REVIEW · 2023-08-09
違う冬のぼくら
二人でしか開かない、二つの景色
第一印象
Steam の評価ラベルは、どの言語で読むかによって変わる。2026-09-21 時点で、全言語・購入経路を問わない集計は 12,896 件。うち 11,804 件が肯定で、91% になる。ラベルは「非常に好評」だ。
ところが英語のレビューだけに絞ると、5,933 件中 5,640 件で 95%。ラベルは「圧倒的に好評」に上がる。日本語プールは 491 件中 432 件で 88%、「非常に好評」。簡体字中国語プールは 2,098 件中 1,633 件で 78% まで落ち、ラベルは「やや好評」になる。
同じゲームである。同じ版で、同じ仕掛けを遊んでいる。それでも英語と簡体字中国語のあいだには 17 ポイントの開きがあり、Steam が掲げるラベルは三段階ちがう。この開きがどこから来るのかを追うのが、今回の読解だ。
先に骨だけ置いておく。三つのプールが共通して怒っているのは、設計ではない。共通しているのは売り方の話で、割れているのは「二人でしか遊べない」という条件をどう受け取ったか、である。
違う冬のぼくら のキービジュアル(Steam ストア キーアート)
メカニクスの言語化
本作は二人専用だ。一人では起動しても先へ進めない。二人は同じ道の上に立っているのに、画面に映るものが違う。片方には森が見え、もう片方には機械の街が見える。
肯定側が繰り返す言い方は「同じ景色を見ていない」「相手の画面を信じるしかない」の二つに集約できる。英語プールでは communication、trust、perspective という語が上位に並ぶ。片方が美しい森を眺めているあいだ、もう片方はひどい眺めを押しつけられている、と笑いに変えるレビューもある。
Puzzlebyrinth の語彙でいえば、これは動詞の分割である。走る・跳ぶ・持つといった動詞そのものは平凡で、パズルプラットフォーマーの標準から出ない。新しいのは盤面の情報のほうだ。一人が持てる観察解像度を、作り手が意図して半分に落としている。
だから解法は手順ではなく会話になる。Keep Talking and Nobody Explodes が説明書と爆弾を別々の人間に渡したのと同じ発想だ。ただし We Were Here Forever は二人を別の部屋に閉じ込めた。本作は同じ一本道に並べたまま隔てる。隣にいるのに見えているものが違う、という形をとる。
違う冬のぼくら のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の1枚目(Steam スクリーンショット)
物語の手触り
肯定側も否定側も、話題は途中から物語に移る。家出した二人の少年、という入口に対して、進むほど陰惨な題材が顔を出すからだ。
肯定側の典型は「笑って、泣いて、終わったあと黙った」という形をとる。友情について考えさせられた、と書く日本語レビューが目立つ。結末は複数あり、役を入れ替えてもう一周する前提で作られている。
否定側の言い分も一貫している。会話が長い、飛ばせない、筋が唐突、そして「かわいい見た目で売っておいて内容の注意書きがない」。英語プールでは grotesque という語と、警告の不在を責める指摘が上位に入る。簡体字プールはもう一歩踏み込み、日本的な語り口そのものが合わないと書く。
どちらも同じものを見ている。作り手は二人の関係を試すために物語を重くした。その重さを効いたと取るか押しつけと取るかは、隣にいる相手との距離で変わる。出来の良し悪しではなく、設計の射程の問題だ。
違う冬のぼくら のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の2枚目(Steam スクリーンショット)
難しさの手触り
パズルそのものの難しさについて、レビューはあまり割れない。仕掛けは素直で、詰まる場所は手順ではなく伝達のほうにある。
繰り返し出てくるのは方向の取り違えだ。自分の右は、向かいにいる相手の右ではない。方向感覚のない相手と組んで満点を付ける、という書き方の肯定レビューがある。笑い話の形をしているが、難しさの所在を正確に指している。
一方、簡体字プールの否定側には別の指摘が積まれている。二人の仕事量が釣り合わない、という不満だ。片方が考えているあいだ、もう片方は言われたとおりに動くだけの道具になる場面がある、と書かれる。跳躍や物の持ち方の判定が厳しい、という声もここに重なる。
この偏りは、情報を割ったことの裏面である。見えるものを半分ずつにすれば、考える側と動く側は生まれやすい。設計上ほぼ避けられない副作用で、どちらの役に当たるかで体験そのものが別物になる。難しさは人によって別の顔をしている。
違う冬のぼくら のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の3枚目(Steam スクリーンショット)
参照したレビュー群
本記事は 2026-09-21 時点の Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、繰り返し現れる主張を再構成している。
・Steam: 違う冬のぼくら / BOKURA(全言語・購入経路を問わない集計で 12,896 件中 11,804 件が肯定 = 91%、ラベル「非常に好評」。英語プール 5,933 件中 5,640 件 = 95%「圧倒的に好評」、日本語プール 491 件中 432 件 = 88%「非常に好評」、簡体字中国語プール 2,098 件中 1,633 件 = 78%「やや好評」)
・WebFetch で読了: 英語の helpful 順 肯定上位 10 件と否定上位 10 件、日本語の同 否定上位 10 件と肯定上位 8 件、簡体字中国語の同 否定上位 10 件、全言語の新着 8 件 — 計 56 件
・開発元・発行元・配信日・対応言語・紹介文は Steam の appdetails より。Friend's Pass が早期アクセス期に存在したことは公式アナウンスで確認したが、提供終了の時期と理由について公式の説明は確認できていない。本文の記述はレビュー側の申し立てに基づく。
・本稿の画像は Steam の appdetails API が返した URL をそのまま使っている。URL の実在は確認したが、実行環境から Steam の画像配信ホストへ接続できず、中身の目視確認はできていない。そのためキャプションは内容を特定しない表記にとどめた。
結論
冒頭のラベル差に戻る。三つのプールの否定側を読み比べて最初に目につくのは、不満の中身が思ったほど違わないことだ。どのプールでも上位を占めるのは、早期アクセス期にあった Friend's Pass への抗議である。1本買えば相手も遊べたその仕組みが、正式版で無くなった。同時に価格も下がった。その経緯を各国のレビュアーが並べて書いている。
つまり最大の不満はゲームの外にある。早く買って応援した人ほど損をした、という話だ。この主張が上位に来る点では、英語も日本語も簡体字も揃っている。
差がつくのはその先である。英語プールの否定はおおむねそこで止まる。簡体字プールはさらに、部屋が立たない、回線が切れる、役割の仕事量が偏る、語り口が合わない、と積み上げていく。二人が同時に卓につく必要のある作品では、回線と相手の確保がそのまま点数に乗る。条件の重い遊びは、条件を満たしにくい場所で安く見積もられる。
設計の観点から、私は 8.0 を付ける。観察解像度を二人に割るという一手だけで、平凡な動詞の組み合わせが会話に化けている。視点・遠近トリックを一人の頭の中で完結させず、二人のあいだに置いた設計だ。減点は、割ったことの副作用である役割の偏りへの手当てが薄いこと。それと、二人を同時に揃えろという要求を作品側が引き受けきれていないことである。
Steam の 91% は妥当な数字だと思う。ただしその 91% は、相手が見つかった人たちが付けた点である。レビューで言及されるクリア時間は一周およそ 4〜5 時間、複数の結末まで見ても 7 時間前後という声が多い。短い。短いからこそ、隣に座らせられる相手が一人いるなら、これは安い買い物だ。
違う冬のぼくら のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の4枚目(Steam スクリーンショット)
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