DESIGNER-STUDY · 2026-09-01
Tom Francis の哲学 — 不満を言葉にして、その通りに作る
『Gunpoint』『Heat Signature』『Tactical Breach Wizards』
はじめに — 採点する側だった人
九年間ゲームを採点していた人が、自分でゲームを作った。イギリスの Tom Francis(トム・フランシス)だ。PC Gamer の記者として働きながら、週末に『Gunpoint』(2013)を仕上げた。
面白いのは、本人が自分の作り方をこう説明していることだ。「私のやり方は、ゲームを遊んで、何が違っていればよかったのかを言葉にして、その通りに作るゲームを作ることだと思う」(PC Gamer, 2020 ↗)。批評の手つきが、そのまま設計の手順になっている。
この記事では作品紹介はしない。本人のブログ・講演・インタビューを横断して、この人が何にこだわり、何でつまずき、それをどう引き受けたのかを読む。引用はすべて原典を開いて確かめたものだけを使う。
経歴 — 週末に作った初作と、無料ソフトの連載
Tom Francis は『Gunpoint』(2013)、『Heat Signature』(2017)、『Tactical Breach Wizards』(2024)の三本を作ったデザイナーだ。スタジオ名は Suspicious Developments。日本語圏では『Gunpoint』の作者として知られている。
『Gunpoint』は建物の配線をつなぎ替えて、警備員に自分でドアを開けさせる潜入パズルだ。当サイトのレビューは Gunpoint にある。
一作目の位置づけは、本人の講演タイトルが端的に示している。GDC Europe 2013 の講演題は「九年間ゲームをレビューしたことが Gunpoint の設計にどう役立ったか」。講演概要にはこう書かれている。「熟練した開発者を批評しながら、自分の初めてのゲームで下手を打つ人間の、気まずさ、喜び、罪悪感、そして偽善を、少し共有する」(GDC Vault, GDC Europe 2013 の講演概要 ↗)。
作り方を隠さない人でもある。2015年には「経験ゼロでゲームを作る方法」を見せる連載を始めた。「まったくの初心者向け」で「無料ソフトしか使わない」と本人は書いている(本人ブログ, 2015-07-09 ↗)。
『Gunpoint』(2013)Steam ストアページの公式スクリーンショットより
哲学 — ルールを書いて、あとは任せる
一貫して言っていることはひとつだ。遊んで、不満を言葉にして、その通りに作る。先に引いた2020年の一文がそれである。
実例が本人のブログに残っている。『Tactical Breach Wizards』の企画書(2018年2月)の書き出しはこうだ。「去年の1月、私は XCOM 2 を遊びながらこう考えていた。『これはとてもよく出来ているのに、わかりにくさの問題がこんなにある。インディーの XCOM がもっとあればいいのに』」(本人ブログ, 2018-02-02 ↗)。不満が、そのまま次作の仕様になっている。
もうひとつの柱は「例外を作らず、ルールを作る」だ。『Heat Signature』についてこう語っている。「その大半は、特定の意図を持った例外処理ではなく、シミュレーションのルールを作ることから来ていると思う」。そして、「筋の通った論理的なシミュレーションを作れば、プレイヤーは自分で大惨事を起こしてくれる、というのが私の実感だ」(Game Developer, 2018 ↗)。
本人はこれを「創発」として定義している。「ある問題や解決策が、開発者がそれを意図的に起こそうとしたからではなく、ゲームの一般的なルールの結果として起きたなら、私はそれを創発的と呼ぶ」。続けてこうだ。「開発者はあなたの戦略を予測する必要はない。ルールを書き、あなたがそれを知っていることを確かめ、あとは遊ばせればいい」(本人ブログ, 2018-07-30 ↗)。
計画への態度も同じだ。「私は計画する、たくさん。ただしそれは厳格な設計書というより、航海に近い」。そして「計画はいつも『紙の上で最も有望に見えるもの——まずこれを試す』にすぎない」(本人ブログ, 2014-01-25 ↗)。設計図ではなく進路として計画を使う、ということである。
こだわり — UI を足さず、数値の側を黙ってずらす
繰り返し出てくる手つきがある。表示を足して説明するのではなく、内側の数値を動かして問題そのものを消す。『Gunpoint』のジャンプが、その一番きれいな例だ。
本人の説明はこうだ。「人が遊ぶのを見ていると、キャラクターのすぐ近くをクリックしてしまい、最大ジャンプ力に一度も気づかない人が多かった」。最初はリングやゲージを足すことを考えたという。「だが最後には、新しい視覚要素をいっさい足さずに済む方法を見つけた」。
