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REVIEW · 2021-08-26

Myst

1993年の島を建て直す——「まだ同じ島か」で割れるレビュー群を読む

Steam store ↗

第一印象

Steam のレビュー群を読み始めて最初に気づくのは、この作品がゲームとしてではなく「1993年の Myst をどう扱ったか」という一件として論じられていることだ。helpful 上位の positive は「今いちばん美しい Myst であり、初めて遊ぶならこれでいい」と書き、negative 上位は「テセウスの船だ」と書く。前者は島の見え方を数え、後者は島の人格を数えている。同じ島の同じ改変について、測っている量が違う。

数値を先に置く。2026-07-28 時点で Steam の overall は 1,979 件中 88% が好評、評価ラベルは「非常に好評」。購入経路を問わない全件では 2,178 件のうち 1,930 件が好評だ。直近30日は 20 件中 75% で「やや好評」まで下がる。Metacritic は 78。賛否が真っ二つに割れているのではなく、多数が推し、少数が「作品ではなく版を替えろ」と勧める構図である。

この「版を替えろ」が本作のレビュー群を特殊にしている。negative 側の多くは Myst そのものを否定しておらず、realMyst: Masterpiece Edition や Masterpiece Edition という別の商品を代案に挙げる。つまり争点は良し悪しではなく、何を保存対象と見なすかだ。メタレビューとして読むなら、評価軸をここで一段ずらしておく必要がある。

Myst のキーアートMyst のストアヘッダー画像(Steam ストア キーアート)

メカニクスの言語化

positive も negative も、この島を語るとき同じ名詞を使う。ボタン、レバー、扉、そして手記だ。動詞は「見る」「押す」「書き留める」の三つしかない。VR版を褒めるレビューが「ボタンと扉がたくさんあるのがいい」と素朴に書くのは正しくて、Puzzlebyrinth の語彙でいえば本作は動詞の減算を極限まで進めた設計であり、残った三つの動詞の往復だけで四つの Age を成立させている。

2021年版は、その三つ目の動詞をゲームの内側に取り込もうとした。スペースキーで画面を撮ってアルバムに保存するカメラ機能である。ところがレビュー群で最も具体的に不満が書かれるのがこの機能だ。パズルにズームしたままアルバムを開けない、起動したら撮影するまで解除できない、保存順が時系列とは限らない。VR のレビュアーは、六桁の日時を三組入力する場面で何度もメニューを往復したと書く。紙とペンへ外部化されていた記録を UI の内側に戻そうとして、往復コストがかえって増えた例だ。

もう一つ、レビュー群が拾っているのは VR を前提にした再配置である。座ったままでも届くよう、操作対象がおおむね胸の高さに揃えられた。その結果として「取っ手に取っ手が付いている」「梯子を壁に埋める必然性がない」といった不自然さが生まれ、置かれた紙が見つけにくくなったり、逆に目立ちすぎて答えが割れたりしたと複数の negative が指摘する。到達可能性という別の制約が、観察解像度の分布を書き換えてしまっている。

Myst のキーアートMyst のメインカプセル画像(Steam ストア キーアート)

難しさの手触り

negative 側の典型語は obtuse(回りくどい)で、「解けたときの納得より、気づけたかどうかの運に寄っている」「仕掛けの正体が分かった後は単なる繰り返し作業になる」と書かれる。positive 側は同じ設計を fair and logical と呼ぶ。2025年に再訪した長文レビューは、1990年代には非常に難しく感じたのに、その後アドベンチャーを数十本遊んだ今やると極めて公平に見える、と書いていた。難しさが作品の側ではなくジャンル literacy の側で動いた例として印象に残る。

レビュアーの詰まり方を集めると、難しさは三種類に分かれる。第一に、手がかりが島をまたいで散在していることの難しさ。第二に、記録の難しさ——数値の組を持ち帰って別の装置に入力する構造そのものが、外部の紙を要求する。第三に、押せるものが少ないぶん総当りができてしまう誘惑だ。negative が obtuse と呼んでいるものの多くは、実は第三の穴に落ちた結果で、推論を組み立てる前に手が動いてしまう設計上の隙間を指している。

見過ごせないのが、難しさの信頼性を壊す報告だ。レバーが反応せずクリア不能になった、灯台の車輪が動かなくなった、といったバグ報告が negative 上位に複数ある。パズルゲームは「自分の推論が間違っている」と「ゲームが壊れている」を切り分けられることを暗黙の前提にしている。その前提が揺らぐと、観察という動詞そのものが機能しなくなる。難しさの質を語る前に、この一点は独立した減点として置いておきたい。

