DESIGNER-STUDY · 2026-08-23

ティム・シェイファーの哲学 — 詰まっている時間を、面白くする

Grim Fandango・Day of the Tentacle・Broken Age と「楽しい混乱」

はじめに

謎が解けずに詰まっている時間は、ふつう「つまらない時間」として扱われる。ティム・シェイファーは、そこを面白くしようとした人である。「その『詰まっている感じ』自体を面白くしないといけない」と彼は言う(Vice, 2015年1月)。

シェイファーは『Day of the Tentacle』(1993)や『Grim Fandango』(1998)を作った人だ。いまは Double Fine というスタジオの代表で、『Psychonauts 2』(2021)もここから出ている。画面の中の物をクリックして進める、昔ながらのアドベンチャーゲーム。その分野でいちばん有名な作り手のひとりである。『Grim Fandango Remastered』のキービジュアル『Grim Fandango』(1998)。骸骨の街を旅する死後の世界のアドベンチャー(Steam ストアページより)

この人を机に載せたのは、2025年10月に Double Fine から『Keeper』が出たからだ。台詞がひとつもないアドベンチャーである。言葉と笑いで名を上げたスタジオが、言葉を全部抜いた。シェイファー自身の監督作ではないが、彼はこの作品を「変だけど、のんびりした体験」と紹介している(PC Gamer, 2025年8月)。

番茶を淹れ直して、二十年ぶんの発言を並べてみた。いちばん引っかかったのは、自分の代表作についての一文だった。2008年、彼は『Grim Fandango』の謎を自分でこう採点している。「なんてこった、いくつかの謎は正気じゃない。わかりにくい。意地悪ですらある」。詰まる時間を面白くしたいと言った人が、自分の謎を「意地悪」と呼んだ。以下は作品紹介ではなく、人物への考察である。

経歴 — 民俗学の授業から、骸骨の街まで

ティム・シェイファーは1967年生まれ。カリフォルニア大学バークレー校で計算機科学の学位を取り、1989年に LucasArts に入った。最初の大きな仕事は『The Secret of Monkey Island』(1990)である。デイヴ・グロスマンと二人で、台詞のおよそ三分の二を書いた。

そこからの流れはこうだ。グロスマンとの共同設計で『Day of the Tentacle』(1993)、単独で『Full Throttle』(1995)、『Grim Fandango』(1998)。2000年7月に独立して Double Fine を作った。そこからは『Psychonauts』(2005)、Kickstarter で資金を集めた二部構成の『Broken Age』(2014・2015)、そして『Psychonauts 2』(2021)。『Day of the Tentacle Remastered』のキービジュアル『Day of the Tentacle』(1993)。三つの時代を行き来する構成が有名(Steam ストアページより)

学校で学んだことについて、本人は2003年の対談でこう話している。「バークレーのアラン・ダンディーズの民俗学の授業があって、それが『Grim Fandango』に本当に効いた」。同じ場でサンタクルーズ校の「夢の心理学の授業」の話も出てくる(Game Studies, 2003年5月)。計算機科学の学位を持つ人が、自作の源として真っ先に民俗学の授業を挙げる。

哲学 — 「楽しい混乱」を設計する

シェイファーがアドベンチャーゲームの目的を一言で言うとき、出てくる言葉は「happy confusion(楽しい混乱)」だ。「それこそがアドベンチャーゲームの全部だ、楽しい混乱が」(USgamer)。

彼はこれをもう少し丁寧に言い直している。「うまく作られた、面白い混乱。つまり、あなたを混乱させながら、それでもあなたにとって嬉しいものにできるか」。設計の仕事は答えを作ることではない。「プレイヤーのために、頭の中の道を作っているようなものだ」(いずれも USgamer)。

だから答えを渡すことに、彼は強く抵抗する。「答えを与えてしまったら、それをプレイヤーから奪ったことになる」「解法を順番に実行するだけでは面白くない」(USgamer)。ヒントについても線が引かれている。「ヒントは出したいが、謎を台無しにはしたくない。だから、ちょうど足りるだけ書かないといけない」(Game Studies, 2003年5月)。

『Monkey Island』の頃には、詰まらせることを自覚してやっていた。「私たちは、彼らをいたぶっていると分かっていた。『ほらほら、答えはここにあるでしょ』という感じでね」。そのうえでこう続ける。「その『詰まっている感じ』を面白くしないといけない」(Vice, 2015年1月)。

こだわり — 間違えた人に、必ず返事をする

彼のゲームで繰り返し出てくるのは、間違った操作にも返事がある、という作りだ。本人の説明はこうである。「釘を打たないといけない。よし、ここにハンマーがあって、ここに釘がある。残念! それはゴムのハンマーです」(Vice, 2015年1月)。

