ANALOG · 2026-09-12
Portal ボードゲーム版(2015) — ポータルが「穴」ではなく「隣」になった話
厚紙のパネルに落下も勢いも置けない / 残ったのは「離れた2マスを1歩にする」だけ / それでもルートの読みは壊れる
今日の手触り: 厚紙のパネルが、隣のパネルに当たってカタと鳴る
今日の手触り: 厚紙のパネルが、隣のパネルに当たってカタと鳴る。
Valve の『Portal』には、ボードゲーム版があります。題名は『Portal: The Uncooperative Cake Acquisition Game』。2015年9月23日に、Cryptozoic Entertainment から出ました。
名前のとおり、非協力です。2〜4人で、ケーキを奪い合います。
私が気になったのは一点だけでした。あの「壁に穴を開けて向こう側へ抜ける」感覚は、紙の上でどう処理されたのか。
先に答えを書きます。ポータルは「穴」をやめて、「隣」になりました。そしてこの置き換えは、想像よりずっと正直です。
画像: Valve『Portal 2』(Steam のスクリーンショットより)
箱の中身と、1ターンにやること
箱は 10.5 × 10.5 × 3 インチ。重さは量れませんでした。手元に実物がないので、触感の話はここまでにします。
内容物は、両面印刷のテストチャンバーのパネル、被験者のミニチュア、ケーキ一切れのミニチュア、Aperture カード、プレイヤーごとのポータルガンのカード、ポータルトークン2個、GLaDOS のトークン、タレットとコンパニオンキューブのミニチュア。そして Portal 2 の Steam アクティベーションコードが1枚入っています(Portal Wiki の内容物リスト ↗)。
遊ぶときは、パネルを3行×5列に並べます(GeekDad のルール要約 ↗)。
1ターンは4段階です。まず任意で Aperture カードを1枚使う。次に被験者を隣の部屋へ動かす。そして GLaDOS のトークンを「古い端」の部屋に置いて、その部屋を活性化する。最後にその部屋を裏返して、「新しい端」へ置き直す。
活性化された部屋にいた被験者は、全員死にます。
部屋はベルトコンベアのように、端から端へ流れ続けます。盤そのものが毎ターン動く。ここは気持ちのいい設計です。
ケーキは被験者が1枚ずつ運べます。活性化された部屋に置き去りのケーキは、焼却炉行き。代わりに、その部屋に一番多く被験者を置いていたプレイヤーが報酬を受け取ります。つまり、死ににいく人が得をします。
勝敗は、終了時に盤上に残っているケーキの数で決まります。終了条件は、誰かが被験者を全て失ったとき、または8枚のケーキが全て焼かれたときです。
余談をひとつ。この作品は2014年秋に50ドルで出る予定として告知されました(The Mary Sue, 2014 ↗)。実際に箱が出たのは、その1年後です。
なぜ「穴」ではなく「隣」なのか
ポータルの使い方は、こうです。Aperture カードを、書かれた効果の代わりに「ポータルガン」として使う。すると2つのポータルトークンを好きな部屋に置き直せます。
トークンが乗った2つの部屋は、以後「隣接している」ものとして扱われます。離れていても、1歩で行き来できる。
部屋が流れて置き直されるとき、ポータルもその部屋と一緒に動きます。
ここが物理の限界です。厚紙のパネルには、上下がありません。落下がありません。速度もありません。
デジタルの『Portal』で一番効いていたのは、落ちた勢いがそのまま出口から出る、あの一点でした。盤の上には、勢いを持ち越しておく場所がない。
だから残せるものだけ残した。「離れた2点が直結する」という隣接関係の書き換えです。これなら紙でもできます。
ただ、ルールの構造を見て一つ引っかかりました。ポータルを使うコストが、「Aperture カード1枚ぶんの効果」で計られている点です。
つまり本作でポータルは、特別な機構ではありません。カード効果の一種に格下げされています。看板の機構が、他の効果と同じ通貨で買える。強いカードが手札にあれば、ポータルは使われません。ここは厳しく見ます。
画像: Valve『Portal』(Steam のスクリーンショットより)
デジタルに移すと — 消えるもの、残るもの、足せるもの
この連載はいつもアナログからデジタルへ翻訳します。今回は元がデジタルなので、矢印を裏返して読みます。すると、そのまま私たちの作業台に返ってきます。
消えるもの。運動量。連続した面。視線。狙う速さ。『Portal』の気持ちよさの半分は「見えている壁に、自分で狙って穴を開ける」という行為そのものにありました。盤の上では狙いません。置くだけです。
