DESIGNER-STUDY · 2026-09-28

Tonda Ros の哲学 — 出したら、それがそのゲームだ

Blue Prince / MAZE / Myst・Riven

Tonda Ros とは誰で、なぜ「答え合わせ」をしないのか?

Tonda Ros(トンダ・ロス)は、『Blue Prince』を8年かけてほぼ一人で作ったデザイナーである。『Blue Prince』は Dogubomb が2025年に発売した、部屋を1枚ずつ引いて屋敷を組み立てながら謎を解くメタパズルのゲームだ。

私が彼の発言を並べて見えたのは、一つの頑固さである。彼は作品を「完成品として手渡す」ことにこだわり、手渡したあとは口を閉ざす。2025年11月には、すべての謎が解かれたかどうかを「おそらく決して完全には認めない」と語った(PC Gamer, 2025 原典 ↗)。

本記事では、2025年4月の発売前後から2026年3月までのインタビュー7本を横断する。哲学・こだわり・失敗・ジレンマ・影響源の順に、本人の言葉を追っていく。Blue Prince のスクリーンショットBlue Prince(Steam ストアより)

Tonda Ros はどんな経歴でゲームを作り始めたのか?

出発点は映画だった。本人は「映画を作るためにハリウッドに移った」が、やがて「自分は他人のために物を作っている」と気づいた、と振り返っている(VICE, 2025 原典 ↗)。

Wikipedia の記述では、ゲーム制作を志したきっかけはドキュメンタリー『Indie Game: The Movie』だった。開発中は別の開発仕事と、自身が運営する「Magic: The Gathering」関連サイトの収入で制作を支えたとされる(Wikipedia ↗、2026-09時点)。

試作は2016年ごろに始まり、当初は半年で終える計画だったという(同)。美術は2年目ごろから Davide Pellino が担当した。発売後は D.I.C.E. Awards や BAFTA Games Awards でゲームデザイン部門を受賞している(同、2026-09時点)。

Tonda Ros はパズルで何を大切にしているのか?

一番はっきりしているのは「手を引かない」ことだ。「手取り足取りは好きじゃない。世界に放り込んでくれ。あとは自分で考える」(Thinky Games, 2025 原典 ↗)。同じ取材で彼は、発見が原動力のゲームには「ある程度の曖昧さが必要だ」とも言う。

好む謎の種類も一貫している。型破りな発想を促し、順番を飛ばす攻略や別解を許すパズルが好きだと語る(同)。MAZECAST の取材でも、観察して手がかりを見つけ、自分で結論を出す「発見型」のゲームを大切にし、知識を問うクイズ型の謎とは区別している(MAZECAST, 2025 原典 ↗)。

そして彼は、これを自分のために作ったと繰り返す。「何よりもまず、自分のため、自分の望む形のゲームを作っていた」「誰にでも向くようにという意図は一度もなかった」(Inverse, 2025 原典 ↗)。VICE にも「自分が遊びたいゲームを作りたかった」と語っている(VICE, 2025 原典 ↗)。

映画で「他人のために作っている」と感じた人が、ゲームでは自分のために作ると言い切る。この二つの発言は、一本の線でつながっているように読める。

Blue Prince の骨組みはどこから来たのか?

骨組みはビデオゲームではなく、卓上ゲームから来ている。本人によれば、この作品はまず「カードを引いて部屋をドラフトする」卓上ゲームの構想として生まれた。それとは別に、扉だらけの大きな屋敷を舞台にした一人称パズルの構想があった(Thinky Games, 2025 原典 ↗)。

彼は「Blue Prince の機構の核は、すべて卓上ゲームとカードゲームの世界から来ている」と言い切る(同)。VICE でも「drafting」という言葉から考えた卓上ゲーム案があったと話している(VICE, 2025 原典 ↗)。

もう一つのこだわりは、思いついたら最後までやることだ。「アイデアが面白そうなら、やり遂げる。たとえそのアイデアに3年かかるとしても」(VICE, 2025 原典 ↗)。作品の主題については「思い込みを持ち、期待を抱き、それが時間をかけて裏切られ、期待を超えられていく人々のゲーム」と説明している(Inverse, 2025 原典 ↗)。Blue Prince のスクリーンショットBlue Prince(Steam ストアより)

8年の開発で、Tonda Ros は何を失敗と認めたのか?

本人がはっきり認めているのは、働き方である。2026年2月の取材で彼は「8年間ずっと、週80時間ほど働いていたと思う」と語った(Aftermath, 2026 原典 ↗)。

そのうえで「クランチ(追い込みの長時間労働)に見合うものではなかった」と振り返る(同)。発売時点で入れたかったカットシーンも一部は間に合わず、発売後の更新で足すことになった。本人は「予定していたカットシーンを全部作る時間がなかった」と説明している(同)。

次回作については「Blue Prince は、たぶん私が作る中で一番野心的なゲームになる。もう一度これをやるのは、体力的に無理だと思う」と言う(同)。時間は同じくらいかかるかもしれないが、同じようには働かない。「あれは若い者のやり方だ」(同)。

乗り越え方として語られているのは、線を引くことだ。発売前の追い込みを続けるのではなく、まずバグ対応に集中し、残りは自分のペースで追いつくと決めた(同、要旨)。

「完成品で出す」ことと「作り込み」のあいだで、何に悩んだのか?

