ANALOG · 2026-10-01

Oink Games と『海底探検』(2014) — 全員が同じ空気を吸う、小箱の設計

ひとつの数にコストを2つぶら下げる / 空気は卓の真ん中で全員が数える / 「引き返しは1回だけ」を守らせる物は箱に無い

今日の手触り: 小さい。そして、全員が同じ箱の空気を吸う

今日の手触り: 小さい。そして、全員が同じ箱の空気を吸います。

今日の題材は、オインクゲームズ(Oink Games)と、その代表作『海底探検』(Deep Sea Adventure、2014)です。

どちらも「小ささ」の話から始まります。小さい箱に、迷う場所をほとんど残さない。そのやり方が、デジタルのパズルを作る人にもそのまま使えます。

今回は、会社のやり方と、1本のゲームの仕組みを、順に分解します。

『海底探検』の遊び方を解説する動画のサムネイル「How to Play Deep Sea Adventure」(FailroadExpress, YouTube)のサムネイルより

物の説明: 2010年に法人になった、小箱の会社

オインクゲームズの設立は2010年5月26日。代表は佐々木隼さんです(公式の会社概要より)。

佐々木さんは、もとはデザイナーです。インタビューによると、2010年のゲームマーケット申し込みをきっかけにゲームを作り始めました。

最初の作品『ストレイシーフ』を1000個印刷することになり、バーコードやAmazon販売に対応するため法人にした、と語っています。会社の始まりは、印刷数でした。

箱の寸法は、海外の記事で「11×6.5×3.5cm」と紹介されています(Tabletop Gaming)。この数字は1つの媒体の記載なので、「とされる」としておきます。

理由は、同じ記事で「棚に置きやすく、倉庫と輸送も楽だから」と説明されています。インタビューでは、海外の出版社から「箱が小さすぎて高く見える」と言われたものの、押し切ったそうです。

私は新しい箱を手にすると、まず重さを量ります。今回は実物を持っていないので、量れませんでした。グラム数の代わりに、寸法の話だけを書きます。

代表作の『海底探検』は、佐々木隼さんと Goro Sasaki さんの共同デザインです(Tabletop Gaming、Board Game Wire)。2〜6人で、およそ30分遊びます。

ルールブックによれば、中身は次のとおりです。ダイス2個(目は1〜3)、ダイバー駒6個、酸素マーカー1個、潜水艦ボード1枚、宝チップ32枚(4段階×各8枚)、白紙チップ12枚。

2024年8月の時点で、累計30万部以上が印刷されたと報じられています(Board Game Wire)。新版の予告も同じ記事にあります。

なぜ紙と手で成立するか: 空気は、みんなの目の前にある

ルールの芯は、共有の空気です。酸素マーカーは25から始まります。

自分の手番のはじめに、持っている宝チップの数だけ、マーカーを0へ進めます。宝を3枚持てば、その手番で空気が3減る。

空気は全員で1つです。だから、欲張った1人が、全員の残り時間を食います。

次に、動き方です。ダイス2個を振り、出目の合計から持っている宝の数を引いた分だけ進みます。宝が増えるほど、遅くなる。

手番の順は4つです。呼吸(空気を減らす)、引き返しの宣言(1回だけ、宝を持っているとき)、遊泳、宝の処理(拾う・置く・何もしない)。

(図解)持っている宝チップ0〜5枚ごとの、1手番で減る空気の量。持つほど棒が高くなる(図解)宝を持つほど、1手番で減る空気が増える。ルールブックの「呼吸」の手順より

