REVIEW · 2012-05-07
Botanicula
空振りが、ごほうびであるあいだは
第一印象
肯定側の語彙は、ゲームの語彙ではない。動く絵。子どものころ庭の丸太をひっくり返して虫を眺めた感じ。かわいい。ばかばかしい。頭がくらくらする。helpful 上位の positive を並べてみる。褒め言葉の矛先は、仕掛けではない。画面から返ってくる反応そのものに向いている。
否定側の語彙は、ほとんどが手続きの語だ。手当たり次第にクリックするだけ。順序も理屈もない。これはゲームというよりインタラクティブ・アートだ。ある否定レビューは一行で済ませている。意味がわからない、と。
集計はこうだ。2026-09-22 時点、全言語で 6,714 件中 6,401 件が好評。割合にして 95%、ラベルは「圧倒的に好評」である。英語プールだけでも 3,109 件中 95% で、比率は動かない。否定は全体の5%にすぎない。
ただし、この5%を開くと妙なことが起きる。記録時間がきれいに二つの山に割れるのだ。本稿はその割れ目を追う。
Botanicula のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の1枚目(Steam スクリーンショット)
世界観
この作品には台詞がない。五匹の主人公は、ぴいぴい鳴く音とハミングだけで意思を伝える。ある肯定レビューは、親と並んで遊んだ時間を「二人だけの秘密の生態系」と呼んだ。音楽はチェコのバンド DVA が担当したと発表されている。別のレビューはその音を「とても変わったバンドのリハーサル」と書いた。
舞台は一本の木で、場所は150を超えるとストアは説明する。肯定側が繰り返すのは、隠れたアニメーションの多さだ。押すと何かが動く。押すと何かが鳴く。画面がいちいち返事をする。Puzzlebyrinth の語彙で言えば、これは観察解像度を上げるための燃料である。
開発者は自作を、熱心なゲーマーにもその家族にも年配の人にも向くリラックスしたゲームだと書いている。レビュー群を読むかぎり、この説明は半分だけ当たっている。くつろげたと書く人は多い。同時に、くつろぐはずの画面の前で検索窓を開いた人も、確かにいる。
Botanicula のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の2枚目(Steam スクリーンショット)
メカニクスの言語化
動詞を数えると、ここにもひとつしかない。クリックする、だけだ。取り消しもなく、持ち替えの妙もほとんどない。動詞の減算という点では、CHUCHEL と同じ地点まで進んでいる。
違いは、減算した先に何を置いたかにある。CHUCHEL は各面に固有のギャグを置いた。Botanicula が置いたのは反応の密度だ。PC Gamer の Richard Cobbett は本作に82点を付け、その解き味を「演繹ではなく消去法」と書いた。批判の形をしているが、設計の記述としては正確だと私は思う。
消去法が遊びとして成り立つ条件は、ひとつしかない。空振りが何かを返すことだ。外したクリックが小さな動きや音を返すなら、試行は損ではなく収集になる。肯定側の「押すたびに何か起きる」という報告は、この条件が満たされている証拠である。
裏を返せば、条件が崩れた瞬間に同じ設計は総当たりに見える。ここから先の賛否は、ほぼこの一点で説明がつく。
Botanicula のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の3枚目(Steam スクリーンショット)
難しさの手触り
否定レビューを主題で数えてみた。helpful 上位20件のうち、理屈が通らない・総当たりだという訴えが8件で最も多い。そもそもパズルではないが4件、セーブ関連の不具合が4件、短さと値段が2件だった。
同じ20件を記録時間で並べ直すと、別の絵が出る。「ゲームではない」と書いた人たちは、9分、10分、23分、26分で降りている。「理屈が通らない」と書いた人たちは106分から485分、つまり2時間から8時間を使っている。5%の否定は一枚岩ではない。
私の読みはこうだ。前者は空振りの報酬に気づく前に降りた。後者は報酬が効かなくなる場所まで進んだ。話が進むほど、生き物と持ち物と場所の組み合わせは増えていく。候補が掛け算で膨らめば、空振り一回の費用も上がる。組み合わせ爆発である。ある否定レビューは、1時間に2回は動画を見たと書いている。
肯定側にも矛盾がある。3時間で実績まで終わる簡単なゲームだ、という声と、注意力の要る歯ごたえのあるパズルだ、という声が同じプールに並ぶ。詰まりの原因が難しさではなく見落としだからだ。見落としの起きやすさは人によって違う。だから私は難しさを「易」と付け、それでも詰まる人は必ず出ると付け加えておく。
