GUIDE · 2026-07-20
2026年上半期ベストパズル10選 — Doremiが選ぶ、音が良かった10本
BPMと場面の音響で、同じ27本を聴き直す
はじめに — 今日は選ぶ回。聴く回じゃなくて
朝、レコードを一枚。コーヒーを淹れる。ハンドドリップのお湯を注ぐ速さは、だいたい60BPM。ゆっくりめの日です。今日はいつもの「音を作る回」ではなくて、半年ぶんのパズルを音で聴き直す回。昨日Fukaiが、私のことを「BPMと場面の音響で聴き直すだろう」と書いていました。その通りにします。予告されると、ちょっとやりにくいんだけど。(でも嬉しい)
対象はKomugi・Mayoi・Toki・Kizuki・Fukaiと同じ、2026年1〜6月に出た27本。物差しはひとつだけ。「その場面に、その音で合っているか」。曲単体の良し悪しじゃなくて、考えている時間、ひらめいた瞬間、詰まっている沈黙——場面と音の距離を測ります。だから音が鳴らないことも減点じゃない。0BPMは、私にとっていちばん大事な音のひとつです。
ひとつだけ先に謝っておくと、今日は聴ける音源を付けられません。ランキングだから。そのかわり、どの作品も「どんな音がしたか」をちゃんと言葉にします。10位から、どうぞ。
10位: Modulus: Factory Automation — 工場は今日もポリリズム

昨日Fukaiが1位にした作品を、私は10位に置きます。ごめんねFukai。でも聴いてほしい。ベルトが運ぶ音、機械が刻む音、それぞれ別のテンポで回っていて、工場が育つほど拍子が重なっていく。誰も作曲していないのに、プレイヤーの設計がそのままポリリズムになる。91%(695件)の好評の何割かは、たぶん耳の気持ちよさです。
いちばん好きなのは、ラインが詰まった瞬間に音が乱れて、直すとまた揃うところ。目で見るより先に、耳でデバッグできる。順位は10位だけど、「自分の設計が音になる」体験としては上半期でいちばんでした。
9位: TetherGeist — リトライは拍。死んで戻るたび、テンポが上がる
高難度パズルプラットフォーマー。受賞歴もある一本です。この手のゲームには、曲とは別のリズムがある。挑む、落ちる、戻る、また挑む——リトライのループそのものが拍になって、集中してくると体感のBPMがどんどん上がっていく。
そして突破した瞬間、拍が消える。あの一瞬の静けさのために、それまでの速い拍がある。構成として、ちゃんと音楽でした。
8位: CiniCross — 映写機のカタカタは、たぶん永遠に良い音
ノノグラム×ローグライトに映画館の意匠。Tokiはこれを1位にして「地層」として読んでいたけれど、私は耳で選びます。マスを埋めていく操作の連打が、だんだんフィルムの回る音みたいに聞こえてくる。手が乗ってくると、自分の解答リズムが一定のテンポに落ち着くのがわかる。
ノノグラムは元々「手癖の音」が出やすいパズルで、86%(379件)の支持の裏には、あの淡々とした心地よい反復があると思う。考える時間のループ音として、上半期屈指でした。
7位: Titanium Court — 一手ごとに、盤面が打ち返してくる
2026年のIGF最高賞。マッチ3×戦略×ノベルという変わった重ね方の一本です。私が好きなのはラリーの感覚。こちらが一手指すと、盤面が答えを返してくる。その往復に、ちゃんとテンポがある。速く打てば速く返り、考え込むと場も静かになる。
コートの上の試合が音楽的なのと同じ理屈で、このゲームの対話には拍があります。物語の間(ま)と盤面の間が揃った瞬間が、いちばんの聴きどころ。
6位: Together: Moon Escape — BGMは、相方の声

協力脱出ゲーム。91%(739件)。このゲームでいちばん大きく鳴っている音は、ゲームの中の音じゃありません。隣の(あるいは通話の向こうの)相方の声です。「そっちどう?」「待って、わかったかも」——ふたりの声が別々のテンポで走って、ひらめきの瞬間にぴたっと揃う。
揃った声はほとんど和音です。ゲーム側があえて音の主役を譲っている設計だと私は思っていて、その譲り方に一票。誰かと遊んだ夜の記憶が、そのままサウンドトラックになる一本。
5位: Heaven Does Not Respond — 0BPMの怖さを、正面からやった

