DESIGNER-STUDY · 2026-05-30

Jonathan Blow — 真実を暴く装置と、譲れない意味

Braid と The Witness の設計者を、その矛盾から読む

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はじめに

ゲームデザイナーを論じるとき、私は代表作の解説からは入らない。その人が何を恐れ、何を信じているか——インタビューや講演の端々に滲むもののほうが、完成した作品よりも雄弁なことがある。最初に取り上げるのは Jonathan Blow。2008年の『Braid』と2016年の The Witness という、わずか二本で思考系パズルの語彙を更新した設計者だ。

面白いのは、この人物が『ゲームは真実を暴く装置だ』と語る一方で、自作については『一語に至るまで意味は確定している』と言い切ることだ。観察すれば、強い信念と、それと噛み合わない矛盾が、同じ口から出てくる。その矛盾こそが彼の設計を駆動している。本稿では哲学・こだわり・ジレンマ・代償・影響源という五つの角度から、この設計者を読み解いていく。

哲学 — ゲームは真実を暴く装置である

2011年、Blow は GDC Europe で『Truth in Game Design』と題した講演を行った。中心にある主張はこうだ。“games, being algorithmic systems implemented on computers, are biased toward revealing truth, so long as we do not quash the truth in order to force our own high-level wishes into the design.”——ゲームはコンピュータ上に実装された数学的システムであり、設計者が自分の高次の願望を無理に押し込んで真実を握りつぶさない限り、本質的に真実を暴く方へ傾く、と。彼はその例として Conway のライフゲームを引く。たった数行の規則から、設計者すら予期しない複雑さが立ち上がる。

ここで重要なのは『force our own high-level wishes into the design』を戒めている点だ。設計者の仕事は、規則の中にすでに潜んでいる真実を見つけて取り出すことであって、上から意味を被せることではない。これは Puzzlebyrinth の語彙で言えば、徹底した減算の思想に近い。The Witness の開発初期に彼が書いた文章のタイトルが『Designing to Reveal the Nature of the Universe』であることも、この姿勢を裏づけている。

もう一つの柱は、プレイヤーを知的な存在として扱うことだ。Time 誌のインタビューで彼は、設計中に常に意識しているのは『いまプレイヤーの頭の中で何が起きているか』だと語っている。The Witness が一行のチュートリアルも持たず、約650枚のパネルが規則そのものを実例で教えていく構造は、この信念の直接の帰結だ。観察を遊びにする設計——この系譜の極北に、彼の作品は立っている。

こだわり — プレイヤーの時間を奪わないこと

Blow が繰り返し攻撃してきたのは、報酬で人を縛る設計だ。World of Warcraft のような構造について、彼は『大事なのはどれだけ時間を注ぎ込んだかだ、と教えてくる』と批判し、それを『棒の先に人参をぶら下げて引っ張るだけ』の露骨な操作だと呼んだ。そうした設計はプレイヤーを『人間として扱っていない』と彼は言う。Skinner 箱的な報酬スケジュールへの嫌悪は、彼の倫理観の核にある。

だから彼の作品には、水増しがない。グラインドも、引き延ばしもない。The Witness のパネル群は、ほぼ一枚ごとに何か新しいことを教える。プレイヤーの時間を奪わないという原則が、難しさの調整ではなく、もはや道徳的な立場として機能している。業界全体が課金とリテンションへ傾くなかで、彼はその逆を全力で押し続けてきた設計者だ。

このこだわりは、ゲームの外側にも漏れ出している。彼は既存のプログラミング言語が制作者の時間を浪費すると考え、長年にわたって自前の言語(通称 Jai)を設計してきた。『時間を奪われたくない/奪いたくない』という同じ価値が、プレイヤーから道具立てまで、スケールを変えて一貫している。ここが Blow という人物の手触りの良さでもあり、後で見る『代償』の出どころでもある。

ジレンマ — 作者の意味と、プレイヤーの解釈

Braid は、ありとあらゆる読み方をされた。フェミニズムの寓話、原子爆弾とマンハッタン計画の物語、失恋の記録。これに対して Blow は明確に言い切る。“I do have a very specific meaning behind everything in the game. Everything has a purpose, not just in the levels, but in every word.”——意味は確かにある、面だけでなく一語ごとに目的がある、と。

彼の苛立ちはこう続く。多くの人は『見つけた具体的な証拠に飛びつき、それで全てを説明し、他の事実をその説明に合わせて捻じ曲げる』のが速すぎる、と。なぜ別の事実を拾って別の説明を組み立てないのか、と問い返す。作者は、自分が精密に込めた意味が誤読され、確定的な一解に固定されることを恐れている。

