RETRO-REVIEW · 2026-08-31
コラムス(1990) — ヒューレット・パッカードの練習用コードが、セガの手で宝石に変わった日
回転ではなく色で消す。テトリスの熱の中で生まれた、もう一つの縦落ちパズル
はじめに
今日、私が掘り出すのは四角い駒ではなく、宝石だ。落ちてくるのは相変わらず三つ一組だが、そろえるのは形ではなく色である。1990年、セガが世に出した『コラムス』の話をしよう。
テトリスは1984年に生まれ、1988年から89年にかけて世界を席巻していた。その熱のただ中で、コラムスは『積み方を噛み合わせる』ではなく『色をそろえて消す』という、もう一つの遊び方を持ち込んだ。
縦に落ちる三つ組と、色をそろえて消える段(イメージ・AI生成)
その時代の文脈
作ったのはゲームスタジオの人間ではない。ヒューレット・パッカード(HP)のソフトウェア技術者、ジェイ・ガーツェンだ。1989年、社内のHP-UXマシン上でX11というウィンドウシステムのプログラミングを独学するための個人的な練習として、彼はこのパズルを書いた。
同僚がこれをMacintoshとMS-DOS向けに移植すると、社内でちょっとした評判になった。ゲーム会社ではない企業の内側で、遊びが静かに広まっていたわけだ。それを聞きつけたのがセガだった。
セガはHPに商用化の打診をする。HPは半年ほど検討したのち、非独占の権利をセガに売却することを決めた。
HP-UXの端末で書かれた最初のコード、1989年(イメージ・AI生成)
メカニクス
遊び方はテトリスに似ているようで、実はまったく逆を向いている。三つの宝石が縦一列になって落ちてくる点は同じだ。だが操作できるのは『回転』ではない。列の中で三つの宝石の並び順を入れ替える(サイクルさせる)ことと、左右への移動だけである。
盤面に積もった宝石が、縦・横・斜めのいずれかで同じ色が三つ以上つながると消える。特別な『マジック・ジュエル』を含む列を落とすと、盤面全体から同じ色の宝石が一掃されることもある。『形を噛み合わせる』テトリスに対し、『色をそろえる』というもう一つの消し方の文法が、ここにある。
落とすのではなく、列の中で宝石の順番を入れ替える(イメージ・AI生成)
現代への系譜
1990年、コラムスはまずアーケードとメガドライブに登場した。日本ではこの年のアーケード稼働収益で4位に入り、翌1991年にはコンバージョンキットの売り上げでも3位につけている。移植は止まらなかった。ゲームギア(1990〜91年、本体の初めての同梱タイトル)、MSX2(コンパイル/テレネットによる移植、1990年)、PCエンジンとシャープX68000(1990年12月25日)、スーパーファミコン(1991年10月16日)と、当時のほぼ全ての主要機に広がった。
評価も高かった。海外のWizard誌はB+をつけ「テトリスより少し良い」と評した。のちにMega誌はメガドライブ史上最高のゲームの34位に、2017年のGamesRadarは同機種史上ベスト40の一本に選んでいる。
『色を三つ並べて消す』という文法を最初に持ち込んだのはコラムスだ、と言いたくなる。だが私はここで慎重でありたい。同じ1990年に生まれた『Klax』を私は以前この連載で扱ったが、そこで確かめたのは、今日『マッチ3』と呼ばれる系譜の実際の経路は、1994年のロシア製パズル『Shariki』から2001年の『Bejeweled』へと続く、コラムスともKlaxとも接触のない別の枝だという事実だった。コラムスは独立に同じ着想へたどり着いた早い例ではあっても、後世に直接受け継がれた本流ではない。
1990年、色を消すという文法が複数の機種へ枝分かれした(イメージ・AI生成)
参考文献
本記事で参照した情報源:
おわりに
コラムスを掘り返して思うのは、一つの発明が思わぬ場所から生まれることの多さだ。ゲームスタジオではなく、ヒューレット・パッカードの技術者が、社内学習のために書いたコードがその出発点だった。
セガが持ちかけた交渉と、HPが半年かけて下した非独占ライセンスの判断がなければ、あのゲームギアの起動画面に宝石が降ることはなかっただろう。1990年という年号を、私はまた一つ、ここに書き加える。
山が消えた後に残る、一つの静けさ(イメージ・AI生成)
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