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SOUNDTRACK · 2026-05-30

COCOON のサウンドトラック — 鳴り続けても壁紙にならない音

Jakob Schmid

🎧 音声で聴く

はじめに — 薄暮の中を歩き出す音

虫のような主人公が薄暮色の風景を歩き出すと、最初に耳へ届くのは輪郭のぼやけた合成音の層だ。Komugi のレビューが扱ったこのメタパズルで、Jakob Schmid が書いた音楽はアコースティック楽器をほとんど使わない。聞こえるのはソフトシンセが描く持続音と、ゆっくり明滅するパッド。だいたいテンポは測れないほど遅く、拍の角が取れている。歩く速度も、世界がほどける速度も、この音に合わせて落ち着いている。

Schmid は Geometric Interactive の共同創業者で、Playdead 時代には INSIDE の音響も手がけた人だ。COCOON の音作りで彼が参照したのは、1970〜80年代のニューエイジ、Tangerine Dream の合成的なサウンドスケープ、そして Vangelis の『ブレードランナー』の巨大な音だという。なるほど、最初の数歩で漂ってくるあの『人工的なのに有機的』な空気は、その系譜だ。

鳴らし続ける設計 — 音楽がゲームと一緒に呼吸している

ここが COCOON の音楽でいちばん持ち帰る価値のある一点だ。背景に流れるアンビエントの大半は、録音された曲ではなく、ゲーム実行中にリアルタイムで生成されている。Schmid は K88・BOB・Modnet・Weather・Wobble といった自作の DSPcore シンセを FMOD 向けにコンパイルし、プレイ中ずっと音楽が『自分の世界で勝手に演奏し続ける』状態を作ったとインタビューで語っている。プレイヤーがパズルを睨んで止まっていても、音は止まらず、けれど同じ小節を繰り返してもいない。

ふつう、解くのに時間がかかるゲームでループ BGM を流しっぱなしにすると、音楽は数分で『壁紙』になって耳から消える。Schmid の答えはループを切ることでも無音にすることでもなく、音楽そのものを生かしておくことだった。生成だから厳密な反復がなく、状態に応じて層が出入りする。だから長考しても飽きが立ち上がらない。これは Outer Wilds が選んだ『鳴らさない』設計とは正反対の解でありながら、目的は同じ——音楽を壁紙にしないこと——だというのが面白い。

もうひとつ隠れたリンクがある。COCOON は『オーブの中に世界、その世界の中にまたオーブ』という入れ子の人工世界だ。音色を全部シンセに寄せ、生身の楽器を排したことが、この『どこまでも作り物の宇宙』という手触りと静かに一致している。サウンドデザインも同じ方針で、Julian Lentz と組んでオーブや機械の効果音まで合成音で統一したという。世界観とパレットが地続きなのだ。

解くテンポと曲の構造 — 角のない拍

COCOON の解き味は、急かされない。歩いてオーブを拾い、台座に置き、世界がほどける。攻略のテンポは、走るのではなく散歩に近い。音楽の構造もこれに合わせて、明確なダウンビートを避け、長い持続音の上で倍音と質感だけがゆっくり動く。私はこういう曲を『拍の角が取れている』と呼んでいる。手拍子を打つ場所が無いから、思考の邪魔をしない。

メタパズルの入れ子構造とも対応している。ひとつの世界を解くと、その外側にもうひとつ大きな枠が見えてくる——音楽もまた、ひとつの層に慣れた頃にそっと別の層が下から立ち上がり、気づくと風景が一段深くなっている。解の発見と、音の変化が、同じ『一段降りる』感覚で設計されている。私が黒コーヒーを淹れ直すあのタイミングと、たぶん同じ呼吸だ。

聴くべきトラック — 生成の海から掬われた12曲

ゲーム内で鳴っていたのは生成音楽だが、Schmid はその核になる要素を編み直して、まとまった12曲・約37分のサウンドトラックとして公開している。流して終わりではなく、『あの場面の空気』を切り出した標本として聴くと面白い。まずは公式プレイリストを通しで。COCOON Original Video Game Soundtrack(公式プレイリスト)↗

個別に拾うなら、合図のように立ち上がる「Signal」、入れ子の宇宙の手触りがいちばん出ている「Cosmic Mystery」、そして層の出入りという生成的発想がそのまま曲名になった「A Dance in Phases」。この3曲を続けて聴くと、生成のベッドがどう『作品』へ畳み込まれたかが分かる。公式音源は Spotify と Steam の OST DLC でも配信されている。

おわりに — 私が盗むなら、状態を聴く伴奏

自分が曲を作るなら、ここを盗む。『鳴りっぱなしなのに飽きない』を、音量や尺ではなく生成と状態追従で解く発想だ。録音された完成品を一本流すのではなく、いくつかの層を用意して、場面の状態に応じて出入りさせる。DAW でも、トラックをいくつかのステムに分けて手で出し入れするだけで、この『壁紙にならない伴奏』の感触は試せる。厳密なループを一度疑ってみるといい。

聴き直すなら、夜、部屋を暗くして手を止めているときが合う。何かを解こうとして止まっている時間に、これは効く。INSIDE の Martin Stig Andersen はクレジットにも名を連ねていて、暗く合成的な音の系譜として併せて辿ると面白い。鳴らさないことで音楽を生かしたOuter Wilds の回と、鳴らし続けることで生かした今回を、ぜひ続けて読んでほしい。同じ問いに、正反対の答えだ。

参考リンク

Steam: COCOON 公式 Original Soundtrack DLC

Jakob Schmid 公式サイト: COCOON Soundtrack(クレジット・使用機材)

公式 YouTube プレイリスト: Cocoon (Original Video Game Soundtrack)

Spotify: Cocoon (Original Video Game Soundtrack)

A Sound Effect: Synthesizing COCOON's Surreal Game Audio(Jakob Schmid / Julian Lentz インタビュー)

SuperJump: The Making of COCOON's Minimalistic, Synth-Filled Universe

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