ESSAY · 2026-09-04
遊びがこぼれると、何になるのか —— カイヨワ講読③
「遊びの正体」しっかり枠。4つの衝動が遊びの外に出ると、暴力・迷信・疎外・中毒に変わる。それを分ける線は「強さ」ではなく「枠」だった
毎日つづけさせる設計は、遊びを壊しているのか
「毎日つづけさせる仕掛け」は、遊びを壊しているのか。カイヨワの答えは、私が予想していたのと違った。壊れるかどうかを決めるのは仕掛けの強さではなく、遊びの外に枠があるかどうかだった。
深夜、ウイスキーを一杯。うちのデイリーパズルに連続記録(ストリーク)の表示を入れて、三週間が経つ。数字は素直に伸びた。翌日また来てくれる人の割合も伸びた。それでも図面ノートの余白に、ひとつ書き残していた。「これは、遊びを日常の側へ引っぱり出す仕掛けではないか」。
通知、日替わりの締切、連続記録。どれも「明日また来て」と言うための道具だ。効くから入れる。でも入れるたびに、遊びが少しずつ日常にはみ出していく感じがある。パズルを解いている時間ではなく、パズルに追われている時間が増えていく感じだ。
今日はカイヨワ『遊びと人間』の第三章を読む。題は「遊びの堕落」。前回までで4つの衝動と、その組み合わせを見てきた。今日は、その4つが遊びの外へこぼれたときの話になる。
遊びの条件のうち、二番目がいちばん怖い
カイヨワは本の最初のほうで、遊びの条件を6つ挙げている。自由であること。隔離されていること。結果が決まっていないこと。何も生み出さないこと。規則があること。虚構であること。今日の話に効くのは、二番目だ。
「隔離されている」とは、あらかじめ決められた時間と場所の内側に限られている、という意味だ。盤の上。コートの中。夕食までの30分。ホイジンガが「魔法円」と呼んだものを、カイヨワはもっと事務的な言い方で書き直している。円の話は、この連載の第1回に書いた。
そしてカイヨワは、堕落を「遊びすぎ」の話としては書かない。堕落が始まるのは、遊びが日常生活と混ざり合ったときだ。囲いが消えて、遊びの原理がそのまま現実の中で使われはじめたとき。強くなりすぎて壊れるのではない。境界が消えて壊れる。
これは作り手にとって、少し都合の悪い定義だった。熱中しすぎを防ぐ話なら、報酬を絞るか難易度を下げれば済む。でも原因が境界の消滅なら、絞るべきは強さではなく輪郭のほうになる。逆に言えば、輪郭が濃ければ強い仕掛けでも問題にならない、という話にもなる。
4つの衝動には、4つの落ち先と、4つの受け皿がある
カイヨワは4つの衝動ごとに、遊びの外へ出たときの落ち先を並べていく。アゴン(競争)は暴力や力の行使へ。アレア(運)は迷信へ。ミミクリ(なりきり)は疎外——自分と役の区別がつかなくなること——へ。イリンクス(眩暈)は酔いと中毒へ。ルールのない場所で勝ちに行けば暴力になり、盤のない場所で運を読もうとすれば占いになる、というわけだ。
ここで手が止まった。カイヨワは同じ4つに、まっとうな受け皿も並べているのだ。競争はスポーツや試験や商売の競争へ。運は宝くじや投機へ。なりきりは演劇や制服や儀式へ。眩暈は登山やスキーや速度の趣味へ。どれも遊びの外にある。しかも、堕落ではない。
つまりカイヨワの図式では、衝動が遊びの外に出ること自体は事故ではない。分かれ目は、出た先に新しい枠があるかどうかだ。競技場という枠。宝くじという枠。舞台という枠。ゲレンデという枠。枠を持たずに外へ出た分だけが、暴力・迷信・疎外・中毒になる。
言われてみれば確かに、と思った。私はこの連載でずっと「遊びは円の内側に収めておくもの」と読んでいた。カイヨワはそう言っていない。外に出てもいい。ただし外にも枠を立てろ、と言っている。
時間の囲いを外したゲームと、他人の夜まで届いたゲーム
囲いが外れる場面を、実在のゲームで2本見てみる。ひとつは時間の囲い、もうひとつは他人の日常だ。
『Cookie Clicker』(Orteil / DashNet 開発、Playsaurus 発売。2013年にウェブで公開され、Steam版は2021年)は、クッキーの数を増やすだけのゲームだ。最初は自分でクリックする。でも施設を買うと、指を止めても数字が増え続ける。増え方がプレイヤーの操作ではなく時計に紐づく瞬間がある。カイヨワの言う「決められた時間の内側」は、ここで静かに外れている。
『Cookie Clicker』(Orteil / DashNet、Steam版2021)。Steam ストアページ掲載のスクリーンショットより
誤解のないように書くと、これは欠陥ではない。放置ゲームというジャンルは、囲いを外すことで別の快楽を作っている。「自分が見ていないあいだにも進んでいる」という感覚は、盤の上では絶対に手に入らない。ただ、その代わりに手放したものがある。「閉じたら終わり」という区切りだ。
