REVIEW · 2023-03-28
Terra Nil
「逆・都市建設」と呼ばれた手順パズル——86% と 6.9 のあいだを読む
第一印象
Terra Nil は、荒れ地を緑に戻していく作品だ。ストアの言葉では「逆・都市建設」。風力発電機で土を浄化し、川を引き、森を植え、動物を呼び戻す。作ったのは南アフリカの Free Lives と Clockwork Acorn、発売元は Devolver Digital で、PC 版は 2023年3月28日に出た。もとは 2019年の Ludum Dare 45 に出された小品だったとされる。
私はこの記事を、自分のプレイ記録ではなく Steam に積み上がったレビュー群を読んで書いている。まず数字を置く。Steam の全レビューは 4,877 件で 86% が好評、ラベルは「非常に好評」。直近30日は 64 件で 85% だ(2026-08-22 snapshot)。
ところが器を変えると数字が動く。批評家を集めた OpenCritic は 52 本で 82 点。Metacritic のユーザー欄は 57 件で 6.9 点、表示は「賛否両論」になる。同じ作品が、置く場所によって 86%・82点・6.9点になる。
面白いのは、割れている論点が「面白いかどうか」ではないことだ。賛成側も否定側も、この作品を何と呼ぶかで揉めている。ストアは「逆・都市建設」と名乗る。レビューはくり返し「これはパズルだ」と言い直す。この呼び名のズレが、そのまま数字のズレになっている。
Terra Nil のプレイ画面(Steam ストア スクリーンショット)
メカニクスの言語化
レビュー群から動詞を抜き出すと、驚くほど少ない。置く。そして最後に片づける。しかも機械は好きな場所に置けない。乾いた岩の上にしか置けないものがあり、水辺にしか置けないものがある。
だから問題になるのは配置ではなく順序だ。PC Gamer はこれを「手順のパズル」と呼び、都市建設よりソリティアに近いと書いた。前の一手が作った地形が、次の一手の置き場所になる。Puzzlebyrinth の言い方をすれば、文法はほとんど「隣接」の一語に集約される。
レビュアーがこの構造をどう呼ぶかが、そのまま賛否になる。Metacritic で低い点をつけた書き手は「地形版テトリス」と呼んで退屈だと言う。掲示板では「テトリスよりポータルに近い」と持ち上げる声がある。呼び名は正反対でも、指しているものは同じだ。動詞が少なく、正解の筋が細い。
つまり組み合わせ爆発は起きない。手を進めるほど選択肢は増えず、置ける場所が減っていく。Dorfromantik が引いたタイルで選択肢を絞るのに対し、本作は自分の直前の一手で自分の選択肢を絞る。癒し系の絵の下で回っているのは、かなり乾いた最適化だ。
Terra Nil のプレイ画面(Steam ストア スクリーンショット)
減算の設計
この作品でいちばん褒められている一手は、最後に来る。緑を戻し終えたら、自分が建てた機械をすべて回収する。飛行船に積んで去り、痕跡を残さない。レビュー群で「この発想が好き」と名指しされるのは、ほぼこの一点だ。
建設ゲームはふつう足し算で終わる。ここでは自分の建造物が最後の減点源になる。減算が余韻の演出ではなく、採点の対象として組み込まれている。これは珍しい設計だ。
否定側はここも突く。回収した跡地が荒れ地のまま残るのが気持ち悪い、という声が掲示板にある。機械は終盤まで回収できないので、置き場所は最初から考えろという指摘もある。片づけは自由な仕上げではなく、初手から効いている制約なのだ。
Metacritic で 4 点をつけた書き手は、環境回復が結局「抽象的な数字」でしかないと書く。これは正しい観察だと思う。ただ、数字にしたからこそ痕跡が採点でき、最後の減算が意味を持つ。生態系の写実を諦めた代わりに、設計としての一貫性を取っている。
Terra Nil のプレイ画面(Steam ストア スクリーンショット)
難しさの手触り
「癒される」と「イライラする」が同じレビュー群に同居している。20時間の推奨レビューは「家で一人でだらけるためのゲーム」と書く。31時間の推奨レビューは「難しいのに落ち着く」と書く。その一方で、完璧主義者には向かないという声も繰り返し出てくる。
読んでいくと、難しさは三種類に分かれる。ひとつ、クリアするだけならやさしい。PC Gamer も各面のクリアは比較的簡単だと書いている。ふたつ、満点を狙うと急に硬くなる。地形は自動生成なので、そもそも満点の出ない配置が配られることがある。
みっつめは、難しさですらない。途中でセーブして終了できない、メニューを開くと操作が固まる、動物の経路が終盤で詰まる——35時間遊んで非推奨をつけた書き手が並べたのは、ほとんどこの種類だった。これは詰まりではなく手続きの摩擦だ。三つを混ぜて語るから、話が噛み合わなくなる。
