STAGE-STUDY · 2026-10-03

Microban 第1面 — 目標の上の箱を、いちど外に出す

一面の解剖 #2

はじめに — 第2回は、2000年の「練習用」面集の第1面

こんにちは、Tokiです。「一面の解剖」第2回は、Microban の第1面を読みます。この面が教えることは一つです。目標の上に最初から載っている箱は、いちど外に出さないと解けない。箱は2つ、床は14マス。それだけの面に、初心者がやりがちな失敗が3つ、きちんと仕込んであります。

先に断っておきます。この記事は面の全解法を含みます。最短の手順も、詰む手順も、全部書きます。自分で解きたい方は、解いてから戻ってきてください。

Microban は、David W. Skinner が 2000年に公開した155面の倉庫番面集です(公開年は後述の itch.io 版の説明文による)。倉庫番そのものは1982年、シンキングラビットの今林宏行の作。前回の倉庫番 第1面では箱6つの面を読みました。今回は箱2つです。

配置は、GitHub で公開されている2つの面ファイル(GerardMT/Sokoban-Editor の microban1.lvl と、stahta01/sokoban-1 の microban.txt)を照らし合わせて確認しました。さらに、本記事で求めた最短手数が、オンライン版 sokoban-game.com に残る記録(33手・8押し、2026-10時点)と一致することも確かめています。Microban の面を遊ぶプレイ動画のサムネイル「Sokoban Original & Extra (Microban 1-20)」(Heartburn Mode, YouTube)のサムネイルより。移植版の画面で、本記事の図とは見た目が異なる。

初期配置はどうなっているか — 床14マス、箱2つ、目標2つ

盤は外壁を含めて横6マス、縦7マス。床は14マスしかありません。箱は2つ、目標も2つ。そして箱の片方(図のA)は、最初から目標の上に載っています。

形を言葉にすると、縦に長い部屋の右側に、2マス×2マスの張り出しがついた形です。左の列(1列目)は、上から下まで5マス続く細い通路。その上の端、2列目のいちばん上に、空いた目標が1つあります。(図解)Microban 第1面の初期配置。縦長の部屋の右に2×2の張り出し。左の列に目標の上の箱A、張り出しの入口に箱B、人はAの右(図解)Microban 第1面の初期配置。塗りの四角=壁、角丸の四角=箱、塗りつぶした角丸=目標の上の箱、中空の丸=目標、白い丸=人。配置は GitHub 上の2つの面ファイル(microban1.lvl / microban.txt)に基づく。

人は3行目の2列目、Aのすぐ右にいます。もう1つの箱Bは張り出しの入口、4行目3列目。Bは上下を壁に挟まれているので、押せる方向は左か右だけです。右へ押すと張り出しの隅に入り、二度と出てきません。

目に付く特徴は、左下の3マス(4行目1列目、5行目1列目、5行目2列目)です。ここは行き止まりの小部屋で、入口は2つしかありません。Aのいる3行目1列目と、その右下の4行目2列目。この小部屋が、面の鍵になります。

この面は何を教えるか — 「置けた箱」は終わりではない

新しく教えることは3つあります。前回の倉庫番第1面で出た「押せるが引けない」「隅に入れた箱は死ぬ」は、ここでは復習です。

1つ目。目標の上の箱は、ゴールであると同時に障害物でもある。Aは最初から正しい場所にいます。けれどAがそこにいる限り、人は左の通路を通れず、小部屋にも入れません。Aをいちど目標から外し、あとで戻す。この面は、その往復を要求します。

2つ目。箱は、人にとっても壁である。Bを左へ1つ押すと、小部屋の入口が2つとも箱でふさがります。人は小部屋に入れません。Bを上へ押すには小部屋の中に立つ必要があるので、その瞬間に打つ手が無くなります。

3つ目。箱を「仮置き」する。Bを目標へ運ぶ途中で、いったん関係のない場所(3行目3列目)へ寄せ、Aを戻してから、またBを運び直す。回り道ですが、これしか道がありません。