Myst のキーアートMyst のヒーローカプセル画像(Steam ストア キーアート)

系譜と位置づけ

このレビュー群を読む面白さは、プレイヤーが三つの版を並べて論じている点にある。1993年をほぼそのまま保存した Masterpiece Edition、2014年の realMyst: Masterpiece Edition、そして本作。negative 上位はしばしば前の二つを勧め、その理由として音の近さ、発電機室の暗さ、事前レンダの静止画が持っていた密度を挙げる。positive はその同じ改変を、歩ける空間になったこと、VR で立てることと引き換えの妥当な代償と見る。保存とは何を残す作業かという問いが、そのまま賛否の分岐になっている。

同じ Cyan Worlds が2024年に出した Riven のリメイクは、ほぼ同種の作業でありながらレビュー群の温度がはっきり高い。原作の情報密度が3D化に耐えたこと、そして観察と記録という動詞の割り当てが原作の時点で完成していたことが効いているのだろう。新規に世界を組んだ Obduction と並べると、作り直しは物語とパズルの噛み合いを継承できる代わりに、継ぎ目が全部見えてしまうという性質がよく分かる。

系譜としての位置は動かない。Myst III: ExileQuern - Undying Thoughts が受け継いだもの、すなわち説明書きなしで装置を読ませる文法の出発点はここにある。レビュー群に繰り返し現れる「環境系パズルはすべてこれを基準に測っている」という言い方は、批評としては測定不能だが、設計史の記述としては正確だ。

Myst のキーアートMyst のライブラリ用ヒーロー画像(Steam ストア キーアート)

参照したレビュー群

本記事は 2026-07-28 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。

Steam: Myst(非常に好評 / 1,979件中88%が好評、全購入経路では2,178件中1,930件、直近30日は20件中75%、2026-07-28 snapshot)

helpful 順 positive 上位10件helpful 順 negative 上位10件を読了。recent 単独ソートはこの実行環境から取得できなかったため、直近30日の集計値と、2024〜2025年に投稿・更新されたレビュー、および公式掲示板の2025年の書き込み(値上げの経緯・Rime 追加後の所感)で代替した。

・専門メディアとの力点の違いを見るため、Metacritic 集計値78と PC Gamer の評(2021年、要旨は「現代的に作り直されてなお古さが残る」)を参照した。

SteamDB のアセット一覧で開発元・発売日・使用画像URLの実在を確認した。

結論

ストアの文面は本作を「探索し、Age を旅する、シュールな冒険」として売り、タグには Casual や Walking Simulator が並ぶ。だが helpful 上位が実際に語るのはメモ帳の要否、カメラ機能の往復、どの版を買うべきかである。この売り文句と実感のズレは、優劣ではなく設計の射程を示している。景色と雰囲気を見に来た人には確かに穏やかで、装置を解きに来た人には準備を要求する作品だ。

時間の経過も評価を動かしている。2025年3月に Rime の Age を追加する無料アップデートが入り、ほぼ同時に本体価格が引き上げられた。掲示板では開発者が「DLC として別売にせず本体価格に反映した」と説明しており、それでも「告知なしの値上げは印象が悪い」という書き込みが残っている。追加された Rime を「近年の Myst 関連で最良の内容」と評価する更新レビューがある一方、エンジン更新後の描画のカクつきを訴える報告も見られる。直近30日が 75% に沈んでいるのは、この二つが同居している状態の反映だと私は読む。

Steam の overall 88% に対し、私は設計の観点から7.5点を付ける。三つの動詞だけで四つの Age を立ち上げる骨格は1993年の遺産として今も強い。減点は2021年版が足した部分に集中する——記録をUI内に取り戻そうとして往復を増やしたカメラ、到達可能性のために書き換えられた配置、そして進行不能報告が残っていることだ。レビュー欄の記録時間は4〜12時間に散らばり、完走報告はおおむね6〜8時間に集まっている。初めて Myst に触れるなら本作でよく、1993年の島を確かめに来たなら別の版を選ぶ——レビュー群が集合として出している結論は、たぶんそれで正しい。

Myst のキーアートMyst のストアページ背景画像(Steam ストア キーアート)

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