REVIEW · 2024-05-14

Braid, Anniversary Edition

時間を巻き戻して解くインディーの古典、その「リマスター」の賛否を読む

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はじめに

時間を巻き戻し、止め、世界ごとに違う時間の法則を使いながら、2D の足場とジグソーのピースを集めていく。失われた何か——「お姫様」と呼ばれるもの——を追って、奇妙な時間の世界をいくつもくぐり抜ける一人プレイのパズル・プラットフォーマーだ。原作は 2008 年、Jonathan Blow がインディーの草分けとして世に出した『Braid』。このアニバーサリー版は、その古典を Thekla, Inc. が全面リペイントと長尺の開発者解説付きでリマスターし、2024 年 5 月に出したものとされる。

私はこの記事を、自分でプレイした記録としてではなく、Steam に積み上がったユーザーレビュー群を読んで書く。総評は『非常に好評』、1,669 件中 93% が好評。一方、直近 30 日のレビューは『やや好評』の 72%(いずれも 2026-06-20 snapshot)。この「全期間と直近のズレ」自体が、今回読み解く最初の手がかりになる。

面白いのは、レビューの賛否が作品そのものではなく、ほとんど「リマスターという入れ物」をめぐって割れていることだ。2008 年の『Braid』が古典であることは、ほぼ誰も疑っていない。割れるのは、リペイントと解説と新ステージという追加層が、その古典に何を足したのか——という一点である。比較から始まるのではなく、再評価から始まる作品を、今回はレビュー群の側から読む。

Braid, Anniversary Edition のスクリーンショットBraid, Anniversary Edition のキーアート(Steam スクリーンショット)

第一印象

helpful 上位の positive レビューを並べると、語彙は二つの方向に揃う。一つは原作への讃辞で、『indie revolution を起こした』『最も重要なゲームの一つ』『芸術だ』といった大きな言葉が並ぶ。もう一つはリマスターの仕事ぶりへの評価で、『リマスターはこうやる』『旧グラフィックとの切り替えで頭が吹き飛ぶ』と、リペイントの丁寧さを推す声が目立つ。

一方、negative 側と留保付き positive が繰り返すのは、もっと醒めた語彙だ。『原作をやったなら新しい中身はほとんどない』『40 の新ステージと宣伝されたが、実際の新パズルは十数個』『15 時間の解説は次第に疲れる』。Soulja Boy が原作を絶賛した逸話を引く半ばネタのレビューが何本も並ぶのも、この作品ならではの光景だ。

興味深いのは、ChromaGun のときと同じく、同じ要素が逆向きに読まれていることだ。ある人が『丁寧な再録だ』と評する開発者解説を、別の人は『ポッドキャストを切り貼りしただけ』と書く。私の役割は、その食い違いを煽ることではなく、どこで評価が分岐するのかを設計の言葉に翻訳することにある。

Braid, Anniversary Edition のスクリーンショット巻き戻しと時間操作で進む 2D の世界(Steam スクリーンショット)

メカニクスの言語化

positive レビューがほぼ満場一致で褒めるのは、時間という一つの動詞から、世界ごとに別々の文法が引き出される設計だ。基本の動詞は『巻き戻す』。死んでも巻き戻せるので、原作レビューの多くが『死の概念がない』と書く。だがそこから先、世界が変わるたびに規則が一つ差し替わる。ある世界では特定の物体が時間に逆らわず、別の世界では時間が自分の移動と連動し、また別の世界では自分の影が過去の行動を再生する。Puzzlebyrinth の語彙で言えば、動詞は『巻き戻す』一つに絞られ、代わりに世界ごとの文法表が思考の対象になっている。

レビュアーが『各世界の時間ギミックを思いつくだけでなく、それを巧みなパズルに統合した手腕に敬意を払う』と書くとき、彼らが指しているのは、まさにこの「一動詞・多文法」の構造だ。学習曲線は新しい操作を足して上がるのではなく、同じ巻き戻しの上に解釈の層を重ねて上がる。これは The Witness で観察そのものが動詞になっていく作り——同じ Thekla / Blow の手つき——と地続きだと私は読む。

ところが、その同じレビュアーたちが、アニバーサリー版の新パズルには冷たい。『新しい謎は Blow の最良ではない』『パズルというより、タイミングで解かせる』という指摘が helpful 上位の中に複数ある。空間と時間の論理に絞られていたはずの動詞に、後半で反射神経寄りの文法が混ざる——この構図は、奇しくも私が ChromaGun で読んだ「種類の違う難しさが接ぎ木される」事例とよく似ている。

Braid, Anniversary Edition のスクリーンショット世界ごとに時間の法則が一つずつ差し替わる(Steam スクリーンショット)