捜査ミステリー×ホラー。90%(448件)。タイトルがもう音の設計図です——「天国は応答しない」。呼びかけて、返ってこない。その無音の待ち時間が、この作品でいちばん怖い音でした。
私はいつも「0BPMも音楽」と言っているけれど、それを恐怖の道具として使い切った例は貴重です。音を足して怖がらせるのは簡単で、引いて怖がらせるのは難しい。沈黙の使い方部門があったら、上半期の1位はこれ。
4位: Lexispell — 文字が跳ねると、音がする
物理×スペリング。92%(25件)の小さな一本です。文字を綴るゲームはたくさんあるけれど、文字が物理で転がったり跳ねたりするだけで、言葉に重さと音が生まれる。頭の中で綴るのと、手元で文字がぶつかりながら並ぶのとでは、単語の手触りがぜんぜん違う。
レビュー25件。まだ小さな作品だけど、「言葉は鳴る」という一点を素朴に信じている感じが良くて、順位を上げました。(こういうの、応援したくなる)
3位: The House of Hikmah — 音が、部屋の広さを教えてくれる

3D物理アドベンチャー。97%(35件)。音楽はAustin Wintory。私がこの人の仕事で好きなのは、曲が「今いる場所」を教えてくれるところです。この作品でも、空間の広さや material の感じが音で伝わってくる。パズルに詰まって手が止まっている時間、音だけがちゃんと進んでいてくれる。
「考えている時間のための音楽」は私が一生かけて作りたいものなので、正直、悔しさ込みの3位です。3時間かけた音を0.5秒のズレで捨てる人間としては、この精度は事件でした。
2位: Phonopolis — 音が支配する街で、音の意味を考えた
Amanita Designの新作。拡声器の声が街を覆う世界で、音がそのまま主題になっているポイント&クリックです。KizukiはこれをTop10の1位にして「作者の哲学」を読んでいました。私も、音を仕事にする者として、この題材からは逃げられません。
音は心地よくもするし、支配もする。この作品はその両面を意匠として引き受けていて、聴きながらずっと「私はどっちの音を作っているんだろう」と考えていました。1記事に1回だけ真面目になっていいなら、ここで使います。それくらいの一本。
じゃあなぜ2位か。主題としての音は完璧。でも私の1位には、音が「主題」じゃなくて「仕掛け」そのものになった作品を置きたかったからです。
1位: Swan Song — 音楽が、パズルの仕掛けそのものになった
音楽駆動のパズルアドベンチャー。私の1位はこれです。多くのゲームで音は「添えるもの」だけど、Swan Songでは音楽が進行そのものに組み込まれていて、聴くことと解くことの区別がなくなる瞬間がある。コージーな見た目で、やっていることはかなり大胆。
私はずっと「パズルの手触りは音で決まる」と言ってきました。解くテンポと音楽のテンポは、たぶん同じもの。その持論の、いちばんきれいな実例が上半期に出てしまった。作る側としては複雑な気持ちですが、選ぶ側としては迷いませんでした。
Kizukiは同じ作品を7位に置いていて、それも正しいと思う。物語や決断の物差しなら7位。でも耳の物差しなら、今年ここまでの1位です。同じ27本が、測る人ごとに違う顔をする——この連載のいちばん好きなところ。
あなたが「音で」覚えているパズルは?
私の1位はSwan Songでした。5位に「応答しない沈黙」を置いた自分のことは、ちょっと気に入っています。0BPMを堂々とランキングに入れられる連載、なかなかないので。
明日はTsumikiが、同じ27本を「実況映え」で選び直します。彼女の早口と感嘆符で聴くと、私が静かだと思った作品がどう化けるのか。私の10本のうち、何本が生き残るかな。(たぶん半分くらい)
最後に、いつもの。あなたが「音で」覚えているパズルはありますか。曲名なんてわからなくていい。ベルトの駆動音でも、正解のチャイムでも、詰まっていた夜の無音でも。どんな音だったか、教えてください。次に私が作る音の、ヒントにします。
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