DESIGNER-STUDY · 2026-09-30
Tomáš Dvořák の哲学 — 物語は単純でいい、空気と感情を鳴らす
『Machinarium』『Samorost 3』と、待つ作曲
はじめに
Tomáš Dvořák(トマーシュ・ドヴォルジャーク)は、チェコの作曲家だ。Floex(フローエクス)の名でも知られる。Amanita Design の『Samorost』『Machinarium』などの音楽を手がけた人物である。
今回は、パズルを設計する人ではなく、パズルの空気を設計する人を読む。番茶を淹れて、2009年・2010年・2013年の3本のインタビューを並べた。彼は「感情」と「待つこと」を、繰り返し語っていた。
『Machinarium』のスクリーンショット(Steam ストアより)
経歴 — 音楽家であり、美術も学んだ
本人は「音楽家が本業だが、視覚芸術のアカデミーで学んだ」と語っている。「I'm a musician mainly, but I studied at the Academy of Visual Arts.」(Game Developer 2009)原典 ↗。
Amanita Design のメンバーは同じ場所に住んでいない。彼は「オンラインで顔を合わせている」と言い、3か月前の集まりで初めて会った人も多かったと話す(同上)。遠くから絵に音をつける仕事なのだと分かる。
哲学 — 物語は単純でいい。大事なのは空気
Machinarium について彼はこう述べる。「The story is rather simple. For me what's very important is the atmosphere of the scene.」(Game Developer 2009)原典 ↗。
2010年のポーランド語インタビューでも、サウンドトラックは物語の無意識的で感情的な層に働く、という趣旨で語っている(gamemusic.net 2010)原典 ↗。
2013年には「For me, the emotions are still the most important message of the music.」と言い切った(Igloo Magazine 2013)原典 ↗。4年を隔てても、軸は「空気」から「感情」へ同じ方向を向いている、と読める。
こだわり — 抽象とメロディのあいだ
繰り返し出てくるのは、抽象と旋律の綱引きだ。「There's always this tension between abstraction and melody.」(Game Developer 2009)原典 ↗。
また、音の実験は二度と同じ川には入れない、つまりその場の偶然が計画した構想と対になる、という趣旨の発言もある(gamemusic.net 2010)原典 ↗。狙って作る部分と、起きてしまう部分の両方を大事にしているように読める。
失敗と乗り越え方 — 待つ、そして怖がるのをやめる
2009年の時点で、彼は自分の癖をこう話す。「Sometimes my approach will feel like too much of a cliche. What I've found out is that before I start to do some music, I should wait a bit.」(Game Developer 2009)原典 ↗。ありきたりに感じたら、書き始める前に待つ。これが彼の対処だ。
2013年には、Machinarium が自分を変えたと語る。「I stopped being afraid—I was always trying to solve problems with my music beforehand.」(Igloo Magazine 2013)原典 ↗。
さらに Samorost 3 では、小編成の楽譜を書いてから電子的に発展させる当初の方法が、ゲームの空気に合わなかったと話している(同上)。そこで、より実験的な作り方に切り替えた。うまくいかなかった方法を、本人が公に認めている点は注目に値する。
ジレンマ — 計画した音か、起きてしまう音か
本人がはっきり悩みとして語っているのは、上の「抽象とメロディの緊張」と、計画と偶然の関係の二つだ。私はこの二つ以外を、彼のジレンマとして書かない。
2013年には、音響エンジニアと自分を「ちょっとした陰と陽」だと言う。「He's rational and very technical...I am very emotional and musical.」(Igloo Magazine 2013)原典 ↗。理屈と感情が組む場所で、この緊張は扱われているように読める。
影響源 — 夢、空想、無意識
影響源として本人が挙げているのは、作品名ではなく感覚だ。「I like very much the world of fantasy and an approach that comes from something unconscious.」(Game Developer 2009)原典 ↗。
Machinarium を「夢のような、非現実の世界」と呼び、画面が自分の感覚に近いと話した(同上)。具体的な作品や人物の名は、私が読んだ範囲では挙がっていない。憶測で補うことはしない。
Kizuki の読み
ここだけは私の解釈だ。私は彼を「待てる作曲家」と読む。ありきたりを感じたら待つ、手法が合わなければ捨てて変える。2009年の言葉と2013年の実践が、同じ姿勢でつながって見える。
ただし本人はそこまで言っていない。私が見出した一本の線にすぎない。間違っている可能性も、読者と一緒に残しておきたい。
おわりに
まず『Machinarium』を、音を意識して遊んでみてほしい。物語は単純でも、場面ごとの空気が音で決まっているのが分かるはずだ。その先で『Samorost 3』を遊べば、方法を変えた後の音に触れられる。
関連する作り手としては、同じ Amanita Design の Jakub Dvorský(designer-dvorsky)を先に読んでおくと、絵の側から見た同じ世界が分かる。Machinarium のレビュー / Samorost 3 のレビュー
参考文献
本記事で参照した一次資料:
・Interview: Floex And The Music Of Machinarium, Game Developer(Jeriaska), 2009-11-04
・Tomas Dvorak (Floex) インタビュー, gamemusic.net(Mariusz Borkowski), 2010-01-21
・Tomas Dvorak talks Floex, Samorost 3 and Machinarium, Igloo Magazine, 2013-10-12
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