REVIEW · 2022-11-14
Somerville
「INSIDE の続き」を期待した 1,879 件のレビューを読む
はじめに
エイリアンの侵略で一夜にして壊れた英国の田園を、名前を持たない父親が犬と幼い息子を連れて歩いていく。台詞も字幕もなく、途中で手にする光を使って異星の物質を溶かし、また固めながら道をつくる2.5Dの物語系パズルアドベンチャーだ。2022年11月14日、英国の Jumpship が開発・発売した。同スタジオは Chris Olsen の原案をもとに、Playdead の元CEOで共同創業者の Dino Patti との協働で設立されたと発表されている。
私はこの記事を、Steam に積み上がったユーザーレビュー群を読んで書く。評価ラベルは『やや好評(Mostly Positive)』、全言語 1,879 件のうち好評 1,324・不評 555、およそ70%が好評だ(2026-08-04 snapshot)。直近30日の 15 件も73%で、四年近く動いていない。一方で専門メディアは VG247 が10点満点、The Gamer が9点と高い数字を並べており、その差そのものが読みどころになる。
そしてレビュー群の最頻出固有名詞は、開発元名でもジャンル名でもなく INSIDE だ。賛辞の側も不満の側も、まずこの一語を置いてから話し始める。LIMBO の名も頻繁に添えられる。作品が出る前から期待の輪郭が完成していた——その状況ごと、Komugi の設計批評の言葉に置き換えていく。
オレンジのタイトルロゴと、犬を連れた男が紫の光柱に向き合う構図(Steam ストア キーアート)
第一印象
helpful 上位の positive を並べると、褒め言葉の対象がきれいに一点へ集まる。atmosphere(雰囲気)、sound design(音響設計)、breathtaking(息を呑む)、art(芸術)、cinematic(映画的)。ある人は『これは芸術作品だ』と書き、別の人は『いちばん好きなエイリアン侵略の描き方だ』と書く。作品の視聴覚に対する支持は、70%という数字から想像するよりずっと厚い。
negative 側の語彙もまた揃っている。controls(操作)、jank(ガタつき)、invisible walls(見えない壁)、slow(遅い)、padding(尺稼ぎ)、readability(視認性)。そして『これはパズルではない』という否定形。とはいえ彼らも、視聴覚については positive とほとんど同じ言葉で褒めている。
つまりこの作品の賛否は、同じ要素を別解釈しているのではない。両側が『絵と音は素晴らしい』で一致したうえで、『そこに至るまでの摩擦を許すか』だけが割れている。評価軸が一本しかない賛否というのは珍しく、読んでいて構造が見えやすい。私の関心は、その摩擦が何でできているかに向く。
霧に沈んだ牧草地を、白い犬と並んで走り抜ける。空には黒い板状の破片が刺さっている(Steam スクリーンショット)
メカニクスの言語化
レビュアーが説明する中心の仕掛けはひとつだ。光を当てれば異星の物質は溶けて液体になり、光を切れば固まる。positive はこれを『独自のギミック』『映像として気持ちがいい』と評し、negative は『同じことの繰り返し』『基礎から一歩も先へ行かない』と評する。動詞の数え方で言えば、この作品が持つ動詞は実質ひとつ——光を、点けるか消すかだ。
Puzzlebyrinth の語彙では、これは思い切った動詞の減算である。問題は減算そのものではなく、その先に文法が用意されていないことだ。ChromaGun が『塗る』一語から色の混合という文法を立てたのに対し、本作は溶かす・固めるを最後まで一段の操作として扱う。組み合わせ爆発が起きないので、学習曲線はほぼ水平に伸びていく。
ここが賛否の分岐点になっている。学習曲線が水平だと、解く手応えは薄くなる代わりに、場面ごとの絵と音を邪魔しない。positive が『パズルが出しゃばらない』と書き、negative が『パズルが存在しない』と書くとき、二人は同じ設計判断の別の面を触っている。作者が選んだのは、パズルを主役から降ろすことだった。
暗い店内。光る物を手にした赤い上着の男が、子どもと手をつないでマネキンの並ぶ店先を横切る(Steam スクリーンショット)
操作の手触り
negative レビューで最も反復されるのは操作の話だ。掴める位置の判定が狭く、レバーの前で身体を細かく揺すり続けることになる。あらゆる物体の当たり判定が見た目より大きく、道でないところで止まる。歩行速度が遅く、追われる場面でも走れない。スティックの向きがカメラ基準で回るため、真横に歩かせるのに斜め入力が要る。そして人物が画面のなかで小さく、どこにいるか分からない。
