DESIGNER-STUDY · 2026-09-21

ロバータ・ウィリアムズの哲学 — 難しいパズルを作ろうとしたことは、一度もない

Mystery House / King's Quest / Phantasmagoria / Colossal Cave

自己申告と、遊んだ側の記憶が食い違う

「頭をひねらせるパズルや、ねじれた筋書きを考えようとしたことは、一度もない」。グラフィック・アドベンチャーというジャンルを作った本人が、2006年のインタビューでそう言っている(原典 ↗)。動画「Roberta Williams plays Colossal Cave 3D」のサムネイル「Roberta Williams plays Colossal Cave 3D」より(YouTube: Colossal Cave 3D 公式チャンネル)

意外だった。Roberta Williams(ロバータ・ウィリアムズ)の名は、日本でも「理不尽に死ぬアドベンチャー」の代名詞として通っている。崖から落ちる。毒を飲む。拾い忘れた小物のせいで、何時間も前からやり直す。

自己申告と、遊んだ側の記憶。ここまで食い違う設計者も珍しい。私が読みたいのは、この隙間だ。

ちょうど2026年1月、Game Informer に本人の長い新インタビューが載った。引退から四半世紀たって、まだ次の企画を口にしている。読み直すには良い時期である。

1980年、自宅の食卓から始まった

日本語圏では作品名のほうが先に知られている人なので、経歴を短くまとめておく。

1980年、夫の Ken とふたりで作った『Mystery House』が、絵のついた最初の商用アドベンチャーになった。ふたりはその後 Sierra On-Line を興す。

1984年の『King's Quest』でシリーズが始まる。1988年の『King's Quest IV』では女性を主人公に立てた。「業界で女性のヒロインが立てられたことはなかった。設計しているあいだ、ずっと心配だった」と本人が振り返っている(Eye on Design, 2022 ↗)。

1995年の実写ホラー『Phantasmagoria』を経て、1999年に開発を離れた。Sierra はその数年前にすでに売却されており、夫婦はその後長く船で暮らす。戻ってきたのは2023年、『Colossal Cave』のリメイクだった。

まず物語、次に人物。パズルはそのあと

設計の出発点を聞かれると、彼女はいつも同じ三つを挙げる。「物語は何か。登場人物は誰か、特に主人公は誰か。その人物は何をしようとしているのか、つまりクエストは何か」(Adventure Classic Gaming, 2006)。

パズルはこの三つのあとに来る。同じインタビューで彼女はこう続けた。「頭をひねらせるパズルやねじれた筋書きを考えることを目指したことはない。ただ、多くの設計者は必要以上にゲームを複雑にしていると思う」。

1983年の Antic 誌では、もっと直截だ。「特別さは、私が作る物語から来る。それは私にしかできない」(Eye on Design, 2022 が引用)。

道具についても譲らない。「既存のエンジンを取ってきて、自分の考えに合わせようとすることは絶対にしない。いつも、ゲームがどう見えてどう動いてほしいかから考える」(Adventure Classic Gaming, 2006)。

一貫しているのは、パズルを「面白さの本体」に置かない姿勢だ。彼女にとって謎は物語を運ぶ装置であって、目的ではない。そう読める。

おとぎ話とディズニーランドと、落とし穴

繰り返し出てくる素材は、はっきりしている。おとぎ話だ。「幼い頃から昔のおとぎ話が好きだった。読んで、読み返した」(IEEE Spectrum, 2020)。『King's Quest』一作目は「よく知られたおとぎ話の寄せ集め」だと本人が言う。

2026年の Game Informer では、もう一つ挙げている。「ディズニーランドにはとても影響を受けた。おとぎ話の本と、神話の本もだ。ギリシャ神話と伝説がずっと好きだった」。世界に入って歩き回る、という発想の出どころがここにある。動画「Ken & Roberta Williams Chat Colossal Cave, Sierra and What's Next」のサムネイル「Ken & Roberta Williams Chat Colossal Cave, Sierra and What's Next: Point & Click Adventurers Podcast」より(YouTube: YakWaxLips)