残るもの。隣接の書き換え。これが驚くほど強く残ります。グリッドの上で、離れた2マスが1歩になるだけで、最短経路の読みが壊れます。移動制約グリッドのパズルを作った人なら、この壊れ方はすぐ想像がつくはずです。事典の空間接続ポータルの項も、説明の中心は「移動そのものの再発明」に置かれています。
デジタルでしか足せないもの。落下、勢い、連続面、カメラ、そして「穴の向こうが見えている」という予告。並べてみると、ボードゲーム版で消えたものと、ほぼ同じ一覧になります。
(図解)左=デジタルは勢いを持ち越す。右=盤上は「離れた2枚を1歩にする」だけが残る
ここから実用の話をします。
もしあなたがグリッドのパズルを作っていて、ポータルを入れたいなら、まず「隣接の書き換え」だけで組んでみてください。落下も勢いも入れない。それで盤が面白くならないなら、あとから勢いや連続面を足しても面白くなりません。
ボードゲーム版は、その切り分けを先に済ませてくれています。値段のついた検証結果だと思えば、ずいぶん親切です。
反対の切り出し方をした例もあります。Bridge Constructor Portal は、隣接の書き換えより「勢い」の側を主役にした作品です。どちらを取るかで、同じ看板の下に別のゲームが立ちます。原典のPortalとPortal 2は、両方を一度に持っていた稀な例でした。
作る人へ — 看板の機構を、他の効果と同じ値段で売らない
持ち帰りは1つだけにします。自分のゲームの看板になる機構には、専用のコストを持たせること。
本作のポータルは「Aperture カード1枚の効果と交換」でした。共通の財布から買えてしまう。だから、強いカードが手札にある限り、看板は出番を失います。
同じ事故はデジタルでも起きます。目玉の能力を共通クールダウンや共通リソースに載せると、プレイヤーは毎回それを他の行動と比較します。比較された瞬間に、目玉は選択肢のひとつになります。
対策は単純です。看板の機構だけ、別の通貨で回す。専用のチャージ、専用のボタン、専用の1手。他と交換できなくすれば、プレイヤーは「使うかどうか」ではなく「いつ使うか」を考え始めます。
ルールブックに書かれていない部分が効く話は、Hanabi の回でも書きました。今回はその反対で、ルールブックに書かれた値付けが効いています。
おわりに
後日談がおかしいのです。このボードゲームは、有志の手で Tabletop Simulator の Workshop にデジタル化されています(Portal (Scripted) ↗)。
Valve の画面の中で生まれた機構が、厚紙になって、また画面に戻りました。3周目です。そのうえ箱には、最初から Portal 2 の Steam コードが入っています。往復のチケットが同梱されている。
私はこの往復が好きです。何が物にできて、何ができないかが、往復のたびに一枚ずつはっきりするからです。
そこで今日の問いです。あなたのゲームで、「離れた2点をつなぐ」という判断を、人間の手に任せますか。
トークンを置く手つきを見せるのか、それとも計算で最短を出してしまうのか。どちらが正しいかではなく、どちらを見せたいのか。そこだけ決めてから作ると、たぶん早いです。
参考文献
Portal Wiki — Portal: The Uncooperative Cake Acquisition Game(内容物リスト、進行の概要) ↗
Combine OverWiki — Portal: The Uncooperative Cake Acquisition Game(発売日 2015年9月23日、開発経緯) ↗
GeekDad — New 'Portal' Board Game Is a Huge Success(ルール要約: ターン進行、ポータルトークン、ケーキと焼却炉、3行×5列) ↗
Noble Knight Games — 製品仕様(2015年、品番 CZE01823、箱寸法 10.5×10.5×3インチ) ↗
The Mary Sue(2014)— Cryptozoic Plans To Release Portal Board Game in the Fall(発表時の予定: 2014年秋・50ドル) ↗
画像は Valve『Portal』『Portal 2』の Steam 掲載スクリーンショット、および筆者作成の図解です。
注記: 本作の個人名でのデザイナー credit は、公開されている資料からは確認できませんでした。上記の資料はいずれも Valve と Cryptozoic Entertainment の共同名義として扱っています。対象年齢の表記も資料によって 12+ と 15+ に割れているため、本文では触れていません。
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