ANALOG · 2026-09-15
Ricochet Robots(1999) — 手番を配らないかわりに、宣言を手番にした
1手は1マスではなく「止まるまで」 / 盤は1つ、解く人は全員 / 移動はコードに素直に移り、砂時計の1分だけが移らない
今日の手触り: 一度はじくと、壁に当たるまで止まらない
今日の手触り: 一度はじくと、壁に当たるまで止まらない。
盤は1枚だけです。解く人は、その場にいる全員。
『Ricochet Robots』には手番がありません。「次はあなたの番です」と言われる瞬間が、一度も来ない。かわりに、道を見つけた人が「◯手」と声に出します。その数字の小さい順に、実演の権利が回る。宣言そのものが手番になるゲームです。
移動のルールのほうは、コードに素直に移ります。むしろ移りすぎるくらいです。移らないのは、この「宣言」のほう。
今日はそこを分解します。
「Ricochet Robots rules explanation and overview」(BoardGameGeek, YouTube)のサムネイルより
何で、いつ、誰が — 16×16の盤と、約1分の砂時計
作者は Alex Randolph。1999年に、ドイツの Hans im Glück から『Rasende Roboter』として出ました。
その後 Abacusspiele が引き継ぎ、英語版は Rio Grande Games が版を重ね、現行版は Z-Man Games から出ています。20年以上、途切れずに売られている作品です。
盤は両面刷りのタイルを組み合わせて作ります。組み上がると16×16のマス目。ロボットは4色。的になるチップは17枚(絵柄16枚と、多色1枚)。そして砂時計が1本、およそ1分です。
人数は「2人以上」。上限が書かれていません。100人でも成立する、という意味です。
肝心の移動は、ルールブックの言い方がいちばん正確でした。ロボットには「ブレーキがない」。いったん動き出したら、障害物に当たるまでまっすぐ進む。止まることも、向きを変えることもできない。
つまり、1回の手は1マスではありません。止まるまで滑って、ようやく1手です。壁か、盤の端か、他のロボット。それが来るまで進み続けます。
条件がもう1つ。的にたどり着くまでに、最低1回は90度曲がらなければいけません。まっすぐ滑って終わり、は認められない。
実物は手元にないので、量れませんでした。販売店の表記では発送重量1600g、箱は303×303×87mm。ただしこれは梱包込みの数字で、中身そのものの重さではありません。
(図解)1手=止まるまで。壁で曲がり、黒いロボットに当たって止まり、3手で的へ。
なぜ手番を配らなくて済むのか
理由は単純です。盤が1つしかなく、全員から同時に見えているから。
誰かが道を見つけたら、手数だけを言います。「5手」。最初に言った人が砂時計をひっくり返す。残りの約1分で、他の人も自分の数字を言う。
砂が落ちきったら、いちばん小さい数字を言った人が実演します。その手数どおりに的へ届けばチップをもらえる。届かなければ、ロボットを元の位置に戻して、次に小さい数字の人へ回ります。
面白いのは、宣言が証明ではないところです。「5手でできます」は主張にすぎません。盤に手を置くまで、本当かどうかは誰も知らない。宣言した本人でさえ、途中で数え違いに気づくことがある。
戻せるのも、物だからです。ロボットの下には同じ色の位置マーカーが敷いてあって、盤に残ったまま動きません。失敗しても盤は1秒で元どおり。アンドゥの実装が、厚紙4枚で済んでいます。
ただ、ここには穴があります。同じ数字を言った人が複数いたとき、誰が先か。
Rio Grande のルールブックは「先に言った人から順」と書いています。一方、広く流通している英語のルール解説は「チップの少ない人が優先。ただし大会ルールでは先に言った人」。20年以上売られていて、ここが一本化されていません。
そして「チップの少ない人が優先」を採ると、黙って待つのが得になります。先に言えば砂時計が回り、他人に1分を配ることになるからです。ルールブックは「4〜5分たっても誰も宣言しないとき」の処理をちゃんと用意している。沈黙が起こりうることを、作った側は知っていました。
デジタルに移すと — 消えるもの、残るもの、足せるもの
消えるもの: 同時性です。
1人で画面に向かうと、宣言する相手がいません。「5手」と言う意味がなくなる。砂時計も要らない。急ぐ理由がまるごと消えます。
