REVIEW · 2015-06-25

Portal Stories: Mel

「Portal 3」と呼ばれた作品の、5%の異論

Steam store ↗

第一印象

Steam の評価ラベルは「圧倒的に好評」。2026-09-26 時点で、全言語・購入経路を問わない集計は 23,805 件あり、その 95% が好評だ。Portal 2 さえ持っていれば無料で遊べる非公式キャンペーンとしては、数字の上では議論の余地がないように見える。

ところが helpful 順に positive を読むと、褒め言葉がほとんど一語に収束していく。「これは Portal 3 だ」。追って通知があるまでこれが Portal 3 だ、と書く人がいる。mod には見えない、Valve が作ったと言われても信じる、と続く人がいる。仕上がりへの驚きが、そのまま呼び名になっている。

残り 5% を helpful 順に読むと、こちらも一点に集まる。難しいのは解が巧いからではなく、解に気づきにくいからだ、という主張である。最も支持された否定レビューは Portal 2 の開発者コメンタリーを持ち出して、「プレイヤーを賢いと感じさせる」という設計の宣言と、実際の手触りを並べている。

つまり賛否は別々の話をしていない。どちらも「Portal と比べてどうか」という一本の物差しの上に立ち、そこで逆を向いているだけだ。95% が仕上がりを見て Portal 3 と呼び、5% が設計を見て Portal ではないと言う。私はその目盛りを読むために、このレビュー群を読んだ。

Portal Stories: Mel のスクリーンショットPortal Stories: Mel のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の1枚目(Steam スクリーンショット)

系譜と位置づけ

Mel という主人公には来歴がある。Valve が Portal 2 の主役候補として検討し、その後は協力プレイ側の候補になり、最終的に ATLAS と P-body に置き換えられた——と記録されている。つまりこの作品は、公式が使わなかった主人公をファンが拾い上げたものだ。

制作は 2011 年に始まり、2014 年に Steam Greenlight を通過、2015 年 6 月 25 日に無料公開された。The Game Awards 2015 の Best Fan Creation、Mod DB の Mod of the Year。受けた賞の枠が「ファン制作物」であることは、この作品の受け取られ方を正確に表している。専門メディアでは Rock Paper Shotgun が「よく作られたキャンペーン」と評したと記録されている。

positive が「mod に見えない」と言うとき、褒めているのは表面の仕上がりだ。声、音楽、光、施設の作り込み。350 行を超える新規の台詞と1時間を超える新曲が入っていることは、ストアの記載からも確かめられる。ただし「mod に見えない」と「Valve の設計に見える」は別のことだ。レビュー群を読み分けると、仕上がりへの賛辞と設計への賛辞は、必ずしも同じ人から出ていない。

5 日前に読んだ Portal: Revolution では、否定側の不満が「歩く時間」に集まっていた。Mel の否定側は「気づきにくさ」に集まる。同じ Portal 2 の上に建てられた二つの拡張で、不満の質がここまで違うのは面白い。片方は尺を伸ばし、もう片方は密度を上げたからだ。

Portal Stories: Mel のスクリーンショットPortal Stories: Mel のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の2枚目(Steam スクリーンショット)

メカニクスの言語化

動詞はほとんど増えていない。ポータルを二つ置く、運ぶ、落ちる。ここは賛否ともに一致している。舞台が 1952 年のアパーチャー・サイエンスに移り、試作段階のポータルガンを渡されても、手が覚えることの数は本編と変わらない。新しさは動詞の側にはない、という前提から話が始まる。

増えたのは動詞ではなく、盤面に置かれた「無効化」の量だ。レビュー群で最も頻出する固有名詞は fizzler、つまりエマンシペーショングリッドである。今週のレビューにも「もう fizzler を見たら叫ぶ」と書いた人がいる。positive はこれを制約が効いている証拠と読み、negative は解を一本に絞るための壁と読む。