Botanicula のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の4枚目(Steam スクリーンショット)
系譜と位置づけ
レビュー群に最も多く現れる固有名詞は、ジャンル名ではなく同じスタジオの旧作だ。Machinarium である。肯定側は「Amanita はやはり外さない」の意味で挙げ、否定側は「あちらのほうが入り込めた」の意味で挙げる。同じ一本が、保証としても比較対象としても使われている。
棚に並べてみると位置がはっきりする。Samorost 3 は道具を一本与えた。フルートを吹き、返る音で道を選ぶ。Creaks は光という規則を一枚置いた。CHUCHEL は規則を置かず、代わりにギャグを置いた。Botanicula は規則の代わりに反応の密度を置いた作品である。
プロとユーザーのずれも、結局は同じ一点に集まる。PC Gamer は驚くほど曖昧だという点を減点の理由に挙げ、ヒント機能が欲しかったと書いた。ユーザーの肯定側は、その曖昧さを隅まで触ってよい理由として受け取る。台詞を捨てて世界を触れる玩具にするスタジオの方針は、Jakub Dvorský の哲学 を読むと背景がつかめる。本作のデザイナーは Jaromír Plachý と発表されている。
Botanicula のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の5枚目(Steam スクリーンショット)
参照したレビュー群
本記事は 2026-09-22 時点の Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。
・Steam: Botanicula(全言語 6,714 件中 6,401 件が好評 = 95%、ラベル「圧倒的に好評」。英語プールは 3,109 件中 95%)
・helpful 順の肯定上位10件、helpful 順の否定上位20件、新着8件を読了(計38件)。集計値は Steam のレビュー API が返す query_summary から取った。
・PC Gamer: Botanicula review(Richard Cobbett、82点)
・掲載画像は Steam の appdetails API が返したストア掲載スクリーンショットの URL をそのまま使っている。実行環境から Steam の画像配信ホストへ接続できず、画像の中身を目で確かめられなかったため、キャプションでは写っているものを特定していない。
結論
Steam の 95% に対し、設計の観点から私は 7.8 を付ける。手描きの密度と音の設計は、2012年の作品としてまだ古びていない。差し引いた分は後半にある。候補が増えた場所で、空振りの報酬が費用に追いつかなくなるからだ。
これは欠陥というより射程の問題である。向いているのは、画面をつつくこと自体が楽しい人、子どもと並んで眺める人、音を目当てに買う人。向いていないのは、手順を推論して当てる快感を買いに来た人だ。
否定レビューの記録時間が教えてくれるのは、この作品が最初の30分で人を選ぶということである。30分を越えた人の不満は、まったく別の場所から出てくる。買う前に見るべきなのは点数ではなく、自分がどちらの山に入りそうかのほうだと私は思う。
Botanicula のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の6枚目(Steam スクリーンショット)
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関連レビュー
Happy Game
眠りに落ちた男の子の悪夢を、三つの章にわたって歩いていくポイント&クリックのアドベンチャー。画面のどこかを引いたり回したりして道を開けるが、待っているのは笑顔のマークとピンクのうさぎ、そして血の色をした部屋だ。Machinarium の Amanita Design が初めてホラーへ振った一作で、曲はチェコのバンド DVA が担当している。
CHUCHEL
毛玉のような主人公が、相棒であり邪魔者でもある Kekel と一粒のサクランボを奪い合いながら、30の短い面をくぐり抜ける Amanita Design のコメディ・アドベンチャー。動詞はクリックひとつだけで、押すたびに手描きアニメーションのギャグが返ってくる。
Samorost 3
拾った真鍮のフルート一本で、台詞も文字もない九つの小さな星を巡るポイント&クリック冒険。岩や生き物や機械に音を吹き込み、返ってくる反応を頼りに道を開いていく、Machinarium の Amanita Design による一作。




