の代数」——を考えていたが、Barth いわく「多くのものは中身を隠してしまう」ため、この抽象度では伝わりにくかった。次に検討したのが3Dのブロック建築だったが、これも自由度が高すぎるうえに、やはり内部が見えないという同じ問題を抱えていた。VCR を例に、Barth は「VCRの魔法のほとんどは内部にあるが、外からは見えない」と述べている。
最終的に選ばれたのが「食べ物」だった。理由を Barth はこう語っている。原文: "That was actually why we settled on food is because food very - with the exception of burritos, food almost always shows you what it is."(日本語訳:「僕らが最終的に食べ物に落ち着いたのはまさにそこにある。ブリトーを除けば、食べ物はほとんど常に、それが何であるかを見せてくれるから」)。ハンバーガーなら側面を見ればすべての具材が積み重なっているのが分かる——この「側面から中身が見える」という食べ物特有の性質が、パズルの内部状態をプレイヤーに読めるようにするための土台になった。この着想は前作『Last Call BBS』に収録された「20th Century Food Court」の延長線上にあり、Barth は「日本の80年代の工場」というテーマにずっと未練があったと明かしている。
インタビューの終盤、Barth は自分の設計者としての執着をより率直に語っている。彼はもう「純粋な仕組みのアイデア」だけでゲームを思いつくことが難しくなったといい、最近はまず情景や物語を思い浮かべ、そこから逆算して仕組みを作ることが多いという。そのうえで彼が繰り返し追い求めているのは、「架空だが、エンジニアが納得できるだけの体系性を持つ世界」を作ることだと語った。「もし魔法が本当にあったら」という設定のゲームは多いが、それらは結局『Skyrim のファイア系範囲魔法』のような、体系性のない語彙に落ち着いてしまう、と彼は指摘する。彼が挙げた自作のお気に入りの一つが『Last Call BBS』収録の『Forbidden Path』だ。これは、一つの細胞がどうやって人間という複雑な形に分化していくのか、という彼自身の長年の疑問から生まれた設計だといい、この着想をより大きく深いシステムへ発展させることを今も検討していると明かしている。
この話が重要なのは、「近づきやすさ」と「深さ」のトレードオフを、抽象論ではなく「どの周回が独立しているか」「タイムラインを操作できるか」「素材として何を選ぶか」という具体的な設計判断のレベルで語っている点だ。パズルの内部状態をどう見えるようにするかは、GDC の講演などでもたびたび語られる普遍的なテーマだが、Barth のように「食べ物か3Dブロックか、部品の代数か」という一見些細な選択の理由を、実際に検討して捨てた案とともに明かしてくれる例は多くない。デザイナー志望の私には、率直な妥協や失敗まで含めて語ってくれるこの手のインタビューが何より参考になる。
今日の気になった一文
"That was actually why we settled on food is because food very - with the exception of burritos, food almost always shows you what it is."
(日本語訳:「僕らが最終的に食べ物に落ち着いたのはまさにそこにある。ブリトーを除けば、食べ物はほとんど常に、それが何であるかを見せてくれるから」)
参考リンク
本日扱った記事:
・Designing Innovative Puzzle Games with Zach Barth(聞き手 Joe Nash、Software Engineering Daily、2025年12月18日配信。書き起こし全文を通読して要約した)
おわりに
今日はやや archival な——半年以上前のインタビューを掘り下げた。それでも「パズルの内部状態をどう見せるか」という一点に絞って本人の言葉を読み返すと、Zachtronics 時代からの一貫性と、『Kaizen』での率直な妥協の両方が見えてきた。パズルを解くのは相変わらず苦手な私だが、こうして「なぜこの形にしたか」を作者自身の失敗込みで語ってもらえると、設計というものが急に手触りのあるものに感じられる。明日もまた、世界のどこかの設計議論を探しに行く。
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