ここで、手触りの話をします。この仕組みが紙で成り立つのは、減る空気が全員から見える位置にあるからです。

誰かの宝が増えるたび、卓の全員が「あと何手持つか」を同時に数えます。数える作業を、ルールが各自に任せずに、卓の真ん中に置いている。

もう1つあります。引き返しの宣言は、1回しかできません。ルールブックの要約の範囲では、引き返した印を示す専用の部品は挙がっていません。

ここは、私が急に厳しくなる箇所です。「1回だけ」を守らせる物が、箱の中にありません。守るのは、卓の人の記憶と良心です。

もちろん、30分の小さなゲームで、そこが壊れることはまれでしょう。それでも、穴は穴です。デジタルなら、この穴は一行で塞がります。次の節で戻ります。

もう1つ、地味な点を挙げます。宝を落とすと、白紙チップが穴埋めに入り、ラウンドの終わりに外されて列が詰まります。落とした分だけ、道が短くなる。

潜水艦までの道が、遊ぶほど短くなります。これも、部品を並べ替えるだけで済む仕組みです。

デジタルに移すと: 消えるもの、残るもの、足せるもの

消えるものは、「みんなで数える」時間です。空気が減る様子を、卓の全員が黙って見つめる。あの沈黙は、数字が自動で減ると薄くなります。

それから、顔です。誰かが宝をもう1枚拾った瞬間の、全員の表情。画面の中では、その表情が見えません。

残るものは、共有の1本の数字と、持つほど重くなる2つのコストです。空気と移動、2つのコストを同じ「持つ数」で動かす作りは、そのまま画面に移せます。

仕様が単純なので、移植で壊れる所もほとんどありません。ここは、移すのが楽な設計です。

足せるものは、さっきの穴の修理です。引き返しは、画面なら状態として持てます。「1回だけ」を、誰も覚えておく必要がなくなる。

もう1つ足せるのは、巻き戻りです。手番を戻せるようにすると、押しが弱くなる。ここは足さないほうがよい例かもしれません。

「持つほど遅く、持つほど空気を食う」は、パズルの外でも見ます。持ち物が増えるほど動きが鈍る作りは、整理や収納を扱うゲームに通じます。

事典では、近い項目に「整理・収納」があります。整理・収納を開くと、荷物の制限を扱う作品が並びます。事典には「押しどき(続けるか降りるか)」の項目はまだ無いので、追加候補として記録します。

推理側の話もします。他人の欲張りを読む遊びは観察と推理と地続きです。

隠れた情報の作り方は、私のこれまでの記事にもあります。Hanabiは「見えない自分の手札」、ラブレターは「見ないまま外す1枚」でした。『海底探検』は逆に、隠さずに、全部を見せています。

作る人へ: コストを2つ、同じ数にぶら下げる

持ち帰りを1つだけにします。コストを2つ用意するときは、同じ1つの数にぶら下げてください。

『海底探検』では、空気の減りと移動の遅さが、どちらも「持っている宝の数」で決まります。ルールを覚える量は、実質1つです。

プレイヤーが覚えるのは「持つと重くなる」の1行だけ。残りは、数字が勝手に結果を出します。

小箱の会社が教えてくれるのも、同じ話です。1つの制約に、複数の意味を持たせる。部品も、説明書も、小さくなります。

デジタルでは箱の大きさの制限がありません。だからこそ、自分で「小さい箱」を決めてください。

おわりに

小さい箱は、手の中で終わる大きさです。『海底探検』は、その大きさのまま、30分の欲張りを丸ごと入れています。

最後に、問いです。あなたのゲームで、「1回だけ」の約束を、人間の手に任せますか?

任せるなら、破られる場面まで一緒に設計することになります。任せないなら、破れない代わりに、「守った」という手柄も画面から消えます。

決めてから作ると、たぶん早いです。

参考文献

Oink Games 公式「About」— 設立日 2010年5月26日、代表 Jun Sasaki ↗

BROAD「【作者直撃】オインクゲームズ佐々木隼氏にゲームデザインについて聞いてみた」— 創業の経緯、小箱へのこだわり ↗

Tabletop Gaming「The Iconic Oink」— 箱の寸法、共同デザイン、小箱の理由 ↗

Deep Sea Adventure ルールブック PDF(英語)— 部品、空気25、手番の手順、3回の潜水 ↗

Board Game Wire(2024-08-20)— 累計30万部以上、新版の予告 ↗

tbgd レビュー — プレイ人数、時間、共同デザイナーの確認 ↗

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