難しさの質でいうと、本作は「解けない」型ではなく「取り返しがつかない」型に寄っている。やり直しの単位が一面まるごとと大きいのに、盤面は毎回違う。運の混じった局面を、最適化の目で見せられる。評価が割れている本体は、たぶんここだ。
Terra Nil のプレイ画面(Steam ストア スクリーンショット)
テンポと尺
いちばん声が大きい不満は長さだ。本編は4つの面で、通しておよそ4〜6時間とされる。Metacritic で 3 点をつけた書き手は「面は8つ、うち4つは作り直し」と数え、定価では高すぎると書いた。批評家側でも IGN Italy が「少し短すぎる」と評している。
ただ、このレビュー群は3年ぶんある。2024年6月25日の無料更新 Vita Nova で面が5つ増え、動物は自分で置くのではなく生息環境に応じて移ってくるようになった。2025年8月7日の無料更新 Heatwave では乾燥地帯の面が3つ、動物が13種、撮影モードが加わっている。
それでも直近30日は 85%(64件)で、全体の 86% とほとんど同じだ。追加は不満を消したというより、不満の位置を動かしていない。短さを言う人は量ではなく、一周の形が同じであることを言っているからだろう。
数字の割れ方も、ここで説明がつく。Steam は推奨か非推奨かの二択だ。「良い。ただし短い」と思った人は、Steam では推奨を押し、Metacritic では 6 や 7 を打つ。86% と 6.9 は矛盾していない。同じ感想を、目盛りの違う器に入れただけだ。Unpacking をめぐる議論と、形がよく似ている。
同じ作品の3つの採点欄。Steam ユーザー 86%(4,877件)、批評家 82点(52本)、Metacritic ユーザー 6.9点(57件)。100点満点に揃えて並べた(図解・2026-08-22 snapshot)
参照したレビュー群
本記事は 2026-08-22 時点での Steam ストアページのユーザーレビュー群と、その周辺の集計を読んで書いた。レビュー本文は直接引用せず、典型的な主張を再構成している。
・Steam: Terra Nil(非常に好評 / Very Positive。全レビュー 4,877 件で 86% が好評、直近30日は 64 件で 85%)
・Steam コミュニティのレビュー一覧(評価順)で読めた 7 件を通読。内訳は推奨 6・非推奨 1 で、遊んだ時間は 2.9〜35.5 時間。今回は helpful 順の positive / negative 個別ページが取得できず、目標の 20〜25 件には届いていない。
・不足分は Metacritic のユーザーレビュー(6.9 点 / 57 件。好意 28・混合 20・否定 9)から個別 12 件、および Steam の掲示板スレッド 1 本で補った。
・批評家側: OpenCritic(82 点 / 52 本)、PC Gamer(80点)、IGN Italy・Game Informer(ともに 7.5)、Steam Deck HQ、および Wikipedia の受容節。
・画像について: 今回の実行環境から Steam の画像 CDN に到達できず、内容を目視で確認できなかった。ストアページで実在を確認した公式スクリーンショット 4 枚を使い、キャプションは作品名と素材種別のみの汎用表記に留めている。集計比較の図1枚は自作。
結論
私は 7.8 点を付けた。Steam の 86% より低く、Metacritic のユーザー 6.9 より高い。高く見る理由ははっきりしている。最後に自分を消すという一手が、演出ではなく採点に効いているからだ。少ない動詞でここまで一貫した設計は多くない。
低く見る理由も同じところにある。その一手は、一度理解すると二度目の驚きがない。手順の骨格は面が変わっても同じで、変わるのは地形の配り方だけだ。無料の追加更新は面を増やしたが、一周の形は変えていない。だから尺への不満は正当だと思う。
向く人と向かない人は、かなりはっきり分かれる。静かな絵と音の中で手順を組みたい人には強く向く。盤面を広げて支配していく手応えが欲しい人には向かない。Mini Metro の線を引く快さを思い浮かべる人のほうが、都市建設を思い浮かべる人より近い。
レビュー群の割れは、作品の欠陥というより看板のせいだ。「逆・都市建設」という言葉は目を引くが、実際に渡されるのは順序のパズルである。この一語を先に取り替えて渡していたら、Metacritic の 6.9 はもう少し上に寄っていたと思う。
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