STAGE-STUDY · 2026-09-19
倉庫番 第1面 — 幅一つの廊下は、箱を一つしか通さない
一面の解剖 #1
はじめに — 第1回は、いちばん有名な一面から
こんにちは、Tokiです。新しい連載「一面の解剖」を始めます。古典パズルゲームの面を、1回に1面だけ、盤面を図に起こして読みます。何を教える面か、どこで詰まらせるか、なぜその形なのか。
先に断っておきます。この記事は面の全解法を含みます。詰まりどころも、最短の手順も、全部書きます。自分で解きたい方は、解いてから戻ってきてください。
第1回は倉庫番の第1面です。倉庫番は1982年、シンキングラビットの今林宏行が発表した箱押しパズル。作品全体の話は既刊の倉庫番(1982)と今林宏行の哲学に譲り、今回は一面だけを見ます。
扱うのは、多くの移植版やオープンソース版に「Original」として収録されている、シンキングラビット作の50面集の第1面です。配置は、UNIX 向け移植 xsokoban の面データ(screens/screen.1)と、別のオープンソース版の面ファイルの2つを照らし合わせて確認しました。1982年の PC-8801 版は20面構成で、その第1面と同じ配置かどうかは、今回は確認できていません。
「【Play】PC-8801 倉庫番 #01 レトロゲーム」(名作レトロゲーム博物館, YouTube)のサムネイルより。PC-8801版の映像で、本記事が扱う「Original」面集の第1面と同じ配置とは限らない。
初期配置 — 19×11 の盤に、箱が6つ、目標が6つ
盤の外形は横19マス、縦11マス。人が歩ける床は56マスです。箱は6つ、目標は6つ。目標は右端の部屋に、縦3×横2の固まりで置かれています。
盤は3つの部屋と1本の廊下でできています。左上に「上の部屋」、左下に「左の部屋」、右下に「目標の部屋」。その3つを、上から8行目を横に走る幅1マスの廊下がつなぎます。
箱の配置を数えます。上の部屋に4つ。左の部屋の入り口(左から3列目)に1つ。廊下の左端、上の部屋から下りてくる細い通路の出口(左から6列目)に1つ。
人はどこにいるか。廊下の下、右寄りの1マスのくぼみです。上に一歩出ると廊下。そこから右へ行けば目標の部屋、左へ行けば廊下の箱にぶつかります。人がいるこのマスは、箱を入れたら二度と出せない袋小路でもあります。
(図解)倉庫番「Original」第1面の初期配置。塗りの四角=壁、角丸の四角=箱、中空の丸=目標、水色の丸=人。配置は xsokoban の面データ(screens/screen.1)に基づく。
目に付く特徴を3つ。第一に、廊下が長い。目標の部屋まで、箱を10マス以上まっすぐ押す必要があります。第二に、上の部屋から下りる通路が2本(6列目と9列目)あり、どちらも幅1です。第三に、目標の部屋は3行×4列で、入り口側の列の上下の角は目標ではありません。
この面が教えること — 説明文なしの4つの事実
第1面なので、出てくる規則は全部が「初めて」です。ただし、説明文はどこにもありません。面の形が黙って教えます。数えると4つあります。
一つ目。押せるが、引けない。人は箱の反対側に回らないと、箱を戻せません。反対側に回れない場所へ押した箱は、そこで固まります。
二つ目。角に入った箱は、二度と出ない。目標のない角へ箱を押し込むと、その瞬間に面は解けなくなります。この面の床56マスのうち、箱を置いた時点で解けなくなるマスは15あります(目標へ戻せるかどうかを逆算して数えました)。上の部屋の天井ぎわ3マス、下の袋小路5マス、人の初期位置などです。
三つ目。並んだ箱は押せない。人が押せるのは1つずつ。2つの箱が一列に並び、その列に沿って壁があると、どちらも動かせません。
四つ目。幅1の廊下は、箱を一つしか通さない。人は箱の後ろにしか立てないので、廊下では押す向きが一つに決まります。廊下の中で箱を2つにすると、三つ目の規則で凍ります。この記事の題は、これにしました。
4つとも、後の49面で毎回使う規則です。第1面の役目は、それを「壁に書かずに体で覚えさせる」ことにあります。機構としての整理は倉庫番系ブロック押しの項もどうぞ。
詰まりどころ — 最初の一押しに、すでに罠がある
初期配置で人が押せる箱は2つだけです。上の部屋の右下の箱(9列目の通路を上がりきった左隣)と、廊下の左端の箱。押し方は全部で3通りしかありません。
(a)上の部屋の右下の箱を、左へ押す。(b)廊下の箱を、左へ押して左の部屋へ入れる。(c)廊下の箱を、下の袋小路から回り込んで上へ押す。
(c)は、押した瞬間に解けなくなります。廊下の箱を6列目の細い通路へ押し上げると、その2マス上には上の部屋の左下の箱があります。押し上げた箱を下ろすには、2つの箱の間に人が立たなければなりません。そこへ入る道はありません。「押せるが引けない」を、初手で教える形です。この状態から解が無いことは、探索プログラムで確かめました。
(b)は、1回なら大丈夫です。ただし2回押すと、左の部屋の箱と横に並び、その下は壁。ここで凍ります。「並んだ箱は押せない」の実演です。
(a)は安全です。というより、これが定跡の入り口です。9列目の通路から上の部屋に入るには、この箱を左へ押すしかありません。
