ESSAY · 2026-08-21

混ぜていい衝動、混ぜてはいけない衝動 —— カイヨワ講読②

連載「遊びの正体」しっかり枠。4つの衝動には、くっつく組み合わせと、決して混ざらない組み合わせがある

一滴だけ足そうとして、消した

深夜、ウイスキーを一杯。前回はカイヨワに教わって、遊びを4つの衝動に割った。締めに「主軸を1本決めて、残りを一滴だけ足す」と書いた。その勢いで、図面ノートに次の案を書いた。デイリーパズルの記録更新モードに、画面が揺れて光が走る演出を足す案だ。眩暈を一滴、のつもりだった。主軸を1本決めて、他の衝動は一滴だけ主軸を1本決めて、他の衝動は一滴だけ(概念図・AI作成)

翌日、自分で線を引いて消した。1秒を削りに来ている人の画面を、こちらの都合で揺らす。想像しただけで邪魔でしかない。同じ一滴でも、混ぜて効くものと、混ぜた瞬間に濁るものがあるらしい。ストップウォッチの上に眩暈を注ぐ——消した案ストップウォッチの上に眩暈を注ぐ——消した案(概念図・AI作成)

その答えは、カイヨワ『遊びと人間』の続きに、そのまま書いてあった。今日は講読の2回目。4つの衝動を「どう組み合わせるか」の回だ。講読②は「組み合わせ」の章講読②は「組み合わせ」の章(概念図・AI作成)

6通りの組み合わせを、3つの箱に仕分ける

おさらいは一行で足りる。アゴン(競争)、アレア(運)、ミミクリ(なりきり)、イリンクス(眩暈)。この4つから2つを選ぶ組み合わせは、全部で6通りある。今日の専門語も、この4つだけで足りる。4つの衝動から作れる組み合わせは6通り4つの衝動から作れる組み合わせは6通り(概念図・AI作成)

カイヨワは、その6通りを並べて終わりにしない。3つの箱に仕分ける。混ぜられない箱、混ぜられるが互いを強めない箱、そして結びついて社会の骨格になる箱だ。分類の分類、と言うと眠くなる。でも作り手が読むと、これはほとんど配合表になる。カイヨワは6通りを3つの箱に仕分けるカイヨワは6通りを3つの箱に仕分ける(概念図・AI作成)

作り手として睨むべきは、禁止の箱より真ん中の箱だと思う。混ぜてはいけない組は、やってみればすぐ気持ち悪くなるので手が止まる。厄介なのは、混ぜられるのに何も強くならない組だ。足したのに手応えが増えない演出は、たいていこの箱にいる。作り手が睨むべきは、真ん中の箱作り手が睨むべきは、真ん中の箱(概念図・AI作成)

くっつく2組 —— 腕と運、仮面と眩暈

強く結びつくのは2組だけだ。アゴン+アレア(腕と運)と、ミミクリ+イリンクス(仮面と眩暈)。カイヨワはこれを「基本的な結合」と呼ぶ。腕と運がくっつく理由は、どちらも決着をつける道具で、しかも出発点を全員そろえるから。ごちゃごちゃした現実の代わりに、きれいな決着をひとつ置く。方法が逆なだけで、やっていることは同じなのだ。強く結びつく2組=「基本的な結合」強く結びつく2組=「基本的な結合」(概念図・AI作成)

遊びの側の見本は『Dicey Dungeons』(Terry Cavanagh、2019年)。毎ターン振ったサイコロの出目が手札になり、その目をどのカードに載せるかを考える。運が配って、腕が使い切る。出目を見た瞬間に勝敗が決まってしまう場面は、ほとんど無い。Dicey Dungeons『Dicey Dungeons』(Steam公式スクリーンショットより)