見つけた方法はこうだ。「ボタンを押し始めたときのカーソルの距離が、そのままゲームの新しい基準距離、つまり最大強度ジャンプの距離になる」。そして一文でまとめる。「つまりプレイヤーが何を予想していようと、ゲーム側の計算が黙ってそれに合わせて再調整される」(本人ブログ, 2015-06-05 ↗)。
説明の下手さを許さない姿勢も一貫している。2012年の GDC 講演では「読み手が理性的で、興味を持っていて、知的な人間だと想定してはいけない」と言い、「要点に、とてつもなく速く、平易で単純な言葉でたどり着かなければならない」と続けた(本人ブログ, 2012-03-17 ↗)。伝わらないのは読み手の落ち度ではない、という立場である。
手番の設計にも同じ癖が出る。『Tactical Breach Wizards』の企画書には、こう書かれている。「確定させる前に、好きなだけ手番を試し直せる。納得する結果になるまで、巻き戻して命令を変え続けられる」(本人ブログ, 2018-02-02)。プレイヤーの試行を、失点として数えない設計だ。
『Tactical Breach Wizards』(2024)Steam ストアページの公式スクリーンショットより
失敗と、その引き受け方 — 「正直に言うと、この機能はおそらく間違いだった」
自分の企画が最初はつまらなかったことを、本人は何度も書いている。『Gunpoint』の核であるクロスリンクについては、こうだ。「クロスリンクは理論上おもしろいアイデアにすぎず、テスターの多くは『可能性はある』としか言わなかった」。
同じ記事では「『Gunpoint』の最初のいくつかのバージョンには、たいして見どころがなかった」と書き、「それでも『面白いゲーム』と呼べるものではなかった。何年もの思考が必要だった」と続けている(本人ブログ, 2016-06-22 ↗)。初期版の弱さを、隠していない。
『Heat Signature』では機能そのものを間違いと認めている。船体を細かく壊せる仕組みについて、「正直に言うと、この機能はおそらく間違いだった」。同じインタビューで期間にも触れている。「2013年12月にひとりで始めた」「2017年9月にようやくリリースした。3年9ヶ月だ。二度とやらない」(Game Developer, 2018)。
規模の判断も、後から振り返って断言している。「Gunpoint のあとで8人に拡大していたら、次は悪いゲームを作り、そのあとはゲームを作れなくなっていたと思う」(本人ブログ, 2026-01-08 ↗)。
失敗の語り方に癖がある。原因を市場や運に置かない。テスターの反応、開発月数、機能の是非を、そのまま一文で書く。採点表の書き方のままだ。
『Heat Signature』(2017)Steam ストアページの公式スクリーンショットより
ジレンマ — 愛しているものの欠点を、いくらでも言えてしまう
本人が公に悩みとして語っている状態がある。愛しているのに、欠点をいくらでも言えてしまうことだ。XCOM 2 についてこう言っている。「私はそれを愛していて、何百時間も遊んでいる。それでも、何が間違っているかについて永遠に語れる……大きくて、深刻な問題だ」(PC Gamer, 2020)。
これは一作目の講演概要にあった「気まずさ、喜び、罪悪感、そして偽善」と同じ場所から出ている。批評の目を持ったまま作れば、自分の作品も同じ目に晒される。
断言と留保のあいだで揺れる場面も記録に残っている。2025年、多くのゲームが使う一文字ずつの文字送りについて「それは悪いことだと思う……リズムがないからだ」と言った直後、本人はこう付け加えた。「これは科学ではない。これは単なる推測だ」(Game Developer, 2025-03-25 ↗)。
規模のジレンマもある。2026年の助言の一番目は「できるだけ小さくいろ」で、「低い固定費は超能力だ」と書いている。それでいて『Heat Signature』では「2017年の初めで3年が経ち、私は完成させたくてたまらなくなっていたので、プログラミング面を手伝ってもらうために John Winder を雇った」(Game Developer, 2018)。小さくいたい人が、終わらせたくて人を増やしている。
『Tactical Breach Wizards』(2024)Steam ストアページの公式スクリーンショットより
影響源 — Derek Yu、Magicka、ダグラス・アダムス
本人が認めている影響源は、意外に具体的だ。『Heat Signature』の発端は、記者時代の取材そのものだった。「始まりはこういうインタビューだった。ただし私が反対側にいた——私は Spelunky の作者 Derek Yu に、あの大きな区画のレベル生成は3Dに応用できると思うかと訊いていた」(Game Developer, 2018)。当サイトには Derek Yu の考察記事 もある。