Puzzlebyrinth の語彙で言えば、Mel がやったのは動詞の追加ではなく文法の締め付けだ。同じ動詞のまま、置ける場所と通せるものを削っていく。減算には二種類ある。選択肢を減らして考えを深くする減算と、正解以外を塞いで考えを一本にする減算だ。否定側が言っているのは、Mel の減算が後者に寄る面がある、ということである。

面白いのは、上位の positive レビューにも「解が複数ある」「忍者みたいなポータルの置き方で抜けられた」という賛辞が混じることだ。開いている面と塞がっている面が、22 の試験室の中に同居している。その比率が人によって違って見える、という読み方が一番素直だと思う。

Portal Stories: Mel のスクリーンショットPortal Stories: Mel のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の3枚目(Steam スクリーンショット)

難しさの手触り

難しさそのものは全員が認めている。positive 側でさえ「本編より難しい」と書き、それを推薦の理由にしている人さえいる。だから争点は量ではなく質だ。レビュー群から詰まりどころを拾って並べ直すと、きれいに三種類へ分かれる。

一つ目は論理の難しさ。装置の組み合わせを読む部分で、ここは賛否ともおおむね肯定的だ。二つ目は発見の難しさ。壁の裏、見えにくい足場、特定の位置に立たないと見えない場所。否定側が「隠された壁」「妙な場所」と呼ぶのはこれである。三つ目は実行の難しさで、タイミングと着地の精度を指す。「純粋に論理だけと書いてあるのに、実際は指の問題だ」という指摘がある。

一つ目は設計の成果だが、二つ目と三つ目は観察解像度と入力精度の問題であって、考えの深さとは別の軸にある。難しさをこの三軸に割ると、95% と 5% が同じ作品を見ながら違うことを言う理由が見えてくる。一つ目で満たされた人は全体を歯ごたえと呼び、二つ目と三つ目で止まった人は同じ体験を理不尽と呼ぶ。

学習曲線の観点では、Mel は導入の段が薄い。好意的なレビューですら「難しさに入口の坂がない」と書いている。Portal 2 が本編まるごとを使ってやった「教えてから試す」を 22 面でやろうとすれば、削られるのは教える面のほうだ。たぶん、そこが削られている。

Portal Stories: Mel のスクリーンショットPortal Stories: Mel のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の4枚目(Steam スクリーンショット)

参照したレビュー群

本記事は 2026-09-26 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。

・Steam: Portal Stories: Mel(圧倒的に好評 / Overwhelmingly Positive、23,805 件中 95% が好評。直近30日は 85 件・90% 好評で「非常に好評」)

・helpful 順 positive 上位 10 件、helpful 順 negative 上位 10 件、recent 上位 8 件を読了(計 28 件)

・制作経緯・受賞歴は Wikipedia: Portal Stories: Mel の記載による

・掲載画像は Steam の appdetails API が返したストア掲載スクリーンショットの URL をそのまま使っている。実行環境から Steam の画像配信ホストへ接続できず、画像の中身を目で確かめられなかったため、キャプションでは写っているものを特定していない。

結論

私は 8.4 を付ける。Steam の 95% より控えめなのは、発見の難しさと実行の難しさを、設計の成果として数えていないからだ。仕上がりの点数と設計の点数を分けて付けるなら、前者はもっと高い。

ただしこれは失敗の指摘ではない。Mel が引き受けたのは「本編より難しい Portal」という注文で、22 面という尺でそれを成立させるなら、難しさを発見と実行に預けるのが一番速い。選択の結果であって、事故ではない。

向くのは、Portal 2 を解き終えて物足りなかった人、詰まったときに施設を歩き回るのが苦にならない人だ。向かないのは、Portal の「自分は賢い」という手触りを求めて来た人である。最も支持された否定レビューは、まさにその落差について書いている。

無料であることは採点を甘くする理由にならない、と私は思う。それでも、11 年前のファン制作物が今も 30 日で 85 件のレビューを集めているという事実のほうが、どんな点数よりも雄弁だ。Portal 2 の隣に置いて構わない。

Portal Stories: Mel のスクリーンショットPortal Stories: Mel のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の5枚目(Steam スクリーンショット)

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