もう一つのこだわりは、危険そのものだ。VICE の取材で『Colossal Cave』を語る彼女は、うれしそうにこう言う。「死ぬぞ」「穴に落ちて全身の骨を折るぞ」「なんて設計だ、なんてアドベンチャーゲームだ」(VICE, 2022)。

迷路も外さなかった。リメイクについて「迷路は原作にある。原作の遊びを保つという方針のとおり、迷路はそのまま残っている」と説明している(Adventure Game Hotspot, 2023)。

人物への執着も強い。最も誇っているものを問われて、彼女は「プレイヤーが共感し、大事に思えるような人格として登場人物を育てたこと」を挙げた(Adventure Classic Gaming, 2006)。

「私の期待には届かなかった」と本人が認めた一本

本人が公に認めている失敗は、まず『King's Quest: Mask of Eternity』(1998)だ。シリーズを3Dのアクション寄りに振った一作で、評価は割れた。

彼女の言葉は短い。「私の期待には届かなかった。私は期待がとても高いのだ」(VICE, 2022)。

もう一つ、いちばんの後悔を聞かれたときの答えがこれだった。「Sierra を売ったこと、だと思う」(Adventure Game Hotspot, 2023)。

会社を離れたあとの数年について、彼女は隠さない。「悲しかった。ただ、悲しかった。乗り越えるのに、たぶん1年かかった」「私はゲーム業界から自分を切り離したようなものだった」(VICE, 2022)。

乗り越え方は、戻ってくることだった。ただし自分たちの会社で。Activision から新作 King's Quest の話はあったが、断っている。「Activision の社員のチームをあてがわれて、Ken と私のやることを全部監督されることになる。私は、そういう働き方ができない」(Time Extension, 2023)。

手を引いてやるべきか、学んでもらうべきか

いちばん面白いのは、難しさをめぐる揺れだ。

2023年の The Escapist で、彼女は若い開発者とのやりとりを再現している。「彼らは『今のプレイヤーは手を引いてやらないといけない。あれこれに我慢がきかない』と言った。私は『学ぶ時が来たのよ』と言った」。

ところが同じ宣伝期間中、GOG のインタビューでは違う言い方をしている。「多面的なゲームで、いろいろな遊び方で繰り返し遊べる。『勝つ』の目標は、自分の望みに合わせて調整できる」(GOG, 2023)。

突き放すと言いながら、逃げ道は用意している。これは矛盾というより、彼女なりの折り合いだと整理できる。難易度そのものは下げない。代わりに、どこで満足するかを選ばせる。

もう一つの葛藤はジャンルだ。「RPG かアドベンチャーか、どちらかだ。ジャンルを混ぜようとしても、それはできない」(VICE, 2022)。ずいぶん強い言い切りである。

1980年に遊んだ1本が、全部の出発点

影響源として彼女が繰り返すのは、ほぼ一本だけだ。Crowther と Woods の『Colossal Cave Adventure』。

「1980年にテキストゲームとして遊んだ。すぐに引き込まれた。離れられなかった。あれが私のキャリアを始めた」(The Escapist, 2023)。動画「Colossal Cave 3D: A Look with Ken and Roberta Williams - GOG.com Live Stream Interview」のサムネイル「Colossal Cave 3D: A Look with Ken and Roberta Williams - GOG.com Live Stream Interview」より(YouTube: Colossal Cave 3D 公式チャンネル)

43年後、彼女はその同じ作品を3Dで作り直した。原作の設計を「私が見た中で最もエレガントなゲーム設計のひとつ」と呼んでいる(Adventure Game Hotspot, 2023)。

始まりの日の話も残っている。「Ken に『ゲームを書くつもり』と言ったら、彼は『はいはい、お嬢ちゃん、どうぞ』という感じだった」(Game Informer, 2026)。同じ記事で彼女はこうも言う。「『King's Quest』は大きくなると、とても確信していた。本当に」。

Kizuki の読み — 規則は、失敗のあとに来た

ここからは私の読みである。本人の発言ではない。

「ジャンルは混ぜられない」という断言は、一般論ではなく、自分の失敗の総括ではないか。混ぜて期待に届かなかった一本を、彼女は名指しで悔やんでいる。規則が先にあって失敗したのではなく、失敗のあとに規則が来た。そう読むと、あの言い切りの強さが腑に落ちる。