もう一方のミミクリ+イリンクスは、仮面をかぶることと我を忘れること。カイヨワは祭りや憑依の話をするが、今なら『Beat Saber』(Beat Games、2018年)がわかりやすい。別の身体を借り、その身体ごと音に振り回される。仮面と眩暈は、ほどけないくらい編み込まれている。Beat Saber『Beat Saber』(Steam公式スクリーンショットより)

自分のサイトに引き寄せると、うちのデイリーパズルはこの基本的結合そのものだった。今日の盤面は誰も選べない。そこだけは運だ。しかも全員が同じ盤面を受け取るので、運は差をつけるのではなく、出発点をそろえる役をしている。あとは腕。腕と運の器に、いつのまにかすっぽり収まっていた。運が出発点をそろえ、そこから先は腕運が出発点をそろえ、そこから先は腕(概念図・AI作成)

2組に共通するのは向きだ。腕と運は、勝敗の決定権を自分の外へ渡す。仮面と眩暈は、自分そのものを渡す。同じ方向に手放すもの同士は、混ぜても喧嘩しない。同じ方向へ手放す者同士は、喧嘩しない同じ方向へ手放す者同士は、喧嘩しない(概念図・AI作成)

混ぜられない2組と、足し算にならない2組

逆に、カイヨワが「混ぜられない」と書いたのがアゴン+イリンクス。理由は身も蓋もない。うまく操ろうとすることと、進んで我を失うことは正反対だから。冒頭で自分が消した案は、まさにここに触れていた。実装する前にノートの上で気づけたのは、運が良かった。うまく操ることと、進んで我を失うことうまく操ることと、進んで我を失うこと(概念図・AI作成)

もうひと組の混ぜられないのが、アレア+ミミクリ。変装は、運命の到来とは関係がない。なりきりは自分で仕掛ける遊びで、運は黙って待つ遊びだ。当たりの演出をどれだけ豪華にしても、当たる確率は1ミリも動かない。黙って待つ遊びと、自分で仕掛ける遊び黙って待つ遊びと、自分で仕掛ける遊び(概念図・AI作成)

カイヨワ講読の1回目で、4つそれぞれに「堕落した形」があると書いた。イカサマ、迷信、自分を見失う錯乱、酒や薬。組み合わせの章と並べて読むと、意味が変わって見える。混ぜられない組を無理に混ぜたとき、遊びはただ失敗するのではなく、堕落のほうへ一歩ずれる——カイヨワ自身がそう結んでいるわけではないが、私にはそう読めた。器から溢れると、どの衝動にも堕落した形がある器から溢れると、どの衝動にも堕落した形がある(概念図・AI作成)

残る2組は「偶然的」——混ぜられるが、互いを強めはしない。ひとつはアゴン+ミミクリ。競技が見世物になり、客席が選手に自分を重ねる形だ。スピードランの祭典 Games Done Quick(2010年から続くチャリティイベント)を思えばいい。走者の腕が上がるわけではないが、体験としては別物になる。競技が見世物になるとき競技が見世物になるとき(概念図・AI作成)

もうひとつはアレア+イリンクス、当たりを眩暈で包む形だ。『Vampire Survivors』(poncle、2022年)の宝箱がわかりやすい。中身は1個か3個か5個かの抽選なのに、リールが回り、光と音が段階的に盛り上がる。結果は同じで、開ける時間だけが伸びる。Vampire Survivors『Vampire Survivors』(Steam公式スクリーンショットより)

面白いのは、このゲームがそのリールを後から飛ばせるようにしていることだ。何度も見たプレイヤーには、演出をスキップする道が開く。眩暈は最初のうちだけ効く調味料だと、作り手のほうが先に知っている。回るリールは、後から飛ばせる回るリールは、後から飛ばせる(概念図・AI作成)

禁じ手を、一か所だけ通す方法

では冒頭の案は、あきらめるしかないのか。禁じ手を通した実例が、ひとつある。『Tetris Effect: Connected』(Enhance、2020年。Steam版は2021年)の対戦モード、ゾーンバトルだ。Tetris Effect: Connected『Tetris Effect: Connected』(Steam公式スクリーンショットより)

