DESIGNER-STUDY · 2026-09-23

ランド・ミラーの哲学 — 解けたとき、プレイヤーが自分を責めるなら成功だ

Myst / Riven / Obduction / Firmament

解けた瞬間、プレイヤーは誰を責めるか

答えを見つけたプレイヤーが作り手を責めたら、私たちの負けだ。自分を責めたら、私たちの勝ちだ。Rand Miller(ランド・ミラー)は2016年、自分の設計哲学をそう要約した(原典 ↗)。

ランド・ミラーは、1993年の『Myst』を弟の Robyn Miller(ロビン・ミラー)と作った人物である。『Riven』『Obduction』『Firmament』と、今も米ワシントン州の Cyan で一人称の探索パズルを作り続けている。

本稿では、2007年から2020年までのインタビュー7本を横断して読む。浮かび上がるのは「摩擦(friction)」という言葉への、奇妙なほどの執着だ。そして、10年を隔てて同じ言葉で語られた二つの「運命」の話である。動画「Cyan and Myst - Series Memories with Rand Miller / MY LIFE IN GAMING」のサムネイル「Cyan and Myst - Series Memories with Rand Miller / MY LIFE IN GAMING」より(YouTube: My Life in Gaming)

HyperCard で作った「世界」が、10年近く売上1位だった

ランドは1959年生まれ。弟ロビンと Cyan を立ち上げ、『The Manhole』『Cosmic Osmo』などの探索型ソフトを作った(経歴 ↗)。

その延長で生まれた『Myst』は、『The Sims』に抜かれるまで史上最も売れた PC ゲームになった。1997年の続編『Riven』も記録を塗り替えた。一方、2003年の『Uru』は商業的に失敗し、オンライン版も2008年に終了している(経歴 ↗)。

当時の道具は Mac の HyperCard だった。彼はのちに「絵筆の限界と絵の具の色を知る。2色しかなくても、人は驚くようなことができる」と振り返っている(PCWorld 2013、原典 ↗)。動画「How Myst Almost Couldn't Run on CD-ROM | War Stories | Ars Technica」のサムネイル「How Myst Almost Couldn't Run on CD-ROM | War Stories | Ars Technica」より(YouTube: Ars Technica)

パズルは「世界」のあとに来る

ランドの答えは、何年たっても順番が変わらない。「私たちは、世界だと感じられるものを作りたかった。本物の世界には歴史がある。だから物語を足すのは自然だった」(WayTooManyGames 2020、原典 ↗)。

パズルはその次だ。物語・環境・パズルの三つは互いを支え合う。その中でパズルが特に難しいのは「物語にとっても環境にとっても筋が通らなければならない」からだという(同、原典 ↗)。

2013年には、作り方をもっと具体的に語っている。「場所を上から見た図から始めて、埋めていく」。建築がゲームプレイを生み、それが物語を生む「再帰的な」工程だ、と(Portland Monthly 2013、原典 ↗)。

冒頭の「責める」話も、この順番から読める。答えが世界の中にきちんと置かれていれば、プレイヤーは「ああ、気づくべきだった」と言う。彼はそれを「うまくやれた」合図だとしている(A.V. Club 2016、原典 ↗)。

死なせない。でも、摩擦は残す

『Myst』は、プレイヤーが死んでやり直す作りを捨てた。理由は単純で、「私たち二人とも、それにイライラしていたから」だ(Den of Geek 2020、原典 ↗)。

ただし楽にしたかったわけではない。「速度を落とす摩擦は加えたかった。でもゲームに決まりがあるとは思っていなかったから、死を抜いてやれるか試した」(同、原典 ↗)。

この「摩擦」は、彼の語彙に何度も戻ってくる。『Riven』については「摩擦の少ないところから始め、最後に手ごわいものを置く」のが目標だったと語る(ACG 2007、原典 ↗)。

その摩擦を作る道具は、小さな手がかりだと読める。本人がいちばん楽しいと言うのは「完璧な心理効果を生む、ちょっとしたひとひねり」だという。世界の反対側で光る一瞬、440ボルトの小さな表示、机の上のナンバープレート(PlayStation Blog 2017、原典 ↗)。

お金が尽き、時間が尽き、運命の手綱を失った

『Uru Live』の中止について、何が最大の失敗だったかと問われた答えは短い。「お金が尽き、それで時間が尽き、それで自分たちの運命を自分で握れなくなったことだ」(ACG 2007、原典 ↗)。

同じインタビューでは、拡張パックについても率直だ。ほぼ1年分の中身が「あっという間に使い切られた」。探索型の世界は、作る速さより遊ばれる速さのほうがずっと速い。

作品単位の失敗も隠さない。好きなパズルを聞かれて挙げたのは、『Myst』の「Maze Runner」だった。「多くの人に嫌われた」「実装は少しまずかったと思う」と認めつつ、「正直、私は大好きだった」と言う(A.V. Club 2016、原典 ↗)。

そして成功の側にも、同じ冷静さを向ける。「『Myst』で起きたことの大半は運だったと、今はわかる」(同、原典 ↗)。

完全な自由と、見えない道しるべ

彼がいちばんはっきり口にする葛藤は、自由と誘導だ。「探索型のゲームでは、プレイヤーに完全な自由を感じてほしい。同時に、物語や情報を確実に受け取れる道しるべも要る」(PlayStation Blog 2017、原典 ↗)。

2013年には、密度の悩みも語っている。中身を詰め込みたい。でも期待と緊張も欲しい。「その二つの世界のどこに立つかを決めようとしている」(Portland Monthly 2013、原典 ↗)。