一緒に消えるのが、実演という手続きです。卓の上では、宣言した人が自分の手でロボットを滑らせて見せる。全員がそれを見て納得する。画面は、動かすのも判定するのも一瞬で終わらせてしまいます。納得する時間が無い。
残るもの: 移動そのものです。
止まるまで滑る。壁で90度曲がる。他のロボットに当たって止まる。これは配列と while ループでそのまま書けます。当サイトの事典なら 移動制約グリッド がいちばん近い。
「自分以外の駒が障害物になる」という点も、きれいに残ります。上級者は、的に関係のないロボットをわざと壁として置きに行く。Snakebird や Into the Breach で身につく読み方と、同じ筋肉です。
滑る移動の系譜としては、箱入り娘のような1マスずつの盤より、Threes! の「ひと押しで盤が全部動く」に近い。入力1回あたりの変化が大きい側です。
デジタルでしか足せないもの: 最小手数の保証です。
ソルバがあります。DriftingDroids(GPL-3.0)は、すべての問題に最適解を出すと明記しています。探索は反復深化。つまり問題を配る前に「これは7手」と分かる。
卓の上では、誰も最適解にたどり着かないまま次のチップへ進む問題が、普通に起きます。デジタルはそれを許しません。これは足し算であると同時に、引き算でもあります。「たぶんもっと短い手がある」というあの居心地の悪さが、消える。
難しさの土台も置けます。この盤の一般形は PSPACE 完全であることが示されています(Balanza-Martinez ら, arXiv:2402.11440, 2024年)。一般には手に負えないと分かったうえで、易しい問題だけを選んで配れる。
Hanabi の回と同じ構図です。盤の仕組みは移る。人と人のあいだにあったものが、移らない。
「Ricochet Robots - A Dice Cup 'How to play' video by Steve Raine」(Dice Cup, YouTube)のサムネイルより
作る人へ — 解く前に「何手で解くか」を言わせる
持ち込むなら1点だけ。宣言を手番にすることです。
デイリーパズルでやるなら、こうなります。解答を送る前に「私は◯手で解きます」を先に出させる。誰かが数字を出した瞬間、締め切りタイマーが走る。締め切り後、小さい数字を出した人から順に判定する。
速さの競争でも、正しさの競争でもありません。どこまで見えたかを賭けさせる。同じパズルで、体験がまるごと変わります。
注意点も1つだけ。同点の裁定を、実装する前に決めてください。Ricochet Robots が20年かけて一本化できなかった場所です。画面の中なら、宣言の時刻をミリ秒で持つだけで済みます。物より簡単に済む部分は、ちゃんと簡単に済ませる。
おわりに
盤面は、コードに移ります。きれいに移りすぎるくらいです。
移らないのは、砂時計の1分のほうでした。誰かが数字を言った瞬間に、全員の背中がいっせいに丸くなる、あの1分。
あなたのゲームで、この「宣言」を人間の手に任せますか?
任せるなら、声を出す場所と、実演を見せる場所を先に作ることになります。任せないなら、ソルバが出した最小手数を、いつ、どう見せるかを決めることになる。どちらが正しいかではなく、どちらを見せたいのか。そこだけ決めてから作ると、たぶん早いです。
参考文献
Rio Grande Games — Ricochet Robots 公式ルールブック PDF(コンポーネント、ブレーキの無い移動、宣言と砂時計、勝利条件のチップ数) ↗
UltraBoardGames — Ricochet Robots Official Rules(同点時の優先順位、誰も宣言しない場合の処理、最低1回の90度転回) ↗
Wikipedia(独) — Rasende Roboter(1999年 Hans im Glück、のち Abacusspiele、プレイ時間、宣言と砂時計の条文) ↗
Wikipedia(英) — Ricochet Robots(作者、版の変遷、チップ17枚、Z-Man 版の盤構成) ↗
smack42 / DriftingDroids — 全問の最適解を出すソルバ(GPL-3.0、反復深化) ↗
Lireer / ricochet-robot-solver — 盤面が16×16であること、経路探索としての定式化 ↗
Gamersphere — Ricochet Robots 商品ページ(発送重量1600g、箱303×303×87mm) ↗
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