正解に近づいた気にさせて、外す。外れた瞬間に笑いが返ってくる。「詰まっている時間を面白くする」という方針は、この返事の量で実装されていると読める。

もうひとつの癖は、素直な答えを疑うことだ。「これらの物のどれかを、本来の用途ではない組み合わせで使わないといけない」と彼は言う。さらに踏み込んで、こうも言っている。「明らかな解法の逆が、正解であることが多い」「彼らが言うところの、直感に反する水平思考だ」(USgamer)。

紙にメモを取らせたい、という妙なこだわりもある。『Broken Age』の配線パズルについて、彼はこう言っている。「配線の謎は、メモを取ればそこまで難しくない。私は本当に、プレイヤーに紙にメモを取ってほしかった。『Zork』の迷路を進むときに自分がそうしたように」(Game Informer, 2015年6月)。

そして、ばかばかしい案を捨てない。「いや、くだらないやつをそのまま出せ! あとから編集して悪いものを取り除けばいい。すごく間抜けに見えるアイデアも通してやれ。だいたいそっちのほうが人には面白い」(NME, 2021年8月)。三つ首の猿の冗談を通したときは「こんな生の、くだらない冗談が入るのかと怖かった」とも振り返っている(Game Informer, 2021年8月)。

ただし、笑わせ方には線を引いている。「ずいぶん前にこの言葉を知った。上に向かって殴れ、下に向かって殴るな(always punch up, never punch down)。自分より力のない人や、恵まれていない人に意地悪をしても、あまり面白いとは思えない」(NME, 2021年8月)。

失敗と、その引き受け方 — 十年後に自分で採点する

『Grim Fandango』の謎が難しすぎるという評判は、発売当時からあった。シェイファーがそれに答えたのは、十年後だ。

2008年11月6日、彼は自社サイトに1996年の設計書、72ページぶんを公開した。80以上の謎の解法と、没になった案が載っている資料である(現在は Internet Archive でも閲覧できる)。そこに添えた本人の言葉がこれだ。「『Grim』の謎はめちゃくちゃ難しいと言われていた……でも今こうして読み返して気づいた。なんてこった、いくつかの謎は正気じゃない。わかりにくい。意地悪ですらある」(Double Fine 公式ブログ / Game Developer, 2008年11月)。

引き受け方が変わっている。謎を作り直すのでも、批判に反論するのでもなく、設計書を出して自分で採点した。

一方で、リマスターでは中身を直さない。2017年、彼は理由をこう話している。「たとえば『Monkey Island』のスペシャルエディションを遊ぶとき、自分が覚えているそのままの形でゲームが存在していることが、本当にありがたかった」(Engadget, 2017年3月)。意地悪だったと認めた謎も、そのまま残している。

ここで一つ、私が気になった食い違いを書いておく。『Broken Age』の第2幕も難易度で批判されたが、本人はそれを失敗とは呼んでいない。「第2幕の謎の難しさについて、支援者の反応には満足している。彼らは第1幕より難しいものを望んでいて、それを手に入れた」(Game Informer, 2015年6月)。十年経てば「意地悪だった」と言える人が、直後の作品については「望まれたものを出した」と言う。この人の自己採点は、時間を置かないと出てこないらしい。『Broken Age』のキービジュアル『Broken Age』(2014・2015)。Kickstarter で資金を集めた二部構成の作品(Steam ストアページより)

ジレンマ — 詰まらせたい人が、無敵モードを配る

2021年の『Psychonauts 2』には、無敵にできる設定が入っている。詰まる時間を作品にしてきた人のスタジオが、詰まらないための装置を配った。

本人はこう説明する。「プレイヤーが、自分のゲームとどう関わりたいかを自分で選べるようにする。私にはそれが、とても素直で当たり前のことに思える」。もっと強い言い方もしている。「その人が、あなたの作ったゲームを楽しめない理由がどこにある? 物語の中身は何時間ぶんもあるんだ、渡してやればいい!」(WellPlayed, 2021年7月)。『Psychonauts 2』のキービジュアル『Psychonauts 2』(2021)。無敵モードを含む難易度設定を備える(Steam ストアページより)

意図しない遊ばれ方についても同じ調子だ。「私が何様で、誰かがどう私のゲームと関わるべきかを決めるんだ? その人は楽しんでいる——私が意図しなかったやり方で。でも私は『違う違う、あなたの楽しみ方は間違っている』と言う立場にはいない」(WellPlayed, 2021年7月)。

では「楽しい混乱」はどこへ行ったのか。彼の言葉を並べると、両方が同時に出てくる。「世の中には勝つ人と負ける人がいる。負ける人のほうがずっと多いのだから、負ける人に向けて作るべきだ」。そのすぐ横に、こうもある。「ずっと何が起きているか分からない、あの感じへの、ある種の郷愁がある」。そして「そこを正しく取るのは、いつも難しい」(いずれも USgamer)。本人が難しいと認めている場所である。