魔法の扱いについては『Magicka』を挙げている。「私は Magicka が大好きだ。あれは魔法を、揮発性で複雑な科学として扱う。最も強力な効果は要素を組み合わせて見つかるが、ローブが濡れていることを忘れて雷と蒸気を混ぜ、自分を感電させる確率も同じくらい高い」(PC Gamer, 2020)。
文章の面ではダグラス・アダムスの名前が出る。「『銀河ヒッチハイク・ガイド』はどこへでも行けた。彼が主に、その時点で面白いと思えたものを元にして作っていたからだ」(同)。
そして XCOM 2 は、憧れではなく不満の対象として影響源になっている。この人の場合、好きな作品と直したい作品がしばしば同じものだ。
Kizuki の読み — 採点表を捨てなかった人
ここから先は私の解釈である。私はこの人を「採点表を捨てなかったデザイナー」と読む。
根拠は、言葉の形が14年変わらないことだ。2012年の講演で挙げた説明の四点(どんな種類のゲームか/一番かっこいい独自の点は何か/私は誰でどこにいて何をしたいのか/どう遊ぶかの一例)は、そのままレビュー冒頭に要求される項目でもある。2015年の解決(視覚要素を足さず数値をずらす)は、減点項目を増やさない解き方だ。2018年の巻き戻し(納得するまで手番をやり直せる)は、プレイヤーの試行を採点しないという選択である。どれも「点を引かれないための設計」に見える。
そして2025年、彼は自分の断言に自分で「これは科学ではない」と注記を付けた。九年間ほかの作品に点をつけた人が、いまは自分の判断に注記を付けている。ブログのヘッダーに残る一行 "tom francis regrets this already" は、その姿勢の看板だと私は読む。批評をやめたのではない。批評の宛先を、自分に向け直しただけだ。
おわりに — どこから触れるか
触れ始めるなら『Gunpoint』(2013)がいい。4時間ほどで終わり、「ルールを書いて任せる」がいちばん小さい形で入っている。当サイトのレビューは Gunpoint、音楽の話は Gunpoint のサウンドトラック にある。
「不満が設計に化ける」ところまで見たいなら『Tactical Breach Wizards』(2024)へ。2018年の企画書に書いた巻き戻しが、そのまま遊べる形になっている。
現在は Godot で新作 Project Battleaxe を作っており、開発ログ第1回の題は「The Four Verbs(四つの動詞)」だ(本人ブログ, 2025-06-25 ↗)。動詞を数えるところから始める人だということが、題だけで伝わる。
近い読み方ができるデザイナーとして、レベル生成の話で本人が名前を挙げた Derek Yu、そして設計を長年ブログで公開してきた Daniel Cook の記事も置いてある。番茶を淹れ直して、2012年の講演と2026年の助言を並べて読むと、変わったのは注記の付け方だけだと分かる。
参考文献
本記事で参照した一次資料:
・本人ブログ「GDC Talk: How To Explain Your Game To An Asshole」2012-03-17(GDC 2012 講演の書き起こし)
・本人ブログ「What I Learned From Gunpoint, And How To Make A Game」2012-12-20
・本人ブログ「Game Design: The Non-Stick Plan」2014-01-25
・本人ブログ「Let Me Show You How To Make A Game With No Experience」2015-07-09
・本人ブログ「What To Do If Your Prototype Isn't Fun」2016-06-22
・本人ブログ「Pitch: Tactical Breach Wizards」2018-02-02
・本人ブログ「What Works And Why: Emergence」2018-07-30
・本人ブログ「Project Battleaxe Dev Log 1: The Four Verbs」2025-06-25
・本人ブログ「15 Years of Indie Dev In 4 Bits of Advice」2026-01-08
・PC Gamer「XCOM 2's problems inspired a whole other tactics game」2020-11-10(Jeremy Peel による本人インタビュー)
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