RETRO-REVIEW · 2026-08-07
Klax(1990) — 「三つ揃える」という着想は、二度発明された
アタリゲームズがテトリスの隣に据えたこの一台は、しばしばマッチ3の起源とされるが、開発者自身の証言はその系譜を切っている
はじめに
これは1990年2月、アタリゲームズが北米のアーケードに出した一台、『Klax(クラックス)』である。デザインとアニメーションをマーク・スティーヴン・ピアース、プログラムをデイヴ・エイカーズが手掛けた。コンベアの上を流れてくる色つきタイルをパドルで受け止め、5列5段の升に落とし込み、縦・横・斜めのいずれかに同色を三つ以上揃えると、それが消えて得点になる——それだけの遊びである。数か月後には日本でもナムコの手で流通し、その年のうちに家庭用機やハンドヘルドへ次々と移植されていった。
この一台は、しばしば「マッチ3(三つ揃えパズル)」というジャンルの起源として語られる。今日 Steam やスマートフォンに溢れる、色を揃えて消すパズルの遠い祖先だ、と。だが私は歴史家として、この「起源」という言葉を鵜呑みにしたくない。本当にKlaxから今日への血筋は繋がっているのか——それを、開発者自身の証言まで遡って確かめたい。
流れてくるタイルを受け止め、揃えて消す——Klaxの骨格(イメージ・AI生成)
その時代の文脈
1990年という年を思い出したい。前年の1989年、アタリゲームズはニンテンドーを相手にした訴訟(テングン対任天堂)に敗れ、自社版『テトリス』をファミリーコンピュータ市場へ供給する権利を失っていた。その直後にアタリゲームズがアーケードへ放ったのが、英語版Wikipediaが「テトリスの続編」と位置づけるKlaxだった。一つの落ち物パズルの権利を失いながら、同じ会社が次の落ち物パズルで頂点に立とうとした——そういう巡り合わせの中でこの一台は生まれている。
Klaxはアーケードで大当たりとなり、数か月後にはナムコが日本での配給を担った。同じ年のうちにNES、ジェネシス(メガドライブ)、そしてTurboGrafx-16という当時の三大据置機すべてに移植された最初のタイトルとなり、Game Boy や Atari Lynx、さらには生産終了間際のAtari 2600にまで姿を見せた。1990年前後のパズルゲームは、一本のヒットが一年のうちに十数機種へ複製されていく、そういう流通の速度のただ中にあった。
テトリス訴訟の直後、アーケードに並んだ次の一台(イメージ・AI生成)
メカニクス
操作は驚くほど単純である。画面上部のコンベアを流れてくるタイルを、下段のパドルで受け止める。パドルは最大5枚まで抱えられ、ボタンを押すとその先頭の一枚が真下の升へ落ちる。升は5列×5段。縦・横・斜めのいずれかに同色のタイルが三つ以上並べば「Klax」が成立し、その列は消える。一手で複数の列を同時に成立させれば得点は跳ね上がり、ゲームは全100ウェイブ、五つごとに目標が変わる構成である。
設計者デイヴ・エイカーズは1990年のインタビューで、自らの狙いを「遊べて、コンパクトで、比較的早く開発できるものを作りたかった」と語っている。そして影響を受けたものとして名を挙げたのは、テトリスと——三並べ、つまり英語圏で言う tic-tac-toe である。落ちてくる形を積むテトリスの文法と、三つを一列に揃える三並べの文法を、コンベアとパドルという新しい容器へ移し替えた。それがKlaxの発明だった。
選べる順番はない。揃え方だけが自由——遊びの構造(イメージ・AI生成)
現代への系譜
TV Tropes をはじめとするジャンル史の整理では、Klaxは「マッチ3の起源例(Ur-Example)の一つ」に数えられることが多い。同色を三つ揃えて消す、という核だけを見れば確かに先行例である。だが同じ整理は同時に、ジャンルを本当に定着させた「codifier」は2001年の『Bejeweled』だとも述べている。起源であることと、後世に受け継がれることは、必ずしも同じ系譜の上にあるとは限らない。
その断絶を最も直接に語るのは、Bejeweled を作ったポップキャップの共同創業者ジェイソン・カパルカ自身の言葉である。2020年、Kotaku のインタビューで彼はこう振り返った——「元ネタは、たしか『Shariki(シャリキ)』というゲームだったと思う。ロシアのゲームだ。でも正直、当時の私たちはそれを知らなかった。私たちが知っていたのは、誰かが見つけてきた出来の悪いJavaScriptのゲームだった。『Colors Game』という名前で、音もアニメーションもグラフィックすらほとんどない、色のついた四角を交換して三つ並べると消える、それだけのものだった」。Shariki は1994年、ロシアの開発者エフゲニー・アレムジンが独立に生み出したパズルであり、Klaxとは何の系譜的つながりもない。
つまり、今日私たちが「マッチ3」と呼ぶ系譜の実際の経路は、Klax(1990)ではなく、Shariki(1994)→出自不明のJavaScript模作『Colors Game』→ポップキャップの『Diamond Mine』(2000)→Bejeweled(2001)という、Klaxとは接触のない別の枝を通っている。歴史家としてここで言いたいのは単純なことだ。「三つを揃えて消す」という着想は、1990年と1994年、互いに無関係な場所で二度発明された。片方の枝は静かに立ち消え、もう片方の枝が世界を覆った。系譜図はいつも一本の木のように描かれがちだが、実際にはこうした、二度と交わらない枝分かれのほうが多いのかもしれない。
同じ着想が二度発明され、片方だけが世界を覆った(イメージ・AI生成)
参考文献
本記事で参照した情報源:
・Wikipedia: Klax (video game)(発売年・設計者名・開発の経緯・テトリス訴訟との関係・移植機種一覧・エイカーズの発言の出典)
・Wikipedia: Shariki(1994年、エフゲニー・アレムジンによる制作の経緯)
・Kotaku: From Bejeweled To Plants Vs Zombies — How PopCap Got Just About Everyone To Play Their Games(PopCap共同創業者ジェイソン・カパルカ本人による、SharikiおよびColors Gameへの言及の一次証言)
・TV Tropes: Match-Three Game(Klaxを Ur-Example、Bejeweled を Trope Codifier とするジャンル史整理)
・MobyGames: Klax(プラットフォーム別リリース情報)
・Internet Archive: Klax (MS-DOS, 1990)(当時のソフトウェアのブラウザ内保存・再生)
おわりに
今Klaxを起動しても、コンベアは同じ速さでタイルを流し続ける。三つを揃えて消す、というその一手は、1990年のアーケードで一度きちんと完成されていた。だが完成されたことと、後世に受け継がれたことは、別の出来事なのだと、この一台の運命は教えてくれる。
歴史家として私が学んだのは、「これがあれを生んだ」という物語の心地よさに抗うことの大切さである。開発者自身が「知らなかった」と証言する時、そこにこそ歴史の実際の形がある——一本の系譜ではなく、複数の場所で同じ発想が独立に生まれ、そのうちの一つだけが偶然に広く運ばれていく、というかたちだ。Klaxは負けた枝ではない。ただ、運ばれなかった枝である。
揃えられ、消え、忘れられていく——それでも一度は完成していた(イメージ・AI生成)
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