そしてもう一つ。「難しいパズルを目指したことはない」と「死ぬぞ、なんて設計だ」は、彼女の中で矛盾していない。彼女が作っていたのは難問ではなく、危険な場所だったからだ。謎が難しいのではなく、世界が容赦ない。プレイヤーが理不尽だと感じたものの多くは、パズルの難度ではなく、世界の側の性格だった。私はこの人を、パズルの設計者ではなく「場所の設計者」として読む。

どこから触れるか

いま最も手に入りやすいのは2023年の『Colossal Cave』だ。彼女が「最もエレガント」と呼んだ設計を、彼女自身の解釈で遊べる。当時の空気を知りたいなら『King's Quest』の初期作、実写路線を見たいなら『Phantasmagoria』。

隣の作家へ。ほぼ同じ時代に「プレイヤーの時間を無駄にしない」という正反対の規則を立てたのが Ron Gilbert である。物語と謎の関係をさらに読むなら Dave Grossmanティム・シェイファー

テキストアドベンチャーの側から同じ問題を見たいなら Brian MoriartyAndrew PlotkinEmily Short が近い。

参考文献

本記事で参照した一次資料:

Adventure Classic Gaming「Roberta Williams インタビュー」(Philip Jong, 2006) ↗ — 設計の出発点の三つの問い、「頭をひねらせるパズルを目指したことはない」、エンジンを使い回さない、登場人物を最も誇る、『King's Quest』はおとぎ話の寄せ集め

VICE「Why Roberta Williams Came Out of Retirement to Remake a Beloved Text Adventure」(Duncan Fyfe, 2022-11-10) ↗ — 『Mask of Eternity』は期待に届かなかった、業界から自分を切り離した、「死ぬぞ/穴に落ちて骨を折るぞ」、ジャンルは混ぜられない

The Escapist「Industry Legends Ken & Roberta Williams on Remaking a Classic Adventure, Colossal Cave」(Damien Lawardorn, 2023-01-26) ↗ — 「学ぶ時が来たのよ」、1980年に『Colossal Cave Adventure』を遊んでキャリアが始まったこと

Adventure Game Hotspot「An Interview with Ken and Roberta Williams」(Jack Allin, 2023) ↗ — 原作は「最もエレガントな設計のひとつ」、迷路をそのまま残した、最大の後悔は「Sierra を売ったこと」

GOG「In-depth conversation with Ken and Roberta Williams」(2023) ↗ — 「『勝つ』の目標は自分の望みに合わせて調整できる」

Time Extension「Why Roberta Williams Turned Down Activision's Offer To Make A New King's Quest」(2023-01-20) ↗ — Activision のチームに監督される働き方はできない、King's Quest の権利は手元にない

Game Informer「Roberta Quest」(Mike Drucker, 2026-01-01) ↗ — ディズニーランドとおとぎ話とギリシャ神話、「ゲームを書くつもり」と告げた日、『King's Quest』が大きくなる確信、『Mixed-Up Mother Goose』再制作の話

IEEE Spectrum「Meet Roberta Williams, The Queen of Graphic Adventure Video Games」(Joanna Goodrich, 2020-09-28) ↗ — 「幼い頃から昔のおとぎ話が好きだった」

AIGA Eye on Design「Roberta Williams Is the World's First Graphic Computer Game Designer」(Perrin Drumm, 2022-05-13) ↗ — 女性主人公への不安、1983年 Antic 誌の「特別さは私が作る物語から来る」

動画:

「Roberta Williams plays Colossal Cave 3D」(YouTube: Colossal Cave 3D 公式チャンネル) ↗

「Ken & Roberta Williams Chat Colossal Cave, Sierra and What's Next: Point & Click Adventurers Podcast」(YouTube: YakWaxLips) ↗

「Colossal Cave 3D: A Look with Ken and Roberta Williams - GOG.com Live Stream Interview」(YouTube: Colossal Cave 3D 公式チャンネル) ↗

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