答えの一つが、区切られた空間だった。「目標だけでなく、目標を達成するための境界を知りたがる」。『Myst』の時代(Age)が一つずつ完結していたのは良いことだった、と彼は振り返る(ACG 2007、原典 ↗)。PCWorld では同じことを「心理的な空間」と呼んでいる(原典 ↗)。

もう一つの葛藤は、自分の代表作そのものだ。『Myst』の続編を作らなかった理由を、彼は「設定の壁が迫ってくる」「窮屈だった」と説明している(PCWorld 2013、原典 ↗)。動画「Myst creator Rand Miller on Obduction and puzzle games - E3 2016」のサムネイル「Myst creator Rand Miller on Obduction and puzzle games - E3 2016」より(YouTube: PC Gamer)

トールキンの「窓」と、ポップ心理学の本

本人が認める影響源は、ファンタジー文学だ。ただし範囲は限定している。「ルイスとトールキンが影響したのは、深いファンタジー世界を作るとはどういうことか、という種の部分だけだ」(ACG 2007、原典 ↗)。

『指輪物語』については、2020年にこう言う。本を1冊読んでいるだけなのに、世界はもっと大きい。「窓を持っているように感じた」(Den of Geek 2020、原典 ↗)。

もう一つの源は、人間そのものだ。「人間の心理が大好きだ。ポップ心理学の本を読んで、人がどう反応し、どう動かされ、何にイライラするのかを見るのが好きだ」(A.V. Club 2016、原典 ↗)。動画「Making Myst a World with Rand and Robyn Miller」のサムネイル「Making Myst a World with Rand and Robyn Miller」より(YouTube: The Fourth Curtain)

Kizuki の読み — 摩擦は、手綱を握っている者にしか設計できない

ここからは私の解釈である。2007年、彼は『Uru』の失敗を「自分たちの運命を自分で握れなくなった」と総括した。6年後の2013年、Kickstarter で『Obduction』を立ち上げた彼は、自主出版を「運命を自分で握る」ことだと喜んでいる(原典 ↗)。同じ言葉が、裏返しで戻ってきている。

私はこの二つを、一本の線として読む。彼の設計は「摩擦」を細かく調整する仕事だ。どこで速度を落とし、どこで光らせ、どこで区切るか。その調整は、締め切りも中身の量も自分で決められる人にしかできない。

だから彼にとって、お金と時間を失うことは、単なる経営の失敗ではなかったのだと思う。摩擦を設計する権利そのものを失うことだった。「大半は運だった」という謙遜も、運に任せられない部分を自分で握り直したい人の言葉として読める。

どこから触れるか

彼の言う「摩擦」を体で知るなら、まず『Myst』だ。一つの時代(Age)が閉じた空間として完結する感覚が、そのまま「心理的な空間」の実例になっている。次に『Riven』で、摩擦が少しずつ強くなる設計を追うとよい。

手綱を握り直したあとの作品として『Obduction』と『Firmament』を並べると、2013年以降の発言と照らし合わせやすい。探索パズルの「手がかりの置き方」を別の角度から考えたいなら、『The Witness』の Jonathan Blow と、同じアドベンチャーの源流にいる Roberta Williams の回も読んでほしい。

なお、兄弟のもう一人ロビン・ミラーは GDC 2013 の講演で「多くの人はパズルが好きではない。私たちはゲーマーではない人のために作った」と語っている(原典 ↗)。死なせない設計の背景として、併せて読むと面白い。

参考文献

本記事で参照した一次資料:

・Adventure Classic Gaming「Rand Miller - Cyan Worlds インタビュー」(2007-11-01 初出) ↗ — Uru Live 中止の最大の失敗、拡張パックの消費、ルイスとトールキン、境界を知りたがる、Riven の摩擦

・PCWorld「Deep dive with Myst co-creator Rand Miller: The full interview」(Hayden Dingman, 2013-11-15) ↗ — 絵筆の限界、心理的な空間、Myst 続編を作らない理由、運命を自分で握る

・Portland Monthly「Q&A with Rand Miller, Designer of Digital Worlds」(2013-12-12) ↗ — 上から見た図から始める、再帰的な工程、密度と緊張のあいだ

・The A.V. Club「Myst creator Rand Miller on his favorite puzzle that everybody hates」(William Hughes, 2016-09-10) ↗ — 責めるのは誰か、Maze Runner、人間の心理、運

・PlayStation Blog「The Witness' Jonathan Blow talks game design with Myst co-creator Rand Miller」(2017-08-24) ↗ — 自由と道しるべ、小さな手がかり

・WayTooManyGames「Interview with Rand Miller, co-creator of Myst」(2020-05-21) ↗ — 世界が先、物語・環境・パズルの三つ

・Den of Geek「Myst: Creators Rand and Robyn Miller Unlock the Secrets of the PC Classic」(Bernard Boo, 2020-08-11) ↗ — 死なせない設計、摩擦、指輪物語の窓

・Game Developer「Video: The Myst Classic Postmortem from GDC 2013」 ↗ / GDC Vault「Classic Game Postmortem: Myst」(Robyn Miller, 2013) ↗ — 弟ロビンの発言

・Wikipedia「Rand Miller」 ↗ — 生年・作品年表(経歴の確認用)

動画(サムネイル使用): My Life in Gaming「Cyan and Myst - Series Memories with Rand Miller」/ Ars Technica「How Myst Almost Couldn't Run on CD-ROM | War Stories」/ PC Gamer「Myst creator Rand Miller on Obduction and puzzle games - E3 2016」/ The Fourth Curtain「Making Myst a World with Rand and Robyn Miller」

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