彼の中には「全部入りで出したい」という強い願いがある。「発売に全部入れたかった。それが最終的な望みだった。昔ながらのゲームが好きなんだ。出したら、それがそのゲームになる」(Aftermath, 2026 原典 ↗)。DLC の予定を聞かれた2025年4月にも、8年あったから入れたいものは最初から全部入れた、と答えている(Inverse, 2025 原典 ↗)。

一方で、作り込みには際限がない。VICE の取材では「1年目には最後まで遊べる状態だった。6年前に出荷することも簡単にできた」と語っている(VICE, 2025 原典 ↗)。遊べるのに出さず、深さと秘密を足し続けた。その代償が前節の週80時間である。

謎を世界の中に置くことの重さも、本人が語った悩みだ。「世界の一部として存在しなくていいパズルなら、設計はずっと楽だ」(Thinky Games, 2025 原典 ↗)。食料庫でもらえるゴールドの量を試すのは簡単でも、屋敷全体につながる電気系統を作り直すのは大ごとだ、と具体例も挙げている(同)。Blue Prince のスクリーンショットBlue Prince(Steam ストアより)

Tonda Ros が影響を受けたと認める作品は何か?

最大の影響源は、Christopher Manson の絵本型パズル本『MAZE』である。本人は「MAZE は完全な執着になり、創造性の泉になった」「今でも一番好きな芸術作品」「私は MAZE というレンズを通して世界を見ている」と語る(MAZECAST, 2025 原典 ↗)。

ただし、真似をするつもりはなかったとも言う。屋敷は MAZE へのオマージュで、ゲームは Manson に献げられている(同)。Manson 本人もゲーム内の絵とパズルを手がけ、その部分の創作は本人に任されたという(同)。

ビデオゲームでは、Cyan Worlds の『Myst』と『Riven』だ。「一人称のゲームがずっと好きだった。Myst と Riven にさかのぼって」(VICE, 2025 原典 ↗)。2026年3月には、Myst の空気は「詩的に静か」だが豊かな歴史がある、手の届かない過去を語る環境の語りだ、と評している(Game Developer, 2026 原典 ↗)。

面白いのは、同じ時期に「他のビデオゲームからは着想を得なかった」とも言っていることだ(Thinky Games, 2025 原典 ↗)。一見すると矛盾だが、同じ記事で彼は Myst と Riven への長年の関心を認めている。「他の」は Myst と Riven 以外、と読むのが自然だろう。調べものをせず、閉じこもって一人で答えを出すのが自分のやり方だ、とも添えている(同)。Tonda Ros のインタビュー動画のサムネイルBLUE PRINCE: An Interview with Tonda Ros(YouTube / Myster Rogers)

Kizuki の読み — Tonda Ros はゲームを「本」として出したのではないか?

ここからは私の読みである。本人の発言ではない。

私は Tonda Ros を、ゲームを「一冊の本」として出版した人だと読む。一番好きな芸術作品は一冊の本で、屋敷はその本に献げられている。そして彼は、後から直し続けるのではなく「出したら、それがそのゲーム」という古いやり方を望んだ。

本は刷ったら書き換えられない。著者は読者の答え合わせにも付き合わない。「すべて解かれたかは認めない」という態度も、手取り足取りを嫌う態度も、この「本の作法」に置くと一つにまとまる。週80時間の8年間は、その一冊を刷る前に全部書き込もうとした時間だった、と私は見ている。

Tonda Ros を理解するには、どこから触れればよいか?

まずは『Blue Prince』を、攻略を見ずに遊んでほしい。本人が望んだのは、世界に放り込まれて自分で考える遊び方だからだ。低評価側の読み方は Blue Prince への反論、観察の設計は 観察するという動詞 が参考になる。

影響源をたどるなら『Myst』と『Riven』へ。本人が PC Gamer の取材で対照例に挙げた『ANIMAL WELL』(すべて見つかったかを追う仕組みがある)と並べると、発見の完了を作者がどこまで保証するかの違いが見えてくる。一人で黙々と作る系譜としては、今林宏行の考察もあわせて読みたい。

参考文献

本記事で参照した一次資料(すべて本文を確認):

・Thinky Games「Interview: How Myst, Riven, and tabletop games built the foundation of Blue Prince」(Dayten Rose, 2025-04-10) ↗ — 手取り足取りは好きじゃない、曖昧さの必要、卓上ゲーム起源、他のビデオゲームを参照しない、世界の中の謎の難しさ

・MAZECAST「Interview with Tonda Ros」(2025-04-07) ↗ — MAZE への執着、Manson への献辞と協働、発見型ゲームの重視

・Inverse「Blue Prince Was Not Made For Everyone, Creator Says」(Shannon Liao, 2025-04-12) ↗ — 自分のためのゲーム、誰にでも向けたものではない、主題、DLC を作らない理由

・VICE「My Interview With the Master of Mayhem Himself, Tonda Ros」(Anthony Franklin II, 2025-04-20) ↗ — ハリウッド時代、Myst と Riven、1年目で遊べた、3年かかっても面白い案はやる

・PC Gamer「'I will probably never fully acknowledge whether or not everything has been solved'…」(Christopher Livingston, 2025-11-14) ↗ — 謎が解かれたかを認めない

・Aftermath「After Working 80-Hour Weeks For Eight Years, Blue Prince Creator Says Next Game Probably Won't Be Quite As Ambitious」(Nathan Grayson, 2026-02-18) ↗ — 週80時間の8年、クランチの反省、完成品で出したい、次回作

・Game Developer「Blue Prince's somber tone was inspired by Myst, says creator」(Bryant Francis, 2026-03-04) ↗ — Myst の空気と環境の語り

・経歴・受賞歴の確認: Wikipedia「Blue Prince」↗(2026-09時点)

・動画: BLUE PRINCE: An Interview with Tonda Ros ↗(YouTube / Myster Rogers)— サムネイルのみ使用、本文の引用には使っていない

・画像: Blue Prince のスクリーンショットは Steam ストアの公式画像。今回は画像の目視確認ができない環境だったため、キャプションは作品名のみとしている。

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