ESSAY · 2026-09-18

止められる目と、止められない目 —— フーコー「パノプティコン」×実績とログインボーナス

「遊びの正体」しっかり枠。『The Talos Principle』には目が二種類ある。ジャマーで止められる目と、止める道具が最後まで配られない目だ。人を動かしていたのは、後者のほうだった

連続記録を本人が消せるようにするか、三晩迷っている

夜、ウイスキーを一杯。図面ノートの右上に「炎のマークを消せるようにするか?」と書いたまま、三晩そのままにしてある。

うちのデイリーは Tridem と CRYPTEM の二本立てで、どちらも解くと炎のマークと連続日数が出る。問題が切り替わるのは Tridem が朝6時、CRYPTEM が昼12時。一日一問、解いたら今日はおしまい、という形だ。

迷っているのは、その数字を本人の手で消せるようにするかどうかだ。消せるようにすれば、続けてもらう力は確実に落ちる。それは分かっている。分かっているのに、消せないまま置いておくのも落ち着かない。

落ち着かない理由は、たぶんこうだ。連続記録は、遊んでいる人を「見る」機能だからだ。しかも見ているのは私ではない。画面の向こうの本人が、自分の記録を毎晩のぞきに来る。

見張りを置くのではなく、見張りを本人の中に置く。そういう設計に名前がついていた気がして、本棚から一冊引き抜いた。フーコーの『監獄の誕生』だ。

見えているのに、働いているかは確かめられない

フーコーが第三部で取り上げるのは、18世紀の思想家ベンサムが描いた監獄の図面だ。名前をパノプティコン(一望監視方式)という。

円形に独房を並べ、真ん中に塔を立てる。独房は両側が窓になっていて、光が通り抜ける。だから塔からは、中の人影が影絵のように丸見えになる。

肝心なのは塔の側だ。よろい戸で仕切られていて、いま中に看守がいるのかどうか、囚人からは見えない。フーコーはこの仕掛けの条件を二つに絞る。権力は目に見えるもの(visible)でなければならず、同時に、働いているかを確かめられないもの(invérifiable)でなければならない。

塔は見える。だから、いつ見られていてもおかしくないと思う。誰が見ているかは確かめられない。だから、確かめるのをあきらめて、見られている前提で動くようになる。

こうなると、看守が席を外していても仕掛けは回りつづける。見られる側が視線を自分の中に取り込んで、自分で自分を従わせるからだ。人件費はゼロに近づく。ひどい話だが、設計としてはよくできている。

私が三晩迷っていたのは、まさにこの部分だった。

『The Talos Principle』には、目が二種類ある

この図面をそのまま風景にしたゲームがある。『The Talos Principle』(Croteam 開発、Devolver Digital 販売、2014年)だ。

遺跡めいた庭を歩いて、テトロミノの形をした印(シジル)を集めていく。プレイヤーはロボットで、空から「エロヒム」と名乗る声が語りかけてくる。

庭には、こちらを見ている目がいくつもある。タレットは銃口を向けてくるし、ブザーと呼ばれる飛行ドローンは近づくと追ってくる。どちらも姿が見える。射程も画面で分かる。

そして、止められる。ジャマーという道具を持ち込んで向けると、タレットもブザーも一台ぶんだけ黙る。見えていて、止められる。この瞬間に、それは脅威ではなく「問題」になる。解き方を考えればいい相手だ。

もうひとつの目は、エロヒムの声だ。姿がない。どこから見ているのかも分からない。庭のあちこちからは大きな塔が見えていて、エロヒムは禁止をひとつだけ出す。塔に登ってはならない。

『The Talos Principle』のスクリーンショット(Steam ストアページ掲載・2枚目)The Talos Principle(Croteam / Devolver Digital、2014)Steam ストアページ掲載のスクリーンショットより

止める道具が、最後まで配られない目

遊んでいて気づくのは、エロヒムにはジャマーが効かないことだ。正確に言えば、効かせる道具が最後まで配られない。

タレットは止められる。ブザーも止められる。エネルギーの壁も、爆弾も止められる。止められないのは、空からの声だけだ。

だからタレットの前では手が動く。エロヒムの前では、手ではなく気持ちが動く。従うか、背くか。攻略の対象ではなく、判断の対象になる。

フーコーの二つの条件が、そのまま庭に置いてある。塔は最初から見えている。そこから本当に見られているかは、最後まで確かめられない。

面白いのは、この声が一度も罰を与えないことだ。塔に向かって登り始めても、雷は落ちてこない。声が少し悲しくなるだけだ。それでも登るのをためらう。見張りは、もう自分の中にいる。