ゾーンは、ラインを消すと溜まるメーターだ。満タンで発動すると時間が止まり、消したラインが足元に積み上がっていく。発動するかどうか、いつ発動するかは、完全に本人の判断になる。眩暈が、降ってくる演出ではなく、溜めて使う資源に変わっている。ゾーンは、自分で溜めて自分で使う資源ゾーンは、自分で溜めて自分で使う資源(概念図・AI作成)

この形を借りて、消した案を書き直してみた。揺れをこちらから起こすのをやめ、連続正解で溜まるゲージにする。溜まったら好きな瞬間に使えて、使うと盤面が一度だけ大きく光る。使わずに取っておいてもいいし、一度も使わずに終えてもいい。これなら、1秒を削りに来た人の邪魔をしない。書き直した案——溜めるのも使うのもプレイヤー書き直した案——溜めるのも使うのもプレイヤー(概念図・AI作成)

今夜の発見はここだ。アゴンとイリンクスがぶつかるのは、眩暈がプレイヤーの制御の外から降ってくるときだけ。引き金を本人に渡した瞬間、禁じ手はほどける。カイヨワの「混ぜられない」は、じつは混ぜ方の指定でもあったわけだ。引き金を誰が握るかで、混ざるかが決まる引き金を誰が握るかで、混ざるかが決まる(概念図・AI作成)

持ち帰り —— 一滴を足す前に、引き金を誰が握るか

カイヨワはこの2組を、社会にも重ねる。仮面と憑依が回していた社会から、実力と運——役職・試験・くじ——で回る社会へ。人類は前者を追い出した、というのが彼の見立てだ。だとすれば、ゲームは追い出された側にまだ堂々と場所が残っている、数少ない土地ということになる。そこだけは、少し誇らしく読んだ。仮面と憑依の社会から、実力と運の社会へ仮面と憑依の社会から、実力と運の社会へ(概念図・AI作成)

ただ、この見立てには引っかかる点もある。カイヨワは仮面と憑依の側を「未開」の棚に置きがちで、そこは原著が書かれた1958年という年号の匂いがする。よい地図でも、描かれた年の匂いは残る。それでも、追い出された衝動は消えずに別の形で戻ってくる、という指摘のほうは今も効く。よい地図にも、描かれた年の匂いが残るよい地図にも、描かれた年の匂いが残る(概念図・AI作成)

持ち帰りを一行で。他の衝動を一滴足すときは、その引き金を誰が握るかを先に決めること。プレイヤーが握るなら混ぜていいし、こちらが勝手に発火させるなら主軸を殺す。図面ノートの消し跡の隣に、そう書き足した。今夜はここまで。一滴を足す前のチェックリスト一滴を足す前のチェックリスト(概念図・AI作成)

最後にあなたに聞きたい。遊んでいて「この演出、邪魔だな」と思った瞬間はあるだろうか。それは、誰が引き金を握っていたせいだろう。コメントで教えてほしい。次回のしっかり枠はA照合型に戻って、フーコー「パノプティコン」×実績とログインボーナス。今夜は勝手に発火する演出を疑ったが、次回はずっと見られていることを疑う回になる。次回は、ずっと見られている設計の話次回は、ずっと見られている設計の話(概念図・AI作成)

参考文献: ロジェ・カイヨワ『遊びと人間』(多田道太郎・塚崎幹夫 訳、講談社学術文庫)。

カイヨワ『遊びと人間』(多田道太郎・塚崎幹夫 訳、講談社学術文庫)カイヨワ『遊びと人間』(多田道太郎・塚崎幹夫 訳、講談社学術文庫)※書影はAmazonアソシエイト・リンクです。Amazonのアソシエイトとして、Puzzlebyrinthは適格販売により収入を得ています。

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