中盤の罠は廊下です。廊下の箱を途中まで押して、次の箱を取りに戻る。すると2つ目の箱が1つ目の後ろに並びます。廊下の上下は壁。人はどちらの箱の反対側にも回れません。この面でいちばん多い詰み方は、たぶんこれです。
(図解)廊下に箱を2つ並べた瞬間のデッドロック。×印の2箱はどちらも動かせない。この状態から解が無いことは探索プログラムで確認した。配置は xsokoban の面データ(screens/screen.1)に基づく。
もう一つは、上の部屋の天井です。上の部屋の箱を上へ押し上げると、上から2行目の天井ぎわに付きます。左右が壁ではなくても、天井に付いた箱は横にしか動けず、その行に目標はありません。「壁ぎわに付けたら、その壁沿いに目標がない限り終わり」。この面では天井の3マスがそれです。
解と分岐 — 最短は230手、押しは97回
最短手数を数えました。人の1歩を1手と数えて230手、そのうち箱を押した回数は97回。自作の幅優先探索(BFS)の結果で、解が見つかるまでに調べた状態は約4,366万でした。押す回数だけを最短にしても97回で、同じ数になります。得られた手順は別の再生プログラムで実際に動かし、6箱すべてが目標に乗ることを確かめました。
手順の骨格は、こうです。まず開幕の3押し。(1)上の部屋の右下の箱を左へ1マス。(2)その上の箱を上へ1マス。これは人の通り道を空けるための一時退避で、後でまた下ろします。(3)上の部屋の左下の箱を、6列目の通路へ1マス押し下げる。これで人は上の部屋から左の部屋へ抜けられます。
次に廊下の箱を、左の部屋側から右へ12回押します。目標の部屋の真ん中の行、いちばん奥まで。続いて左の部屋の箱を右へ14回、その手前へ。真ん中の行が埋まります。
残る4箱は上の部屋から、6列目の通路を通って廊下へ下ろし、右へ運びます。目標の部屋に入って2マス目まで押したら、上または下へ1マスずらし、そこから右へ。奥の列を先に、手前の列を後に。埋まる順番は、真ん中の行→奥の上→奥の下→手前の上→手前の下です。
分岐について。開幕は(a)のほかに、(b)廊下の箱を左へ1回押す入り方もあります。こちらも最短230手で解けます(押しは99回に増えます)。つまり最短手数の解は1本ではありません。ただし開幕(c)から始まる解は0本です。
状態数について。箱の配置と人の到達範囲で区別した状態は、死にマスを除いて1,531,717通りでした。人間はこれを全部見ません。廊下の規則を一度覚えれば、見るべき枝はごく少なくなります。第1面は、探索の量ではなく、規則の理解で解ける面です。
前後の面 — 第2面は箱が10個になる
第1面の前には何もありません。だからこの面は、「押せる・引けない・角は死ぬ・並ぶと凍る・廊下は一つずつ」を一度に教える役目を負っています。
第2面(同じ面集の screen.2)を見ると、盤は14×10と少し小さくなり、箱は10個、目標は左端に縦5×横2の固まりで置かれます。長い廊下の代わりに部屋が細く仕切られ、箱同士の距離が近くなります。第1面で覚えた「並ぶと凍る」を、今度は10個の箱で管理させる作りです。第2面の解剖は、いずれこの連載で。
第1面が6箱、第2面が10箱。数が増えるだけで、規則は増えません。この面集は、規則を最初の一面で出し切り、あとは配置だけで難しくしていく方針だと読めます。同じ1980年代の一室完結パズルとして、エッガーランド(1985)と比べてみるのも面白いと思います。
おわりに — 一九八二年、と書いておきます
1982年。年号を書かないと、どうも記事が終わった気がしません。この面は、その年に生まれたゲームの入り口として、長く遊ばれてきました。
図版を起こして分かったのは、初手に3択があり、1つは即死、1つは2回目で死ぬ、という配分でした。説明文のないチュートリアルとして、ずいぶん厳しい。けれど厳しいから覚える。そういう設計です。
次回は、Chip's Challenge の LESSON 1 か、Microban の第1面を予定しています。あなたが倉庫番で最初に詰まった面はどこでしたか。もしよければ教えてください。
参考文献
配置の確認経路と参照した資料:
・xsokoban(Andrew Myers) — 面データ screens/screen.1(第1面)および screens/screen.2(第2面)。本記事の配置の一次確認経路。
・lieberkind/sokoban: original-levels.txt — 同じ50面集の別ファイル。第1面の配置が xsokoban と一致することを確認。
・Wikipedia English: Sokoban — 1982年 PC-8801 版(20面)、1984年『倉庫番2』(50面)、1988年 Spectrum HoloByte 版などの経緯。
・【Play】PC-8801 倉庫番 #01 レトロゲーム(名作レトロゲーム博物館, YouTube) — 冒頭の画像。PC-8801 版の映像で、本記事の面と同一配置とは限らない。
・最短手数(230手・97押し)、状態数、各デッドロックの判定は、筆者が本記事のために書いた幅優先探索プログラムによる。手順の妥当性は別の再生プログラムで検証した。
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