HISTORY · 2026-10-06

ヘキサフレキサゴン(1939) — ノートから切り落とした紙の端が、隠れた面を持った

ストーンの発見、四人の委員会、ガードナーの記事、そして数学の入口へ

はじめに — 切り落とした紙の端から生まれた六角形

これは1939年、アメリカのプリンストン大学で生まれた紙の遊びである。細長い紙の帯を決まった形に折ると、六角形になる。この六角形を折り直すと、隠れていた別の面が表に出てくる。

名前はフレキサゴン。「折り曲げられる(flex)」と「多角形(gon)」を合わせた言葉だ。作るのに必要なのは、紙とのりだけである。

見つけたのは、イギリス出身の大学院生アーサー・ストーンだった。ストーンはこの発見を、研究仲間と一緒に数学へ育てていく。

六色の三角形でできた六角形のイメージ(AI生成)折りたたむと面が入れ替わる紙の六角形のイメージ(イメージ・AI生成)

その時代の文脈 — 大きさの合わないノートと、四人の委員会

きっかけは、紙の大きさの違いだった。ストーンが持ち込んだイギリスの紙は、アメリカのバインダーに収まらなかった。そこで端を切り落とし、その細長い帯を折って遊んだ。この最初の形が、三つの面を持つトライヘキサフレキサゴンである。

この遊びに、仲間が加わった。ブライアント・タッカーマン、リチャード・ファインマン、ジョン・テューキー。のちにこの四人は「フレキサゴン委員会」と呼ばれる。ファインマンは後にノーベル物理学賞を受け、テューキーは統計学の大家になる人物だ。

タッカーマンは、隠れた面をすべて出す方法を考えた。いまは「タッカーマン・トラバース」と呼ばれる手順である。完全な理論は1940年に、テューキーとファインマンがまとめたとされる。

ただし、この理論が当時すぐ世に出たわけではない。論文として整った形で公表されたのは、ずっと後のことだ。遊びと研究のあいだに、二十年近い空白がある。

ノートの切れ端の紙片のイメージ(AI生成)1939年、ノートから切り落とされた紙の帯のイメージ(イメージ・AI生成)

メカニクス — 畳んで、開いて、隠れた面を探す

基本の形は、三角形をつないだ紙の帯である。これを折って、正六角形に重ねる。トライヘキサフレキサゴンは面が三つ、のちに作られたヘキサヘキサフレキサゴンは面が六つある。

遊び方は単純だ。六角形を折りたたみ、中心を開く。すると、見えていなかった面が出る。同じ動きをくり返しても、出る面は決まった順に巡るとは限らない。

ここが遊びの核心である。手を動かしても、次にどの面が出るかは動かすまで分からない。しかも一部の面は、普通のやり方ではなかなか出てこない。

つまり、プレイヤーは「まだ見ていない状態」を探している。タッカーマンの手順は、その探索に筋道をつけた。これは私の読み方だが、後の状態探索型パズルの発想に近い。

三角形の帯が六角形に畳まれる流れのイメージ(AI生成)帯を畳んで六角形にし、別の面を出すまでの流れの図解(イメージ・AI生成)

現代への系譜 — 雑誌の連載、特許、そして動画へ

フレキサゴンを広く知らせたのは、マーティン・ガードナーである。1956年12月号の『サイエンティフィック・アメリカン』に記事を書いた。ガードナーはプリンストンでテューキーとタッカーマンに取材したと伝えられている。

この記事は大きな反響を呼んだ。のちに25年続く連載「数学ゲーム」は、この記事から始まったとされる。紙の遊びが、数学を楽しむ読者の入口になったのだ。

商品としても使われた。1955年には、ある工事会社が表彰式の宴会の宣伝にヘキサフレキサゴンを使ったという記録がある。1959年には、ヘキサヘキサフレキサゴンの特許が米国で出されている。

1962年には、コンラッドとハートラインが数学の水準で整理した報告書をまとめた。近年は、数学者ヴィ・ハートの動画で知った人も多い。遊びは、いまも紙一枚から始められる。

大きさの違う六角形が弧状に並ぶイメージ(AI生成)紙の遊びが数学と大衆へ広がる系譜のイメージ(イメージ・AI生成)

参考文献

本記事で参照した情報源:

・Wikipedia: Flexagon

・The Public Paperfolding History Project: History of Hexaflexagons

・Conrad & Hartline (1962) — Flexagons, Erik Demaine's archive

おわりに — 余り紙から始まった、数学の入口

1939年の紙の端は、捨てられてもおかしくなかった。それを折った人がいて、仲間がいて、記録した人がいた。遊びが長く残る条件は、案外この三つかもしれない。

歴史がこの作品に示したことは、はっきりしている。数学は、立派な道具からだけ生まれるわけではない。バインダーに入らない紙一枚からも、始められる。

あなたの机にも、切り落としたままの紙の端があるだろうか。一度、折ってみてほしい。

机の上の一つの六角形のイメージ(AI生成)机の上に置かれた紙の六角形のイメージ(イメージ・AI生成)

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