REVIEW · 2022-01-25

Not For Broadcast

ピー音と視聴率のあいだに座る編集卓

Steam store ↗

第一印象

数字の上では、この作品は割れていない。全言語・全購入経路で 12,566 件中 11,795 件が好評、約94%で、ラベルは「非常に好評」だ(2026-09-28 snapshot)。英語プールだけを見ても 6,466 件中 94%。直近30日も 92% で、下がる気配がない。

ところが本文を読むと、印象は変わる。肯定側がよく使うのは「没入する」「唯一無二の発想」「めまぐるしい」「役者がいい」。否定側は「もぐら叩き」「時間の無駄」「飽きが来る」「作業になる」。褒め言葉と不満が、どうやら同じ場面を指している。

ストアの紹介文によれば、総選挙で新しい政党が地滑り的に勝った直後、報道番組の編集長が姿を消し、清掃員だったプレイヤーが編集卓を引き継ぐ。実写で撮られた生放送を、プレイヤーが後ろから切り貼りする構えだ。

Not For Broadcast のスクリーンショットNot For Broadcast のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の1枚目(Steam スクリーンショット)

メカニクスの言語化

レビュー群から取り出せる動詞は、はじめのうち三つしかない。カメラ映像を切り替える。放送に出せない言葉にピー音をかぶせる。どの話題を流すかを選ぶ。どれも一手で終わる、軽い動詞だ。

問題はその先である。肯定側も否定側も、章が進むたびに仕事が増えたと書いている。否定側の典型的な言い方が「次から次へと機構を放り込んでくる」「もぐら叩きをやらされる」だ。これは Puzzlebyrinth の語彙でいう動詞の加算にあたる。

良い思考系パズルは、たいてい逆を行く。Baba Is You も Sokobond も、動詞の数を絞ったまま、その一つが生む組み合わせを深く掘る。動詞を減らして深さを取る、いわゆる減算の設計だ。

このゲームは深さではなく同時性を足す。肯定側が「めまぐるしい」と書き、否定側が「もぐら叩き」と書くのは、同じレバーの手応えを符号違いで書いたものだ。Papers, Please が「照合する」一語を握ったまま判定表だけを厚くしたのと比べると、方向がきれいに反対を向いている。

Not For Broadcast のスクリーンショットNot For Broadcast のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の3枚目(Steam スクリーンショット)

難しさの手触り

レビュー群を並べると、ここで言う難しさは三つに分かれる。ひとつめは同時処理の速さ。ふたつめは、何がピー音の対象なのかという判定。みっつめは、失敗したあとの再走だ。

否定側がいちばん強く反応しているのは三つめである。「くだらない理由で放送が落ちる」「十分ぶんをまるごとやり直させられる」という書き方が繰り返し出てくる。途中で戻す場所が足りない、という不満だ。

これは The Occupation で見たのと同じレバーだ。やり直しの最小単位を大きくすれば、一手の重さは上がり、同時に失敗の値段も上がる。肯定側の「緊張で没入した」と否定側の「心が折れる」は、そのレバーの両端に立っている。

難しさの質としては、考える難しさではなく、手が足りない難しさである。盤面を読み解く時間は与えられていない。だから、ここでの上達は観察解像度が上がることではなく、手順が体に入ることとして起きる。

Not For Broadcast のスクリーンショットNot For Broadcast のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の5枚目(Steam スクリーンショット)

ゲームデザインの工夫

この作品でいちばん良い着想は、編集という動詞をそのままプレイヤーに渡したことだと思う。何を公衆に見せ、何を切るか。思考系の題材としては筋が良い。Orwell: Keeping an Eye On You や Do Not Feed the Monkeys が扱ってきた領域の、いちばん手前に立つ位置だ。

ただし採点は一本の数値で行われる。視聴者がどれだけ残ったか、である。否定側のレビューに「内蔵の採点者が筋書きの機微を上書きしてしまう」という指摘があり、これは的を射ている。どんな編集方針を取っても、返ってくる答えは一次元に潰れる。

政治的な読みが両方向から来ているのも、そこから説明がつく。ある人は左派に厳しすぎると書き、別の人は中道に寄りすぎていると書く。互いに逆向きの不満が同居しているのは、作品が立場を隠しているというより、採点軸が立場を運べないからだと読むほうが素直だ。

つまりこれは、設計の射程の問題である。編集の裁量を数値一本で評価すると、裁量は最適化に変わる。考えさせたかったものが、視聴率を上げる手順に化ける。この作品の弱点は主張の中身ではなく、主張を計る物差しのほうにある。

Not For Broadcast のスクリーンショットNot For Broadcast のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の7枚目(Steam スクリーンショット)

テンポと尺

レビューに添えられた総プレイ時間は、10時間前後に固まっている。一本の通しはその程度で終わるらしい。ただし結末は複数あり、全部を見ようとすると放送をまた頭から流すことになる。

否定側の「飽きが来る」「半分は作業だ」という言い方は、ほとんどがこの再走に向いている。同じ長い芝居をもう一度見ながら、違う一手だけを入れ直す。分岐の数を増やすほど、見る側の負担が線形に伸びる作りだ。

興味深いのは、20時間以上遊んだ人のレビューにも同じ不満が出ることである。嫌いになったから繰り返しが重いのではない。好きでも重い。ここは尺の設計が素材の長さに負けている場所だと思う。

Not For Broadcast のスクリーンショットNot For Broadcast のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の10枚目(Steam スクリーンショット)

参照したレビュー群

本記事は 2026-09-28 時点の Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。

・Steam: Not For Broadcast(全言語 12,566 件中 11,795 件が好評 = 約94%、ラベル「非常に好評」。英語プールは 6,466 件中 6,095 件が好評 = 94%、直近30日は 67 件中 92%)

・helpful 順の肯定上位10件、helpful 順の否定上位10件、新着6件を読了(計26件)。集計値は Steam のレビュー API が返す query_summary から取った。

・開発元・発売元・配信日・ジャンル表記は Steam の appdetails API が返す値に拠る(NotGames / tinyBuild / 2022-01-25)。

・掲載画像は同じ appdetails API が返したストア掲載スクリーンショットの URL をそのまま使っている。実行環境から Steam の画像配信ホストへ接続できず、画像の中身を目で確かめられなかったため、キャプションでは写っているものを特定していない。

結論

Steam の約94%に対して、私は 7.5 を付ける。少し低いが、理由は出来の粗さではない。動詞を足す方向に舵を切ったこと、そしてその成果を視聴率という一本の物差しで測ったこと、この二点で私は点を引いている。

着想そのものは本物だと思う。生放送の映像を後ろから切る、という盤面を作った作品はほとんどない。実写を素材に使い、切る位置そのものを一手にした判断も効いている。

誰に向くか、という話に落とすのが正確だろう。手が忙しい状態そのものを面白がれる人には、ほかに代わりのない十時間がある。落ち着いて盤面を読み、一手ずつ確かめたい人には、この作品の忙しさは目的ではなく障害物として立つ。難しさは考える側ではなく、追いつく側にある。

Not For Broadcast のスクリーンショットNot For Broadcast のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の12枚目(Steam スクリーンショット)

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