ここに、私が指摘せずにいられない矛盾がある。『Truth in Game Design』では、設計者の高次の願望を押し込むなと説き、システムが真実を暴くに任せよと言う。ところが Braid では、彼自身が一語まで意味を確定させ、システム(=プレイヤー)が別の真実を暴いたとき苛立つ。真実は暴かれるべきだと信じながら、その真実の作者であることを手放せない。彼が恐れているのは『意味が伝わらないこと』であり、信じているのは『正しい一つの意味は存在する』ことだ。この二つは、彼の中で十年以上ほどけていない。

代償 — 自費から、借金まで

信念には値段がついた。Braid を、Blow はほぼ自費で作った。アート寄りの個人ゲームに私財を投じるのが珍しかった時代に、自分の貯金から18万ドル以上を注ぎ込んだとされる。結果として Braid は400万ドルを超える売上を上げ、彼に次の作品の資金をもたらした。ここまでは成功譚だ。

問題は次だ。The Witness の開発は7年近くに及び、規模は膨張し、最終的なコストは600万ドル近くに達したと報じられている。Braid で得た資金を使い果たし、完成のために借金までした。プレイヤーの時間を奪うまいとする彼のこだわりは、削れない・妥協できないという形で、そのまま予算と歳月を食いつぶしていった。

ここに設計者としての教訓がある。彼の非妥協は、作品の質を保証すると同時に、本人を財務的な崖際まで追い込む構造になっている。信念がそのままリスクに直結する。彼の作品が少ない——二本きりである——のは、才能の問題ではなく、この『代償の大きさ』そのものが理由なのだと、私は読んでいる。

影響源 — カルヴィーノとライフゲーム

Blow の影響源は、文学と数学の二つに引き裂かれている。一つは Italo Calvino の『見えない都市(Invisible Cities)』だ。三、四ページずつの、それぞれ別の論理で成り立つ都市の断章。彼は当初その文体を意識的に模倣し、やがてこの作品にはもっと良いやり方があると気づいて離れていった、と語っている。The Witness の島が、独立した規則を持つパネル群の連なりであることは、カルヴィーノの都市の構造と無関係ではないだろう。

もう一つは、すでに哲学の節で触れた Conway のライフゲームだ。最小の規則から創発する複雑さ——設計者が意図しない真実が立ち上がる現象。これが『Truth in Game Design』の形式的な背骨になっている。組み合わせ爆発を恐れず、むしろそこに真実を見ようとする態度の源泉だ。

この二つの影響は、そのまま彼の矛盾の二つの極に対応する。カルヴィーノは『精密に作られた意味と構造』を、ライフゲームは『規則に任せて創発させる真実』を彼に教えた。意味を込めたい作者と、システムに委ねたい設計者。Blow という人は、文学と数学のあいだで引き裂かれたまま、二本の傑作を作ったのだと思う。

まとめ

Jonathan Blow を五つの角度から読んだ。ゲームを真実を暴く装置と信じ、プレイヤーの時間を奪うまいと執着し、作者の意味とプレイヤーの解釈のあいだで揺れ、その非妥協の代償を金と歳月で払う。恐れているのは意味が伝わらないこと、信じているのは正しさが存在すること。矛盾は欠陥ではなく、彼の燃料だ。

自分が次にパズルを作るとしたら、と考える。意味を一語まで作者が確定させるのか、それとも規則を組んでシステムが真実を暴くに任せるのか。Blow の歩みは、その両方を完全には手にできないと教えている。私なら、プレイヤーの時間を奪わないというこだわりは受け継ぎつつ、込めた意味はもう少し手放して握ってみたい。試行を許すか罰するかという問いと同じで、これもまた、プレイヤーをどこまで信じるかという姿勢の宣言なのだと思う。

参考文献

本稿で引用・参照した原典:

・Jonathan Blow『Truth in Game Design』(GDC Europe 2011) — 動画(YouTube) / GDC Vault / Game Developer 紹介

・『Designing to Reveal the Nature of the Universe』The Witness 開発ブログ(2011) — the-witness.net

・『Interview With The Witness Creator Jonathan Blow』TIME(2016) — time.com

・『Feature: Jonathan Blow On Designing The Witness』Game Developer — gamedeveloper.com

・『Game Designer Jonathan Blow: What We All Missed About Braid』The A.V. Club — avclub.com

・『Catching Up With Jonathan Blow』Game Developer(報酬設計への批判) — gamedeveloper.com

・『Jonathan Blow on the development of The Witness』PC Gamer/PCGamesN(資金と開発期間) — pcgamesn.com

・『Jonathan Blow on Italo Calvino and Video Games』Istituto Italiano di Cultura di New York — iicnewyork.esteri.it / 動画(YouTube)

・Jonathan Blow — Wikipedia(経歴・Braid の自己資金・Jai 言語) — en.wikipedia.org

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