DESIGNER-STUDY · 2026-09-26
アレックス・ビーチャムの哲学 — 終わる世界で、それでも知りたいか
Outer Wilds / Echoes of the Eye
「答えを知りたいから探検する」だけで、ゲームは成り立つか
アレックス・ビーチャム(Alex Beachum)は、宇宙探検パズル『Outer Wilds』(2019)の生みの親である。敵も、集めるアイテムも、能力の強化もない。22分ごとに太陽が爆発し、世界が巻き戻る。持ち越せるのは、自分が知ったことだけだ。
この作りを、彼は何年たっても同じ言葉で説明している。2015年には「探検の唯一の目的は、いる世界についての問いに答えること」と言った(Game Developer 2015 ↗)。拡張『Echoes of the Eye』の発売直前の2021年にも、ほぼ同じことを言っている(Axios 2021 ↗)。
その拡張が出てから、今週でちょうど5年になる。私は、彼の発言を2015年から2023年まで並べてみた。見えてきたのは、技術の都合で入れた仕掛けが、いつのまにか本人の人生観の器になっていく過程である。『Outer Wilds』のレビューと合わせて読んでほしい。
Outer Wilds のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の1枚目(Steam スクリーンショット)
大学院の修士制作から、6年かけて製品へ
ビーチャムは、もともとゲームデザイナーを目指していたわけではない。進路を決めたのは、南カリフォルニア大学(USC)のインタラクティブメディア大学院に出願したときだと本人が語っている。『Outer Wilds』はそこでの修士制作として始まった(原典 ↗)。
最初の挑戦は失敗している。学生向けの IGF(インディーゲームの祭典)に応募して、選ばれなかった。「かなり呆然とした」という言葉は、その翌年に本選の IGF で評価されたときのものだ(Edge 2015 ↗)。2015年の IGF では最高賞(Seumas McNally Grand Prize)と Excellence in Design を受けた(Wikipedia ↗)。
その後は Mobius Digital で製品版を作り、Annapurna Interactive から2019年に発売された。開発にはおよそ6年かかった(GamesBeat 2018 ↗)。シナリオを書いたのは妹のケルシー・ビーチャムである(Wikipedia ↗)。
哲学 — ご褒美は「わかった」だけでいい
2015年、彼は設計の目標を二つ挙げた。一つは、自分では制御できない力に動かされる世界を進む、宇宙探検の気分をつかむこと。もう一つは、探検の目的が「問いに答えること」だけのオープンワールドを作ることだ(原典 ↗)。
2018年には、この作品を「物理シミュレーションの中のナラティブ・アドベンチャー」と呼んだ。「死に方はたくさんあるが、何も殺せない」とも言っている(GamesBeat 2018 ↗)。戦いを外したぶん、残る動機は好奇心しかない。
2021年の言葉はこうだ。「答えを知りたいから探検する、そういうゲームにしたい」(Axios 2021 ↗)。6年を隔てて、主張はほとんど動いていない。この一貫性が、彼の第一の特徴だと私は整理している。
YouTube「Alex Beachum Designing for Curiosity in Outer Wilds.」(Full Indie チャンネル)のサムネイル
こだわり — 時間のループと、壊れやすさ
意外なことに、2015年の彼はループを物語ではなく技術の言葉で説明している。ループは「繰り返しのプレイを世界の中の出来事にするため」に発明された。そして主な役割は「大規模に動くシステムを作れるようにすること」だという(原典 ↗)。
同じ年の別の取材では、もっと率直だ。20分より長く動かすと「めちゃくちゃになる」システムがある。だからリセットする。その代わり、取り返しのつかない出来事を置ける。「どこを探検するかと同じくらい、いつ探検するかが意味を持つ」(Edge 2015 ↗)。
もう一つのこだわりは、壊れやすさである。人間が巨大なロケットに体を縛りつけ、明らかに居場所ではない環境へ出ていく。その事実に「魅了されている」と彼は言う。洞窟に入るかどうかの決断は、中に何があるか不安なほど面白くなる、とも(原典 ↗)。
Outer Wilds のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の2枚目(Steam スクリーンショット)
失敗 — 数か月で捨てた最初の村
ゲームの出発点になる村には、別の初期版があった。2023年のインタビューで、彼はそれを「数か月くらいは存在していた」と振り返り、「まったくうまくいかなかった」と言い切っている(Claire Boeck によるインタビュー 2023 ↗)。
ただ、語り口に悔しさは薄い。「早い段階で学べた、いい経験だった」「新しい村はあらゆる点で比べものにならないほど良い」と続ける。作り直したことで、プレイヤーを連れていきたい場所へ、ずっとうまく導けるようになったという。
学生 IGF の落選と、この村の作り直し。本人が語る失敗は、どちらも「一度出したものを、評価を受けて引っ込める」形をしている。
ジレンマ — 何を手放すか、二度と味わえない体験
同じインタビューで、彼は作り手の葛藤をはっきり口にしている。プレイヤーにこの体験をしてほしい、でもこの設計は機能していない。そんなとき「何を手放す覚悟があるか」が問われる、と(原典 ↗)。細かい狙いを諦めることになっても「それでいい」とも言う。
もう一つは、知識で進むゲームの宿命だ。「一度知ってしまったら、同じ気持ちでもう一度やることは二度とできない」。そして「それを回避する方法はないと思う」と認めている。