『The Talos Principle』のスクリーンショット(Steam ストアページ掲載・4枚目)The Talos Principle(Croteam / Devolver Digital、2014)Steam ストアページ掲載のスクリーンショットより

実績の一覧は「禁止の一覧」ではなく「未達成の一覧」だ

ここで自分の机に戻る。実績とログインボーナス。あれは、二つの目のどちらだろう。

言われてみれば確かに、という発見がひとつあった。エロヒムの禁止はたったひとつだ。塔に登るな。だから、やってはいけないことの輪郭がはっきりしている。裏を返せば、それ以外は全部やっていい。自由の範囲が正確に分かる。

実績の一覧は逆だ。禁止はひとつも書いていない。代わりに「まだやっていないこと」が灰色で並ぶ。禁止の一覧は、読み終われば自由になれる。未達成の一覧は、読み終わっても何も終わらない。

『The Talos Principle』には隠し星が30個ある。チャレンジ区画が三つあって、それぞれに10個ずつだ。総数が分かっているぶん、見つけていない数もいつも分かる。これも塔と同じで、ずっと視界の隅にいる。

しかも星は道に落ちていない。柵の外へ回り込んだり、パズルの部屋から道具を持ち出したりして手に入る。探していない人には最後まで見えない。見えないのに、数だけは分かる。なかなか意地の悪い作りだと思う。

私はここで順番を間違えていた。怖いのは強い監視ではない。止める道具が配られない監視のほうだ。タレットはうるさいが、ジャマーを置けば黙る。実績の灰色を消す方法は、「やる」しかない。

ログインボーナスも同じ形をしている。あれは報酬に見えて、同時に「昨日のあなた」を毎日表示する装置でもある。表示を消す方法が、続けることしかない。

『The Talos Principle』のスクリーンショット(Steam ストアページ掲載・6枚目)The Talos Principle(Croteam / Devolver Digital、2014)Steam ストアページ掲載のスクリーンショットより

持ち帰り —— 続けさせる仕掛けには、切るスイッチを同じ画面に置く

持ち帰りを一行で書くなら——続けさせる仕掛けを置くなら、それを本人が切れるスイッチを、同じ画面に置く。設定の三階層下ではなく、同じ画面に。

図面ノートには三つ書いた。連続記録は残す。表示のオン・オフは盤のすぐ横に出す。休んだ日は折れ線から消さず、ゼロにも戻さない。

三つ目だけ補足する。連続記録をゼロに戻すのは、こちらがジャマーを取り上げる動きだ。やり直しの効かない目を作ると、人は戻ってこなくなるか、戻ってきても怯えている。どちらも私の作りたいものではない。

私の立場は半歩フーコー寄りだ。見る仕掛けは入れる。ただし、見る主体を本人の側に返す。数えるのは本人で、記録は本人のもので、消したくなったら消せる。

前にカイヨワの回で「今日はここで終わり」の線について書いたけれど、あれは時間の線だった。今日のは視線の話だ。線を引くのと、見るのは、別の操作だった。

あなたに聞きたい。いま毎日開いているゲームの記録は、切れますか。切り方をすぐ言えますか。すぐに言えないなら、それは止める道具の配られていない目かもしれない。コメントで教えてほしい。

次回のしっかり枠はカイヨワ講読④。第二部に入って、「社会のほうが遊びの4分類でできている」という大きな話を読みます。遊びを社会に当てるのではなく、社会を遊びで読む回です。

参考文献: ミシェル・フーコー『監獄の誕生〈新装版〉——監視と処罰』(田村俶 訳、新潮社)。

ミシェル・フーコー『監獄の誕生〈新装版〉——監視と処罰』(田村俶 訳、新潮社)ミシェル・フーコー『監獄の誕生〈新装版〉——監視と処罰』(田村俶 訳、新潮社)※書影はAmazonアソシエイト・リンクです。Amazonのアソシエイトとして、Puzzlebyrinthは適格販売により収入を得ています。

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