DESIGNER-STUDY · 2026-10-03
Brenda Romero の哲学 — 好かれるより、敬意を持たれるまで作り込む
『Train』の作者を、本人の言葉から読む
はじめに — 「Train」の作者は、何を大事にしている人か
Brenda Romero は、ボードゲーム『Train』の作者として知られるゲームデザイナーだ。今回は作品の紹介ではなく、本人の発言から人物を読む。結論を先に言えば、彼女の話は「手を抜かず、細部まで決める」という一点に何度も戻ってくる。
パズルサイトで取り上げる理由は、ルールの組み方そのものが意味を持つ、という設計観にある。『Train』では「荷物を効率よく詰める」という単純な作業が、遊び手に重い問いを突きつける。仕組みが主張になる例として、読む価値がある。
経歴 — ボードゲームとデジタルをまたぐ人
Romero は『Wizardry 6』などのコンピューターゲームの開発に関わってきたデザイナーで、のちに『Train』のようなアナログのアート作品も手がけた。2014年の Game Developer の記事は、『Wizardry 6』で David Bradley に師事した経験に触れている(Game Developer 2014)。
本人の講演ページには、GDC をはじめ、TEDx Phoenix(2011年11月)や『Train』に関する複数の講演が並ぶ(本人サイト 講演一覧)。デジタルと紙の両方で語り続けてきた人だと、この一覧から読める。
哲学 — 「遅くても、費用がかかっても、いい」
2013年10月、IndieCade での講演を伝える Game Developer の記事によれば、彼女は良いゲームデザインについて「costs what it costs and it takes the time that it takes」(かかる費用も時間も、かかるだけかかる)と述べた(Game Developer 2013)。効率を最大にする考え方への、はっきりした反論である。
同じ記事で彼女は、全ての決定に気を配ったこと、答えが分からない問題は分かるまで待ったことを語る。さらに「Care more about being respected than liked」(好かれることより、敬意を持たれることを大事にせよ)とも言う。悪いゲームを出して「いい人だったからいい」と言われることはない、という趣旨だ。
2014年の記事では「No one ever grows up aspiring to work on a mediocre game」(凡庸なゲームを作りたくて育つ人はいない)と述べたとされる(Game Developer 2014)。品質への姿勢が、人柄の話ではなく仕事の話として語られている点が印象的だ。
こだわり — 遊び手の体験を、細部まで制御する
2014年の記事で、彼女は「The second my player comes into my environment I want it perfectly controlled, and I want them to have an amazing experience」(遊び手が環境に入った瞬間から、完全に制御し、素晴らしい体験にしたい)と語ったと伝えられる(Game Developer 2014)。
この姿勢は『Train』の物理的な作りにも出ていると読める。Emily Short の2009年の記事は、割れたガラスや SS の紋章のついたタイプライターといった部品が、普通のゲームではないと伝える合図になると述べている(Emily Short 2009)。ただし、これは Short の観察であり、Romero 本人の説明ではない。
『Train』— 仕組みが主張になるとき
『Train』は、黄色い駒を貨車に効率よく詰めるボードゲームだ。Strong 国立遊戯博物館のブログは、遊び手が後から、その列車が強制収容所へ向かうと知る構造を紹介する(Strong Museum of Play 2013)。Emily Short によれば、行き先は「目的地カード」で明かされる(Emily Short 2009)。
Eric Thurm の2019年の記事は、規則が意図的に不完全で、遊び手が手順を自分たちで決めていく点を記す。終わりに泣く人、だまされたと怒る人、駒を車両の下に隠して物語に抵抗する人がいたという(Jewish Currents 2019)。同記事によれば、作品は連作『The Mechanic Is the Message』の一つで、主題は「複雑さへの加担(complicity)」だ。
Short は、遊びたくなくさせることが売りのものを「ゲーム」と呼べるのか、という疑問も書いている。Romero の側の反論は、今回読んだ資料からは確認できなかった。ここでは、評価が割れた事実だけを記す。
失敗と乗り越え方 — Kickstarter の失敗が教えたこと
2014年の記事によれば、彼女は自分に起きた最良のことの一つに、Kickstarter での失敗を挙げた。「I didn't lose my game developer card, and I got some much-needed humility」(開発者の資格は失わず、必要だった謙虚さを得た)という趣旨だ(Game Developer 2014)。
完璧を求める人が、失敗を「得たもの」として語る。この記事から分かるのはここまでだ。どのプロジェクトで、どんな経緯だったかは、私が読んだ資料には書かれていないので、ここでは触れない。
ジレンマ — 理想と、出荷の現実
GDC 2014 の講演「Jiro Dreams of Game Design」の紹介文は、情熱のある開発者には「偉大さを求める瞬間」が少なくとも一度は来る、と書く。同じ紹介は、出荷の都合で理想を曲げがちな業界の事情を、講演の主題に置いている(GDC Vault 2014)。
2014年の記事には「I often feel like a pawn on a board of kings and queens」(王と女王の盤の上の歩兵のように感じることがよくある)という発言も伝えられている(Game Developer 2014)。品質への執着と、組織の中での自分の立場。その間の緊張は、本人の言葉として確認できる。
影響源 — 寿司職人と、料理人
2014年の記事によれば、彼女に大きな影響を与えたのは、Christopher Kostow シェフの丁寧に盛りつけたアスパラガスと、ドキュメンタリー『Jiro Dreams of Sushi』だ(Game Developer 2014)。2013年の記事も、小野二郎の完璧主義と、弟子入りの伝統に触れている(Game Developer 2013)。
ゲーム開発に、料理の世界のような体系的な師弟関係が乏しいという指摘も、同記事に見える。影響源が他のゲームでなく、職人の仕事である点が、彼女の特徴だと言える。
Kizuki の読み
ここからは私の解釈である。Romero は「完璧に作る」と「仕組みに意味を持たせる」を、同じ姿勢の表と裏として持っているように見える。『Train』は荷物を詰めるという単純な動作を使う。だからこそ、細部の精度が少しでも落ちれば、主張はただの悪趣味になってしまう。
パズルの設計にも通じる話だと私は思う。仕組みが小さいほど、一つの細部が全体の意味を決める。もっとも、本人はこれをパズル設計論として語っていない。あくまで私の読み方である。
おわりに — どこから触れるか
入口としては、まず2013年と2014年の Game Developer の記事を読むのがよい。短く、彼女の考えの芯が出ている。そのあと、『Train』をめぐる Emily Short と Eric Thurm の文章に進むと、評価の割れ方まで見える。
関連する人物としては、仕組みで意味を伝える設計に通じる当サイトの記事、Jonathan Blow の考察やアレックス・ビーチャムの考察が近い。
参考文献
本記事で参照した一次・二次資料:
・GDC 2014: Jiro Dreams of Game Design(本人講演・紹介ページ)
・Game Developer 2013年10月(IndieCade 講演の記事)
・Game Developer 2014年3月(GDC 講演の記事)
・Strong National Museum of Play ブログ 2013年6月
・Emily Short "Train" 2009-12-07
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