SOUNDTRACK · 2026-07-05

Q.U.B.E. 2 のサウンドトラック — 本物そっくりの、本物でない音

David Housden

はじめに — 白い壁の前で最初に鳴る音

考古学者 Amelia Cross が異星の巨大構造物の中で目を覚まし、白い壁のパネルへ手を伸ばす。Komugi のレビューが扱ったこの一人称視点パズルで、最初に耳へ届くのは角の取れたピアノの一音と、その周りをゆっくり満たす弦とシンセの層だ。開幕を飾る「Milly's Theme」はだいたい 60〜70 BPM ほどの、脈拍より少し遅い歩みで、旋律というより『間』を提示してくる。派手なフックはない。代わりに、部屋の広さと同じだけの余白が音の中に用意されている。

書いたのは David Housden。『Thomas Was Alone』や『Volume』、そして前作 Q.U.B.E. のスコアで知られる作曲家だ。Q.U.B.E. 2 のサウンドトラックは 2018年3月13日、全16曲で公開され、この仕事で彼は英国の作曲家賞 The Ivors(Ivor Novello)のベスト・ビデオゲーム・スコア部門にノミネートされている。『不気味なアンビエンス、きらめくシンセ、そして寂しげなピアノと弦』——彼自身が語るこの音像は、最初の数歩で過不足なく伝わってくる。

体験との隠れたリンク — 地球を模倣する構造物の音

Q.U.B.E. 2 の物語で、この立方体の世界は、地球を再現しようとする異星の知性が作った構造物だとされる。Housden がスコアに与えた命題は、そのまま設定の裏返しだった。彼はインタビューで、すべてが『本物で自然に聞こえるべきだが、そうではない』——表層はなじみ深いのに、奥に奇妙で異質な下地がある音、を目指したと語っている。ピアノや弦が耳に優しいのに、聴き続けるとどこか座りの悪い感触が残るのは、この二層構造のせいだ。

その質感は、シンセプログラマーの Vinko Borčić との協働で作られた音のパレットから来ている。二人は現実の楽器や環境音をさまざまなシンセエンジンに取り込み、元が分からなくなるまで加工した。核には有機的な音源が残り、出力はまったく別の何かになる。つまりこの音は、生録りの美しさと合成音の異物感を、一つの音色の中で同時に鳴らしている。地球そっくりの偽物という世界観が、音の作り方そのものに刻まれているわけだ。

パズル固有の特徴 — 解いている間、音は退く

80 を超える部屋で、あなたは手袋で青・赤・緑のブロックを白いパネルに生やし、跳ね、積み、滑らせて出口を開ける。ここで面白いのは、Housden が『解いている最中』には音楽をほとんど前に出さないことだ。試行錯誤の時間には、音は薄いアンビエンスまで退き、部屋の反響とブロックが生成される効果音に場所を譲る。思考のための静けさが、意図的に空けられている。

そして部屋が解け、扉が開き、次のセクターへ足を踏み入れる瞬間に、ピアノや弦がふっと満ちてくる。無音が続いたあとの一音は、実際の音量以上に大きく聞こえる。これは達成のご褒美であると同時に、次の区画へ進んでよいという合図でもある。ループを鳴らし続けて空間を塗るのではなく、静けさを主成分に置き、解けた瞬間だけ音楽を差す。一人称視点で『広い部屋にひとり』という孤独を、この引き算がそっと支えている。

パズルとのアナロジー — 止まっている時間に寄り添う和音

一人称視点パズルの思考は、一定のリズムを刻まない。壁を見上げ、ブロックの置き場所を探し、しばらく手が止まり、ひらめいて一気に動く。拍の伸び縮みが激しいこの時間に、明確なビートを持つ曲を重ねたら、思考の呼吸とぶつかってしまうだろう。Housden の答えは、テンポを主張しない持続音と、いつ鳴ってもいい和音だ。拍の格子を持たない音楽は、プレイヤーが何秒考え込もうと、決して急かさない。

私はふだん何でも BPM で測る癖があるが、この音楽の前ではその物差しがうまく当たらない。それでいい。パズルの『長考』に必要なのは、時間を刻む音ではなく、時間が流れていることを忘れさせてくれる音だ。解けた瞬間にだけ差し込まれる一音が、止まっていた時計をそっと動かし直す。解くテンポと音楽の構造が、拍ではなく『間』の水準で噛み合っている。

聴くべきトラック — 全16曲から3つ

公式音源は、作曲者 David Housden 自身の Bandcamp と SoundCloud、そして各ストリーミングで配信されている。まずは開幕の「Milly's Theme」。ピアノの一音が余白を連れてくる、この作品の距離感が最も素直に出た曲だ。次に「Forgotten Dreams」——弦とシンセが溶け合い、『本物そっくりの、本物でない』二層構造の手触りがいちばん分かる。締めに近い「Sundered」は、静けさの底から音が持ち上がる構成で、解けた部屋の解放感に近い。

David Housden 公式 Bandcamp: Q.U.B.E. 2 OST(全16曲)↗

David Housden 公式 SoundCloud: Milly's Theme ↗ / Forgotten Dreams ↗

YouTube 公式(David Housden - Topic、配信元による自動生成チャンネル)↗

YouTube には曲名だけの通し動画がいくつも上がっているが、無断アップロードと区別がつきにくいものは引かない。ここでは配信元が自動生成した公式の Topic チャンネルと、作曲者本人の Bandcamp・SoundCloud だけを案内する。静かな部屋で、音量は控えめに。この音は大きくすると仕掛けが見えにくくなる。

おわりに — 私が盗むなら、有機と合成を一音に畳む

自分が曲を作るなら、ここを盗む。『本物そっくりの、本物でない音』という一つのコンセプトを、音色の作り方にまで一貫させたところだ。生録りのピアノや弦をそのまま美しく鳴らすのではなく、一度シンセに通して芯だけ残す。有機的な出自と合成的な異物感が同じ音の中で同時に鳴ると、聴き手は理由の言えない居心地の悪さを覚える——物語が『偽物の地球』を語るなら、これほど雄弁な伴奏はない。DAW でも、一本のピアノ録音をサンプラーやグラニュラーに通し、原音とわずかにブレンドするだけで、この二層の入り口は試せる。

もう一つ盗むなら、解いている間は退き、解けた瞬間だけ差す設計だ。鳴らし続けないことで、一音の価値を上げている。聴き直すなら、何かを考えあぐねて手が止まっている夜が合う。急かさない音がそこにある。同じ一人称視点パズルでも、シンセの持続音で歩行を支えたCOCOON の回や、音を鳴らさないことで思考を生かしたOuter Wilds の回と続けて読むと、『思考の時間に音楽は何をすべきか』という同じ問いへの、それぞれの答えが見えてくる。

参考リンク

David Housden 公式 Bandcamp: Q.U.B.E. 2 Original Soundtrack

David Housden 公式サイト(Housden Music)

GOG: Q.U.B.E. 2 Original Soundtrack(公式配信)

YouTube: David Housden - Topic(配信元による公式自動生成チャンネル)

M Magazine (PRS for Music): David Housden インタビュー(Q.U.B.E. 2 の作曲・The Ivors ノミネート)

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