DESIGNER-STUDY · 2026-09-16

Cliff Johnson の哲学 — 余計なピースを、一枚も入れない

The Fool's Errand / 3 in Three / The Fool and His Money / David Blaine の宝探し

Cliff Johnson を、今なぜ読むのか?

2026年7月、長く動かなくなっていた一本のパズルゲームが、ふたたび遊べるようになった。『The Fool and His Money』。2012年に出たあと、土台にしていた Adobe Director の終了で起動しなくなっていた作品である。有志がブラウザで動く移植を公開し、Andrew Plotkin が自分のブログでそれを紹介した(Zarf Updates 2026-07 原典 ↗)。

作者の名は Cliff Johnson(クリフ・ジョンソン)。1987年に『The Fool's Errand』を作った人物で、この作品はしばしば「コンピュータ上で最初のメタパズル」と呼ばれる。日本語圏ではほとんど知られていない。移植を作った人物は、本人と連絡が取れなかったと書いている。ジョンソン自身のサイトは2024年末に消えたままだ。1987年の Macintosh 版『The Fool's Errand』の通しプレイ動画のサムネイル1987年の Mac 版『The Fool's Errand』の通しプレイ(toni68k / YouTube)

だが言葉は残っている。私は2006年・2018年・2022年の三本のインタビューを読み返した。そこには、ひとりで全部を作る人間の理屈が、驚くほど崩れずに置かれている。今日はその理屈を読む。

Cliff Johnson とは、何をした人か?

ジョンソンは1953年、米ニューハンプシャー州ハノーバーの生まれ。南カリフォルニア大学(USC)で映画を学び、ニコロデオンの番組『Out of Control』向けのアニメーションなどを手がけた。ゲームの人ではなく、映像の人として出発している。

転機は1984年だった。「映画とアニメを作って、私はまったく申し分なく楽しくやっていた。そこへ1984年後半、Mac を買い、事情を知らない親戚が BASIC を買ってくれた」と本人は振り返る。そして続ける。「私が作った映画やアニメは、どれもそれ自体が複雑な制作物だった。だからプログラミングのややこしさに飛び込むのは、そんなに大きな跳躍には思えなかった」(Synesis One, 2022)。

三年後の1987年、Mac と DOS で『The Fool's Errand』が出る。タロットの大アルカナをなぞる物語のなかに、言葉遊び・論理・迷路・ジグソーなど多様なパズルを敷き詰め、それぞれの答えが最後に一枚の大きな地図へ集まっていく。GAMES 誌の年間ベストパズルゲームに選ばれた。

以後、『At the Carnival』(1989)、『3 in Three』(1990)。90年代は Philips Media で CD-i 作品を手がけ、2002年には David Blaine の著書『Mysterious Stranger』に賞金10万ドルの宝探しを仕込んだ。そして2012年、四半世紀ぶりの続編『The Fool and His Money』。作品数は多くない。一本ごとの間隔が、異様に長い人である。1990年の Macintosh 版『3 in Three』の全パズルを通す動画のサムネイル1990年の『3 in Three』全パズル(Berry / YouTube)

彼は、パズルをどう定義しているか?

ジョンソンの考えは、たぶん次の一文に尽きる。「パズルは『はぁ?』で始まり、『そうか!』で終わる」(Mysterious Writings, 2018)。標語のように短いが、本人はこれを三段階の手続きとして説明している。

まず、動かせる部品と目を引く絵をたっぷり置いて「これを一体どうしろと?」と思わせる。次に実験の時間が来る。あれこれ突いて、何が何をするのかを見つける。最後に、観察と直感が「そうか!」を連れてくる。彼が設計しているのは答えではなく、この三段階そのものだ。

彼はパズルとゲームを厳しく分ける。「パズルを作ることに惹かれるのは、可能な解がひとつしかない挑戦を差し出せるからだ。対してゲームには目標があり、それを達成する方法や戦略がいくつもある」。そして言い切る。「ひとことで言えば、パズルは私に完全な作家性(complete authorship)をくれる」(Mysterious Writings, 2018)。

もうひとつ、作るときの第一の問いがある。「パズルを作りはじめるとき、私が真っ先に気にするのは『これ、自分に解けるか?』だ」。そして付け足す。「解くことにかけて、私は箱のなかで一番とがった鉛筆ではない。だから自分に筋が通るなら、やってみる。この勘は、最初からずっと役に立ってきた」(同)。

難易度の基準を自分に置く、というのは一見ずいぶん頼りない。だがこの基準には副作用がある。作者が自分に解けるものしか出さないなら、作品は「作者の方が賢い」と証明する方向へは進めない。基準の置き場所が、そのまま作品の性格を決めている。

作品をまたいで、何が繰り返されているか?