影響源 — 本人が認めているもの

シェイファーが名前を出す影響源のうち、いちばん強い言い方をされているのはワーナーのアニメだ。「『Duck Amuck』は、私が作ったすべてのゲームに影響している」。理由も添えている。「ワーナーの漫画と、シュルレアリスムのある環境で育ったことは、たぶん作り手の世代まるごとに効いている」(Game Informer, 2021年8月)。

『Duck Amuck』(1953)は、画面の外にいる作画者にダフィー・ダックがいじめられ続ける短編である。プレイヤーをいたぶる、という先ほどの言い方と地続きだと読める。

人からの影響では、ロン・ギルバートを挙げる。『Monkey Island』の開発中、ふざけた台詞を仮のものではなく完成品として通してよいと教わった、という話だ(NME, 2021年8月)。当サイトには ギルバート本人の考察 もある。

『The Simpsons』も出てくる。『Monkey Island』の開発中に放送が始まり、会議の時間をかなり使って番組の話をしていたという(Vice, 2015年1月)。

『Grim Fandango』については二つ。ひとつは前述のダンディーズの民俗学の授業。もうひとつは映画『深夜の告白(Double Indemnity)』だ。探偵ではなく保険外交員が主人公である点に惹かれ、そこから自作の主人公を旅行代理店員にしたという(Game Studies, 2003年5月)。

Kizuki の読み — 守っているのは難易度ではなく「返事」

ここからは私の読みだ。この人が守っているのは謎の難しさではなく、「返事」のほうだと私は読む。ゴムのハンマーも、通してしまった三つ首の猿の冗談も、詰まっているプレイヤーに向けて画面が返す言葉である。難易度は、その返事を引き出すための口実にすぎない。だから無敵モードを配っても、彼の中では何も壊れていない。無敵にしても返事は減らないからだ。

そう読むと、2008年の自己採点の意味も変わってくる。「意地悪ですらある」と彼が言ったのは、難しすぎたことへの反省というより、返事を用意し損ねた箇所を十年後に自分で見つけた、という告白に読める。詰まらせたことが失敗なのではない。詰まった人を、黙って放置したことが失敗なのだ——と、私はこの人を読む。

おわりに — どこから触れるか

最初の一本には『Day of the Tentacle Remastered』を薦める。三人の主人公が別々の時代にいて、片方の時代でやったことが別の時代に届く。「返事」の設計がいちばん気持ちよく効いている作品だ。

『Grim Fandango Remastered』は絵と音楽が段違いに美しい。ただし本人が「意地悪」と呼んだ謎がそのまま入っているので、攻略の手がかりを横に置くのは恥ずかしいことではない。遊び終えたあとで、本人が公開した1996年の設計書を読む。この順番がいちばん面白いと思う。没になった案まで載っている。

そして2025年10月の『Keeper』。シェイファーの監督作ではなく、リー・ペティが監督した台詞のないアドベンチャーである。言葉で返事をしないと決めた作品で、あのスタジオが何を返してくるのか。『Keeper』のキービジュアル『Keeper』(2025)。歩く灯台と鳥が旅する、台詞のないアドベンチャー(Steam ストアページより)

関連する作り手としては、彼が影響源に挙げる ロン・ギルバートの回 がある。あわせて読むと、LucasArts のアドベンチャーが何を大事にしていたかが立体的に見えてくるはずだ。

参考文献

本記事で参照した一次資料:

・Game Studies vol.3 no.1「Game Noir – A Conversation with Tim Schafer」2003年5月(Celia Pearce による本人対談)

・Double Fine 公式ブログでの『Grim Fandango』パズル設計書公開(2008年11月6日)と、それを報じた Game Developer の記事

・『Grim Fandango』パズル設計書(1996年、72ページ / Internet Archive)

・Vice「Tim Schafer Discusses the Classic Video Games 'Grim Fandango' and 'Monkey Island'」2015年1月27日

・Game Informer「Afterwords – Broken Age In Retrospect With Tim Schafer」2015年6月25日

・Engadget「Why Tim Schafer keeps remaking his classic games」2017年3月3日

・WellPlayed「We Spoke To Double Fine's Tim Schafer About Difficulty And Accessibility In Video Games」2021年7月19日

・NME「Tim Schafer on his game writing philosophy: 'always punch up, never punch down'」2021年8月5日

・Game Informer「Inside The Mind of Tim Schafer」2021年8月22日

・USgamer「'I Don't Know if a Duck is Going to Swallow me Whole.' The Tim Schafer Interview.」(掲載日の表記がないため年を付していない)

・PC Gamer によるシェイファーの gamescom 2025 発言の報道、2025年8月24日

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