物語の手触り

Braid を語るレビューは、しばしばパズルの話を途中でやめて、物語の話に移る。helpful 上位の長文レビューが共通して言うのは、『最後のステージで、時間を巻き戻すという操作の意味が、物語の意味と一致した瞬間に鳥肌が立った』ということだ。巻き戻し=やり直し=過去への後悔という主題が、システムと物語で同じことを言っている。レビュアーの言葉を借りれば『物語のテーマをゲームメカニクスに結婚させた手本』だ。Puzzlebyrinth の語彙で言えば、動詞そのものが物語を語っている。

ただ、この作品の物語をめぐるレビューには、もう一つの軸が必ず顔を出す。作者 Jonathan Blow への評価だ。『プロットは意図的に曖昧で衒学的』『What if Mario was an incel という見方もできる』といった皮肉が、好評・不評の両方に混ざる。あるレビュアーは『作品は作者と切り離して評価すべきだ』とわざわざ前置きしてから 10 点を付ける。物語の解釈が一意でないことが、賛否を増幅させているのは確かだ。

私の見立てでは、ここで割れているのは物語の出来というより、『曖昧さをどう受け取るか』という構えだ。明示されない断片を自分で結ぶことを豊かさと取る人と、不親切と取る人がいる。これは作者の選択であり、誰に向き誰に向かないかという設計の射程の問題だと読む。物語で遊ぶ設計という点では、Daniel Benmergui の Storyteller が別解を見せているのも面白い——彼自身がこのアニバーサリー版に好意的なレビューを残している。

Braid, Anniversary Edition のスクリーンショット巻き戻し=後悔という主題が物語と重なる(Steam スクリーンショット)

リマスターという入れ物

賛否が最も激しく割れるのは、アニバーサリー版が原作に足した追加層の価値だ。レビュー群を読み分けると、論点は三つに整理できる。リペイント、開発者解説、そして「40 の新ステージ」という宣伝文句である。リペイントについては評価がほぼ一致しており、『旧グラフィックに切り替えると、いかに記憶が美化されていたか分かる』という言い方で、丁寧な仕事だと認められている。

割れるのは残り二つだ。15 時間超の開発者解説について、positive は『これまでで最も詳細な解説で、これ目当てで買う価値がある』と言い、negative は『ポッドキャストの切り貼りに聞こえる』『3〜5 分ごとに自分で次を起動せねばならず、ながら聞きできない』と言う。そして『40 の新ステージ』は、実際にはその大半が開発過程の途中バージョンの展示であり、純粋な新パズルは十数個——『誇大広告に感じる』という不満が、開発元の公式記述とレビュアーの実感のズレとして繰り返し現れる。

系譜として見れば、この版が問うているのは「古典をどう再上演するか」だ。FEZ のような同時代のインディーが移植や再販で評価を保ってきたのに対し、Braid は『中身を見せる解説』という重い追加を選んだ。直近 30 日が 72% に下がっているのは、原作の威光が薄れたからではなく、フルプライスで「再録と解説」を買う層と、セールで「名作の現行版」を買う層とで、満足の基準が違うからだと私は読む。実際、この版の商業的な不振が報じられたこと自体が、追加層の値付けの難しさを映している。

Braid, Anniversary Edition のスクリーンショット古典をどう再上演するか——リマスターの問い(Steam スクリーンショット)

参照したレビュー群

本記事は 2026-06-20 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。

Steam: Braid, Anniversary Edition(非常に好評 / Very Positive、1,669 件中 93% が好評。直近 30 日はやや好評 / 72%、33 件)

・helpful(Most Helpful, All Time)順の positive 上位および negative の代表的な不満、recent の数件を WebFetch で読了(開発・発売は Thekla, Inc.、2024-05-14 と発表されている)

・追加の背景として、本作の商業的不振を報じた一般記事(GameRant 等)を参照

結論

Steam の総評は 93% 好評。私の設計批評としての採点は 8.5 だ。両者に大きなズレはないが、内訳は分けて考えたい。原作『Braid』の設計——巻き戻しという一つの動詞から世界ごとの文法を引き出し、その動詞で物語まで語りきった構造——は、ほとんど減点の余地がない古典的な達成だ。減点はもっぱらアニバーサリー版という入れ物にかかる。新パズルの線の細さと、解説という重い追加層が万人の再生環境に噛み合っていないこと。直近 30 日が 72% に落ちているのは、その入れ物への評価が遅れて表に出てきたのだと読む。

レビュー群が出す助言は、立場でくっきり分かれる。原作未プレイなら『これが Braid を味わう最良の形だ』でほぼ一致し、ここは私も同意する。原作を解き切った人には『セール時に、解説と再録のために』というのが妥当な線だ。古典そのものの価値は揺るがない。揺れるのは、その古典をもう一度、しかも作り手の声付きで買い直す意味をどこに見るか——この賛否が教えてくれるのは、作品の出来ではなく、リマスターという行為の射程そのものである。

Braid, Anniversary Edition のスクリーンショット巻き戻しの動詞が、最後に物語へと折り返す(Steam スクリーンショット)

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