繰り返されているのは一点である。赤ニシン(red herring、意図的な偽の手がかり)を、置かない。

「私にとって最大の障害は赤ニシンだ。楽しさの流れに逆らうものだからだ」。彼はこう例える。「500ピースのジグソーに、属さないピースが50個混ざっていたら? 必要な倍の文字が入った暗号文だったら? どちらも解けはする。だが、想定した読者の幅を狭めてしまう」(Mysterious Writings, 2018)。難しくするなという話ではない。無駄に狭めるな、という話だ。

だから『The Fool's Errand』の目標はこうなった。「あらゆる部分が、大きなひとつのパズルの一部であるようなパズル・アドベンチャーを作ること。赤ニシンなし」。MacUser 誌の Neil Shapiro はこれを「バッファロー丸ごと(the whole buffalo)」と評した——ゲームのなかの全部が、いずれ使われるという意味だ。この評はジョンソン自身が引いている。Macintosh 版『The Fool's Errand』を紹介するレビュー動画のサムネイルMac 版『The Fool's Errand』のレビュー動画(Tanara Kuranov / Gamer Mouse / YouTube)

作る順序も独特だ。「メタパズルはピラミッドだ。作るときは、まず一番上の石を決める。そこから下へ、ひねりと曲がりを足しながら建てていく」(Game Developer, 2006)。下から積み上げるのではなく、頂点を先に決める。

部品を一つも余らせない設計は、この順序でしか成り立たない、と整理できる。頂点が先に決まっているから、下に置く石の用途がすべて確定する。逆から積めば、余りは必ず出る。彼の「赤ニシンなし」は美意識である前に、工法の帰結だ。

本人が公に語っている失敗は何か?

『The Fool's Errand』は自腹で作られた。クレジットカードで工面し、5万ドルの借金を負ったと本人は語っている。当時の心境はこうだ。「自分が何をやっているのか、まるで分かっていなかった。でも、やっていてものすごく楽しかった」(Game Developer, 2006)。

苦しかったのは続編の方である。『The Fool and His Money』は当初2003年のハロウィンを目指していた。2006年の取材時点でも同年12月と語られている。実際に出たのは2012年だ。理由の一つとして、本人は三度続けて作り直したことを挙げている。

そして遅延について、彼はこう言った。「これは、偶然と直感で書く作家であることの、裏側の代償だ」(Game Developer, 2006)。同じ取材で語った長所——「ひとりで働くと、自分のやっていることを正当化せずに実験し、新しい着想を見つけられる」——を、そのまま原因として名指ししている。自分の方法を弁護せずに勘定書を出す作り手は、そう多くない。

結末はさらに厳しい。基盤にした Adobe Director が終わり、Mac が32ビットアプリを切り、2012年版は起動しなくなった。2023年、購入を問い合わせた人への返信で本人はこう書いている。「残念ながら、船は出て、氷山にぶつかって、沈んだ。1987年の『The Fool's Errand』はまだ動くが、2012年の続編は動かない」(Zarf Updates が2026年7月に引用)。25年かけた作品が、11年で動かなくなった。

彼はどこで板挟みになったと語っているか?

一つ目は、好みの分散である。「ゲームのなかで実に多様なパズルを出すから、私はずいぶん前に『すべての人をいつも満足させることはできない』という事実を受け入れた。言葉のパズルが好きな人もいれば、論理が好きな人も、アクション寄りが好きな人もいる」(Mysterious Writings, 2018)。

答えは、切り捨てではなく全部入れることだった。「それら全部を、そしてもっと多くを、毎回のゲームに入れる」。そのうえで二人で遊ばれることを勘定に入れる。「多くの人が私のゲームをペアで遊ぶ。親と子、友人同士、恋人同士。一人が途方に暮れるものが、もう一人の得意分野だったりする」(同)。作者が均せない差を、プレイヤー同士に均させる設計だと読める。

二つ目は、作品が自分の手を離れるときの葛藤だ。David Blaine の宝探しでは、開始から8ヶ月ほどで解答を交換するサイトが現れ、参加者は15の視覚暗号と41の謎めいた文を解き進めた。「この時点で私は、あと一、二ヶ月で誰かが賞金を取るだろうと踏んだ」。

ところが Blaine が、テレビで読み上げる「それ一つで宝の位置が分かる一文」を求めた。宝探しはさらに8ヶ月続き、参加者はその一文と41の文を突き合わせようとして行き詰まった。本人の総括はこうだ。「だから、私が意図した通りに元の挑戦が解けたのかどうかは、永遠に分からない」(Mysterious Writings, 2018)。完全な作家性を掲げてきた人が、依頼主の都合で、自分の設計の答え合わせを失っている。

彼は何に影響を受けたと言っているか?