数字を一つ。床14マス・箱2つのこの面で、初期配置から到達できる箱の置き方は55通りです。そのうち解ける配置は14通りで、残りの41通りはその時点で詰んでいます(筆者の幅優先探索による)。到達できる配置の4分の3が死に配置。この小ささに、それだけの罠が入っています。

どこで詰まるか — 初手4通りのうち2つが即死

初手に取れる押しは4通りです。Aを上へ、Aを下へ、Bを左へ、Bを右へ。このうちBの2つは即死です。

Bを右へ押すと、張り出しの隅(4行目4列目)に入ります。二方を壁に囲まれた角です。これは前回の復習。

Bを左へ押すのは、初見の人がいちばんやる手です。目標のある2列目へ、素直に寄せる。でもこの瞬間、AとBが小部屋の入口を2つともふさぎます。人は小部屋に入れず、Bを上へ押す位置に立てません。箱はどちらも動かせるのに、もう解がない。前回の廊下の詰みとは種類が違います。箱ではなく、人の方が閉め出される詰みです。(図解)箱Bを左へ1つ押した直後。Aと Bが左下の小部屋の入口を2つともふさぎ、斜線の3マスに人が入れない(図解)Bを左へ押した瞬間のデッドロック。斜線の3マスが左下の小部屋。入口は3行目1列目(A)と4行目2列目(B)の2つだけで、どちらも箱。人はここに入れず、Bを上へ押す位置に立てない。この配置から解が無いことは探索プログラムで確認した。配置は同じ面ファイルに基づく。

Aを下へ押すのは、死にません。ただし意味もありません。Aが4行目1列目にいると小部屋はやはり閉じます。小部屋の下から押し戻せば元に戻れるので、2押しの往復がむだになるだけです。

正解の初手はAを上へ。Aは2行目1列目に移り、左の通路が開きます。ところが、ここから先にもう2つ罠があります。

1つは「戻すのが早すぎる」罠。Bを左へ押したあと、人は上を回って1行目1列目に立てます。そこからAを下へ押して、目標に戻したくなる。戻した瞬間、図2とまったく同じ形になります。小部屋は閉じ、終わりです。

もう1つは「Bを一直線に運ぶ」罠。Aを上に置いたまま、小部屋に入ってBを上へ上へと押し、1行目2列目の目標まで入れてしまう。Bは目標に載ります。でもAを戻すには1行目1列目に立つ必要があり、そこへの道はBとAの両方でふさがれています。やはり解がありません。

つまりこの面の詰みは3種類です。箱が角で死ぬ。人が閉め出される。押したい方向の反対側に立てない。たった14マスで、倉庫番の詰みの型が3つ出そろいます。

最短の解はどう進むか — 33手、押しは8回

最短は33手、そのうち押しが8回です。筆者が書いた幅優先探索で求め、別の再生プログラムで手順をなぞって検証しました。押し8回で解く手順は1通りしかありません(8押しで到達できる経路を数えて確認)。sokoban-game.com に残る記録も33手・8押しで、一致します。

手順を、押しだけで書きます。① Aを上へ(人は4行目1列目から)。Aは2行目1列目へ。② Bを左へ(人は4行目4列目から)。Bは4行目2列目へ。③ 人は左の通路を下りて小部屋に入り、Bを上へ。Bは3行目2列目へ。④ 人は3行目1列目に回り、Bを右へ。Bは3行目3列目に仮置き。

⑤ 人は上を回って1行目1列目に立ち、Aを下へ。Aは目標(3行目1列目)に戻る。⑥ 人は右を回って3行目4列目に立ち、Bを左へ。Bは3行目2列目へ。⑦⑧ 人は4行目2列目に回り、Bを上へ2回。Bは1行目2列目の目標に入って、完成です。