自由と誘導のあいだでも揺れている。「間違った遊び方はちょうど一つだけある」と彼は言う。惑星を一つずつ片づけようとすることだ。本来は「問いごとに」追うように作ってある。一つの謎の手がかりはおよそ三つで、同じ惑星に二つは置かない、という決まりまであるという。
YouTube「How Outer Wilds Kept Players Curious - Full Interview With Alex Beachum」(TeeHallums チャンネル)のサムネイル
影響源 — 月が落ちてくる町と、白い迷宮
本人がもっともはっきり認めているのは『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』だ。チームの皆が好きで「影響がなかったと言えば嘘になる」。迫りくる破滅の感覚は、月が落ちてくるタルミナの状況から来ているという(原典 ↗)。同作に深く関わった青沼英二の考察も参照してほしい。
2015年の別の取材では、ローグライクの名も挙げた。永久に死ぬ仕組みがあると、結果や時間に左右される要素で遊べる、という理由だ(Edge 2015 ↗)。
2023年には、大学院時代に遊んだ『Antichamber』に触れ、「少し影響を受けた」と語っている。知識で先へ進む作りの先例としてだ。ただし記憶はあいまいだと本人が断っている(原典 ↗)。作者についてはAlexander Bruce の考察に書いた。
Antichamber のプレイ画面。Steam ストアページ掲載の1枚目(Steam スクリーンショット)
Kizuki の読み — 都合で入れたループが、答えになった
ここからは私の読みである。本人の発言ではない。
2015年の彼は、ループを「システムを壊さないための仕掛け」として語っていた。ところが2023年には「Outer Wilds は、要するに私の個人的な哲学だ」と言う。そして問いを立てる。どうせ世界が終わるなら、宇宙を探検して学ぶことに何の意味があるのか。ゲームの答えは「それでも意味はある」だ、と(原典 ↗)。
私はこの二つの発言を、矛盾ではなく順序として読む。先に来たのは、20分で世界を巻き戻す技術上の都合だった。その都合が「終わる世界で、それでも知ろうとするか」という問いを、作り手本人に突きつけた。一度しか味わえない体験を回避できないと認める態度も、同じ根から出ている。彼は、消えていくものの価値を、ゲームの仕組みそのもので肯定した人だと私は読む。
どこから触れるか
入口はもちろん『Outer Wilds』本編だ。本人が「二度と同じ気持ちでは遊べない」と認めている以上、攻略情報は見ずに始めてほしい。惑星ごとではなく、気になった問いごとに追うのが、作り手の想定した遊び方である。
本編を終えたら拡張『Echoes of the Eye』へ。物語の側からこの作品を知りたければ、妹ケルシー・ビーチャムの GDC 2021 講演(GDC Vault ↗)が手がかりになる。関連する考察として、青沼英二とAlexander Bruceもあわせてどうぞ。
参考文献
本記事で参照した一次資料:
・Game Developer「Road to the IGF: Alex Beachum's Outer Wilds」(Phill Cameron, 2015-01-27) ↗ — USC 修士制作、二つの設計目標、ムジュラの仮面、ループの目的、壊れやすさ、洞窟の不安
・Edge(TechRadar 掲載)「Outer Wilds is a game that asks what if you only had 20 minutes to live」(2015-03-23) ↗ — 学生 IGF 落選、ローグライク、20分を超えると混乱するシステム、「いつ探検するか」
・GamesBeat「Outer Wilds preview: Let's go backpacking in outer space」(Dean Takahashi, 2018-03-15) ↗ — 物理シミュレーションの中のナラティブ・アドベンチャー、何も殺せない、開発約6年
・Game Developer「Attend GDC and learn how Outer Wilds nailed curiosity-driven game design」(2020-01-15) ↗ — GDC 2020 講演(Beachum / Verneau)の告知。講演本体は未参照
・Axios「The unlikely success of Outer Wilds」(Stephen Totilo, 2021-09-27) ↗ — 「答えを知りたいから探検する」
・Claire Boeck「Interview with Alex Beachum」(2023年4月収録) ↗ — 最初の村、何を手放すか、二度と味わえない体験、間違った遊び方、手がかりの配置規則、Antichamber、個人的な哲学
・GDC Vault: Sparking Curiosity-Driven Exploration Through Narrative in Outer Wilds(Kelsey Beachum, 2021) ↗ — 関連講演として紹介のみ
・Wikipedia「Outer Wilds」↗ — 発売日、IGF 2015 の受賞、制作体制の確認
・動画サムネイル: Full Indie ↗ / TeeHallums ↗(いずれも YouTube。画像の出典として掲載)
※画像について: 本記事の Steam スクリーンショットは、画像を取得して目視確認できない環境で作成したため、Steam ストア API が返した実スクリーンショットの URL のみを使い、キャプションは掲載順の汎用表記にとどめている。
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