私はこれを、パズルの難しさではなく入力の難しさだと整理する。操作系がパズルの難しさを決めるで書いた通り、同じ盤面でも入力が変われば別の問題になる。本作では、解けているのに実行できない・実行したのに反応しない状態が頻発するため、プレイヤーは『考えが間違っているのか、押し方が間違っているのか』を切り分けられない。観察解像度が上がらず、探索が総当たりに落ちる。
positive 側はこの同じ遅さを『景色に浸る時間』として肯定する。実際、歩みの遅さは映像を見せるための選択だったはずだ。ただ、視認性の低さと判定の狭さは、その選択とは別の水準の問題として残る。作者が引いたのは『速度を落とす』線であって、『掴めない』線ではなかったと私は読む。
暗い岩の縦穴。上からの薄い光の中、画面のごく小さな人影が苔むした倒木の幹を渡っていく(Steam スクリーンショット)
物語の手触り
台詞がなく、説明もなく、終盤に複数の結末が用意されている。negative はこれを『思わせぶりで結論がない』『初回はまず“悪い”結末になる』と書き、positive は『言語と伝達がテーマだ』『道中の絵と異星の文字に注目せよ、最後に必要になる』と書く。両者が指しているのは同じ一箇所——終幕で問われる、理解度を入力に変換する場面だ。
形式としては、Chants of Sennaar や Return of the Obra Dinn と同じ、観察を答案に変える設計である。ただしあの二作は、記録する手段と照合する手段をプレイヤーに渡していた。本作にはそれがない。見ていたはずのものを思い出せず、答案だけが先に締め切られる。『見ていたのに答えられない』という不満は、記憶力の問題ではなく道具の不在の問題だ。
recent 側にも変化は乏しく、直近のレビューは今も『絵に注目せよ』と後続に助言している。四年かけて評価が動いたのではなく、攻略情報が回ることで理解の入口が作品の外へ移った、と読むほうが正確だろう。設計が担うはずだった観察の足場を、コミュニティが肩代わりしている。
紫の霞に沈んだ無人の屋外広場。倒れたパラソル、ピクニックテーブル、張られた旗の列。中央に男が背を向けて立つ(Steam スクリーンショット)
参照したレビュー群
本記事は 2026-08-04 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。
・Steam: Somerville(やや好評 / Mostly Positive。全言語 1,879 件、positive 1,324 / negative 555、およそ70%。直近30日は 15 件中73%)
・helpful 順 positive 上位 10 件、negative 上位 8 件、recent(全言語)上位 6 件の計 24 件を読了
・(専門メディア)ストアページに掲示されたレビュー引用として VG247(10/10)、The Gamer(9/10)、God is a Geek(9/10)
結論
Steam の総評はおよそ70%好評、専門メディアは9〜10点。私の設計批評としての採点は 6.8 だ。ユーザーより少し低く、専門メディアよりはっきり低い。差の理由は単純で、私は絵と音の点数と、動詞から文法が立ち上がったかの点数を別々に付け、後者をほとんど加算できなかったからだ。
加点は、動詞を一つに絞りきった潔さと、それによって空いた場所に風景と音を置いた判断にある。減点は二つ。溶かす・固めるの先に文法を用意しなかったこと。そして終幕で観察を答案に変える形式を採りながら、観察を支える道具を渡さなかったことだ。レビューで言及されたクリア時間はおおむね3〜7時間、中央値でおよそ4.5時間だった。
誰に向くかははっきりしている。四時間ほど、説明されない光景の中を犬と歩き、絵と音に身を委ねたい人に向く。動詞が増え、規則が組み合わさっていく手応えを求める人は射程の外だ。INSIDE の続きを期待して来た人の落胆は、作品の失敗というより、期待の輪郭が先に完成していたことの帰結でもある。ただ、掴めない・見えないという摩擦は期待とは無関係に残る。そこだけは、作者が引いた線の外側にはみ出した部分だと私は思う。
丘の上のベンチに人物が座り、傍らに犬。眼下の霧の谷へ紫の光線が降り、空からは黒い柱が垂れ下がっている(Steam スクリーンショット)
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