もう1本は『Rust』(Facepunch Studios、正式リリース2018年)。無人島でサバイバルするゲームで、自分の建てた拠点はサーバー上に残り続ける。だから、寝ているあいだに壊される。ログアウト中の襲撃——オフレイド——は、このゲームのごく普通の風景だ。時間の囲いも空間の囲いも、公式のルールの内側で外されている。
『Rust』(Facepunch Studios、2018)。Steam ストアページ掲載のスクリーンショットより
ここでいちばん唸ったのは、プレイヤー側の反応だった。「オフライン中の襲撃はしない」を掲げるコミュニティサーバーが、いくつも立っている。公式ルールが外した囲いを、遊ぶ側が別のレイヤーで張り直しているわけだ。『For Honor』の回で書いたプレイヤー自発の「名誉の掟」と、まったく同じ形をしている。
一日ひとつだけ届く、という上限
では、日常の側に枠を立てているゲームはあるか。分かりやすい例が『A Little to the Left』(Max Inferno 開発、Secret Mode 発売、2022年)のデイリーだ。ストアページの説明はこうだ——「あなただけの一問が、毎日ひとつ届く」。
『A Little to the Left』(Max Inferno、2022)。Steam ストアページ掲載のスクリーンショットより
届くのは一問。解いたら、そこで終わる。つまりこのデイリーには、続きを遊ばせない上限がある。上限は制限のように見えるが、実は日常の側に立てた枠だ。「今日はここまで」の判断を、プレイヤーの意志ではなくゲームが引き受けてくれる。公開前の紹介記事では、連続記録を切らさなくてもバッジは集まる仕組みだと説明されていた。切らせない設計ではなく、切れても平気な設計になっている。
この形はうちのデイリーパズルと同じだし、『Wordle』(Josh Wardle、2021年)が世界中でやったことでもある。一日一問という設計は、遊びを日常に食い込ませておきながら、食い込む深さを設計側で決めているところが上手い。通知は一日一回、締切も一日一回、そこで打ち止め。
今日の発見はここだ。デイリーは「毎日遊ばせる仕掛け」ではなく、「毎日ここで終わらせる仕掛け」としても読める。同じ機能が、向きを変えると囲いになる。私はストリークの数字ばかり見ていて、一日一問という上限のほうが効いていることに気づいていなかった。
逆から見ると、上限を外した瞬間にデイリーは枠を失う。今日の分を解き終わったあとに「あと3問どうぞ」を出せば、囲いは消える。よくある改善案だし、遊ぶ時間は確実に伸びる。カイヨワの線引きは、ちょうどそこに当たっている。
持ち帰り —— 食い込ませるなら、日常の側に線を引く
1958年の本なので、匂いも書いておく。カイヨワは第二部で、仮面と憑依(ミミクリとイリンクス)の社会から、実力と運(アゴンとアレア)の社会へ、という大きな見取り図を描く。近代は後者だという。文明を段階で並べるこの筆致は、いま読むとはっきり時代のもので、そこは割り引いて読むしかない。ただ「社会そのものが4つの衝動のどれかで組まれている」という発想のほうは、まだ十分に使える。
持ち帰りを一行で書くなら——遊びを日常に食い込ませる仕掛けを置くなら、同じ数だけ「ここで終わり」の線を日常の側に置く。
具体的に、図面ノートに三つ書いた。通知は一日一回、時刻を固定する。今日の分を解き終えたら、次の一問は出さない。連続記録は表示するが、休んだ日を折れ線から消さず、ゼロにも戻さない。強さを絞るのではなく、輪郭を濃くする。どれも数字を下げる方向の変更だが、下がるのは滞在時間で、下がらないのは翌日また開く気持ちのほうだと思っている。
私の立場は半歩カイヨワ寄りだ。デイリーは入れる。日替わりの締切も入れる。ただし、それが遊びを日常に押し出す設計だと認めた上で、押し出した先の枠を自分で用意する。パスカルの回で「開きやすさと同じだけ閉じやすさを設計する」と書いたけれど、あれは器の話だった。今日のは、器の外に引く線の話だ。
最後にあなたに聞きたい。あなたがいま毎日つづけているゲームには、「今日はここで終わり」を決めてくれる線があるだろうか。その線を引いているのはゲームの側だろうか、それともあなた自身だろうか。コメントで教えてほしい。
次回のしっかり枠はA照合型に戻る。ミシェル・フーコー「パノプティコン」×実績とログインボーナス。今日は遊びの囲いを扱ったが、次回は「見られていること」で人を動かす設計を、『The Talos Principle』に出てくる二種類の目から読む。
参考文献: ロジェ・カイヨワ『遊びと人間』(多田道太郎・塚崎幹夫 訳、講談社学術文庫)。
カイヨワ『遊びと人間』(多田道太郎・塚崎幹夫 訳、講談社学術文庫)※書影はAmazonアソシエイト・リンクです。Amazonのアソシエイトとして、Puzzlebyrinthは適格販売により収入を得ています。
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