記法で書くと dlUrrrdLullddrUluRuulDrddrruLdlUU(小文字=移動、大文字=押し。u=上 d=下 l=左 r=右)。

分岐はほとんどありません。④の「Bを3行目3列目へ仮置き」は、Aを戻す間、Bを2列目からも小部屋の入口からも外しておける唯一のマスです。右へもう1つ押せば角で死ぬので、ここに置くしかない。最短解が1通りしかないのは、この一点のためです。

手数を気にしなければ、初手にAを下へ押して戻す、といった寄り道はできます。でも箱の通る道そのものに別解はありません。

前後の面との並び — 第2面は、箱3つのうち2つが最初から目標の上

Microban の第1面なので、前の面はありません。前にあるのは倉庫番そのものです。箱6つ、床の広い「Original」第1面が規則を4つ黙って教える面だったのに対し、Microban の第1面は規則を1つに絞り、箱を2つに減らしました。練習用として設計された面集の、最初の1枚です。

第2面(外壁込みで6×7、箱3つ)では、箱3つのうち2つが最初から目標の上にあり、空いている目標は1つだけです。「置けた箱をどかすか、どかさないか」という同じ問いが、箱を1つ増やして繰り返されます。配置は同じ2つの面ファイルで確認しました。

Skinner の面集はこうして、1面につき1つの概念を足していきます。ふつうの面集が「難しさ」の順に並ぶのに対し、Microban は「教える順番」で並んでいる。その点で Chip's Challenge の LESSON 面に近い作りだと、筆者は見ています。

Skinner は Microban をどう説明したか

Skinner 本人が面集に添えた説明文が残っています。要約ではなく、訳して引きます。

「このセットは初心者と子ども向きです。パズルの多くは小さく、それぞれ1つの概念を示しています。経験のある人にも面白いはずです。この大きさで作れる限り、互いに違うものにしたからです。倉庫番中毒の方は、全セットを解くタイムを計ってみてもいいでしょう。面白いけれど、私の通常のセットに入れるには易しすぎると思ったパズルも、ここに入っています」(訳は筆者。原文は sokoban-game.com の Microban ページ、および au voleur! による itch.io 版の説明文に転載されたもの)

「それぞれ1つの概念を示す」。第1面の概念は、目標の上の箱を外に出すこと。本人の言葉どおりの面です。

おわりに — 二〇〇〇年、と書いておきます

床14マス。箱2つ。押し8回。それで詰みが3種類。小さな面ほど、設計者の手つきがよく見えます。

筆者は、年号を書かないと記事が完成した気がしません。Microban が公開されたのは2000年。倉庫番の誕生から18年。倉庫番の規則が、遊ぶものから「教えられるもの」になっていた年です。今夜はそれを肴に、燗を一本つけます。

次回は Chip's Challenge の LESSON 1 か、Microban の第2面を予定しています。あなたは Microban の第1面で、Bを先に押しましたか。それともAでしたか。よければ教えてください。

参考文献

配置の確認経路と参照した資料:

・GerardMT/Sokoban-Editor: levels/microban/levels/microban1.lvl — Microban 第1面の面データ。本記事の配置の一次確認経路。

・stahta01/sokoban-1: data/sokoban/levels/microban.txt — 155面を収めた別の面ファイル。第1面・第2面の配置が上と一致することを確認。

・sokoban-game.com: Microban Level 1 — オンライン版の面ページ。最良記録(33手・8押し、2026-10時点)と、Skinner による面集の説明文を参照。

・Microban I (by David W. Skinner) — au voleur!, itch.io — ブラウザで遊べる PuzzleScript Plus 版。155面・2000年公開の記述と、Skinner の説明文の転載を参照。

・ticalc.org: Microban (TI 電卓への移植、2001年) — 2001年の時点で155面集として流通していたことの傍証。

・Sokoban Original & Extra (Microban 1-20)(Heartburn Mode, YouTube) — 冒頭の画像。移植版の映像。

・最短手数(33手・8押し)、到達可能な箱配置の数(55通り、うち解ける14通り)、各デッドロックの判定は、筆者が本記事のために書いた幅優先探索プログラムによる。手順は別の再生プログラムで検証した。

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