影響源については、本人が年号を添えて三つ挙げている。憶測の余地がない。

「1970年、友人のデイヴが GAMES 誌を購読していて、答えを全部書き込んだあと私に回してくれた。私はパズルの図版の様式と、既に解かれてしまった解答の、両方に強く惹かれた」(Mysterious Writings, 2018)。解き終えたあとの誌面に惹かれた、という告白は、あとで効いてくる。

「1973年、アンソニー・パーキンスとスティーヴン・ソンドハイム(どちらもパズル愛好家だ)が脚本を書いた映画『The Last of Sheila』に触発されて、家族や友人のために推理ゲームや宝探しのパーティーを開くようになった」(同)。2006年の取材では『Sleuth』(1972)も併せて挙げ、「パズルを、物語を語るための飛び石として使えるという着想が芽生えた」と語っている。

「1979年、キット・ウィリアムズの本『Masquerade』がきっかけで、私は『The Fool's Errand』を未刊のパズルブックとして作った」。ただし違いも明言している。「あちらは解くのに何年もかかり、相応の賞金があった。こちらは数日で解け、賞品はない。GAMES 誌と同じで、解くこと自体が報酬だった」(同)。1979年の『Masquerade』宝探しを報じた当時のテレビ番組のサムネイル1979年、キット・ウィリアムズ『Masquerade』の宝探しを報じた当時の番組(BBC Archive / YouTube)

Kizuki の読み — 解けない自分を、読者の代理人に据えた

ここからは私の解釈である。私はジョンソンを「パズルを解くのが好きな人」ではなく、「解ける形を最後まで保証したい人」だと読む。

根拠は、本人が並べてしまった食い違いにある。2006年、彼は自分の鍵となる影響として「20年にわたる GAMES 誌の購読と、ハードカバーのパズル本で一杯の Ikea の本棚」を挙げた。ところが2018年にはこう言う。「パズルの目利きにはなったが、皮肉なことに、私は楽しみのためにパズルを解かない」。『Masquerade』も、買って眺め、「これは無理だ」と本棚に押し込み、何年も後に解答本を買って読み、「命がかかっていても自分には解けなかっただろう」と結論している。集める。解かない。それでいて、解けるかどうかだけは死活問題として気にする。

この順で並べると、赤ニシン禁止も、解を一つに絞ることも、「これ、自分に解けるか?」という基準も、趣味ではなく誓約に見えてくる。解くのが得意でない自分を、読者の代理人として設計の内側に置いたのだ、と整理できる。そして同じ誓約が、完成を遠ざけた。すべての部品が一つの答えに収束する構造を、たった一人で保証するなら、完成を判定できる人間も一人しかいない。続編の25年は、才能の不足ではなく、その構造の帰結だと私は読む。

どこから触れると、この人が分かりやすいか?

まずは『The Fool's Errand』(1987)がいい。今も動くのはこちらだけで、「バッファロー丸ごと」の手つきが一番はっきり出ている。平均のプレイ時間は一ヶ月だったと本人は書いている。腰を据えて向き合う作品だ。

続編『The Fool and His Money』(2012)は、2026年7月に公開された有志のブラウザ移植で触れられる。移植者は本人と連絡が取れないまま、「商業的に入手できなくなった作品のソフトウェア保存」としてこれを行ったと書いている。この経緯は頭に入れたうえで遊びたい。

近い関心の書き手なら、この移植を紹介した Andrew Plotkin、パズルの難しさを読者への配慮の問題として考え続けた マーティン・ガードナー、フェアさの線引きそのものを職業にした Will Shortz が地続きだ。「作者は読者を出し抜かない」という一点で、三人はジョンソンと同じ側に立っている。

参考文献

本記事で参照した一次資料(引用はいずれも英語原文からの私訳):

Mysterious Writings「Six Questions with Cliff Johnson: Award Winning Puzzle and Game Designer」本人インタビュー(2018-03-20)

Game Developer(旧 Gamasutra)「Playing Catch Up: The Fool's Errand's Cliff Johnson」本人インタビュー(2006-10-05)

Synesis One「Meet Cliff Johnson, Puzzle Game Designer」本人インタビュー(2022-03-23)

Andrew Plotkin「The Fool and his Money returns」Zarf Updates(2026-07)— 本人の2023年のメール返信を引用

The Fool and His Money(有志によるブラウザ移植版・2026年公開)— 移植者による経緯の記述

補足に用いた二次資料:

Jimmy Maher「Cliff Johnson's Fool's Errand」The Digital Antiquarian(2015-11)— 本人への長時間インタビューに基づく評伝

Wikipedia「Cliff Johnson (game designer)」— 生年・学歴・作品一覧・受賞の確認に使用

本文中で「私は~と読む」と書いた箇所は Kizuki の解釈であり、本人の発言ではない。

リアクション(ログイン不要)

匿名で残せます • 同じリアクションは1日1回まで

関連シリーズ

デザイナーの哲学第62回 / 全63回

次に読む

編集部からのおすすめ