REVIEW · 2023-05-23
Planet of Lana
難しさを削ったあとに、何が残ったか
第一印象
肯定側の語彙には、ゲームの語が少ない。美しい。息をのむ。ジブリのようだ。LIMBO と INSIDE の子ども。helpful 上位の positive を並べると、褒め言葉はほとんど画面と音に向かっている。仕掛けの話が出てくるときも、「賢くて単純」の一言で終わることが多い。
否定側の語彙は、逆にほとんどが時間の語だ。繰り返し。単調。長居しすぎる。歩かされているだけ。ある否定レビューはこれを「ウォーキングシミュレーション」と切り捨てる。別の一本は、同じ仕掛けが10回ほど出てくると数えている。
面白いのは、両者が違うものを見ているわけではない点だ。肯定側が「ちょうどいい長さ」と呼ぶ4〜5時間を、否定側は「2時間で飽きた」と呼ぶ。素材は同じで、当てている物差しが違う。この記事はその物差しの差を追う。
Planet of Lana のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の1枚目(Steam スクリーンショット)
世界観
開発元の Wishfully は、この作品を「少女と相棒の絆」の物語として出している。Steam の短い紹介文にも、自然と機械の対立と二人の結びつきしか書かれていない。パズルという語は出てこない。
肯定側はこの枠組みをそのまま受け取る。景色が絵のようだ、音楽がいい、鳴き声だけで生き物の種類が伝わる。作中の会話は架空の言語で、訳も付かない。それでも感情は届く、という報告が繰り返される。
否定側の一部は、その架空言語こそ物足りないと書く。言語を作ったのに使い道が乏しい、主人公が姉の名を呼ぶ回数が多すぎて効き目が薄れる、と。観察解像度の語でいえば、世界の情報量は高いのに、読み取るべき情報がそこに置かれていない。見るものは多く、読むものは少ない。
Planet of Lana のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の2枚目(Steam スクリーンショット)
メカニクスの言語化
動詞は少ない。歩く、登る、押す、そして相棒に指し示す。レビュー群から拾える操作はほぼこれだけだ。指された相棒はそこへ行き、縄を落とし、土地の生き物に働きかける。プレイヤーの手は一組、盤上の駒は二つになる。
positive が繰り返す「相棒の使い方がうまい」という賛辞は、Puzzlebyrinth の語でいえば動詞の分割だ。自分の手が届かない場所に、命令という一段の遠回りで手を伸ばす。動詞の数を増やさずに射程だけを伸ばす手つきで、Brothers - A Tale of Two Sons が二本のスティックでやったことに近い。
ただし、分割した動詞の組み合わせがその後で増えていかない。否定側が「仕掛けの種類が少ない」と書くのはここだ。指す先が変わるだけで、文法は最初の一時間でほぼ出そろう。組み合わせ爆発が起きないよう、最初から蓋がしてある。
Planet of Lana のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の3枚目(Steam スクリーンショット)
難しさの手触り
難しさについては、肯定側と否定側が珍しく一致している。簡単だ、と。割れているのは、それを美点と取るか欠点と取るかのほうだ。
注意して読むと、否定側の不満は二段になっている。「答えが見た瞬間にわかる」という不満と、「そのわかりきった答えを、狭い時間の窓の中で正確に入力させられる」という不満だ。helpful 上位の否定レビューは、この二つを並べて書いている。
つまりこの作品は、解を見つける難しさを削ったあとに、解を実行する難しさを残した。減算が思考の側にだけ効いて、手の側には効いていない。LIMBO や INSIDE が両方を同じ手つきで削っていたことと比べると、ここは揃っていない。
否定側の一本は、この状態を「中途半端な場所で止まっている」と書く。慣れた人には手応えがなく、慣れていない人には精度が要る。難しさの量ではなく、難しさの置き場所の問題だ。
Planet of Lana のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の4枚目(Steam スクリーンショット)
テンポと尺
レビューでいちばんよく数えられているのは時間だ。4時間から6時間。急がず遊んで4時間、収集物を追って8時間。中央値はおよそ5時間あたりに落ち着く。
肯定側はこの尺を歓迎する。長居しないのがいい、一晩で終えられた、軽く飲みながら流せる。歩く区間の長さも、緊張の合間の休息として受け取られている。
否定側は同じ区間を「半分は前に押しているだけ」と書く。一直線の道が続き、場面が入れ替わっても構造が変わらない、と。肯定側が休息と呼ぶものを、否定側は間延びと呼ぶ。
どちらが正しいという話ではない。休息が休息として働くには、その前後に緊張がいる。否定側が単調と感じたのは歩いたからではなく、歩く前と後で要求される思考が変わらなかったからだろう。学習曲線が寝ていると、余白は余白に見えない。
Planet of Lana のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の5枚目(Steam スクリーンショット)
参照したレビュー群
本記事は 2026-09-26 時点の Steam ストアページのユーザーレビュー群を読んで書いた。レビュー本文の直接引用はせず、典型的な主張を再構成している。
・Steam: Planet of Lana(全言語 10,698 件中 9,951 件が好評 = 約93%、ラベル「非常に好評」)
・helpful 順の肯定上位12件、helpful 順の否定上位10件、新着18件を読了(計40件)。集計値は Steam のレビュー API が返す query_summary から取った。
・開発者の公式記述との突き合わせには、Steam の appdetails API が返すストア説明文を使った。同 API が返す Metacritic スコアは80。
・掲載画像は Steam の appdetails API が返したストア掲載スクリーンショットの URL をそのまま使っている。実行環境から Steam の画像配信ホストへ接続できず、画像の中身を目で確かめられなかったため、キャプションでは写っているものを特定していない。
結論
Steam の総合は 10,698 件中 9,951 件が好評、およそ93%で「非常に好評」だ(2026-09-26 時点)。私の点は7.0で、この数字よりかなり低い。
差の理由ははっきりしている。93%は絵と音と相棒の物語に対する票で、私が採点しているのは設計の噛み合いだからだ。絵と音の水準は否定レビューですら認めている。争点はそこにない。
設計として見ると、この作品は思考の難しさを意図して下げ、そのぶんを物語と景色に回した。判断そのものは正しい。Somerville と同じ系譜の選択だ。ただ、下げたあとに残った操作精度の要求が、下げた意図を裏切っている。
向いているのは、仕掛けを解きに来るのではなく、5時間どこかへ連れていかれたい人だ。手応えを買いに来た人に渡すものは少ない。Steam のレビュー群は、その線引きをかなり正直に語っている。
Planet of Lana のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の6枚目(Steam スクリーンショット)
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